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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
十九話「世界は動く、まだ見ぬ先へ」

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 周介は三十分ほどして部屋から出てきていた。そのかかった時間が自らを落ち着かせるためなのか、それとも戸惑いからだったのかは不明だ。


 周介は自分の体液の入ったシャーレを先ほどまで自分の細胞や唾液を入れた容器と同じように並べて壁からせり出るように置かれているトレーの上に置く。


「これでいいですか!?もう十分ですか!?」


『お疲れ様。本当にお疲れ様。周介君、もう何も言わなくていいよ。ただごめん。本当にごめん』


「謝らないでください!惨めな気分になってくる!もう何も言わないでください!」


 それぞれの周介の体の一部を内包した容器を乗せたトレーは壁の向こう側へと回収されて行く。


 もう二度と見たくないと思った周介ではあるが、再び壁の奥からトレーが出てくる。先ほどまで容器が乗っていた部分には今度は紙コップが乗っていて、その中には何やら液体のようなものが入っていた。


『今度はそれを飲んでください。成分としては』


 周介はそれを、紙コップの中に入っている液体、何らかの薬剤の説明が最後まで言われるよりも早くそれを飲み干す。


「さっさと終わらせましょう。でないとこの中にある機械全部滅茶苦茶に操作したくなってくる」


 口の中へ、そして胃の中へ入った薬剤は独特の匂いを周介の鼻に届けてくるが、そんなことは今はどうでもいいと思えるほどに周介は苛立っていた。


 検査をさせられるのだから全裸にさせられるくらいの覚悟はしてきたし、ムダ毛を剃るくらいのことはされるかもとは思っていたがまさかこれほどまでに辱められるとは思っていなかったのだ。


 認識が甘かった。ここまでやる連中が集まっている研究所の検査など早く終わらせて日本に帰りたいと周介は心底思っていた。


『今の君から見て左側の部屋に入ってくれるかな。そこに機材があるからそれの中に入ってください』


「もうどんとこいですよ。何なら全裸にでもなりましょうか!?」


『周介君落ち着いて。お願いだから落ち着いて。こっちには安形君やら白部君もいるからさ。さすがに青少年の不順異性交遊の始まりを助長するわけにはいかないんだよ立場的に』


「よく言いますね!青少年にトラウマ級の辱めしておいて!」


『うん、返す言葉もないよ。本当にごめんね』


 周介だってドクが悪いわけではないことはわかっているのだが、自分だけがどういうわけかこんな目に遭っているということもあって腹が立つのが止められない。


 危ない目に遭って本当に危ない状態になって。その結果こんな風な扱いをされるとは思っていなかっただけに周介は頭に血が上ってしまっている。


 だが隣の部屋に入った段階で、周介はふと違和感を覚える。


 何といえばいいのだろうか。今まであった何かが、不意に体の中から感じられなくなったというか、体の一部が麻痺したような、痺れているような、だが体のどこでもない何かに違和感を覚えてしまう。


『どうかしたのかい周介君?』


「いえ……なんか……ん……?」


 周介自身自らに起きている違和感を言語化できずに困惑しているようだった。そんな周介を見ながら研究者たちはその様子をそれぞれ確認しながら情報を入力し続けている。


 周介が入った部屋にはいくつもの医療器具が置かれていた。何度か精密検査を受けた時にも見たことがあるものだ。大きな部屋にいくつもの部屋、というか箱のようなものがあって、その中にそれらの機械が一つ一つ入っている。


 遮蔽のためなのか、それとも何か意味があるのか、どちらにせよこれらすべてに入らなければいけないのだと周介は以前病院で受けた検査を思い出す。


「何でもないです、早いところ始めましょう」


 妙な違和感にいつまでも捉われていては時間の無駄だ。先ほど飲んだ薬が原因だろうと周介は判断して早くこれらの機械にはいることができるように準備していた。


 とはいえ入ってしまえばあとは普通の病院の検査と同じようなものだ。これならば別に普通の検査と同じではないだろうかと周介が首をかしげていると、不意にそれが見える。


「ん?」


 それは周介の右目にだけ見える靄だ。それが何なのかは確証を持っていうことはできないが、ドクが言うにはマナを見ているのではないかという仮説が立っている。


 鬼怒川や葛城校長の胸部に大量に集まっているような、溢れ出ているようなその蒼い靄が機材のいくつかから漏れ出しているように見えた。


「あの、機械からなんか出てるんですけど」


 周介の言葉に、窓の向こう側にいた研究者が僅かに騒めいた。


『周介君、なんか、というのは?』


「あの靄です。蒼い靄が出てます。この機械、なんか仕掛けがあるんですか?」


『その靄が出ているのはどれとどれかな?全部に出ているのかい?』


「いいえ、全部ではないです。これと、これと……あと……これもか」


 大部屋にいくつもある機械の中で、蒼い靄が漏れ出しているものだけを示していくと、研究者たちは驚き話をしながら次々と情報を書き足しているようだった。


 これらは少なくとも通常の病院では見なかったものだ。何かしら違いがあるのだろうが周介にはその違いが判らない。


 医学的、及び能力的に検査をするというのがどういう意味を持っているのかを知るためには、おそらく検査を受けなければ始まらないのだろう。


 周介は指示に従ってその機械の中に入ることにしていた。


 周介が検査を受ける中でわかったことが二つ。一つは機械そのものは病院で使っていたものとそう違いはないということ。おそらく検査しているもの自体も大体は同じなのだろう。


 そしてもう一つは。検査機のところどころから周介にだけ見ることのできる靄が漏出しているということだ。


 今までも物体や空中にそれらが見えることはあったし、周介も別に害にならないだろうからとほとんど気にしていなかったのだが、今回用意されている検査機からはかなりの数の靄が見ることができた。


 先程指摘した検査機は外にも漏出しているものだったが、周介が実際にそれを使ってみるとその靄が見えるということもあった。


 一体何の検査機なのだろうかと、医学の知識に疎い周介は少し不安に感じていた。


「あの、全部からなんか靄出てましたけど、あれ大丈夫ですか?」


『……報告によると、百枝君が見ているものはマナである可能性が高いというのは本当でしょうか?』


「そうらしいです。俺はよくわかりませんけど」


 通訳の新垣の質問に周介はそのまま答える。と言ってもそう言っているのはドクなのだ。別に周介に確証があるわけでもない。


 検査機による確認を終えた後、最初の部屋に戻ってくると、先ほどの容器と同じように壁からトレーが出てきていることに気付く。


 だが今回はそれが三つほどある。そしてその上には三つの箱が置かれている。箱、というよりは四角い物体といったほうが正確だろう。


 それは恐らくではあるがコンクリートの塊だ。正方形の、十センチ程度の大きさしかない。

 その一つを見て周介は眉をひそめていた。


「あれなんですか?あの右の奴」


『右……こちら側ですね。何かありますか?』


「めっちゃモザイクかかってます。鬼怒川先輩みたいだ」


 周介は右目を閉じたり開いたりして、右目で見えている靄の状況を確認しながらその三つを眺める。


 三つのコンクリートブロックのうち、二つは本当にただのブロックにしか見えないが、一つだけ、鬼怒川や葛城校長の胸部のように多量の靄がかかっている。あまりにも右目と左目で見えているものが違うために一瞬混乱してしまうほどだ。


『この中には魔石が入っています。能力によって完全に密封されている状態ですが、それでもマナは見えていると?』


「見えてるのがマナかどうかは知りませんけど、靄はすごいです。これでしょう?」


 周介は靄が溢れているコンクリートブロックに近づく。触れたいとは思わないが、その行動が研究者たちにはある行動を確信づけた。


 何か話しているようだったが周介にその言葉はわからない。ドクは少しだけならわかるようだったが、それでも早口で、互いに高速で話し合うそれらを全て理解することは難しかった。


『百枝君、これからある試験をします。試験と言ってもこれから出す物体の中からあなたの言う靄が見えるものを教えていただくだけで構いません。たくさん数があるのでそれらに印をつけてください。密封されているものこそ違えど、おそらく見えるものがあるはずです』


 新垣の言葉に従うように、壁のトレーから次々と箱が出てくる。


 これも先程のコンクリートブロックと同じだ。とはいえ材質が違う。


 先程のものはコンクリートの塊だったが、出てきている箱のいくつかは周介が見ることができる靄が漏れ出ている。


 周介は同じように用意されたサインペンでそれらにマークをつけていく。


 それを見ていた研究者たちは、周介がマークをつけていくたびに感嘆の声を漏らしていた。


「風見さん、百枝君は間違いなく索敵系の能力は持ち合わせていないんですね?」


 研究者からドクへの質問を新垣が通訳するとドクは周介の方を見てうなずく。


「はい、彼が持っているのは自分の能力の対象となっている物体を何となく知ることができる程度の微弱なものです。逆に言えばそれ以外は知ることはできない。だから僕らがどこにいるのかだってわからないはずです。もちろん、中に魔石が入っているかどうかなんてことも。何より、彼の目は光っていない」


 ドクの言葉に研究者たちはさらに動揺して話し合う。周介は先ほどから能力は一度たりとも発動していない。その証拠にドクの言うように周介の目は光っていない。


 周介は明らかに能力とは別の部分でそれを知覚しているということになる。


 付けられていくしるしの箱には、密閉状態で大なり小なり魔石が封じ込められている。ただ、その密閉方法は様々だ。


 鉱石、木材、石材、鋼材、樹脂、ありとあらゆる物体での密閉を行っている。もともとこの密閉の状況の違いは、保存環境の変化による魔石の変化を見るためのものだ。


 魔石は現段階においても不明な点が多い物体であるため、こうした保存環境の変化をつけた実験も行われている。


 中には能力によって変質させられた液体の中に封じ込められているものもあるが、それは今は出てきていない。


 周介が印をつけているのは、そういった実験によって封入されている魔石だ。世界中から集められた魔石でもあり、重要な研究資源でもある。


 その中には、周介たちが見つけたものももしかしたら含まれるかもわからない。


「こんなもんか?」


 周介は右目だけで箱を見て他に漏れ出ている物がないかを確認していく。少なくとも現段階で漏れ出ている物体を確認することはできなかった。


 漏れ出ているという表現が正しいかどうかはともかく、少なくとも周介の目にはかなりモザイクが強く映っていたのは事実だった。


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