7話
「悪いね、こんな時間帯に。もう寝るところだったかな?」と、キンダイは聞いた。
「いいえ。どうぞ、上がってください」と、ユウフウは言った。
「いや、ここでいいよ。ユウフウ、昨日の振り込みは確認したかな?」
「していません」
「どうして?」
「興味ないからです」
「おいおい、『興味ない』って……」と、キンダイは苦笑しながら言う。
「何かあったんですか?」
「別に何もないよ。聞かないと分からないことだからだよ」
ちゃんと確認したほうがいいよ? とキンダイは付け加えた。
「そうですね」
「じゃ私はこれで失礼するよ。また機会があったらよろしく頼む」
「はい、さようなら」
「さいなら」
午後九時頃、アツヤ――赤い長袖パジャマ――はリビングは来た。
「上がったわよ――アカリさん寝てるの?」
「うん」と、アカリ――テレビの前で横になって眠っている――の隣に座っているユウフウは立ち上がる。
「もう寝ちゃったんだ、早いわね――あっ」
「どうしたの?」
「そういえば布団買ってなかったわね」
「ああ、そうだね。けれど今日はもう買えないね」
「そうね、もうどこも閉まっているわ」
「――アツヤ、私の布団使っていいよ?」
「えっ!? い、いいの?」
「うん。アカリさんはもう寝てるし、私だけ布団使うのはちょっとね」
さて、私の寝る部屋どうなっているかちょっと見てくるかな、とユウフウは付け加えた。
「……ユウフウ」
「何?」
「――別になんでもないわ」
翌朝の六時、ユウフウはリビングで「どうかな?」
「うん、やっぱり似合っているわ」「はい、私もそう思います」と、アツヤとアカリは答えた。
「そっか、よかったよ」
ユウフウは、昨日アツヤからプレゼントされた青いジャージ――上着の背面は黒い――をさっそく着ている。アツヤとアカリもそれぞれパジャマから緑色のジャージとオレンジ色のジャージを着用――あっ、ユウフウもだが黒い長袖アンダーシャツを着てから――している。
「気に入ったかしら?」
「もちろんだよ、アツヤ」
「嬉しいわ。――じゃ行きましょうか、下川町に」
「うん」
(ルドシーントロフ、おはよう。さっそく頼む)
〈おう、おはようさん。また朝早くから活動的だな〉と、ユウフウの頭の中でルドシーントロフは返事をした〈よしっ、やるか――なんだ?〉
(どうした?)
〈移動させることができない〉
と、ルドシーントロフは不思議そうに言った。
(――どうして?)
〈さぁな――朝早いからかな?〉
(ふっ、呑気だな。じゃ私が移動させるよ。君は二度寝でもしていてよ)
〈二度寝? ふっ、そうするかなー〉
と、ユウフウの目がただ緑色に変わる。
と、三人はぱっと消えた。
と、三人は下川町の国道沿い――町の中心部辺り――に現れた。智恵文市の東側に隣接する田舎町――その国道(表通り)に人は歩いていない。智恵文市も大体人が歩いていないんだ、それよりはるかに人口が少ない下川町がそうならないわけがないよ。どちらもいい町なんだけどねー。
「ユウフウ、どこでうどん買うの?」目が元に戻っている彼にアツヤは聞いた。
「どこでもいいんじゃない? 特に指定はなかったよ」
「そうなのね。けれどどうせなら一際おいしいものを選びたいわね」
「そうだね」
「そうだわ、食べ歩きして選ばない?」
「いいね。アカリさんはどうですか?」
「はい、私も賛成です。楽しみです」
「お店調べてみるわ」と、アツヤは携帯電話を取り出す「――ユウフウ、ちょっとまずいわね」
「どうかしたの?」
「うん、結構お店はあるんだけど今の時間にやっているところは一軒しかないのよ」
「じゃそのお店に行こう。場所は?」
「山の中よ。“スクラップパラダイス”っていう温泉旅館のレストラン」
「温泉ですか、いいですね」と、アカリは言った。
「入りたいですか?」と、ユウフウが聞く。
「あっ、いえ、大丈夫です。今日の目的はそうじゃありませんから」
「入っても問題ないですよ? 食後に入ったらどうですか?」
「いいんですか? ありがとうございます」
しかし、そうなると入浴セットは?
心配ない。温泉旅館――“スクラップパラダイス”が貸してくれるからだ。
「では行ってきます」
と、女湯の入り口でアカリは言った。
「はい、ゆっくり入ってください。私達は休憩室にいますから」
「ありがとうございます」と、アカリは中に入った。
「ユウフウ」と、アツヤが言った。
「何?」
「夜はお風呂に入ってよね?」
「えっ?」
「だって汚いじゃないのよ、毎日入らないなんて」
「そうかな?」
「そうよ。絶対に入ってよね。『昨日入ったからいい』なんてまた言わせないからね」
「分かったよ」
「何笑ってるのよ?」
「別に。さぁ休憩室に行こうか?」
「うん」
その頃、キンダイは札幌大通り公園のベンチに座って通話を始めたところだ。
〈もしもし?〉
「起きてたかな?」と、キンダイは聞く。
〈はい、起きてました。何かご用でしょうか?〉
と、少女の声は聞いた。
「うん、また頼みたいと思って」
〈はい、分かりました。お任せください〉
「ありがとう」
〈それでその内容は――?〉
同時刻、ユウフウは“ナドレ”の屋上駐車場にいて「改めて聞く。君は何者だ?」と、聞いた。その駐車場にはユウフウの他に一人いる。
「そんなことはどうでもいい」と、“アツヤ”は言った「私は君が持っている情報がほしい。この世界を支配する七人の情報だ。教えてくれたら君にお金をあげよう」
「お金?」
「そうだ。お金と引き換えに情報を教えてほしい」
「悪いがお金は持っているんだ、君のどんな頼みも聞けないよ」
「だがいくらあっても困るものではないだろう? いくらでも渡そう」
「断る」
「どうして? 素晴らしい取引だと思わないのか? 私なら快諾するな」
「私は違う」と、ユウフウは断言した「お金なんて私にとっては価値のないものだ」
「価値がないだと……? 呆れるな……」
「――君は今いくらお金がほしい?」
「何?」
「いくらでもあげよう。だからアツヤから離れて二度と現れるな。取引しよう。君はお金が魅力的なんだろう?」
「――ふっ、なら君のお金を全てもらおう」
「分かった」
「ふざけるな!!」
「えっ……?」
「私を甘く見るな! そんな嘘信じるわけないだろ!」
「嘘じゃないよ?」
「いいや嘘だ、私は信じないぞ!」
「じゃどうするつもりだ?」
「この身体を人質にするまでさ」
「――今は冷戦だぞ? お金をもらったほうがいいと思うが」
「なに、方法は色々あるさ」と、“アツヤ”はにやりと笑う「この身体は色々と使い道があるようだ」
ユウフウは相手を睨む。
と、その両目が緑色に燃える。
「ユウフウ君」
と、ユウフウは右方向にはっとした。
(この声は!?)
そう思いながらユウフウは見ると、やはりハルト――昨日と同じ服装――がいた。
(なぜこいつがいるんだ? あの人がコントロールしているんじゃないのか?)
そう、あの人――ユウフウの命の恩人はそう言っていた。
(――また助けてくれるのか?)
と、ユウフウはふと思った。命の恩人は一度じゃなく二度助けてくれた。二度目はアカリの身体を使って。今度はハルトを使って助けてくれるのだろうか?
「君がユウフウ君ね?」と、ハルトは続けた。
(何?)
と、ユウフウは戸惑う。相手――ハルトはそう言った。だがそれはハルトが言っているものではない。それは分かっている。
しかし、今の発言――それは命の恩人のものでもないと証明している。
(誰だ? ハルトでもあの人でもないこいつは――?)
「――君は誰だ?」
「その前にまずそいつを片付けるわ」と、“ハルト”は右手で指パッチンした「さぁユウフウ君、その子の名前を呼んでみれば?」
(呼ぶ? 今ので離れたってことか――?)
「――アツヤ」
「何?」
ユウフウはほっとした。「無事か?」
「もちろんよ」
「よかったよ」と、ユウフウは“ハルト”を見る「ありがとう、助けてくれて」
「どういたしまして。けれどユウフウ君、まだ安心するのは早いわよ? 今からこの身体を自由にするんだから」
ユウフウは険しい顔になる。「……どうして?」
自由にする――そのあとに何があるのか、ユウフウは分かっている。
「スポンサーからの指示よ」
(スポンサー?)
(まさか――)
(いや、違うな)
(それより――)
「――スポンサーは何を望んでいるんだ?」
「さぁ? そこまでは分からないわ。さて、じゃそろそろやりますか」
「アツヤ、私の後ろに」
「うん――」
アツヤはそうした。
「――ユウフウ!!」
と、“ハルト”は歓喜の叫びを上げた。
ユウフウは悟った。
ハルトが解き放たれたことを。
「ユウフウー!!」と、叫びながらハルトはユウフウへ駆ける「ユウフウー!!」
(くっ……!)
相手が駆け出したその瞬間、ユウフウは眼前に壁――透き通った緑色の薄い壁――を横たえさせた。
と、ハルトはその壁の寸前で立ち止まる。
「ユウフウー!!」ハルトのその叫び――それはユウフウを渇望する叫び「ユウフウー!!」
(……どういうことだ……?)
ユウフウは唖然としながら思う。目の前にいる相手――ハルトに違いない。だがこれはユウフウの知っている相手とは明らかに違っている。
「ユウフウー!!」
(まるで理性がない……ゾンビみたいだ……)
「ユウフウー!!」
「――ユウフウ」
ユウフウは振り返る。「どうしたの? アツヤ」
「アカリさんのところへ戻りましょう? ここは不気味だわ……」と、アツヤは困惑しながら言う。
「そうだね」
「それはできないよ」
と、右から声がした。二人はそちらを見る。
若い男――日本人、腰まである茶髪、黒い目、真面目そうなイケメン、小柄、細身、エメラルド色のジャージ、黒いアンダーシャツ、黒いスニーカー――がいた。
「――できないって?」と、ユウフウが聞いた。
「この駐車場から出ることがだよ。もちろん普通の方法でもね」
「ユウフウー!!」
「――どうして? 君の仕業か?」
「ユウフウー!!」
「いいや、私じゃない。むしろ私もそうなんだよ」と、相手は苦笑して答えた。
「――君は誰ですか?」
「ユウフウー!!」
「私はケンジ。君は名前を叫ばれているユウフウだね?」
「ユウフウー!!」
「……はい」と、ユウフウは苦笑しながら答えた。
「私はアツヤです。ケンジさん、このグラウンドから出る方法分からないかしら?」
「ユウフウー!!」
「――分からないな。けれどこれは明らかに仕組まれたことだ」と、ケンジはユウフウを見る「この状況、これは君に関係していることだと思う」
「ユウフウー!!」
「そうですね……」
「ユウフウー!!」
「君に関係していることと言えばこのうるさいヤツだ」と、ケンジはハルトを見る「こいつをなんとかすればいいんじゃないか?」
「そうですね」
「ユウフウー!!」
「何か方法はあるかい?」
「――ちょっとは」
(ルドシーントロフ。――ルドシーントロフ?)
(どうしたんだ? なぜ反応しない?)
「ユウフウー!!」
「その方法は?」
「――まず飛ばしてみます」と、ユウフウはハルトを見る。
「ユウフウー!!」
「……駄目でした」と、ユウフウはケンジを見て言った。
「気にするな。他の方法はあるのか?」
「ユウフウー!!」
「はい、コントロールしてみようと思います」
しかし――ユウフウはケンジに同じ結果を報告した。
「ユウフウー!!」
「他に方法は?」
「いえ、思いつきません……」
「そうか、気にするな。きっと解決方法はあるはずだ」
「ユウフウ」と、アツヤが呼ぶ。
「何?」
「ルドシーントロフはどうしたの? 頼らないの?」と、アツヤは不満そうに言った。
「ユウフウー!!」
「それが反応しないんだよ」
「反応しない? それもここにいるせいかしら?」
「分からない」
(ルドシーントロフ)
(……駄目か)
「ユウフウー!!」
「ユウフウ」と、ケンジが呼ぶ「壁の向こうのあいつはどうして君の名前を叫んでいるんだろう? 何か身に覚えはないかな?」
「……あります」
「ユウフウー!!」
「なら知り合いなのか?」
「ユウフウー!!」
「私のクラスの担任です」
「ユウフウー!!」
「担任?」と、ケンジは驚いて言った「君は――いや、なんでもない。それよりユウフウ君、この担任は普段からこんな感じではないよね?」
「――まぁ、そうですね」
「ユウフウー!!」
「私が見るにこの担任はもう考えて動くことはできないと思う。この会話だって理解できていないと思う。そこでだ、ユウフウ、君には死んだふりをしてもらいたい」
「ユウフウー!!」
「死んだふり?」
「ユウフウー!!」
「ああ。君が死んだら担任は君を諦めるんじゃないかな?」
(なるほど)
「ユウフウー!!」
「分かりました」と、ユウフウは答えた「けれど死んだふりってどうするんですか? 突然死でいいんですか?」
「ユウフウー!!」
「うん、それでいいと思う。さぁ、苦しんで」
「ユウフウー!!」
「……うっ!」ユウフウはふいに苦しみ出す「うわぁっー!!」
「ユウフウー!! ……ユウフウ……?」
(よしっ――)
「うわぁー!!」
「ユウフウー!!」と、ハルトは叫ぶ――しかしそれは彼を欲するものではなく、不安から来るもの。
「うわぁー!!」
「ユウフウー!! ユウフウー!!」
――読者の諸君、ここで一言言っておくことがある。
作者はここで省略を使いたいと思う。ユウフウの演技、ハルトの絶叫、ちょっとバカバカしいからだ。まぁ、そんなことをしなくても彼の演技はすぐに終わるんだけど。とにかく、すまないね。
で、ユウフウは死んだ。
「……ユウフウ……?」
彼――仰向けに倒れている――が死んで、ハルトは呆然となっている。
と、ふいにハルトは涙を流す「……ユウフウ……」
と、ハルトはぱっと消えた。
「やった、成功したぞ!」と、ケンジは歓喜して言う「ユウフウ、君のおかげだ! さぁ、立ち上がって」
と、ユウフウはさっと立ち上がる。
ハルトがいない。それを確認し、ユウフウはほっとした。
「アツヤ、これで無事帰ることができるね」
「……そうね」
「アツヤ? なして不満そうな顔してるんだ?」
「なしてですって? そりゃ不満よ。だってださいじゃないのよ! 死んだふり作戦なんて!」
「『ださい』って……」
「ユウフウのそんな姿見たくなかったわ! 最悪!」
「……ごめん、アツヤ」
「まぁまぁアツヤさん、無事に問題を解決することができたんだからよかったじゃないか」
「よくありません!」
「――なら、次の問題を与えよう」
「えっ? 次の問題?」
「アツヤ!」と、ユウフウはアツヤの前に出る「ケンジさん、次の問題ってなんですか?」
ケンジは微笑する。「私がその問題だよ」
「何……?」
「私は殺人鬼だ」
「殺人鬼……?」
「そう、私は君を殺したいんだよ、ユウフウ」と、ケンジは微笑して言った。
「私を……?」
「そうだよ」
別に君が憎いからとかじゃないけどね、とケンジは付け加えた。
「じゃどうして……?」
「それは君が私に勝ったら教えてあげるよ」
「――ふっ、ちょうどいい」
「ちょうどいい? 何が?」
「さぁね。しかし私は戦わないよ」
「何?」
「けれど君は私に気にしないね」
その瞬間、相手の足元に魔法陣が出現する。それはルドシーントロフが使うそれと同一。
と、相手はぱっと消えた。
と、魔法陣が消える。
ユウフウは振り返り「相手は倒した。行こう、アツヤ」
「倒した? もう?」
ユウフウは微笑する。「うん。かっこいいかな?」
「――うん、とっーても」
その頃、札幌駅――両面ホームが六つ並んだ高架駅――のホームには特急列車が停まっている。
その車内の指定席――窓際――に座り「仕事は終わったの?」と、十代半ばの少女は隣の少女に聞く。
「もちろん終わったよ」と、相手――日本人、黒髪のロングヘア、黒い目、クールそうな顔立ち、小柄、華奢、黒い半袖ワンピース、黒いスポーツシューズ――は微笑して答えた「だってもう慣れたから。君も慣れたでしょ? 双子なんだから」
「うん」と、少女は答えた。そう、二人は双子だ。ワンピースの色が異なっていなれば見分けをつけることは難しいだろう。作者は無理。
「報酬はいくらだった?」と、白いワンピースを着たほうは聞いた。
「この前と同じ」
「よかったね」
「うん、お金持ちは太っ腹でいいね」
「そうだね。この列車代もサービスしてくれたし」
「ラッキーだよね。無料で音威子府に行けるなんて」
「そうだね――ターゲットはどうしたの?」
「もちろん指示通りにしたよ――あっ、けれどちょっとそれ以外もしちゃったな。まぁ問題はないと思うけど」
「どんなことをしたの?」
「依頼人のことを少しだけ話したの。ターゲットが知りたがったから」
「それで問題ないの?」
「うん、だってターゲットは依頼人に恩を感じてたから」
「恩?」
「うん。で、ターゲットは恩返しに行ったの。ねっ? 問題ないでしょ?」
「うん」
「そうだ、昨日一緒に観たアニメ番組の提供にあの企業の名前あったよね?」と、黒いワンピースの少女は言った。
「あの企業? ――ごめん、覚えてない」
「ほら、依頼人の一人がお金出してる企業」
「――ああ、あの企業」
「うん。すごいよね、アニメにも関わってくるなんて」
「そうね――けれど本当にすごいのはその依頼人の一人よ」
「なして?」
「多額のお金を出しているからよ。実質あの企業はその依頼人のものよ」
「そっか。やっばり資本家ってすごいね――あれ? 投資家だっけ?」
「どちらでもいいわよ、そんなことは」
「そうだね。――ねぇ、音威子府にはどれくらいかかるんだっけ?」
「三時間ちょっとよ」
「うへぇ……」
そう、音威子府――道北にある北海道唯一の村――は特急列車に乗っても札幌から三時間以上かかる。とても厳しいんだ。
「携帯電話で遊んでいたらすぐよ」
「そっか」
と、黒いワンピースの少女の右手に携帯電話が瞬時に現れる。
と、それに着信。
「通話はデッキでしてね」
「うん、分かってるよ。じゃちょっと行ってくるね」
「うん、いってらっしゃい」
そして、少女はデッキで電話に出る。「もしもし」
〈依頼を頼みたいです〉と、若い男の声は言った。
「分かりました。ターゲットはどこにいるんですか?」
〈ドイツです。海外でも大丈夫ですか?〉
「はい、もちろん大丈夫ですよ。そのターゲットの名前はなんですか?」
その頃、ユウフウとアツヤは“ホンスーノナー”にいた。これからうどんを買う。だがそれを入れるものがないとアツヤは気づき、朝五時から営業している名店にやって来たんだ。そんな朝早くからやっているなんて本当に頭が下がる。
で、そこに到着して数分後、ユウフウは青い大きなリュックサック――すぐに使うから値札を切ってもらった――を買った。
「ユウフウ、本当に私が背負うの?」と、一階のレジの前でアツヤ――リュックサックを不満そうに背負って――は言った。
「もちろんだよ。似合ってるよ」と、ユウフウ――緑色の目のまま――は言った。
「嬉しくないわね。それより紳士的な気遣いをしてほしいわよ」
「それはこれからあるかもしれない。その時にリュックサックを背負ってたらよくない」
「そうだけどー」
「私のかっこいい姿見たくないの?」
「もちろん見たいわ。――分かった、我慢するわ」
「ありがとう」
「――ねぇ、他に買うものはないかしら? せっかく来たんだから」
「そうだな――布団は?」
「そうね、布団があったわ。君とアカリさんの分ね」
「えっ? 君とアカリさんの分だろ?」
「私にはもうあるわ」と、アツヤは微笑して答えた「とても気に入ったわ」
「そんなに寝心地よかったの?」
(そうだっけ?)
と、ユウフウは思う。
「ううん、むしろよくないわ」と、アツヤはなお笑って言う。
「えっ? じゃ君の分も買うよ」
「いいえ、私はあれがいいのよ」と、アツヤはやはり笑ったままで言う「さて、布団を選びに行きましょう」
布団コーナーは二階にある。
約十分後、布団セットを購入、そしてユウフウは配達を頼んだ。
「今日中に届いてよかったわね」と、レジの前でアツヤは言った。
「うん。――そろそろ戻ろうか? アカリさんが上がっているからもしれない」
「まさか。アカリさんは長湯の人よ? まだまだ無理よ」
「気を遣ってくれるかもよ?」
「いいえ、ないと思うわ。“スクラップパラダイス”は名湯なのよ?」
「なるほどね」
「――ユウフウ」と、アツヤはユウフウの目をじっと見つめて言った。
「何?」
「綺麗ね、その緑色の両目……」と、アツヤはうっとりとして言う。
「ありがとう」
「――ねぇ、屋上へ行かない?」
「なして?」
「駄目?」
「ううん、良いよ」
「ありがとう」
屋上の駐車場は相変わらず一台も車が停まっていない。
「ユウフウ、しばらくの間その目を見つめていてもいいかしら?」
「目を? 別にいいけど」
「ありがとう」
それからしばらくして、ふと、
「ユウフウ、今何を考えているの?」と、にこやかな表情のアツヤは聞いた。
微笑しているユウフウは「何も」
「嘘。何を考えていたの? 教えてよ」
「――当ててよ」
「うん――」
「私のことかな?」
と、右から言われた。
(この声は――)
そう、やはりヒカル――グレーのジャージ、黒いアンダーシャツ、紫のスニーカー――がいた。
「違うよ」と、ユウフウは答えた「なんの用だ?」
「おや? 忘れたのかな? 君は私のターゲット、つまり私は君を殺しに来たんだ」と、ヒカルは楽しそうに笑って答える「準備はできているかな?」
「まさか。悪いが今日は君に付き合っている時間はないんだ」
「どうして? 学校に行くから?」
「まさか。とにかく今日は駄目だ。別の日にしてくれ」
「悪いけどそれはできないんだ。スポンサーの一人がそう言っているんだよ。君の“デメリット”は不愉快らしい。私はむしろいいと思うけど」
「ユウフウー!!」
左からの叫びにユウフウは驚いた。
(この声は!?)
見ると、やはりハルト――緑色のジャージ、黒いアンダーシャツ、紫のスニーカー――がいて「ユウフウー!!」と、嬉しそうに叫んだ。
(なぜあいつがここにいるんだ?)
「誰だい? あの叫んでいる人……?」と、ヒカルは呆れた様子でユウフウに聞く。
「ユウフウー!!」
「ユウフウ、どうするの?」と、アツヤが聞く。
「とりあえず君を安全な場所へ非難させる」と、ユウフウはヒカルを見る「駄目かな?」
「オーケー」と、ヒカルは快諾した「無駄な犠牲は出したくないからね」
「ユウフウー!!」
「それにしてもユウフウ、さっきから叫んでいるのは誰なの?」
「クラスの担任の成れの果てだよ」
「ユウフウー!!」
「へぇ、教師か。それはいい暇潰しになりそうだ」
ほら、早く行きなよ、ユウフウ、とヒカルは付け加えた。
「ユウフウー!!」
その瞬間、ユウフウとアツヤは消えた。
「ユウフウー!!」
二人が消えた瞬間、ハルトは悲しげな叫びを上げた。
「――私は学校の先生って好きじゃないんだよね」と、ヒカルは楽しげに笑いながらハルトに言った。
「ユウフウー!!」と、ハルトは今さっきまでユウフウがいた方向を見て叫ぶ。
「無視か。まぁいい。一人で勝手に楽しませてもらうよ」
「待て」
ヒカルは振り返る「君は確か――」
「タイキだ」と、相手――白いジャージ、黒いアンダーシャツ、グレーのスニーカー――は名乗る「その人に手出しはさせない。私が相手だ」
「君が私の相手を? どうして?」
「私は正義を行う者、そして君は悪い人間だからだ」と、タイキは言い切った。
「なるほど、そうだったね」と、ヒカルは苦笑して言った「良いよ、まずは君の相手をしてあげよう」
「まずはなんてないさ。君は私に倒されるんだから」
「どうかな?」
「ユウフウー!!」
「二人共、待ちなさい」
(女の声?)
と、ヒカルは右を見る「――君は誰だ?」
「良いよ、教えてあげる。私は――」




