8話
読者の諸君、ここで私は登場人物のリストを挙げて整理したいと思う。ちょっとキャラが多いからね、配慮だ。
ユウフウ 主人公 中学生
ルドシーントロフ ?
アツヤ 中学生
アカリ 二十代から三十代前半
キンダイ 主人公その二 資本家? 投資家?
ヒカル 殺人鬼
タイキ 正義を行う者
ケンジ 殺人鬼
ケンジロウ 中学生
ハルト ユウフウのクラスの担任
フロッシュ 何か
謎の双子
第七話の最後に登場したキャラ
――やっぱりリスト作って正解だったね、やっぱりちょっと多いよ。だけどもういいんだけどね。リスト終わったんだから。
だけど物語は終わらない――物語は、ユウフウとアツヤが温泉旅館“スクラップパラダイス”の休憩室に瞬間移動したところから始まる。
誰もいない休憩室――畳の上に座卓と座布団のセットがいくつも並んだ広い空間――に移動した直後「お待たせしました」アカリが来た。
「じゃユウフウ、レストランへ行きましょう」と、アツヤは促した。
「うん」と、ユウフウ――依然両目が緑色――は答えた。
午前九時、ユウフウ達は下川町の国道沿いのスーパー――町の中心部にある――から出てきた。
「次はどこの店に行こうかしら?」と、アツヤはユウフウに聞いた「私のお腹はまだまだ余裕よ。君は?」
「私もだよ。アカリさんは?」
「はい、私もです」
「決まりね」と、アツヤはユウフウに言った「売っているといいわね、今度のお店はうどん」
「そうだね。まぁなかったらまたスーパーに行けばいいさ」
「そうね。じゃ四店目に――ユウフウ、その前に君から情報を教えてもらいたい」
「アツヤさん?」と、アカリは不思議そうな顔で言った。
「――君は何者だ?」と、ユウフウは聞く。
「ただのイギリス人さ」
「イギリス人? なぜアツヤの身体を使っているんだ?」
「簡単だよ、日本語が難しいからだ。けれど今はそうじゃない。君は何か特別なものを持っているらしいね? 面白いんだって? 詳しく知りたいな」
「私は面白くないよ」
「ふっ、おいおい、自分を卑下しちゃいけないよ?」
「本当さ」
「それは話してくれないと分からないよ。話してくれるかい?」
(しつこいな……)
と、ユウフウは呆れる「――なら教えてあげるよ」と、微笑して「私はイギリス人が好きじゃなくなっているんだよ」
「ほう、そうかい――なら好きになってもらおうかな?」と、“アツヤ”も笑って言った「勝負しようよ。私が勝ったら君のことを話してもらう。君が勝ったら私は素直に帰るよ。どうかな?」
「やめておく。今は冷戦だぞ?」
「そうだね、そんなんだった。けれど大丈夫、バイオレンスなことはしないさ」
「――何で勝負するんだ?」
「そうだなー――写真はどうだい?」
「写真?」
「うん、撮った一枚で勝敗を決めるんだ。うん、それがいい。それにしよう」
「――うん、それで良いよ」と、ユウフウは賛成した。写真を撮る。それなら確かに暴力的なことにはならないだろうからだ。
「決まりだね。じゃ撮るテーマを決めよう。何がいい?」
「私はなんでもいい。そっちで決めてくれ」
「――なら綺麗なものでどうかな?」と、“アツヤ”は提案した「ありきたりなテーマだけど勝敗はつきやすいからね」
(綺麗か――)
「分かった」
と、ユウフウは顔の前に両手でカメラを作り、シャッターを押した。
「なんのつもりだい?」
ユウフウはカメラを下ろす。「撮ったんだよ。私は“それ”で勝負する」
「――へぇ! いいね!」と、“アツヤ”は笑顔になって言った「私の負けだね」
「えっ?」
「そうじゃないのか?」
「――そうだね」
「じゃ私は約束通り帰るよ。またね」
(またね? まだ諦めてないのか?)
「ユウフウ、ありがとう。助けてくれて」と、アツヤは笑顔で言った。
「お安い御用だよ」
「ねぇ、君が今撮った写真見せてよ?」
「えっ?」
「うん、分かってるわよ。また撮ってよ、今度は本当のカメラで」
「――うん、分かった」と、ユウフウは微笑して答えた「さっそくカメラを買いに行こう」
「今から? まずはうどんじゃないかしら?」
「おいおい、君は花より団子なのか?」
「あっ、そうね」と、アツヤは恥ずかしそうに言った。
「――けれどまずはうどん屋を探すことにしよう」と、ユウフウは平気な顔で言った。
「えっ?」
ユウフウはアカリを見て「すみません、そういうわけで私達はカメラを買いに行きます。アカリさんはうどんをを食べていてください」
「あっ、私も一緒に行きます。――あの、ユウフウさん。私も写真撮ってもらってもいいですか? 君達と出会った記念に一枚ほしいんです」
「もちろんいいですよ。一枚と言わず沢山撮りましょう」と、ユウフウは快諾した「いいよね? アツヤ」
「もちろんよ」と、アツヤも微笑して答える「まずは私達三人が写った写真にしましょう?」
「うん」
「――カメラはどこで買うの? “ホンスーノナー”には行けないわよ?」
「分かってるよ」
「行けるわよ?」と、アツヤは言った「屋上にだって行けるわ」
アツヤが言っていないとすぐさま分かるユウフウは「――君は何者だ?」と、怪訝な表情で聞いた。
「それより行ってみれば? 素敵な写真が撮りたいんでしょ?」
「――アカリさん、いいですか?」
と、ユウフウは行くつもりだ。罠かもしれない。アツヤの身体を使っているこの誰かの。またはユウフウの知っている相手――ヒカル、タイキ、ハルトのいずれかの。だが、その四つの選択肢のどれでもないかもしれない。そう、罠じゃない、“アカリ”は本当のことを言っているかもしれない。そうなら嬉しい、そしてそれを確かめたい。
「はい」
「ありがとうございます」
と、ユウフウ達はぱっと消えた。
次の瞬間、三人は“ホンスーノナー”の屋上駐車場の真ん中辺りにいた。
と、ユウフウはすぐさま周囲を見渡す。
(――いないな)
(どうして――?)
「ほら言ったでしょ?」と、“アツヤ”は言った。
「君は何者だ?」と、ユウフウはやはり怪訝な表情で聞いた「何が目的だ?」
「君の正体よ」
「正体?」
「そうよ。君は何者なの? どうして君はそんな特別なことができるの?」
「――答えなかったらどうするの?」
「戦いましょう。もちろん私はこの身体を使ってね」と、“アツヤ”は平然と答えた。
ユウフウは相手を睨む。「今は冷戦だぞ?」
「ああ、そうだったわね」と、“アツヤ”は残念そうに言った「なら――そうだわ、君にいいことを教えてあげる」
「いいこと?」
「ええ、それを話すから教えてくれないかしら?」
「――まず話してくれ」
「良いわよ。君達、この身体の子も含めて三人で写真を撮るそうね? けれどそうなると一体誰が君達を撮るの? はい、言ったわよ」
ユウフウはぽかんとした。「――ふふっ、それはいいことを聞いたな」
(楽しくなったよ)
「喜んでくれたようね、嬉しいわ。で、話してくれるのかしら?」
「良いよ」
「本当? じゃ話してちょうだい」と、“アツヤ”は興奮しながら言った「君はどうして特別なことができるの?」
「才能だよ」
「才能? ――本当かしら?」と、“アツヤ”は疑わしそうに聞いた。
「うん。さぁ、私は答えたんだ、帰ってくれ」
「――分かったわ」と、“アツヤ”はいまいち納得していない様子で答えた。
「アツヤ」
「何?」
「私達だけじゃ三人の写真は撮れないね」
「そうよね。じゃ誰かに頼みましょう」
「うん」
「ユウフウ!」
(この声は――)
そう、見ると、塔屋のほうからケンジロウ――グレーのジャージ、黒いアンダーシャツ、黒いスニーカー――がユウフウ達に近づいて来ていた。
(なんの用だ――?)
と、ユウフウが警戒した時、
「あら? ケンジロウじゃない」と、アツヤは言った「久しぶりね」
「そうだね」と、ユウフウ達の前で立ち止まって彼は答えた。
「どうしたのよ? 学校は?」
「サボったんだよ。私はユウフウに用があるからね」
(やはりか)
「ユウフウに? あっ、その前に写真頼めるかしら?」
「写真?」
「代わりに撮ってほしいのよ」
「ああ、なるほど。良いよ」
「ありがとう。じゃカメラ買ってくるわね。すぐに戻るから。ユウフウ、アカリさん、行きましょう」
それから約十分後、屋上駐車場で緑色のデジカメのシャッターが押された。
と、ケンジロウはアツヤ――ユウフウ、アツヤ、アカリの並びの真ん中に立っている――に近寄って「こんなんでどうかな?」そう言いながらデジカメを渡す。
「どれどれ――うん、ばっちりだわ。ありがとう」
「いや……」
「ケンジロウ」と、照れている彼をユウフウは呼ぶ。
「……なんだよ?」と、ケンジロウは不機嫌な顔になって聞いた。
「ありがとう。さいなら」
その瞬間、ユウフウ、アツヤ、 アカリはぱっと消えた。
(消えた!?)
だがケンジロウはすぐに分かる。
(逃げたのか……)
ケンジロウは顔を顰める。ケンジロウはユウフウに会いに来た。ユウフウを殺すために。だがユウフウはケンジロウが何か企んでいることに気づいていた。だから逃げた。ケンジロウは先手を取られた。
(ユウフウ……私は諦めないぞ)
(必ず君を殺してやる……)
北海道中川町の駅前に瞬間移動した直後「ユウフウ、どうしていきなり移動したのよ?」と、アツヤは不思議そうに聞いた。
「ちょっとね」
「ふーん――まぁ、言いたくなければいいんだけどね」
「ありがとう」
「ところでここはどこ?」
「中川町の駅前だよ」
「そう――誰もいないわね」と、アツヤは周囲を見渡して言った。そう、ユウフウ達がいる駅前――何もない――や向こうの国道に通じる短い駅前通りは人っ子一人歩いていない。別に作者は貶したいわけじゃない。マジで田舎ってそんな感じなんだよ。いい町なんだけどねー。
「そうだね」
「ユウフウ、中川町に来たってことはこれから君の命の恩人に会いに行くってことね?」
「そうだね――けれどその前に写真を撮ろう。誰か撮ってくれる人探そう」
「そうね――けれどとりあえず今写真撮らない? なんか撮りたいわ」
「うん、いいよ」
「よしっ、じゃ撮りましょう」と、アツヤはデジカメを構えて「ユウフウ、はい、チーズ」
カシャ。
「どう? うまく撮れた?」
「――うん。じゃ次はアカリさんね。はい、チーズ」
カシャ。
「――綺麗に撮れたわ」
「ありがとうございます、アツヤさん」
あの、今度は私がアツヤさんを撮ります、とアカリは付け加えた。
「そう? ありがとう」と、アツヤはデジカメを渡す。
「いきますよ? はい、チーズ」
カシャ。
「どうかしら?」
「――はい、うまく撮れました」
「ありがとう」と、アツヤはデジカメを受け取った「――けれどユウフウ、命の恩人が住んでいる場所分かるの?」
「あっ、そういえば分からないな」
(どうしよう?)
「大丈夫よ」と、アカリは言った「だってもう中川町に来たんだから。中川町へようこそ」
「――命の恩人ですか?」
「そうよ、ユウフウ。こんにちは」
「こんにちは」
「君はアツヤさんね? こんにちは、初めまして」
「こんにちは、こちらこそ初めまして。ユウフウを助けてくれて本当にありがとうございます」
「あら御親切にありがとう。ユウフウも、約束通りアカリを連れてきてくれてありがとう」
「どういたしまして」
「あの」と、アツヤは“アカリ”に言う。
「何かしら? アツヤさん」
「この背負ってるリュックの中にうどんが入っているんですが、どこに届ければいいのかしら?」
「大丈夫よ――ほら、背中軽くなったでしょ?」
「はい。何をしたんですか?」
「移動させたのよ、うどんを私の元に」と、“アカリ”はユウフウを見て「うどんもありがとう。こんなに買ってきてくれるなんて嬉しいわ」
「どういたしまして」
「さて、約束通り君にお礼をしなくちゃね」
「そのことなんですが、別にしてもらわなくていいです」
「あら? どうして?」
「君には感謝してもしきれないからです。だからお礼なんていいですよ」
“アカリ”は微笑して「なるほど。けれど私はそうしたいのよ。君に喜んでもらいたいのよ。いけないかしら?」
「いいえ、それならいただきます」
「ありがとう。なら君にお礼するわ。明日、君は別人になることができるわ」
「えっ?」ユウフウはびっくりした「別人?」
「そうよ、明日の一日だけね」
「どういうことですか?」
と、ユウフウは相手の真意が分からない。
明日、ユウフウは別人になる――なぜ?
それがお礼?
それでユウフウが喜ぶ?
「明日、君は自由――自由になるわ」と、“アカリ”は微笑して答えた「好きなことができるのよ? どう? 今まで我慢してきたんでしょ?」
(そういうことか――)
ユウフウは理解した。
「“アカリ”さん」と、アツヤが呼ぶ「あっ、間違えました」
「いいのよ、“アカリ”で。むしろそのほうがいいわね、面倒じゃないわ。で、何かしら?」
「――別人って、どんな感じになるんですか……?」
「ふふふっ、大丈夫よ。ユウフウ、この意味分かるかしら?」
「――はい」
「それで? 返事は?」
その頃、ケンジロウは“ホンスーノナー”の駐車場で考え事をしていた。
(――やはり私だけじゃ駄目か)
と、ケンジロウは悔しく思う。
ユウフウを殺す――それはケンジロウだけではできないと判断した。賢明だ。
(仲間を――けれど普通の人間では駄目だ)
(だが知り合いに――)
(――あの人を頼ろう)
と、しばらく考えてふと思い当たった。
(あの人なら誰か紹介してくれるだろう)
(――むしろあの人なら私のために仲間を――)
「ケンジロウ」
(何!?)
その声にケンジロウはばっと振り返る。
(ユウフウ? なぜ来たんだ――?)
「――ふっ、逃げたんじゃなかったのか?」と、ケンジロウは聞いた。
「ケンジロウ、私は君を倒す」と、ユウフウは真剣な顔で言った。
「何?」
(どういうことだ? 私を倒す……?)
怪訝な表情を浮かべるケンジロウは「……なぜ急にそんな気になったんだ?」
「さぁな。けれど私は君を倒す。君は邪魔なんだよ」と、ユウフウはさらりと言う「けれど今は冷戦だ。殺しはしない。さて、さっさと始めよう。まだこれから倒す相手がいるんだ。ここで時間を食うわけにはいかない」
「お前!!」と、ケンジロウは激怒して叫んだ「いいだろう! 殺してやる!!」
その頃、北海道の最北端に向かう特急列車は、智恵文市の南側に隣接する士別市の駅に停車していた。特急列車はずいぶん前からその駅――片面ホームと両面ホームが一つずつある――で停まって動かない。
「まだかな?」と、特急列車の通路側の席に座る少女――“リスト”に挙げてある双子のうちの黒いワンピースを着ているほう――は隣の窓際の少女にのんびりと聞いた。
「分からないわ。けれど仕方ないわね」と、色違いの白いワンピースを着る相手は冷静に答えた。
「そうだよね、まったくのアクシデントなんだから。――ねぇ、何とぶつかったんだろうね?」
「そうね――北海道だからヒグマか鹿だと思うわ」
「そっか。ヒグマならいいな」
「どうして?」
「だってヒグマって恐ろしい動物なんだよ? 人なんて簡単に殺されちゃうよ」
「けれどそれにしては怖がっていないわね?」
「うん、だってそれは普通の人間の場合だから。私達二人は関係ないよ」
「そうね。けれどそれならどうしてヒグマのほうがいいの?」
「だってその二択ならヒグマでしょ?」
「なるほど」
「あっ、そうだ」
「どうしたの?」
「うん、ちょっと行ってくる」
「どこへ?」
「キンダイさんのところ。ちょっと聞きたいことがあるから」
「うん、分かった。いってらっしゃい」
「うん、行ってきます」
と、黒いワンピースの少女はぱっと消えた。
少女が話をしたい相手――キンダイは札幌大通り公園のベンチに座っていた。白いジャージと赤いスニーカーの彼は正面を向いて、何か考え事をしているようだ。
その目の前に少女は現れた「キンダイさん」
「おっ、君か」
「びっくりしましたか?」
「ちょっとね。こんにちは。何か用かな?」
「こんにちは。はい、ちょっと聞きたいことがあるんです」
「良いよ、何かな?」
「はい、私達が手助けした君の目的がどうなったのか知りたいんです」
「ああ、そのことか。結果はまだだよ」
「そうですか、分かりました。ありがとうございます」
また私達に頼みたいことはありますか? と少女は付け加えた。
「今のところはないよ。ありがとう」
「分かりました。それでは私はこれで。さいなら」
「さようなら」
と、少女は一瞬で消えた。
そして一瞬で特急列車の席に戻った。
「おかえりなさい」と、白いワンピースの少女は言った。
「ただいま」
「キンダイさんから話は聞けた?」
「うん。私達が昨日やった仕事に関する彼の目的がどうなったのか聞いたの」
「それで? どうなったの?」
「うん、まだだって」
「そうなんだ」
「――ねぇ?」
「何?」
「キンダイさんって最終的に何になりたい人なんだろう?」
「さぁね。聞いてみないと分からないわ」
「やっばりそうだよね」
「――けれど、目標は高いと思う」
「ああ、そうだね。とんでもなく高そう――ならまた私達に頼んでくるだろうね。楽しみ」
「そうね、キンダイさんはお金の払いがいいから――ねぇ、キンダイさんは今どこにいたの?」
「札幌の大通り公園だよ」
「また? 好きね、あの人」
「そうだね。私も好きだよ、ベンチに座って青空見るの素敵だから」
「いいわよね、私も好きよ。キンダイさんもそうしていた?」
「ううん、前を向いて何か考え事をしていた」
「考え事? やっばり何か将来に野望があるようね。ならまた何か頼みたいこと話された?」
「ううん、今はないって」
「あらま」
二日後、午前六時。
ユウフウとアツヤは“ホンスーノナー”智恵文市本店――今までかなりの頻度で出てきたあそこのことね。実は道北に複数ある店舗のうちの本店だったんだよね――から国道に出た。
「ユウフウ、これからどうする?」と、アツヤ――紫色のジャージ、黒い長袖アンダーシャツ、白いスポーツシューズ――は言った「もう行く?」
「君はどうしたい?」と、ユウフウ――この前アツヤからプレゼントされた青と黒のジャージ、黒い長袖アンダーシャツ、二日前に買った青いリュックサック、赤いスポーツシューズ――は聞いた「君のしたいことをしてからでも十分間に合うと思うよ?」
おっと、一応言っておくが、ユウフウの両目はもうとっくの昔に元に戻っているからね?
「そうね――ならちょっとお茶しない?」
「いいね。どこでする?」
「おはよう」と、アツヤは微笑して言った。
ユウフウは眉を顰める。「誰だ? 邪魔をしないでもらいたいな、これからお茶をするんだ」
「そうなの? それは失礼した」
私はこの前のイギリス人だよ。覚えているかな? と“アツヤ”は付け加えた。
「――ああ、あのイギリス人か」
「思い出したようだね。嬉しいよ」
「なんの用だ?」
「この前と同じだよ。君のことが知りたいんだ」
「断る」
“アツヤ”は苦笑して「早いなぁ。ならまた勝負しようじゃないか? もちろんバイオレンスなことじゃなくてね」
(ルドシーントロフ)
〈おう、おはよう〉ユウフウに呼ばれ、ルドシーントロフは彼の頭の中で挨拶した〈相変わらず朝早くから活動してるな。元気なことだ。で? 私に何か用か?〉
(ああ、アツヤの身体を使っているこのイギリス人を飛ばしてくれ)
〈ほう、今度のヤツはイギリス人か。ならイギリスの首都にでも飛ばすか? 確かイギリスの首都ってロンドンだったよな?〉
(どこでもいいさ。とにかく頼む)
〈へいへい、了解〉
その瞬間、ユウフウの視界は緑色から成り立つ。
と、“アツヤ”の足元に魔法陣――第一話から出ているそれ――が現れる。と、その魔法陣の中で緑色の明るい光が吹き出した。
〈よしっ、これでオーケー。しばしこの“噴水”でも見てろ〉
(うん)
〈ちょっといいかしら?〉
(この声――私の命の恩人ですか?)
〈そうよ。おはよう〉
(おはようございます。どうしたんですか?)
〈うん、アカリのメンテナンスが終わったのよ。今日中川町に来た時に連れて帰ってちょうだい〉
(分かりました)
〈あと、君の質問の答えが分かったわ〉
(質問?)
〈ほら、ヒカル、タイキ、ハルトの行方よ〉
(そうですか。どうなったんですか?)
〈三人共生きているわ。残念ね、また面倒なことになりそうじゃないかしら?〉
(そうですね。けれど目立ちます。かっこいいところも見せられるし、むしろそういうのは望むところです)
あの、どうして三人が二日前に姿を消したのかも分かりましたか? とユウフウは付け加えた。
〈ええ、それも分かったわ。もっとも誰かの仕業ということしか分からないけど〉
(そうですか――)
それは誰なのか? ユウフウは気になった。
〈少なくとも私の知り合いではないわね。この世界を支配する七人のうちの誰かでもない〉
(そうですか)
〈さて、私は帰るわ。ジンギスカン、楽しみにしているわね〉
(はい)
〈さいなら〉
それから、ユウフウは光の噴水をしばし見ていた。
〈ユウフウ、もういいぞ〉と、ルドシーントロフは言った。
(ありがとう。視界を元に戻してくれ)
〈オーケー〉
その瞬間、ユウフウはアツヤの名前を呼べる。
そしてアツヤも返事ができる。何? と。
「お茶しに行こう。どこにする?」
「そうね――ならあそこにしましょう。ほら、図書館の側の」
「あそこか、良いよ。行こう」
「うん」
図書館は駅前通りの北側に面しており、“ホンスーノナー”からだと徒歩で約二十分。
で、二人のお目当ての店はその図書館の隣にあった。
「ユウフウ」
と、二人がその小さなお店――屋根の青いピンクの建物――に入ろうとした時、ユウフウは背後から呼ばれた。
(この声は――)
そう、見ると、やはりキンダイだった。
「やぁ、ユウフウ、おはよう」と、キンダイ――上のボタンを三つ開けて裾出しっぱなしの赤い長袖ワイシャツ、黒いアンダーシャツ、黒いスボン、赤いスニーカー――は言った。
「おはようございます」
「アツヤさんもおはよう」
「おはようございます。どうしたんですか?」
「うん、ちょっとユウフウに用があってね」
「私に? なんですか?」
「うん、ちょっと私を手伝ってくれないかな?」
「良いですよ」
「ありがとう。報酬はちゃんと出すよ」
「いえ、お金はいらないですよ」
「なら他のものにするよ。と言っても君は私からお金をもらわなくても生きて行けるから悩むね――何かほしいものある? お金じゃ買えないもの。それをプレゼントするよ」
「いえ、そういうのもいりません」と、ユウフウは即答した「もうほしいものはありませんから。けれど君の手伝いはします」
「ありがとう」と、キンダイは微笑して言った「あっ、手伝いはすぐにじゃないから。だから手伝ってもらう時は連絡するよ」
「分かりました」
「じゃ二人共、さいなら」
「さようなら」「さようなら」
ユウフウとアツヤが返事をした瞬間、キンダイはぱっと消えた。
〈手伝いってなんだろうな?〉と、ユウフウの頭の中でルドシーントロフは言った〈楽しいことならいいな〉
(そうだね)
(けれど今は――)
「アツヤ、行こう」
「うん」
〈了〉




