6話
その頃、ユウフウ達は美深のある食堂にいた。店内――テーブル席が十席あって小上がりがないタイプ――に客は他に誰もいない。人気がない店なのだろうか?
そんなことはない! 出されたチャーシューメン、カツ丼、カツカレー、どれも絶品!
だからあっという間に平らげて店を出た。
「ユウフウ、今何時?」と、店の前――美深町の表通りの国道に三人は立っている――でアツヤは言った。
ユウフウは携帯電話を取り出して「――ちょうど五時」
「ありがとう。なら道の駅の売店は余裕で開いているわね。さぁ、イチゴのジェラートを食べに行きましょう」
「うん」
(ルドシーントロフ)
〈ほいほい、道の駅ね〉
と、ユウフウの頭の中で相手は答え、例によって三人を瞬間移動させた。
そして、道の駅で売られているジェラートもまた絶品!! コーンまでな。だから三人共すぐに食べちゃった。
「おいしかったわぁ」と、道の駅――横長、打ちっぱなしコンクリート――の前でアツヤは微笑んで言った。
「私もおいしかったです」と、アカリも笑って言う。
「二人共、このあとどうする?」とユウフウが聞く。
「そうね――私はお風呂に入りたいわ」と、アツヤは答えた。
「私も入りたいです」と、アカリ。
と、ユウフウは気づいて「アカリさん、その前に君の替えの服を買いましょう」
「いいんですか?」
「もちろんですよ」
「ありがとうございます」
「どういたしまして」
「――ユウフウ、私にもプレゼントしてよ?」と、アツヤは不満そうな顔で言った「いいわよね?」
「もちろん」
「やった! なら早く行きましょう」
“ホンスーノナー”に、とアツヤは付け加えた。
「分かった。アカリさんもそこでいいですか?」
「はい」
(ルドシーントロフ)
〈オーケー〉
と、ルドシーントロフはまた同じやり方で三人を“ホンスーノナー”の屋上駐車場――真ん中辺り――に移動させた。
「アカリさん、財布を渡しますから買ってきてください。下着とかもありますから」と、ユウフウは言った。
「はい、分かりました。ありがとうございます」と、アカリは財布――白い折りたたみタイプ――を受け取る「では行ってきます」
「ゆっくり選んでください」
「ありがとうございます」
と、アカリは塔屋に行った。
「ユウフウ」と、アツヤは呼ぶ「私の服は君が選んでよね? プレゼントなんだから。分かってるでしょ?」
「うん」
「よろしい。ちゃんと選んでよね? じっくりと」
「じっくりと? お風呂早く入りたいんじゃないの?」
「大丈夫よ。だってお風呂より大切なことだから」と、アツヤは微笑んで答えた「ていうか、アカリさんにはゆっくり選んでって言ったのに、私のプレゼントはじっくり選ばないなんておかしいわよ」
「ふっ、分かってるって。そりゃ普通言うだろ? ゆっくり選んでって。急いで選んでって言うヤツなんかいないよ。君だって同じ立場なら同じことを言うだろ?」
「もちろんね――そうだわ、私も君に服プレゼントしてあげるわ」と、アツヤは嬉しそうに言った。
「ありがとう」
「期待しててね」
「私にもね」
と、右から声がした。ユウフウ達はそちらを見る。
「お久しぶりですね、ユウフウ君」と、相手は微笑して言った。
「アツヤ、私の後ろに隠れて。大丈夫だから」と、ユウフウは現れた相手を見たまま促す。
「ええっー? ――まぁ、いいわよ」
アツヤの気配を後ろに感じるとユウフウは「――何の用ですか?」と眉を顰めて相手に聞いた。
「君のその表情、言わなくても分かるんじゃありませんか?」と、相手――ユウフウの学校の担任ハルトは微笑して聞いた。
「――ふっ、なら君も分かるんじゃないのか? 私の返事」
「――そうですね。しかしそれなら私にも考えがあります。これからそれを話してあげましょう。いいですね?」
ユウフウは相手を睨む。
(ルドシーントロフ)
〈へいへい〉
その瞬間、ユウフウの視界は緑色になった。
「いけませんね、ユウフウ君、世界をこんなふうにしては」
(何!?)
〈ほう、話せるのか。驚きだな〉
(話せる? どういうことだ――?)
「驚きですよね? ユウフウ君」と、ハルトは楽しげに笑って言った「そうです、私はこの緑色の世界で動くことができます。どうしてか分かりますか?」
「――魔力を貸されているのか?」
「いいえ、授けてもらったんです」
「誰に? なんの目的で?」と、ユウフウは思わず聞いた。
「さぁ? 誰かは分かりません。名乗らなかったので。けれどその目的は教えてくれました」と、ハルトはユウフウを指差す「君への嫌がらせです」
〈なるほど、嫌がらせか。だが誰がそんなことを?〉
「――君も私に嫌がらせしたいから協力したのか?」
「いいえ、それは違います。私は私の望みを叶えるためにここへ来ました。嫌がらせはついでですよ。もっとも嫌がらせのほうが先に達成されるでしょうけど」
「――そうですね、もう達成されましたよ」
「いいえ、まだですよ? 私の望みの準備が整ってないですから。なんのことか分かりますか?」
「さぁ?」
「なら、教えてあげましょう」
と、ハルトは左手を前に出す。
と、その手が青く光る。
その瞬間光が消えると同時にその手は、オートマチックの黒いピストルを握っている。
「このピストルに撃たれたら君は私の思うがまま。分かりましたか?」と、ハルトは言った。
ユウフウは顔を顰める。「――今は冷戦ですよ?」
「ふっ、冷戦? 何を言っているんですか? 今はあの時代ではない」
と、ハルトはピストルを撃つ。
その瞬間ユウフウの目は緑色に光り、そしてその眼前に、透き通った明るい緑色の薄い壁が横たわった。その直後、弾丸はその壁に当たるやいなや消えた。
「バリア?」と、ハルトは怪訝な表情で言った。
〈正解だよ〉
「けれどそんなもの!」
と、ハルトは引き金を二回引く。と、発射された銃弾は二発共壁に当たり、そしてやはり消えた。
〈ふっ、無駄だよ。そんなものではな〉
「くそっ!」
と、ハルトは連射する。
十二発目も無駄に終わった。
〈やはり普通の銃ではないな。だが同じことだ。魔力の有無なんか関係ない。それよりユウフウ、こいつをどうする気だ?〉
「――先生」と、ユウフウは呼ぶ。
「……なんですか?」と、銃口を向けたままハルトは悔しそうに答えた。
「もうやめてください。そして大人しく帰ってください」
「いいえそうはいきません。私は望みを叶えるためにここへ来ました」
「――分かりませんね。君で叶えればいいじゃないですか?」
「それは無理です。そう教えられました」
「――引く気はないんですか?」
「ありません。私は絶対に望みを叶えます。どんなことをしても」
「それはよくないな」
「誰!?」言いながらハルトは身体ごと銃口を右に向ける「――君は誰ですか?」
「私はタイキ、君の倒すために来た」
(何?)
「私を倒す……? どうして?」
「『どうして』? 君が子供にピストルを連射するような人間だからさ」と、タイキは真剣な顔で答えた「君は悪い人間だ。だから倒すんだよ」
「――君は何者なんですか?」
「私は正義を行う者だ」
「正義――? ふっ、なら君は私の味方です」と、ハルトはピストルを下ろしながら言った。
「何?」
「そうです、君は私の味方。そしてユウフウ君は私達の敵です」
(何?)
〈ほう、ユウフウはこいつらの敵か。なぜだろうな? ぜひ聞きたいね〉
「敵? つまりユウフウは悪い人間だと言いたいのか?」
「そうです。ユウフウ君は悪い人間です」
「――その理由は?」
「ユウフウ君は私の願いを叶えてくれないんです」
「願い?」
「私は子供が産みたいんです」
タイキは唖然とする。「……子供?」
「そうです」
「――けれど君は……」
「そうです。けれどユウフウ君ならできるんです。だから私は頼んでいるんです。けれどユウフウ君は私の願いを拒否します。だからユウフウ君は悪い人間なんです」
〈ほう、なるほど。けれど正義の味方は納得するかね?〉
「……ユウフウは悪い人間じゃないな」
〈おっ、やっぱりそうなったか〉
「何ですって?」
「むしろやはり悪い人間は君だ。嫌がっている相手に無理をさせようとしているんだからね」
「ふっ、違いますね。ユウフウ君は悪い人間です。そして私は君の味方、つまり正義の側の人間です」
〈まだ言うか〉
ハルトは続けて「タイキ君でしたっけ? それを早く気づいてください。――まだ分からないのなら言いますが、私の願いを聞いた君は、今日本にいるんですよ?」
「日本……?」
「そうです。日本は――」
(視界が!?)
突然視界が元に戻った――それはハルトの言葉を途絶えさせた。そう、ハルト――ピストルが手から消えた――も、そしてタイキも戸惑っている。
(ルドシーントロフ、どういうことだ? どうして元に戻した?)
〈それが私にも分からないんだよ〉と、ルドシーントロフは困惑して言った。
(何?)
「ユウフウさん」
左からの声にユウフウははっとして見ると「お待たせしました」と、彼女――右手に財布、左手に大きな白い紙袋を提げた――は言った「おかげさまで素敵なものが買えました。ありがとうございました」と、財布をユウフウに渡した。
「ユウフウ」と、アツヤが呼ぶ「逃げたほうがいいんじゃないかしら? 先生はあいつが引き受けてくれるわよ」と、タイキを見る「そうよね?」
「ああ、そうだよ」
「ほらね。行きましょう」
「そうはさせませんよ!」と、ハルトが声を上げる「ユウフウ君には私の願いを叶えてもらうんですから」
「ユウフウ、先生のことなんて気にしないで行きましょうよ」
「なんですって? アツヤさん、会わないうちにずいぶん不良になりましたね。ユウフウ君を独り占めするなんて」
「独り占め?」
「そうですよ、そんなことは許しません。ユウフウ君はとても素敵な人間です。そう――ユウフウ君は私のものです!」と、ハルトはユウフウへ駆け出す「ユウフウ君ー!」
(来る! ルドシーントロフ頼めるか!?)
と、その瞬間、ユウフウの前にタイキの背中が現れた。
その直後ハルトは立ち止まる「退きなさい!」
「いいや退かない。ユウフウ、君は私が守る」と、ハルトを見たままタイキは言う。
「どうして君が……?」
「さっきの借りを返すためさ」
「借り?」
「ヒカルってヤツから助けてくれただろう? その借りさ」
「ユウフウ、早く行きましょう」と、アツヤが言う。
「そのほうがいい。さぁ行って」
「――ありがとう、タイキさん」
(ルドシーントロフ、いけるか?)
〈ああ、おそらくな〉
その瞬間、ユウフウは緑色の世界を見てほっとした。
「逃げる気? ユウフウ君待って! 私の話を聞いて! ユウフウ君! ユウフウ君!」
と、ユウフウ、アツヤ、アカリを同時に足元で囲む一つの魔法陣が現れ、光を吹き出した。
そして光を浴びた三人は次の瞬間、ユウフウの自宅のリビングにいた。
「そんな……」
ユウフウ達が消えた直後、ハルトは落胆した。
「ハルトさん、君を倒します」と、タイキは言った「抵抗しないでください」
「――抵抗しないで? ふっ、そんなことできるか!」
と、ハルトはタイキに左手を向ける。と、その手が青く光る。
次の瞬間、光が消えたと同時にその手はピストルを握る。
「邪魔をするなら撃ちます」と、ハルトは銃口を向けて言う。
「やめろ。私にそんなものは効かない」
「どうでしょうか? なら試してみます」
と、ハルトは撃つ。
弾丸はタイキの胸に当たった。その瞬間に弾丸は消えた。だからかタイキは微動だにしなかった。
と、ハルトは微笑して「命中しましたね。さて、このピストルに撃たれたら私の思うがままになります。そうですね?」
「はい」
「ふふっ、何が正義ですか、たわいもない」と、ハルトはピストルを下げる。
(――さて、これからユウフウ君のところへ行きましょう。この少年も利用して、今度こそ私の願いを叶えさせましょう)
と、ハルトは思った。
「ねぇ、ピストルを持ったそこの君」
と、ハルトの背後で声がした。
ハルトは振り返る「――君はユウフウと一緒にいた人ですね?」
そう、ユウフウと一緒にいた女性――アカリだ。
ハルトは「私に何か用ですか?」
(どうしてこの人がここにいるんだろう? ユウフウ君達と一緒に瞬間移動したんじゃ……?)
「君、これからどうするの?」と、アカリは聞いた「ユウフウを追うの?」
「もちろんです。ユウフウ君には私の願いを叶えてもらわなければなりませんから」
「それはできないわよ」
「できない? どうしてですか?」
アカリは微笑する。「それは――」
午後七時、ユウフウの自宅。
「上がりました」と、アカリ――白い長袖パジャマ姿――はリビングに来て言った「すみません、長湯してしまいました」
「全然気にしないでいいですよ」と、座ってテレビを観ていたユウフウは言った「アツヤ、次は君が入っていいよ」と、隣で一緒にテレビを観ていた相手に言った。
「オッケー」と、アツヤは立ち上がる「あっ、私も長湯だけどいいかしら?」
「もちろん。ゆっくりどうぞ」
「ありがとう」
と、アツヤは脱衣所へ行った。
「ユウフウさん、隣いいですか?」
「どうぞ」
アカリはそうする。「今どんな番組を観ていたんですか?」
「ニュースです」
「――ユウフウさん、テレビ消してもらってもいいですか?」
「はい」と、ユウフウはリモコンで消す。
「ありがとうございます。ユウフウさん――いや、ユウフウ。ちょっと私の話を聞いてもらえるかしら?」
「――君は何者だ?」
「そんな警戒しないでほしいわ。私は君の敵じゃない。むしろ私は今日君の命を助けたのよ?」
「君は私の命の恩人ですか?」
「そうよ」
「ああ、こんばんわ」
「こんばんわ。私の話を聞いてくれるかしら?」
「もちろんです。どうぞ」
「ありがとう。――さっき君はデパートの屋上でトラブルに遭遇していたわね?」
「はい」
(どうして知っているんだろう?)
そう思うユウフウに「そのトラブルの相手、君は知っているのよね?」
「はい、知っています。私の学校の担任です」
「その担任、好きか嫌いかで言えば?」
「嫌いです」と、ユウフウは即答した。
「ならよかったわ。その担任、私が片付けたから」
「片付けた?」
「そうよ」
「殺したんですか?」
「まさか。今は冷戦でしょ? そんなことはしないわ。コントロールしたのよ」
「そうですか」
「けれどそれでちょっと困ったことになったの」
(困ったこと?)
「なんですか?」
「君の担任をコントロールした時、このアカリの身体を使ったの。そうしたらなんかちょっと不具合が出たの」
「不具合?」
「そう。別に大したことじゃないわ。けれどちょっとメンテナンスがしたいのよ。それで君にはアカリを私のところへ連れて来てほしいのよ」
「分かりました」と、ユウフウは快諾した。
「ありがとう」
「どこへ連れて行けばいいんですか?」
「中川町って知っているかしら?」
「智恵文市からずっと北にある町のことですか?」
「そう、その田舎町のことよ。行ったことは?」
「少しは」
「素敵ね。じゃ容易いお願いかしら?」
「はい――あの、今から行きましょうか?」
「今日はいいわ、もう夜遅いからね。それに他にも頼みたいことがあるの」
「はい、なんですか?」
「君は下川町も知っているかしら?」
「智恵文市の隣町のことなら」
「うん、その下川町よ。アカリを連れて行く時、一緒に下川のうどんも持って来てほしいのよ。買ってきてくれるかしら?」
「はい、分かりました」
「ありがとう。急に食べたくなったのよ。じゃその二つのことをお願いするわ」
「分かりました。じゃ明日行きます」
「そうね、ありがとう。届けてくれたらお礼をするわ。頑張ってね」
「はい。――あの」
「何かしら?」
「さっきのトラブル、君はどこかで見ていたんですか?」
「うん、見ていたわ。このアカリを使ってね」と、“アカリ”は答えた「それだけじゃないわ。君にアカリのことを頼んでから私はアカリの目を通して君達を見ていたの」
「そうだったんですか」
〈ほう、やるな。まったく気づかなかった〉と、ユウフウの頭の中でルドシーントロフは感心した〈さすがはこの世界を支配する七人のうちの一人様だ〉
「そうよ。アカリ、なんかやたらとテレビに関心があったでしょ? それは私がテレビを観たくてそうなったからよ」
〈ああ、なるほど、そういうことだったのか〉
「ごめんなさいね、テレビ買わせて」
「いえ、全然問題ないです。――そんなにテレビが観たかったんですか?」と、ユウフウは意外に思いながら聞いた。この世界を支配する七人の一人がテレビを観たがるなんてとなんとなく思うからだ。
「まぁそうね。もっとも今日特に観たい番組があったわけじゃないんだけどね。気まぐれよ」
「そうですか」
「他に質問はないかしら?」
「――トラブルの現場に他に人はいませんでしたか?」
「いたわ。タイキという名前の少年よ」
「彼はどうしましたか?」
「彼も私がコントロールしているわ」
「えっ?」
「君の担任がコントロールしたのを私が奪い取ったのよ」
〈よかったな、ユウフウ。これで君への脅威が減ったぞ? 命の恩人がコントロールしているんだからな〉
「――あの」
「何?」
「タイキさんのコントロールを解除してもらえませんか?」
「あらどうして?」
〈そうだよ、どういうつもりだよ?〉
「――可哀想だからです。彼は私を助けようとしてくれたんです」
「なるほど。良いわよ。手に入れたはいいけど特に使い道なかったからね」
「ありがとうございます」
〈もったいないなぁ……まぁ、また敵対するならいっか〉
と、インターホンが鳴った。
「じゃ私はこれで失礼するわ」
「はい、ありがとうございました」
「――あっ、すみません、ユウフウさん。ちょっとぼんやりしてました」と、アカリは恥ずかしそうに言った。
「気にしないでください。インターホンが鳴ったのでちょっと出てきます」
「はい」
ユウフウは玄関のドアを開ける。
〈おっ、こいつは――〉
「よう、ユウフウ」と、ケンジロウは不機嫌そうな顔で言った「ちょっと付き合ってくれないか?」
「――なんの用?」
「いいから来いよ。ビビってるのか?」
「まさか。良いよ、行こう」
「よし、付いて来い」
十数分後、二人は智恵文市東小学校の体育館コート――照明が点いた――の真ん中に向かい合っている。
「ユウフウ、私は君を倒す」と、二人だけの体育館でケンジロウは真剣な顔で言った。
「倒すって?」
「殺すのさ」
〈おっ! 殺すってか、いいねぇ〉
「なしてさ?」と、ユウフウは平気な顔で聞いた。
「なしてだと? 君は私達にしたことをもう忘れたのか?」
「――で? それでなして私を殺すまでいくのさ?」
「分からないのか? いきなり京都という知らない土地に飛ばされた恐怖、そこでどうすればいいのか分からない不安――全部君のせいだ。君のようなゴミ野郎のせいでな!」
「ゴミ野郎? ふっ、それは君達のことだろ? クラスメイトからお金を盗ろうとしたんだからさ。それも一人に対して六人で。まったく情けない奴らだね。ゴミ野郎は君達さ」
「ほざくな! 元はといえばキミが悪目立ちしているのがいけないじゃないか。学校はサボる、クラスメイトに悪さする、なのにお金は持っている――そう、君がいけ好かない不良なのがいけないんだ」
「ちょっと待てよ、クラスメイトに悪さするってなんだよ?」
「アツヤさんのことだ。アツヤさんは優等生だった。なのに君のせいで不良になってしまった。自覚はないのか? あのアツヤさんを君は……」
「――ふっ、さぁね」
「……不愉快だなぁ、その態度も。ますます殺したくなったよ」
「――殺すってここで殺すつもりか?」
「そうだよ、ここで殺す。中学生、小学校の体育館に不法侵入してナイフで自殺。君の死因はこれだ。君は不良だ、何をしたって不思議じゃないさ」
「自殺? ずいぶん難しいことをしようとしているな。自殺に見せかけるなんて」
「そうでもないよ? 私には自信がある」と、ケンジロウは笑って言う。
〈ほう、興味深いな。ユウフウ、試されてみるか?〉
ユウフウはふっと笑い「自信ってどういうことだ?」
「試してみるといい。さぁ、また私に魔法をかけてみろ」
「――魔法だと?」
「ああ、そうだ。私は知っている。君は魔法が使えることを。私達が京都に飛ばされたのは魔法でだ。さぁ、私に魔法をかけろ」
〈どうする? 自信、やれば分かるってさ。やってみるか? ユウフウ〉
「――やめておくよ」と、ユウフウは言った。
〈何?〉
「やらないだと?」
「ああ、やらない。何か罠がありそうだからね。大したことはないだろうけどね」
「ふっ、大したことないならやってみればいいじゃないか? ビビってるのか?」
「まさか。君の言う通りにはしたくないんだよ。ゴミ野郎の君が言った通りになんかね」
「ゴミ野郎は君だ! このボケナスが!」
(ルドシーントロフ、私を別の場所へ移動させてくれ)
〈はぁ? 移動?〉
(そうだよ。これ以上付き合いたくないんだよ、このバカとはね)
〈おいおい、それじゃこのバカから逃げたことになるだろ。いいのかよ? それで〉
(いいさ、こんなヤツに何言われたって気にしないよ)
〈――けれどさ、逃げるにしても魔法を使うことになるぞ? いいのかよ? バカの思う壺なんじゃないのか?〉
(大丈夫だろう。こいつにかける魔法じゃないんだから)
〈何?〉
(どうやらこいつは私の魔法を喰らいたいらしい。それで成功するんだろうさ、私を自殺に見せかけることが)
〈なるほど。分かった〉
(――でもちょっと待ってて)
〈うん?〉
「ちょっと聞きたいことがある」と、ユウフウは言った「もし今回の作戦が失敗した時、君は私を殺すことを諦めないのか?」
「もちろんだ」
「――次以降、人質を使ったりするのか?」
「人質? バカにするな、人質なんか使うわけないだろ」
「――そうか、少し見直したよ――ケンジロウ、だっけ?」
「……はぁ……?」
(ルドシーントロフ、頼む)
〈オーケー〉
「さいなら」
と、ユウフウの視界が緑色になる。
と、彼の足元に魔法陣が現れる。
(――何もしてこないな)
と、ユウフウはケンジロウを見て思う。
(魔法が使えないのか――?)
(――いや、この世界が分からないからか?)
(なんにせよいいね)
〈ユウフウ、どこへ移動する? 自宅か?〉
(いいえ、自宅だとすぐに予想される。どこか他の場所でしばらく時間を潰すべきだ。ゴミ野郎が諦めて家に帰るまでな)
〈けれどいいのか? それだと君がいない間にこいつが自宅に行くことになるぞ?〉
(大丈夫だろう。アツヤ達に悪さはしないはずだ。人質は取らないようだし)
〈信用していいのか? ゴミ野郎を〉
(――そうだな、玄関に頼む)
〈了解〉
と、ユウフウはルドシーントロフによって自宅の玄関に到着した。
と、インターホンが鳴った。
(何!?)
(まさかあのゴミ野郎か?)
〈ほう、それなら中々やるな。さっき私達を黙って見送ったのは何かの作戦だったのか? どうする? ユウフウ〉
(――確かめるしかないよ)
と、ユウフウは玄関ドアをゆっくりと開ける。
(あれ?)
「やぁ、こんばんわ、ユウフウ」と、訪問者は笑顔で言った。
ユウフウは不思議そうな顔をした。
「どうしたんですか? キンダイさん。こんな時間に」




