5話
〈どうするつもりだ? ユウフウ。この招かれざる客をさ〉
と、ユウフウの頭の中でルドシーントロフは聞いた。
(招かれざる客?)
と、ユウフウは頭の中で返事をする。
〈そうだろ? こいつは君を狙っている。君がいい人間なのか悪い人間なのか知りたがっている――だが今のこいつの面を見てみろよ? これはもう君がどちらなのか決めつけている感じじゃないか?〉
(――まだそうじゃない気がする。そうならこの状況の説明を求めたりはしないんじゃないのか?)
〈確証がほしいんだろ、君の口からさ。この状況は君の仕業だとこいつは思っている。この世界は止まっている。それなのに君は動いている。狙っている君が。だから聞いているんだろう〉
「――どうして私に聞くんですか?」
と、ユウフウは、タイキ――招かれざる客? ――に聞いた。
「強い魔力を感じたんだ」と、タイキは答えた「その魔力の元へ移動したら君がいたんだ――この世界は君の仕業なんじゃないのか?」
〈ほらな?〉
〈さて、どうするんだ? ユウフウ〉
「――ガッカリしました」
「ガッカリ?」
〈ガッカリ? 何がだよ?〉
「うん。君は私のことを知りたい。けれど君は私が自分から話すまで待つと言った。それなのに君は今そうじゃない。君は約束を破った。ガッカリです」
「えっ!? この状況は別だろう? 時間が止まっていて魔力を使わなければ身動きができないこの状況は普通じゃない。聞かなければならないだろう?」
〈まぁ、そりゃそうだな〉
「――とにかく私はガッカリしました。ますます君に私のことを話すのは嫌になりました」
「そんな!」
(――ルドシーントロフ)
〈なんだ?〉
(アツヤから誰かは離れたのか?)
〈――離れたな〉
(なら視界を元に戻してくれ)
〈今? なして? ――まぁいいけど〉
「戻った!?」と、タイキは驚く。
世界が元に戻った――それはもちろん自分も分かっているユウフウは「アツヤ、行こう」
「うん、オッケー」
二人は立ち去った。タイキはユウフウを呼び止めなかった。ユウフウのその言葉がそうさせた。
『君は約束を破った。ガッカリです』
その言葉にタイキは傷ついた。
しかし、納得はできない。
あの状況――人間以外緑色になった世界のことをユウフウに聞いてもいいじゃないかとやはり思うからだ。
(やっぱりどうしても聞くべきだった)
二人が立ち去った直後、タイキはそう思う。
(だけど――)
(――彼は否定しなかった……)
ふいにそう思う。
(やはりあの世界はユウフウの仕業か――?)
(ならどうして彼はあの世界を作ったんだ? あの世界で何をしようとしている――?)
(あの光――)
と、ユウフウの後ろで上がっていた光を思い出す。
(あの噴水のような光――あれは魔法陣から出ていた。魔法陣――やはり彼はあの世界で何かをしようとしていた。それはなんだ? 答えられないことだろうか?)
(答えられないことだ。悪いことじゃないなら話してくれるだろうから)
(いや、プライバシーか……)
と、タイキは苦い気持ちになる。プライバシー――それで話したくなかった。それなら理解できる、当たり前の理由だ。もしそうならそうと知らずに聞いてしまった。悪いことをした。約束を破ってしまった。
(アツヤ)
だからその気持ちになっているタイキは、ふとその姿を思い出す。
(ユウフウと一緒に立ち去ったあの子がそうか――確かに美しいかもしれない)
(――二人は一緒にいる)
と、タイキは携帯電話を取り出して時刻を確認する。
(平日のこの時間に一緒にいる――ユウフウがアツヤを悪にした話は本当っぽいな――)
(――あの世界のことを話さなかったし――)
(――報告するか)
その頃、ユウフウとアツヤは“ホンスーノナー”から国道に出た。
「どっちから行く?」と、アツヤがユウフウに言った「南から? それとも市立病院のほうかしら?」
「――南から行こう」と、ユウフウは答えた。病院には近づかないほうがいいと思ったからだ。
「分かったわ、行きましょう」
「うん」
と、二人は国道を南へ歩き始める。
「いいテーブルあるといいわね」
「そうだね」
「――ねぇユウフウ」と、アツヤは立ち止まる「さっきの男は何者なの?」
「さっき出かける時にインターホンが鳴っただろ? 彼とはその時に会ったんだ。で、彼は私のことが知りたいらしい。私がいい人間か悪い人間なのかを」
「なして?」
「悪い人間だったら倒す気らしい」
「えっ!?」
「まぁ、問題ないけどね。どちらにされようと――君はどちらだと思う?」
「ふふふ、バカ」
「そっか」
「――けれどあの男に何か手は打たないの? 鬱陶しいんじゃないの?」
「放っておくよ」と、ユウフウは答えた「詮索とかしてこないと思うし」
「さっきされたじゃない? だからガッカリしたんでしょ?」
「――そうだったね。まぁ、さっきのは仕方ない気もするよ。突然世界が一変したんだから」
次はないんじゃないかな? とユウフウは付け加えた。
「信用できるの? 会ったばかりなんでしょ?」
「そうだね。けれど一応は信用できるよ。彼は――悪くないヤツだから」
「……はぁ?」
「アツヤ、違うって。もしそうならとっくに私は自分のことを話しているだろう?」
「……まぁ、そうね」
(ルドシーントロフ)
と、ユウフウは頭の中で呼ぶ。
〈何?〉
(一瞬アツヤが不機嫌になった。君のせいだぞ?)
〈はぁ!? なしてだよ? ユウフウ〉
「アツヤ、そういえばテレビの台も見なくちゃね」
〈ちょっと、無視するなよ!〉
「あっ、そうね。テーブルばかり気にして台のことはすっかり忘れてたわ。“ホンスーノナー”に戻る?」
「戻らなくていいよ。“ナドレ”で買おう。台だから別に拘らなくてもいいよね?」
「そうね」
それから約二十分後、二人は、智恵文中学校の右斜め向かいにある百貨店“ナドレ”――青い二階建て、屋上駐車場あり――に到着した。その店の前の駐車場に車はない。そう、“ナドレ”も“ホンスーノナー”と同じくいつも空いてる。智恵文市の人々はどこで買い物をしているのだろう?
二人は“ナドレ”に入る。
そして三十分後、二人は店を出る。
「買えてよかったわね」と、アツヤは笑顔で言う。アツヤが希望した白くて椅子付きのテーブル――四人用――、そしてテレビの台、どちらも買うことができた。
「うん。けれど配達は明日だから今日は使えないね」
「そうね、残念。――“ホンスーノナー”で買えてたらどうだったかしらね?」
「“ホンスーノナー”でも――いや、“ホンスーノナー”なら今日中に届いていたんじゃないかな? 老舗だから」
「そうよね。やっぱり私は“ホンスーノナー”が好きだわ。“ナドレ”もいいんだけどね」
作者は“ナドレ”が好きだな。
「うん、そうだね。だから今日の夜は外食だよ。素敵なんでしょ? 外食」
「もちろんよ。どこで食べようかしら?」
「そうだな――アカリさんとも決めよう?」
「アカリさん? 彼女はこの町のこと知らないんじゃないの?」
「そうだと思うけど、ほら、三人それぞれ食べたいもので店を考える必要があるだろ?」
「なるほど。食べたいものか――」
「今決めなくていいよ。まずは帰ろう」
「うん。――あっ、三時のおやつ買わない? チョコレートケーキが食べたいわ!」
「良いね」
けれどアカリさんもチョコレートケーキでいいのかな? とユウフウは付け加えた。
「良いに決まっているわよ。ショートケーキが食べられるならチョコレートケーキだって平気よ」
「ふっ、そうかな?」
「そうよ。よしっ、“ワックス”と“けしぇん堂”に行きましょう」
「うん」
「ユウフウ!」
と、彼は右から話しかけられた。
(この声は――)
やはりタイキがいた。
「……なぜまた来たんですか?」
と、ユウフウはガッカリしそうになりながら聞いた。
「君を倒すためだ」
「えっ?」
〈ほう! 倒す? 中々じゃないか〉
「はぁ!? ちょっと君いきなり何言ってるのよ? ふざけるんじゃないわよ!」と、アツヤはユウフウの左隣に行きながら怒鳴った。
〈けれど急になして?〉
そう、急にどうして?
それはユウフウも知りたいから「なぜ私を倒すんですか?」
「教えてもらったからだ」
「教えてもらった? 誰に?」
「それは教えることはできない。守秘義務ってヤツさ。私は君のことを報告した。そうして教えてもらった。君は悪い人間だということを。だから私は君を倒す」
〈ふっ、自分で決めずに他人任せかよ。しょうもないヤツだ〉
「そんなことはさせないわ!」
「君はアツヤさんだね? 私は君に用はない。私の邪魔をしないでくれ」
「いいえ邪魔するわよ。ユウフウを君の好きにさせてなるものですか!」
「アツヤ」と、ユウフウは呼ぶ「君は手を出すな」
「はぁ? どうしてよ?」
「私がけりをつける。君は下がっていてくれ」
「いいや、君も下がっていてよ」
と、左から声が聞こえた。ユウフウは、その声にも聞き覚えがあった。
見る――殺人鬼がいる。
ヒカルだ。
「やぁユウフウ、こんにちは」と、ヒカルは気さくに挨拶する。
〈ほう、殺人鬼のおでましか〉
「――どうして来たんだ? 確か今日は来ないはずだ」と、ユウフウは怪訝な表情で聞いた。
「そうだね。まさか私も今日また君に会うとは思っていなかったよ。私の目的は君じゃないからね」
「目的?」
「そう」と、ヒカルはタイキを指差す「私の目的はこいつだよ」
(タイキ? どうして――?)
「私? どうしてだ?」と、タイキは不審げな表情で聞く「そもそも君は誰だ?」
「おっと失礼、私はヒカル。私は君を殺しに来た」
「何?」
「スポンサーの一人がそれを望んでいるんだよ。だから私は君を探してわざわざ智恵文市まで来たんだよ」
「スポンサー?」
(まさか――)
(――いや――)
「そう、詳しくは言えないけどね」
「――いいだろう、ユウフウの前に君を倒す」
「ユウフウの前? 前なんかないよ? 君は私に殺されるんだからね」
「私は君を殺しはしない」
「何? どうして?」
「私はそのスポンサーの正体を――いや、他のヤツのことも君に教えてもらわなければならないからな」
「ふっ、それも叶わないなぁ」
「どうかな?」
「ユウフウ」と、アツヤが呼ぶ「私達は逃げたほうがいいんじゃない?」
「そうだな」
〈えっー? なんだよ、見物しないのかよ?〉
「うん、そのほうがいいよ」と、ヒカルも答えた「二人共ショッキングな光景には耐性ないんじゃないのかな? 冷戦中だし」
「私も別に構わないよ?」と、タイキも言う「君の順番はまだだからね」
その瞬間、ユウフウの視界が緑色になる。
(何!?)
「これは!?」と、タイキも戸惑う。
(ルドシーントロフ、どういうことだ? なして変えた?)
〈つまらないからだよ〉
(つまらない?)
〈ああ、見物しないでこのまま帰るなんてな〉
(ふざけるな! 早く元に戻せ!)
〈やーだよ。まぁいいじゃないか。この世界になったからって対戦カードは変わらないんだからさ〉
「――どういうことだ? ユウフウ」と、タイキは不審げな表情で言った「なぜまたこの世界にした? 君も参戦するつもりか?」
「違う!」
「ならなぜこの世界にしたんだ? 自分の有利な状況にしたかったんじゃないのか?」
「違う!」
「自分の有利なフィールド?」と、ヒカルはタイキに向かって言った「それはユウフウだけじゃないね」
「――それはどういう意味だ?」
「こういう意味さ」
その瞬間、タイキの両足が青く光る。
〈おっ、始める気だな。さて、どうなるかな?〉
「――何をするつもりだ?」
「冷静だな。もちろん戦うのさ。もっともそれは一方的だけどね」
と、タイキの顔が一瞬で青い光に覆われた。のっぺらぼうみたくなったな。
しかしタイキは反応しない。
(――動けなくなったのか?)
「正解だよ、ユウフウ」と、ヒカルは言った「彼はもう動けない。殺されるのを待つだけの身だ」
〈ほう、もう? やるじゃないか〉
ルドシーントロフに褒められた――もっともユウフウの頭の中での賛辞だから聞こえはしないが――彼は「さて、殺すとするか――」
「待て!」と、ユウフウが言う。
〈ユウフウ?〉
「『待て』? どういうことだ? ユウフウ」
「殺すな」
〈はぁ?〉
「殺すな? どうして?」と、ヒカルは不思議そうな顔で聞いた「こいつは君を倒そうとする相手だぞ? 殺されたほうが君もいいだろう?」
「いや、よくない」
「どうして?」
〈ホントよ、なしてさ?〉
(――ルドシーントロフ、あの殺人鬼を飛ばしてくれ〉
〈マジで助ける気か。けれどなしてよ?〉
(いいから頼む)
〈へいへい、分かりましたよ〉
その瞬間、ヒカルの足元に魔法陣が現れる。
「ずいぶん乱暴じゃないか?」と、ヒカルは苦笑しながら言った「彼を助けてやる理由も教えてくれないなんて」
と、魔法陣から光が吹き出した。
ヒカルはその光に包まれ姿が見えなくなった。
と、タイキから青い光が消えた。
「――私は何を……?」と、タイキは呆然と呟く。
〈おっ、無事のようだな。よかったじゃないか? ユウフウ〉
(――ああ)
と、ユウフウは魔法陣のほうを見る。
(あの殺人鬼はどうなっている?)
〈もうどこかへ行ったさ〉
(もう?)
〈ああ、ちょっとサービスしてやったよ。タイキだっけ? こいつと君の会話を邪魔されたくないからな。こいつを助けた理由、聞かせてもらうからな〉
「ユウフウ」と、タイキは呼んだ「ヒカルとかいうヤツはどうした?」
「どこかへ飛ばしたよ」
「飛ばした? ――もしかして私を助けてくれたのか?」
「まぁ」
「どうして……?」
〈ほらやっぱり聞いてきた。答えてやれ、ユウフウ〉
「――なんとなくですよ」
「なんとなく?」
〈はぁ? なんとなく?〉
「ああ。なんとなく嫌だったんだよ、君が殺されるのは。それだけだよ」
〈それだけかよ〉ルドシーントロフは呆れた。
「――ありがとう、ユウフウ」と、タイキは微笑して言った「君は命の恩人だ。――だが、私はまだ君のことをよく知らない。もし君が悪い人間だと判断したらその時は君を倒す」
ユウフウはふっと笑って「分かった」
(ルドシーントロフ、元に戻してくれ)
〈へいへい――結局あまり面白いものは見られなかったな、ちぇっ〉
と、ユウフウの視界が元に戻る「アツヤ、行こう」
「うん」
その頃、
〈――もしもし〉
「ヒカルです」と、彼は名乗った。彼は札幌大通公園のベンチに座り電話をかけている。
〈ちょっと待たせて悪かったね。どうした?〉
と、若い男の声は聞いた。
「実は君からの頼み失敗しました」
〈失敗? どういうことだ?〉
「邪魔が入りまして」
〈邪魔?〉
「ユウフウという少年です」
〈少年? それでどうして君が失敗するんだ?〉
「相手も魔法を使ったからです」
〈魔法? だからといって君が失敗する原因にはならないと思うが――どうしてその少年は君の邪魔をしたんだ?〉
「ターゲットを助けたいからだそうです」
「その理由は?」
「分かりません」
「そうか――なんにせよ不愉快なヤツだな、その少年。なんとかしなければな。その少年はどこに住んでいるんだ?」
「……智恵文市という道北の田舎町です」と、ヒカルは少し躊躇って答えた。ユウフウは、ヒカルのターゲットだからだ。
「分かった」
「どうするつもりですか?」
「もちろんなんとかするんだよ。ちょうど使えるものがある。放流されていたが中々なんだ。そいつにやらせよう」
(放流? 何を――?)
「――私はどうすればいいですか?」
「引き続きターゲットを狙ってくれ」
「分かりました」
一方、智恵文市の駅前――突然そこに男が一人出現した。
瞬間移動したこの男――読者の諸君は知っている。
ルドシーントロフにコントロールされ、そして次にアカリのものとなったあの殺人鬼だ。
しかし、今は彼女のコントロール下にはない。
もっともコントロールはされている。
だから意のままに操られる存在――それは出現した直後、駅の向こうへすたすたと歩き出した。
時刻は夕方の午後四時に――しかし北海道の夕方はまだまだ青く明るい――なろうとしていた。
ユウフウ、アツヤ、アカリはユウフウの自宅のリビングでのんびりとテレビを観ている。
「あっ、『シャケッコワイド一七九』が始まったわ」
「アツヤ、この番組知っているの?」と、隣のアカリの反対側にいる相手にユウフウは顔を前に出して聞いた。
「もちろんよ、北海道の人気ローカルワイド番組だからね」
「へぇー知らなかった」と、ユウフウはテレビの画面に目を戻す。
〈知らないのかよ〉
と、ユウフウの頭の中でルドシーントロフは呆れて言った。
(君は知っているのか?)
〈もちろんだよ、アツヤが言ったように北海道の人気番組だからな〉
(ふーん――)
「――あっ、最初は美深町の特集ね」と、アツヤはテレビ画面を観ながら言う。美深町とは智恵文市の北にある隣町だ。いい町だよ。
その特集は二十分くらいあった。
「――ユウフウさん、明日美深町に行きませんか?」
と、その特集が終わった直後、アカリ――今までずっとテレビの画面から目を逸らしていなかった――は彼に顔を向けて言った。
「私は良いですよ。アツヤは?」
「うん、私も行きたいわ」
「じゃアカリさん、三人で行きましょう」
「ありがとうございます。今の特集を観て行ってみたくなったんです」
「分かるわ」と、アツヤはユウフウの前に移動した「私も食べてみたくなったものがいくつかあったわ。ユウフウはどうだった?」
「――私もあるな」
「明日が楽しみね」
「うん――明日じゃなく今日行けば?」
「今日?」
「うん、一瞬で行けるからね。美深で夕食にしない?」
「いいわね、私は賛成よ」
「アカリさんは?」
「はい、私も賛成です」
「じゃ行こうか。二人共、準備はいい?」
「私はオッケーよ」「私も大丈夫です」
「分かった」
(ルドシーントロフ)
〈まったく、美深くらい自分達の足で歩けるだろ?〉
(いやそれは無理だよ)
〈無理? 軟弱だなー〉
(頼むよ)
〈へいへい、分かりましたよ〉
と、ユウフウは緑色の世界を見る。
と、三人を囲む緑色の魔法陣――見た目はこれまで出てきたのと変わらない――が現れる。
〈行くぞ?〉
(うん)
と、魔法陣から明るい緑の光が吹き出した――
その頃、ヒカル――依然ベンチに座る――に声をかける相手がいた。
「やぁ、ヒカル」
読者の諸君はこの相手を覚えて――いや、中には忘れている人もいるかもしれない。
なにせこの相手はこの物語の主人公の一人なのに全然登場しないからだ。
そう、殺人鬼に声をかけたのは、キンダイだ。
「どうも」
「隣いいかな?」
「もちろん」
キンダイは座ると「それでどうなった? ユウフウはどんな最期だった?」と、笑顔で聞いた。
「それがまだ殺してないんだよ」と、ヒカルは申し訳なさそうに言う。
「まだ? じっくり楽しみたいのか?」
「うん、けれどそれだけじゃなくなったんだ。他にやることができたし、実は私のスポンサーの一人もユウフウを狙い出してね。それもあってまだ報告はできそうにないんだ、悪いね」
「ふーん――まぁいいさ。問題ないよ。――それより他にやることって?」
「もちろん殺人だよ。私は殺人鬼だからね」
「そうだね。どういう相手を狙っているんだ?」
「正義の味方――かな?」と、ヒカルは苦笑しながら答える。
「正義の味方? なるほど、君にお似合いのターゲットだな」
「どうも」
「――じゃ君はあまり自由じゃないのか?」
「いいえ、そんなことはないよ? 正義の味方は一人だからね、楽勝だよ」
「けれどまだ片付けてないんだろう?」
「うん、邪魔が入ったからね」
「邪魔?」
「ユウフウだよ」
「ユウフウ?」と、キンダイは眉を顰めて言う「彼は正義の味方の仲間なのか?」
「いいえ、違うと思う。むしろ正義の味方のターゲットさ」
「ターゲット? それはいいな。けれどそれなのに助けたのか?」
「そう。不思議だよ。で、私はターゲットの殺害に失敗、君に会いに来たんだよ」
「私に?」
「うん、また回復させてもらえるかな?」
「もちろん」
「ありがとう」
「――先に行っていてくれないか?」
「オーケー」
(さて、どうするかな?)
ヒカルが立ち去った直後、キンダイは考え始める。
(どういう理由でかは分からないけどユウフウは正義の味方を助けた。なぜ――?)
(メリットがあるからか? それとも倒されないために恩を売ったのか――?)
(それとも、正義の味方を仲間にするとか?)
(だが正義の味方はユウフウを狙っているとヒカルは言っていた。恩は売れるだろうが仲間にできるのか――?)
(――もし正義の味方が仲間になったら厄介だな。殺しにくくなる)
(今のうちに何か手を――)
(いや、違う。違うんじゃないのか?)
ふいにキンダイは自分を疑う。
(もっと視点を――)
(ならどうする――?)
(――まずはヒカルを片付けるか)
と、キンダイは腰を上げた。
その頃、智恵文市駅のホームに稚内方面から――北から――普通列車が停車した。降りたのは六人――ユウフウに喧嘩を売って京都に飛ばされたあの中学生達だ。
「ようやく智恵文に着いたな……」
と、ホーム――駅舎の向かいの両面ホーム――に降りた六人のうちの一人、また使おう、仮称“エー”が疲れ切って言った。
「うん……」「長かった……」「疲れた……」「ふぅ……」と、四人の中学生も同様に疲れている。
「――ケンジロウ、君はそうでもないようだな?」と、“エー”は羨ましそうに言った「タフだな」
「ああ、私――いや、私達にはやることがある」
「やること?」
「ユウフウを倒すのさ。今度こそな」
「えっ!? 冗談じゃない!!」
「えっ?」
「もう懲り懲りだよ! あんなヤツとはもう二度と関わり合いになりたくない!」
「そうだよ!」「うん!」「無理無理!」「嫌だ!」
「みんな何泣き言言っているんだ!? このまま逃げる気か?」
「ああ、それでいい!」
「うん!」「私も!」「賛成!」「それがいい!」
「君達――分かった、みんな好きにしろ。私は一人でもやるぞ」
「ああ、そうしてくれ。けれど私達を巻き込まないでくれ。行くぞ、みんな」
「うん!」と、四人の中学生は同時に言った。
そして、ケンジロウは一人になった。
(弱虫共め……私は絶対にあいつを倒してやる……!)
(今日にでも――だが、どうすればいい? どうやればユウフウを倒すことができるんだ? 何か方法はないか――?)
しかし――そんな方法があるのだろう?
ユウフウを倒す。
そんな方法が――?




