4話
〈私はこの世界を支配する七人のうちの一人よ〉
(えっ!?)
〈ユウフウ、君に頼みたいことがあるわ〉
(は、はい、なんですか?)
〈アカリのことを頼むわ。しばらく世話をしてちょうだい〉
(はい、分かりました)
と、ユウフウは即答した。どうして自分が世話をしなければいけないのか? 世話をさせる意味は? どうして相手は自分で世話をしないのか? そんな疑問ユウフウは考えない。
この話し相手は、自分を救ってくれたからだ。
〈ありがとう、ユウフウ〉
(どういたしまして。あっ、もしかして、私に頼るようにアカリさんに話したのは君ですか?)
〈そうよ。それじゃさいなら〉
その瞬間、ユウフウはデイルームに立って――窓のほうを向いて――いた。
そのことを意識した途端「ユウフウ?」と背後から呼ばれた。ユウフウが振り返ると「どうしたの? ぼうっと突っ立って」と、アツヤは続けた。
「なんでもないよ」
「そう? はい飲み物」
「ありがとう」と、ユウフウはスポーツドリンクを受け取る。
「どこに座る?」
「――アツヤ、外に出て飲もう。そういう気分なんだ」
と、ユウフウは早く病院から出たい。あの両親とまた出遭ったら何をされるか分からないからだ。もっとも、彼は自分のためだけに言ったわけではない。むしろ――
「そうなの? 分かったわ」
「ありがとう」
と、二人は病院を出る。
そしてユウフウはアツヤとアカリを自宅――三階建て六世帯のピンク色マンション――へ案内した。そこは智恵文市駅の向こう側、住宅街が広がる東エリアにあり、病院から徒歩二十数分かかった。
「相変わらず何もない部屋ね」
と、二エルディーケーのリビング――最上階の部屋の――でアツヤは言った。フローリングの床の上には確かに何もない――まぁ、さすがにカーテン――備え付けの白いヤツ――はあるけど。
「まぁね」と、ユウフウはアカリを見る「アカリさんの部屋を案内します。全然使ってないから綺麗ですよ」
「ありがとうございます――あの、テレビはないんですか?」
「テレビ? ないですね」
「そうですか……」
〈分かるなぁ〉と、ユウフウの頭の中でルドシーントロフは言った〈私もテレビがなくてショックだよ〉
「何か観たい番組があるんですか?」
「別にありません。けれどちょっと何か観たいんです」
「分かりました、買います」
「えっ? いいんですか?」と、アカリは戸惑う。
「はぁ!? ちょっとユウフウ、そこまでサービスするの?」
「『そこまで』? そんな大したことじゃないだろ?」
「……まぁそうだけどさー」
「アカリさん、これから買ってきます。一緒に行きましょう」
「はい、ありがとうございます」
「アツヤも行こう?」
「当たり前でしょ?」
「うん。どこで買おう?」
「近場でよくないかしら? “ホンスーノナー”は?」
「うん、そこにするか。いいですか? アカリさん」
「はい」
と、三人はさっそく買い物に行く。“ホンスーノナー”の二階には家電コーナーもある。だからもちろんテレビも売って――数種類――いる。さすが地元の人々に愛される名店、頼りになるね。
「ユウフウ、これはどう?」と、アツヤは一台の大きなテレビを指差して言った。
「うん、私はいいと思うよ。アカリさんは?」
「私もいいと思います――この今やってる番組はなんですか?」
アツヤが指差したテレビは、ある番組を映している。
「さぁ? 私も分かりません。アツヤ知ってる?」
「うん、『エクシアスティック』っていう刑事ドラマよ」
「刑事ドラマですか……」と、アカリはそのドラマを見つめながら言う「――面白そうです……」
「ユウフウ、店員呼んで在庫確認したら?」と、アツヤは言った。
「そうだね」
在庫はあった。ユウフウは購入して配達を頼んだ。
「ユウフウ」と、レジの前でアツヤが呼んだ「屋上へ来てもらう」
「――分かった。アカリさん、すみませんが店内でちょっと時間を潰していてください」
「――はい、分かりました。じゃさっきのテレビの前にいます」
「分かりました」
ユウフウと“アツヤ”は屋上へ。やはり車なんてないね。
「君は誰だ?」と、ユウフウは聞いた「目的はなんだ?」
「君の持っている情報だ」と、相手は答える「アメリカの――」
「えっ? 何それ? 知らないよ」
「とぼけるな」
「マジで知らないよ」
〈どうやらこいつは勘違いしているようだな〉
「嘘をつくな。さっさと話さないとこの身体がどうなっても知らないぞ?」
(そうだ――)
と、ユウフウはふいに気づく。
〈どうした? ユウフウ〉
と、ユウフウはそっと短く息を吸って吐いた。
「アツヤ、戻ろう」
「うん」
アカリの元に戻ると「お待たせしました」と、ユウフウは言った。
「いいえ」
(私は彼女も守る――)
と、ユウフウはアカリを見て改めて意識する。
〈なるほど、さっきの気づきはそれか〉
(ああ、私は彼女の世話をするんだ。ならそうなるだろう)
さっき脅された時、ユウフウはそれに気づいた。さっきはアツヤが狙われたが、ユウフウが原因でアカリの身が危なくなるかもしれない。ならユウフウは守る。アカリを。そして――
〈大変か?〉
(いいや)
〈ほう、何か自信があるのか?〉
(あるよ。そうじゃなきゃ駄目だろ?)
〈ふっ、えらく頼もしいことだ。じゃ私はいらないかい?〉
(まさか。次も頼むよ)
〈ふっ、大した自信だよ。――次はどんなヤツが来るかな?〉
(さぁね――)
その頃、混雑する大阪国際空港の出発ロビーで、
「乗り方は分かったね?」
「はい、ありがとうございます!」と、六人の中学生は同時に感謝した。
と、その一人――ユウフウによって京都に飛ばされた――ケンジロウは「タイキさんのおかげで北海道に帰ることができます、本当にありがとうございます」
「どういたしまして」と、タイキ――日本人の男、高校生、肩までの黒髪、黒い目、真面目そうなイケメン、中背で細身、ボタンを全て留めて裾を入れた青い長袖ワイシャツ、白い長袖アンダーシャツ、白いスボン、青いスニーカー――は答えた「それにしても災難だったね、君達。突然北海道から京都にいるなんて。不思議なこともあるものだ」
「はい、めちゃくちゃ驚きましたよ」と、一人が言った。それはユウフウからお金を奪おうと言い出したヤツだ。仮に“エー”としよう「本当に突然のことでした。タイキさんがいなければマジでヤバかったです」
「本当だよ」「うん」「そうそう」「だよな」と、ケンジロウ以外の中学生四人は口々に同意する。
(ホント、マジでヤバかった……)
と、ケンジロウも心の中で同意する。
「そうだよね――北海道から京都に来た原因はやっぱり分からない?」
「はい、分かりません」と、“エー”が答える「私達はまったく理由も分からずに来たんです」
「うん」「そうです」「そうです」「分かりません」
(ユウフウ……)と、ケンジロウはつと不快になる(あいつのせいだ……)
そう、ケンジロウは知っている。いや、彼だけじゃない。六人全員が分かっている。ユウフウの仕業で自分達は北海道から京都に飛ばされたことを。だが、ケンジロウ達はそれをタイキには言わない。どうしてそうなったのか――原因を話したくないからだ。自分達が悪いから。
(あいつのせいで私達は苦しんだんだ……!)
だが、だからといってユウフウに対する怒りは収まらない。
(ユウフウ……今度会ったらただじゃおかないぞ……!)
「そうか。ケンジロウ、君は?」
「いえ、私も分かりません――あの、タイキさん、飛行機のチケット代は――」
「さっきも言っただろう? いらないよ」
「本当にいいんですか?」
「うん、人助けだからね」
「ありがとうございます!」
「ありがとうございます!」と、残りの中学生五人もお礼を言った。
「どういたしまして。次はこんなことないようにね」
「はい」と、ケンジロウ以外の五人は返事をした。
(次か――次にユウフウに関わったらまた同じ目に遭うんだろうか?)
と、ケンジロウは不安になる。
(――ちっ、情けないな……)
(――けれど……)
「そろそろ並んだほうがいいと思うよ」と、タイキは言った「そろそろアナウンスが――ほら」
「はい。タイキさん、本当にありがとうございました」と、ケンジロウは言い、そして他の五人も一斉に「本当にありがとうございました!」
中学生達と別れた直後、タイキに着信が入る。
「もしもし」
〈タイキ、中学生達はどうなった?〉と、若い男の声は聞いた。
「飛行機に乗るところです」
〈そうか。君はこれからどうする?〉
「私ですか? 私も北海道へ行こうと思います」
〈北海道へ? 何をする気だ?〉
「もちろん――」と、タイキは答えた。
〈一人で大丈夫か? 私も行こうか?〉
「いえ、私一人で行きます。君は君の目的を果たしてください」
〈そうか、分かった。――君も飛行機で?〉
「まさか」
と、タイキはぱっと消えた。
午後二時頃。
ユウフウ達はユウフウの自宅のリビングにいた。三人は床に並んで座ってテレビ――窓際のほうの角に置かれた――を観ている。
「あっ」
「どうした? アツヤ」と、アカリの向こうの相手にユウフウは前に傾いて聞く。
アツヤもそうやって「台買うの忘れたなって」
「台?」
「テレビ置く台のことよ。あったほうがよくないかしら?」
「――確かに。食事の時とかちょっと不便だね」
「そうでしょ? ――そういえばテーブルも買わなくちゃね」
「そうだね――今から買ってこようか?」
「そうね、二人で行きましょう」
「二人で?」
「だってほら、アカリさんはテレビに夢中でしょ?」
「そうだね」
そう、彼女は夢中で観ている。
〈よっぽどテレビが好きなんだな〉
と、ユウフウの頭の中でルドシーントロフは言った。
「ユウフウ、行きましょう」と、アツヤは立ち上がりながら言った。
「アカリさん、アカリさん」と、ユウフウは呼ぶ。
「――はい? なんですか?」
「これからちょっと買い物に行ってきます。君は家にいてください」
「はい、分かりました」
と、インターホンが出る。
「私が出る」と、立ち上がりながらユウフウはアツヤに言った「君はここで待ってて」
「うん」
ユウフウは玄関のドアを開ける。
ユウフウより一二歳年上の男がいた。
「どちらさまですか?」
「ユウフウだね? 私はタイキ、君に話があるんだ」
「――話?」
「ちょっと外で話さないか?」
「――分かりました」
と、二人は表通りに出る。
「今日君のクラスメイトに会ったよ」と、タイキは言った「京都でね。けれど彼らは自分達の意思で京都に行っていない。北海道から京都に飛ばされたんだ。君の仕業だね?」
「――私になんの用ですか?」と、ユウフウは警戒しながら聞く。
「君のことが知りたいのさ」と、タイキは答えた「君は悪い人間じゃないようだ。彼らを京都に飛ばした経緯からはね。けれど何か引っかかるんだよね。君は何か隠しているようだ」
〈ユウフウ〉
(なんだ?)
〈もしかしたらこいつは私のことを言っているのかもしれない〉
(君のことを?)
〈ああ、あの時私は魔法を使ったからな。こいつはその時の私の魔力を感じ取ったから君に会いに来たのかもしれないぞ〉
(なるほど)
〈どうする? 素直に話すか?〉
「――私のことを知ってどうするんですか?」
「君のことを知って、いい人間ならすぐ帰るよ。だがもし君が悪い人間なら、私は君を倒さなければならない」
「倒す? どうして?」
「私は正義を行う人間だからだ」
(正義?)
〈ふっ、何が正義だよ。平気な顔で言いやがって。恥ずかしいヤツだぜ。――けれどまぁ面白いかもな、こいつと争うのは。どうする? ユウフウ。とりあえず私のこと話してみるか?〉
「――君は京都に飛ばされた私のクラスメイトに会ってどうしたんですか?」
「彼らを北海道行きの飛行機に乗せた。彼らは今頃空の上だろう」
「――どうして助けたんですか?」
「困っていたからだよ。君としては面白くないだろうけどね。仕方ない、それも正義のためだ」
(――悪い人間じゃないようだな)
〈そうか? なら話すのか?〉
「――話さなかったらどうするんですか?」
「そうだな――君が話してくれるのを待つさ。この智恵文市のどこかでね。安心しろ、催促に君の家を訪ねたりはしないよ」
けれど住む場所が決まったら教えに行くよ、とタイキは付け加えた。
「――話さなかったら私を悪者と思いますか?」
「いいえ全然? 会ったばかりの人間に自分のことを詳しく話す人間はいないだろうからね」
「――話しません」
「そうか。じゃ私は帰るよ」
と、タイキはぱっと消えた。
その直後、ユウフウはなんかちょっと彼に対して悪い気がした。
〈――まぁまぁのヤツだったな。――悪くない〉
(――そうだな――)
タイキは智恵文市から大阪国際空港の出発ロビーに瞬間移動した。
(さて、これからどうするか――?)
(――とりあえず報告するか)
と、タイキは電話する。
〈もしもし〉
「タイキです。お疲れ様です。今話しても大丈夫ですか?」
〈大丈夫だ。それでどうした?〉
「智恵文市に行きました。そしてターゲットに接触しました」
〈それでどうした? 相手は自分のことを話してくれたか?〉
「いえ、断られました」
〈そうか、まぁそうだろうな――相手の印象はどうだった?〉
「そうですね――感じは悪くありませんでした。結構利口な感じでした」
〈悪い人間とは思わないと?〉
「いえ、それはまだ判断できません」
〈うん、正解だな。君はこれからどうするつもりだ?〉
「智恵文市に住もうと思います。そして彼が自分のことを話してくれるのを待ちます」
〈そうか。しかしずいぶん悠長だな。その相手がどういう人間なのか調査したほうが早いんじゃないのか?〉
「――そうですね、分かりました。では私はこれで」
〈うん、いい報告を期待しているよ〉
と、相手は通話を切った。
(調査――そんなうまくいくとは思えないが、とりあえずやってみよう)
と、タイキはぱっと消えた。
次に彼が現れたのは智恵文市の駅前だった。
(さて、何を調査するか――)
(学校へ行ってみよう)
と、タイキは携帯電話を取り出す。
(確か智恵文市立中学校って言ってたな――)
タイキが助けた中学生達――その一人が自分の母校の名前を口にしていたことをタイキは覚えていた。だからタイキはインターネットでその学校を検索する。
(あった、住所は――)
それを覚えると、タイキはぱっと消えた。
そして彼はその学校の前に現れた。そこは智恵文市立病院の裏手の通りに面していて、智恵文市駅から西へ歩いて三十分くらいかかる場所にあるが、彼は一瞬で着いた。羨ましいね。
(――今は授業中で誰もいないか――)
と、周りを見渡してタイキは思った。
(なら先生に聞いてみるか)
と、タイキは正面玄関から学校の中に入る。案内板に従って職員室に着くと、中へ。
(――誰もいないのか)
と、タイキは職員室を出る。
「ちょっと君!」
右から怒ったような声がする。
見ると、若い男――日本人、腰まである黒髪、黒い目、賢そうな顔、中背、細身、赤いジャージ、黒いアンダーシャツ、白いスポーツシューズ――が立っていた。先生だなとタイキは思った。
相手は続けて「君は誰? この学校の在校生じゃないでしょ! 何が目的? 素直に話しなさい!」
「落ち着いてください。私は怪しい者ではありません。君はこの学校の先生ですか?」
「そうですよ。君は何者? 何しに来たの?」と、先生は少し落ち着いて、しかし依然疑いの目を向けて聞いた。
「この学校にユウフウという名前の生徒がいますよね?」
「ユウフウ君を知っているの?」と、先生は少し驚いた様子で言った。
「はい、私は彼のことで学校に来たんです。先生はユウフウ君のことを知っているんですか?」
「知っています。彼は私のクラスの生徒ですから」
「でしたらユウフウ君のことを教えてください。ユウフウ君はいい人間ですか?」
「いいえ」と、先生は眉を顰めて答えた「彼はいい人間ではありません。まず彼はずっと学校をサボっています」
「どうしてですか?」
「――それは分かりません」
「学校をサボる――だからユウフウ君はいい人間ではないと?」
「まさか。それだけじゃないんです」
「というと?」
と、先生は大きく溜息――怒りがこもったそれを吐き出す。
「彼は私の言うことを聞かないんです」
「――だからいい人間ではないと?」
と、タイキは不思議に思う。確かに、学校をサボること、そして先生の言うことを聞かないことはよくないことだ。
だが、それだけでいい人間ではないと判断するのは早計だとタイキは思う。
「そうです」と、先生は答える「ユウフウ君はいい人間ではない。むしろ大罪人よ」と、恨めしそうに言った。
「た、大罪人?」
「そうです――おっと、まだ理由がありました」
「なんです?」
(やはりな。たったそれだけでいい人間じゃないなんて言うのはおかしい。ましてや大罪人なんて)
「ユウフウ君はクラスメイトを悪に引きずり込んだんです」
「――悪に?」
「そうです。そのクラスメイトの名前はアツヤさん。とても美しい生徒です。ですがユウフウ君によってアツヤさんも学校をサボるようになったんです。アツヤさんは美しくて優秀な生徒だったのに……許せません」
「――そうですか。他に理由は?」
「いえ、もうありません」
「そうですか、ありがとうございました。失礼します」
「待ちなさい。君はどうしてユウフウ君のことが知りたいの?」
「いい人間なのか悪い人間なのか判断したいんです」
「――もし悪い人間だったらどうするの? 更生させたりするの?」と、先生は期待するように言った。
「更生――そうですね、できるならしたいですね」
「そう――行きなさい」と、先生は微笑して言った。
「失礼します」
と、タイキは学校を出た。
と、彼はふと思う。報告しようと。
〈もしもし〉
「タイキです。お疲れ様です。今お時間いいですか?」
〈良いよ、どうした?〉
「調査をしました。一人からですが」
〈それで? その人間はなんと言っていた?〉
「いい人間ではない、大罪人とも言っていました」
〈大罪人? それは中々の収穫だな。その理由は聞いたんだろう?〉
「はい。学校をサボる、先生の言うことを聞かない、そしてクラスメイトを悪にした、という理由からだそうです」
〈――なるほど。最後の理由、いい人間ではない、悪い人間だと判断できるな。君はどう思う?〉
「――まだ迷っています」
そう、彼は迷っている。クラスメイトを――他人を悪にする。
ユウフウを悪い人間と判断できる――証言者が忘れかけていなかったら。
そんなこと普通忘れかけるだろうか?
あの証言者――あの先生、何か引っかかる。
だから、タイキは迷っている。
〈そうか、慎重だな。ならまた調査することだな〉
「分かりました。ではこれで」
「うん」
と、相手は通話を切った。
(さて、次は誰から話を聞こう――?)
その頃、ユウフウとアツヤは“ホンスーノナー”にいた。その二階には家具コーナーがある。なんて素晴らしいんだろう!
「やっぱり椅子がセットのがいいわ」と、家具コーナーの前でアツヤは言う。
「けれどそうなるとカラーは茶色になるよ?」と、ユウフウは聞く「白がいいんでしょ?」
「そうよねー――うーん、どうしようかしら……」
〈テーブルの色なんてどうでもいいだろ〉と、ユウフウの頭の中でルドシーントロフは呆れて言う〈ユウフウもそう思うだろう?〉
「アツヤ、他のところを見に行かないか?」
「他のところ? いいわね。けれどどこに行こうかしら?」
「――“ナドレ”は?」
「“ナドレ”か、いいわね」
「あっ、今日はテーブル買わずに外食するって手もあるね」
「外食か、素敵ね――けれどまずは“ナドレ”に行きましょう」
「そうだね」
「待った、それよりもまず君から情報を教えてもらう」と、アツヤは言った。いやアツヤではない。ユウフウは分かっている。読者の諸君ももう分かっているだろう。
「君は何者だ?」
「そんなことはどうでもいい。君からの情報を教えてくれ」
「――情報ってなんの情報だ?」
「この世界を支配する七人の情報だ。知っているんだろう? しらばっくれるなよ? この身体がどうなってもいいのかな?」
「――お金をあげるよ」と、ユウフウは落ち着いた様子で言った。
「お金?」
「ああ、好きなことができるよ? いくらでも渡す。だからそれを持って帰ってくれ」
「悪いが答えはノーだ」
「何? どうして?」
「お金なんかいらないんだよ。それよりも魅力的だからな、君が持っている情報は」と、相手は楽しげに話す「だから早く教えてくれ」
〈だってさ、どうする? ユウフウ〉
(やることは一つさ)
と、ユウフウは呆れながら答える。
と、彼はそっと短く息を吸って吐いた。
「アツヤ、“ナドレ”に行こう」
「“ナドレ”? 何を言っている? まだ情報を教えてもらってないぞ?」
(何!?)
〈ほう、効いてないのか。いや、耐えたのか? なんにせよやるねぇ〉
「ユウフウ、早く情報を教えてくれ。この身体がどうなってもいいのか?」と、“アツヤ”は笑いながら言う。
(――ルドシーントロフ、頼む)
〈ふっ、まだクールか。オーケー〉
その瞬間、ユウフウの視界が一色になる――
(なんだ!?)
その色はなんなのか――それは彼も知る。
(景色が緑色になった!?)
と、タイキは驚愕する。智恵文市の駅前にいた――駅舎を後ろにして立っていた――彼は、突然目の前がそうなった。空は濃くて汚い緑色、そしてそれ以外は薄い緑色になっている。
(これはいったいどういうことなんだ……?)
(とりあえず報告――身体が動かない!?)
(どういうことだ? どうして……?)
(これは!?)
タイキははっとした。
(そうだ、この向こうから伝わってくる強い魔力の感じ、これはユウフウから感じた違和感)
(彼から感じた引っかかりはこの世界のことだったんだ……!)
(つまり、これはユウフウのやったことなのか? なんのために……?)
(――この魔力、別に悪い感じはしないな)
と、タイキはふと気づいた。
(なら、ユウフウは悪い人間ではないのか?)
(だが、どうして身体が動かないんだ――?)
(悪いことを企んでいるからか――?)
(――もしそうなら私は――)
(いや、それよりまずは身体をなんとかしないと――)
(魔力を――)
その頃、ユウフウの視界は元に戻った。
「アツヤ、“ナドレ”に行こう」と、ユウフウは言った。
「うん。――情報を教えてくれ」
(新しいヤツか……)
と、ユウフウはガッカリする「君は誰だ?」
「そんなことはどうでもいい。君が持っている情報を渡せ。この世界を支配する七人の情報だ。教えないとこの身体を痛めつけるぞ?」
(ルドシーントロフ、頼む)
と、ユウフウの視界がまた緑色に。
と、“アツヤ”の足元に魔法陣が現れ、そして光を吹き出す。
「ユウフウ」
ユウフウははっとして振り返った。
「君は……」と、ユウフウは思わず声を出した。
さっきの男――タイキがいる。
彼は怪訝な表情を浮かべている。
「ユウフウ、君は今何をしているんだ……?」




