第61話 おっさん陰陽師、エルネと語る
「……ふう、ようやく一段落できたな」
『疲れたけれど楽しかったねえ~』
無事に魔物の群れとベヒーモスを討伐することができ、我らは一足先に宿へと戻ってきた。
討伐したはいいが、一面に魔物の死骸が広がっていて、今は冒険者や街の者たちが総出で解体をして素材となる部分や食せる部位を集めている。我らも手伝おうとしたのだが、今回の戦いの功労者の手伝いは不要だと言われた。
申し訳なく思いつつも、さすがの我も長時間式神を顕現させ続けて疲れていたので言葉に甘えることとした。今はスーの力を封じていつも通りの小さな姿に戻っているが、さすがに三体もの四神を顕現させ続けるのは大変である。
「レイラは寝ているようじゃのう。まだ幼いのに頑張っていたのじゃ」
「うむ、今回が初めての実戦であるのによく頑張っていた。これほど早く成長するとは我も思っていなかったぞ」
宿の者に湯をもらい、順番に身体を拭いて晩ご飯までゆっくりしているつもりであったのだが、レイラはだいぶ疲れており、ベッドで眠ってしまった。童なのに今日はよく頑張ったからそれも当然だ。
まだ陰陽術の修行を初めて一月も経っていないのにこれほど成長するのはやはりレイラに陰陽師の才がある証である。
「お主の役に立てて喜んでおったぞ。たとえ子供であっても、ずっと守られているよりも共に戦えることが嬉しいのじゃろう」
「これまではずっと待っているだけであったから、よりそう思っていたのかもしれぬな。今後は魔物との戦闘も修行に加えるとしよう」
悪党どもやバームンの屋敷へ乗り込む時もスーと一緒に待機してもらっていた。我も初めて師に認めてもらい、共に妖と戦った時は随分と嬉しかったものだ。
十分に魔物と戦えることもわかったことだし、今後は実戦の修行もおこなっていくとしよう。
「それにしても陰陽術はすごかったのう! スーの本当の姿にも驚いたのじゃ」
『えっへん』
エルネに褒められて胸を張るスー。相変わらずだが、今日は本当によくやってくれていた。
「……それで、実際のところスーとセイがおれば魔物の群れだけでなく、あのベヒーモスも倒せたのではないかのう?」
「……ほう、なぜそう思う?」
「妾の勘というのもあるが、戦闘を終えてからもそなたには随分と余力があったからのう。妾は全力で魔法を何度も唱えたおかげでヘロヘロじゃったぞ。それにセイの性格を知っていた妾だったから分かるのじゃが、勝ったというのに少しイライラしておったからのう」
ふむ、良い勘をしている。勘といいつつも、長年生きて得た知識や経験から推察している部分もあるのだろう。
「確かにセイとスーはもっと強力な術を使うことができた。だが、楽をしようとして手を抜いたというわけではないぞ」
「わかっておるのじゃ。おそらく、街の者たちにも自身の手で街を守れたという実感を与えたかったのじゃろう。あるいは手の内を見せたくなかったからといったところかのう?」
「……さすがであるな、どちらも正解である」
『エルネちゃんもご主人のことがよくわかっているねえ~』
形代によってベヒーモスの動きと攻撃を見て、スーとセイが本気の術を使えば倒せそうなことは察せた。この世の回復魔法とやらはとても優秀なので、誰かが大きな怪我をしてもすぐに治療できることはすでに見ており、ある程度の安全性が確保できていたというのもある。
よそ者である我とエルネがすべてを片付けてしまうよりも、自分たちの力で魔物の群れを倒し、街を守れたという自信は今後街の者の力になると判断した。京の都でも自身の手で都の者を守れるという自信は陰陽師を支えてくれるものだ。
もうひとつ、今のところこの世では大丈夫そうであるが、陰陽術に対しては様々な対策がとれてしまう。例の悪党どもの集団もいるようだし、こちらの力はある程度隠しておきたかったという理由もある。
「それにもうひとつ加えるのならば、陰陽師は常に余力を残しているべきだと教えられている。強大な妖を倒してたとしても、すぐに別の妖が現れることもよくあった。今回はみなの力を借りた方が余力を残して倒せると判断したまでだ」
『あの魔物は結構強かったけれど、もっと強い妖が連続して襲ってきたこともあるもんね!』
「……お主らの世界は随分と厳しいようじゃのう」
弓月家当主である我はいついかなる時に妖が出てもそれを祓わなければならない。そのため全力を出し尽くすことはほとんどないのだ。その代わりに弟子や同業者を頼ることはよくあるぞ。
「自身の名誉や功績には興味がないのか。本当に変わっておるのじゃ……」
「そんなものなくとも、人や街を守れるだけで十分だ。すでに一度は病に倒れた身であるからな。今はレイラを鍛えながら、美味なるものを飲み食いし、旅ができればそれでよい」
一度病で倒れた我にとってはそれで満足である。むしろ冠位などをもらってしまっては自由に旅ができなくなってしまう。
今回の報酬は功績に応じて分配されるらしい。あれほどの魔物の数であれば誰がどの魔物を倒したかなど分からぬからな。我の報酬についてはまた街や孤児のために使ってもらうとしよう。
「結果的には誰も死ぬことなく、街の者と共にすべて守れたというわけか。本当に見事なものじゃのう」
「これでもある程度の修羅場はくぐっている。むろん人命が第一であるぞ。なにか危険な様子があれば即座に倒すつもりであった」
我の世ではだいぶ長生きしてきたからな。エルネがそのことに気付いたのも見た目以上に経験があったからかもしれぬ。
「ふふっ、この先の旅が一層楽しみになったのじゃ!」




