最終話 おっさん陰陽師、まだ見ぬ景色を求めて
「「「乾杯!」」」
サーロン殿の音頭により、みなが持っていたグラスとジョッキをぶつけ合う。これはこの世の乾杯という食事をしたり酒を飲んだりする時の合図のようなものらしい。
無事に魔物の群れとベヒーモスを討伐できた祝いとして、冒険者ギルドに集まり、宴が開かれている。
「さあ、どんどん飲んでくれ! ヤコウ殿とエルネ殿のおかげで本当に助かった!」
「みなのおかげだ。むっ、このワインは別の街で飲んだものよりも美味であるな」
「こっちのエールもうまいのじゃ。随分と上質なものを開けてくれたようじゃのう」
「この果汁もとってもおいしいよ!」
『うん、すごく甘いや!』
ギルドマスターのサーロン殿からいただいた酒や果汁の飲み物は非常に美味であった。奮発して良いものを出してくれたらしい。
「ふ~む、スー殿の本来の姿が不死の鳥であるフェニックスであったとは驚いた。ドラゴンに似た龍とやらを実際に見た時は驚いたぞ。どうしてヤコウ殿ほどの者の名が知られていないのか不思議で仕方がない」
そういえばこの世ではスーの本来の姿に似たフェニックスという魔物がいるとエルネからも聞いた。こちらも龍とドラゴンのように朱雀とは微妙に異なるらしいが、火を司るのは同じらしい。
一応陰陽術による式神とは説明したのだが、召喚魔法とやらとして認識しているようだ。
「この国に来てからそれほど日が経っておらぬからな。ところでサーロン殿は日の本という国の名や京の都という街を知らぬか?」
「……いや、初めて聞く名だ」
この街に来た時はそれを聞く余裕はなかった。ここが我の世と異なることはすでにわかっており、京の都へ戻ることができるかもわからぬがとりあえず新しく訪れた街では聞くことにしている。
「ふむ、私は知らないが、他の冒険者や騎士団の者にも聞いてみよう。もしかすると知っている者がいるかもしれない」
「かたじけない。感謝する」
「なにを言う、ヤコウ殿はこの街の恩人だ! それくらい、いくらでも協力しよう。さあ、もっと飲んで食べてくれ!」
そう言いながらサーロン殿がエールを注いでくれる。ここに出ている料理はあの魔物の群れの素材を使ったものらしいが、実に美味である。
今日は遠慮なくご馳走になるとしよう。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「いろいろと世話になったな」
「なにを言っているのだ。こちらこそ、ヤコウ殿とエルネ殿のおかげで街が救われた。またいつでも来てくれ」
魔物の群れと戦った翌々日。街を出発する際に街の門までサーロン殿がわざわざ見送りに来てくれた。
昨日はのんびりと過ごしつつ、夜はまた一昨日と同じように冒険者の者たちと宴を楽しんだ。あれだけの魔物の群れということで、街の者たちの喜びも一日だけで収まることはなく、街中でも大騒ぎであった。
そして驚いたことに例のベヒーモスは食すことができるようだった。固い肉質であったが、下処理を終えれば驚くほど柔らかくなり、その肉はこれまで食べたどの肉よりもうまかった。もちろんたくさんの肉をもらい、アイテムバッグに保存してある。
「エルネさん、待っています!」
「レイラちゃん、またね~!」
「スーちゃん、また来てね!」
サーロン殿だけでなく、街の冒険者も見送りに来てくれたようだ。
「うむ、またお邪魔するのじゃ!」
「うん、またね!」
『またね~』
みなたった数日でこの街の冒険者と仲良くなったものだ。また機会があればこの街を訪れるとしよう。
盛大な見送りを受けて先を進む。
「報酬を随分ともらってしまったな。もっと街のために使ってもらってもよかったのだが」
「被害はなかったようじゃし、街の者からしたら大量の素材や食料が手に入ったのも同然じゃからな。むしろ本来であればもっと報酬をもらってもよいと思うのじゃ」
「路銀は十分ある。不要な分は今までどおり孤児院などへ寄付していくとしよう」
魔物の群れとベヒーモスを倒した報酬として結構な額をもらったが、今のところそこまで使う予定はない。
「それにしてもこの世界は本当にいろいろなことが起こるものだ。美味なる食材や料理に溢れ、今まで見たことのない光景が広がっている。これからも楽しみであるな」
「レイラも毎日がとっても楽しいよ!」
『おいらも! ここには妖と違っておいしい魔物がいっぱいいるもんね!』
「妾も魔法とは異なる陰陽術を間近で見ることができて毎日が楽しいのう。これからも楽しみなのじゃ!」
一度は病に伏した我であるが、新たな生を得て異なる世で自由に旅をしていることに感謝しよう。弟子であるレイラと道中で出会ったエルネたちと共にいられることが今の我にとっては何よりも面白い。
旅は始まったばかりだ。
まだ見ぬ景色や美味なる食を求めて、新たな地を目指すとしよう。
―完―




