第57話 おっさん陰陽師、弟子と戦う
「あの炎を操る巨大な赤い鳥の姿はまるで伝説の魔物のフェニックスのようじゃ。自ら炎に身を投じ、その灰の中から新たな生命として生まれ変わる不死の魔物と呼ばれておる。ドラゴンよりも珍しい魔物なのじゃよ」
「ほう、この世にはそんな魔物がいるのか」
そもそも式神には死という概念がないゆえ、ある意味では皆不死であるかもしれぬな。セイの姿同様にみな驚いていることだし、やはり普段はいつもの姿でいてもらったほうがよいかもしれぬ。
「セイちゃんとスーちゃんのおかげでどんどん魔物の数が減っていくよ!」
セイの風とスーの炎によって、乱れることなく真っすぐに向かってきた魔物の群れの動きが鈍る。セイとスーが攻撃を放つたびに魔物は斬り裂かれ、その身体が燃え上がっていく。
魔物の群れもセイとスーを敵として見定めるが、空を舞うセイとスーに攻撃する手段はない。空の覇者に対しては対抗手段を持たぬ限り、永遠に指一本すらも届かぬのだ。これならばたとえ敵が1000いようとも問題はないだろう。
『やるじゃねえか、スー。よっしゃあ、どっちが多くこいつらを片付けるか勝負だぜ!』
『うん! 負けないよ、セイ兄!』
……まったく、セイとスーも相変わらずであるな。まあ、敵の攻撃は届く心配がないし、問題はないか。
「こ、この機を逃すな! 総員、攻撃!」
「「「おおおおおお!」」」
セイとスーの姿に一瞬心を奪われていたサーロン殿と騎士団の長が指示を出す。迫りくる数体の魔物に投擲や矢、魔法を放ちそれを屠ってゆく。
圧倒的な攻撃を放つセイとスーであるが、これだけの数がいれば当然その攻撃を逃れて迫ってくる魔物も出てくる。それを討つのは彼らの役割である。勢いがだいぶ落ちたとはいえ、うまく指示を出してそれぞれが狙うべき魔物を定め、近付いてくる魔物を次々と倒していく。
常日頃魔物や悪党どもと戦っているおかげか、その練度は非常に高い。この世では魔物と戦う機会が多いせいか、京の都の検非違使よりも鍛え上げられているようだ。
「さて、ここからはレイラの出番でもあるぞ。臆する必要はない、存分に修行の成果を見せてくれ」
「うん、レイラも頑張る! 大きい火さん、出て~!」
レイラが霊符を両手で持って前に出す。目を閉じながら丹田に集中して五行力を練る。するとレイラの目の前に1尺(30センチメートル)ほどの炎の塊が生じた。
「ええい!」
レイラが目を開け、壁の上から迫りくるオオカミ型の魔物を目掛けてそれを放つ。
「ああっ、外れちゃった……」
残念ながらレイラの放った炎弾は走り迫る魔物から大きく右に逸れて外れてしまう。近付いてくるその魔物は冒険者の矢によって討ち取られた。
「実際に迫りくる敵を狙うのは難しいだろう? だが威力は十分だ。それとまずは的の大きなクマやイノシシの魔物を狙ってみるといい」
「はい!」
日々の修行の成果によって、レイラもこれほどまで陰陽術を扱えるように成長している。まだ集中する際に目をつむってしまうが、ゴブリン程度であればひとりでも倒せるほどになっていた。
しかし、動きの遅いゴブリンならともかく、動きの速い魔物へ攻撃を当てるのは実際にやってみるとなかなか難しい。壁の上からでは多少距離もあるし、敵もこちらの攻撃をかわそうとしてくるから、ある程度敵の先の動きを読まねばならない。まずはもっと身体が大きく、急な方向転換が難しそうな魔物を狙ったほうがいい。
「やった、当たったよ!」
「よくやったな。だが、今度は敵を狙うことに集中し過ぎたせいで少し威力が落ちているぞ」
続いてレイラの放った炎弾は見事に突進してくるイノシシ型の魔物の正面に的中するが、まだ立ち上がる力があるようだ。
「う、うん……難しいね……」
「初めはそんなものだ。だが、今のレイラの攻撃によって魔物が足を止めたおかげで他の者は仕留めることができている。今の調子でどんどん撃っていくといい」
「わかった!」
今は壁の上にいるレイラにまで攻撃が及ぶことはない。実戦に勝る経験はないため、この機会にできる限り経験を積ませるとしよう。
実際に魔物と向かい合う時は殺意を向けてくる魔物の恐怖とも戦わなければならぬが、それはまたの機会に学べばいい。
「ええい、妾も負けておれぬぞ! ライトニングストーム!」
セイとスー、冒険者と騎士団の猛攻によってみるみるうちに魔物の群れの数が減っていく。
魔物はまだ一体たりとも防壁の前にある罠まで辿り着けていない。このままの調子でいけば問題なく魔物の群れを討伐することができそうであるな。




