第56話 おっさん陰陽師、戦闘に参加する
空が白く光り、大小様々な大きさの雷が魔物の群れを襲う。
直撃した魔物は一瞬で意識を奪われ、黒く焦げながらそのまま動かなくなる。
「「「おおおおお!」」」
「……ほう、これはなんともすさまじいな」
「エルネお姉ちゃん、すごい、すごい!」
『魔法ってこんなことまでできるんだね!』
「ふっふっふ、これが魔法の真髄なのじゃ!」
あまりの威力に巨大な歓声が沸き上がり、勝ち誇ったように胸を張るエルネ。
まさか天候や雷まで操れるとは驚いた。他の魔法使いの魔法も火や風や水を自在に操り、魔物の群れを屠っていくが、どの魔法もエルネの魔法の規模には遠く及ばない。
それを瞬時かつ、なんの準備もなく扱えるのだから魔法とはいうのはすばらしい。なるほど、確かにこれは魔法とやらの認識を改める必要がありそうだ。
「じゃが、あれを見てもまったく引く気はないようじゃな。これじゃから大きくなった魔物の群れは面倒なのじゃ……」
先ほどのエルネと他の魔法部隊の魔法によって一気に数十体もの魔物を倒したというのに、群れは一向に撤退したり、降参したりする気はないようだ。
続けて魔法部隊が順に魔法を放ち、投擲部隊や弓の部隊が次々に攻撃を始める。魔法使いの弱所として、大規模な魔法を連発できないことと一日に使える魔法の数が限られているということだ。それを補うために罠や地上部隊、そして我の出番である。
「我もゆくぞ、いでよ青龍! 急急如来律令」
「「「おおおおお!」」」
五芒星を描き、セイを顕現させると同時に味方から大きな歓声が湧き上がる。すでにセイのことは伝えてあったのだが、それでも驚いているようだ。例のドラゴンという魔物に似ているからであろう。
『おっ、あいつらが相手だな! よっしゃあ、暴れるぜ!』
「昨日も伝えておいたが、手前の味方に当たらぬよう気を付けるのだぞ」
昨日作戦を立てた段階でセイには今回の魔物の群れのことは伝えてある。今回も派手に暴れてもらうとしよう。
「セイ、逆鱗旋風斬、禍津之風!」
『おっしゃあ、いくぜ!』
セイが魔物の群れの上空へ飛んでいき、巨大な風の術を放つ。逆鱗旋風斬の風の刃によって魔物は斬り裂かれ、禍津之風によって魔物たちが吹き飛ばされていく。
「す、すげえ!」
「あ、あれがドラゴンか! ドラゴンを召喚できるなんてすごい召喚術師だぜ!」
周囲の冒険者や魔法使いからも声があがる。まあ、ドラゴンではなく龍なのだがな。
「こ、これは驚いたのじゃ……。これが式神の力か、本当にドラゴンよりも強いぞ!」
「セイちゃん、格好いい!」
セイの戦闘を初めて見るエルネも驚いた様子だ。
だが、いちいちドラゴンとやらと比べられるのはセイも不本意であろう。四神が青龍、その強さをここにいるみなの心へ刻むとしよう。
『ご主人、おいらもいくよ!』
「うむ。そういえばレイラとエルネにもスーの本来の姿を見せるのはこれが初めてであったな。よく見ておくといい。南方守護の霊鳥よ、我が名、弓月夜行の名において命ずる! 封を解き、その真なる姿を顕せ!」
『いっくよ~!』
スーに向けて逆五芒星を宙に描く。
するとスーの身体が光り輝き、1尺半(45センチメートル)ほどだったスーは1丈(3メートル)ほどに全身が大きくなり、その姿も変わっていく。赤い全身はまるで燃え盛る炎そのもののように揺らめき、羽ばたくたびに火の粉が星のように舞い落ちる。長い3つの尾羽は優雅に弧を描き、空を焦がしていた。
小さな小鳥のような姿から悠々と空を舞う朱雀へと、本来の姿へと戻っていく。
「フェ、フェニックスだ!」
「ド、ドラゴンに続けてフェニックスも召喚できるだと!?」
周囲の者が声を上げる。
フェニックスとは初めて聞く言葉であるな。おそらくドラゴンのように朱雀に似た魔物がいるのであろう。
「こ、これがスーの本来の姿……」
「スーちゃん、格好いい!」
『へっへ~、それじゃあ行ってくるよ!』
スーはエルネとレイラの上空をふわりと舞い、戦場へと飛び立った。
……姿は変わっても中身はいつものスーそのままである。
「スー、極炎演舞!」
『いっくよ~!』
スーの両翼から灼熱の炎が地を走る魔物の群れに向かって放たれた。その炎は魔物の身体に触れると一瞬で激しく燃え上がり、魔物の身体を焦がしていく。その炎はスーの元の姿の炎の比ではない。
スーが羽ばたき、地に炎を落とすたびに大きな火柱が立ち昇り、その度に魔物身体が燃え上がっていく。
「……スーがこれほどの力を持っていたとは本当に驚いたのじゃ」
「あの姿は他の式神以上に力を使う。普段の姿であればほとんど力を使わないので、常に顕現させておくことが可能である」
式神をこの世に顕現させるためには五行力を使う。いくら我が他の陰陽師よりも才があっても、四神を常に顕現させ続けることはできぬ。だが、四神の中で唯一スーだけは我の制御によってその力を抑えることが可能であった。
力はだいぶ抑えられてしまうが、その分常に顕現させておくことができる。その制御を解き放ったあの姿こそ、スー本来の力と姿なのだ。




