第52話 おっさん陰陽師、異常事態に遭遇する
『我が主、また道の向かい側から人が来ております。先ほどと同じように結構な大荷物ですが、商人とは異なるようですね』
「……またか。ビャク、一度止まってくれ」
『はい』
今日も朝からビャクの背に乗って道を進んでいるのだが、これまでと少し様子が異なっていた。
道を通る際はビャクが魔物と間違われて攻撃されてしまうことが以前にあったので、少しだけ道の横を走るようにしている。だが今日はいつもよりも道ですれ違う者が非常に多い。それも大きな荷物を持った一家や人が大勢乗っている馬車などばかりであった。
「みんな慌てているみたいだね」
『うん。この先の街でなにかあったのかもしれないね』
レイラとスーの言う通り、すれ違う者たちは慌てた様子で、なにかから逃げようとしている様子であった。
「うむ。あの様子を見るに、この先の街でなにか起きたのじゃろうな。このような場合は大規模な盗賊団、あるいは面倒な魔物が付近に現れた際に一時的に街から避難している場合が多いのじゃ」
「……なるほど、なにか異常が起きた可能性は高いな。街までもうそれほど距離はないし、ここからは道を歩き、人が通ったら詳しい話を聞いてみるとしよう」
「魔物だ、魔物の群れが街の近くまで来やがったんだよ!」
「あなたたちも引き返した方がいいわ」
一度すれ違った馬車に声をかけたが、逃げるのに夢中で無視されてしまった。次に通ったのは30代くらいの子供を連れた夫婦で、我らに話をしてくれた。
どうやら今日泊まる予定であったバルザルの街付近に大量の魔物の群れが現れたらしい。相手はかなりの数で、しばらくすると街まで攻めてくる可能性が高いようだ。街の城壁によって魔物を迎え撃つ態勢をとるようで、戦えない者たちは一時的に離れた街や村へ避難をしているらしい。
「魔物を連れているし、あんたたちは冒険者だろ? 今街へ行くと戦闘に参加させられちまうぜ。俺たちはこの先にある村へ行くつもりだから、あんたたちも早く逃げろよ」
「ご忠告感謝する」
我らに現状を教えてくれ、慌ただしく我らが来た道の方へ去っていく夫婦。とりあえずあの者たちのおかげでわずかながらに現状は理解できた。
「魔物の群れか……。この世ではよくあることなのか?」
「ミニカムの街だと20~30くらいの魔物の群れが街まで来た時はあったよ。その時は反対に街からしばらく出ないようにって言われたけれど、避難をしたほうがいいって言われたことはなかったかな」
「それほどの数であれば街の者で十分に対処できるから、街の中にいた方が安全なのじゃ。街にいる者を先に避難をさせるということはよっぽどの数が迫っているのであろう。滅多にないことじゃが、異なる種の魔物が集まり大きな群れをなして村や街を襲うこともあるのじゃ」
どうやらこの世では魔物が群れをなすことがあるらしい。魔物は妖と違って生物である以上、生きるために群れを作ることはあるのだろう。これまで我が出会ってきた魔物にはそれほど手強い魔物がいなかったが、空を飛ぶワイバーン級の魔物の群れが街を攻めてくればなかなかに厄介だ。
「先ほどの者たちは冒険者が強制的に戦闘に参加させられると言っていたが、それは本当なのか?」
「うむ。基本的に街の危機などに対して冒険者や騎士は可能な限り協力する義務があるのじゃ。騎士の方は強制となり、冒険者の方は断ることもできるのじゃが、級位の降格処分などがあるかもしれぬ。むろんその級位に応じた場へと配置されるので、そこまで無茶はさせないはずじゃ。とはいえ、命を落とす可能性も十分にあることじゃし、先ほどの者が言っていた通りに進路を変えるというのもひとつの手段じゃな」
「……ふむ」
当然ながら、誰しも自分の命が一番である。その街が故郷であったり、大切な者がいたりするのならともかく、命を懸けて魔物の群れと戦うのは多少の覚悟が必要なことだ。
「エルネ、こういう場合はどういう行動をとるのが適切なのだ?」
「……そうじゃな、妾の場合は基本的に協力することが多いのう。というのも妾は魔法使いで後方から攻撃することが多く、前線よりも危険が少ないのじゃ。それに逃げようと思えば妾ひとりならどうとでもなったからのう」
「なるほど」
エルネの言うように自身のことを第一に考えつつ、できるなら協力することが一番適切な行動なのであろう。
「まずは状況を確認したい。もしかすると降級処分を受けるかもしれぬが、一度街へ行ってみたいと思う」
「うむ、妾も賛成じゃ」
「うん、わかった!」
『了解だよ』
京の都にいる時とは異なり、今は役目もないしレイラもいる。本当に命の危険があるようならば撤退することも考えなければならぬが、まずは状況を見極めたい。
みなも賛成してくれたことだし、街へ行ってみるとしよう。




