第50話 おっさん陰陽師、歓迎される
「ええ、もちろん構いませんよ。空いている家がありますので、そちらへ案内しますね。どうぞ旅の疲れを癒してください」
「かたじけない」
村の中へ入るとすぐにこの村の村長さんの家へと案内してくれた。そして3人分の宿泊費と食事代を払うと村の中のとある家を貸してくれる。
村へ入る前にエルネより旅人から金品を奪う村の話を聞いて身構えていたので安心した。いや、確か夜寝静まったころに襲ってくることもあるらしいゆえ、油断は禁物であるが。
「おう、旅人さんか。なにもない村だが、ゆっくりしていってくれよな」
「お母さん、あの女の子はなんで耳が長いの?」
「あらあら、珍しい種族の方なのかもしれないわね」
村の中を歩いていると旅人が珍しいのか声をかけられたり、注目を集めたりしている。エルフという種族を見たことも聞いたこともない者もいるのだろう。
見知らぬ種族のエルネや我とスーの姿を見てもそれほど驚かれない。街と街との間にある村なので、我が思っていたよりも多くの者が訪れるのであろうな。
「なかなか美味なる料理であったな」
「とってもおいしかったね!」
食事は村の中心に集まって食べるようで、我らだけでなく村の者も集まっていた。村の近くでとれる食材を使用した料理はなかなかのものである。
こういった村の料理でも我の世の都の料理よりも美味であるのだから驚きだ。それほど高価な食材を使用していないらしいが、村で育てている野菜などは見事であった。野菜などは収穫してからすぐに食べた方が美味であると聞いていたゆえ、それも理由のひとつであろう。
『ご飯はおいしかったけれど、子供たちがすごかったなあ……』
「妾もじゃ……。どうして子供はこの耳に触れたがるのじゃろうな……」
食事を終えたあとはこの村の村長や他の者と少し話をした。村に住んでいるといろいろと大変なようだが、村での収穫祭などいろんな楽しみもあるらしい。
そんな話を聞くのも楽しめたのだが、村の童たちはスーや耳の長いエルネにとても興味を持ったようで、随分と囲まれていた。童は元気がいいから相手をするのも大変であろう。とはいえ、童たちがそうやって笑って過ごせる村は良い村である。
野営をして過ごすのもよいが、その村特有の料理を楽しめたり、様々な話を聞けるのは良いことだ。今後は多少遠回りでもそういった村へ訪れてみてもよいかもしれぬ。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
翌朝、特に寝込みを襲われるようなことはなく、普通に目が覚めた。一応警戒は怠らず、寝泊まりした家には霊符による結界を張っていたが、そちらも破られるようなこともなかった。
ちなみにエルネは結界の霊符と同じような効果を持つ障壁魔法を使えるようで、一人で旅をしている際にはそれを使っているらしい。我の霊符とその障壁魔法を二重に張っているので、これまで以上に夜を安全に過ごせるであろう。
「またいつでも来てくだされ」
「世話になった。またこの近くを訪れる際はよろしく頼む」
朝食は焼き立てのパンを馳走になった。これまでこの世で食べたパンの中でも麦の香りがすばらしく、一番美味であった。まだ温かいパンがあれほど美味であるとは驚いたものだ。
村の者に礼を言い、村を出る。村長殿や村の一部の者たちはわざわざ村の入り口まで見送りに来てくれた。
「エルフのねーちゃん、また来てくれよな!」
「スーちゃん、また来てね!」
「うむ、また機会があればのう」
『またね~』
昨日エルネとスーと一緒に遊んでいた童たちも見送りに来てくれている。たった一晩で随分と仲良くなったものだ。……なぜか我の方に童はまったく寄ってこなかったがな。
村から少し離れたところでビャクを顕現させ、ビャクの背に乗って先へと進む。
「良き村であったな」
「みんなとっても優しかったね!」
「ああいった村ばかりならばみな安全に旅ができるのじゃがのう」
先を進みながら世話になった村のことをみなと話す。
出てきた料理も美味であったし、村の者もよそ者の我らに優しく接してくれた。エルネの言う通りあのような村ばかりならばよいのだが、童をさらったり、恨みで人を呪おうとするような悪党がいるので、警戒は怠れないことだ。
「予定では今日中にサンダムの街か。そこから2日ほどで目的地のバーギニア山へ到着することができそうであるな」
ここまでの道中は順調で順調である。
「……それは良いのじゃが、やはり昨日も陰陽術を発動させることはできなかったのじゃ」
「まだ2日目であるからな。焦る必要はないぞ」
昨日も借りていた家の中で陰陽術の修行を引き続きおこなったが、エルネはまだ陰陽術を使えてはいない。
とはいえまだ焦る必要はないので、引き続き修行は毎日行うつもりである。




