第31話 おっさん陰陽師、拘束する
「ウインドブラスト!」
ガシャンッ。
部屋の玻璃(ガラス)の窓をマーチル殿が風魔法を使って叩き割り、外から屋敷の中へと侵入する。
……これほど透明で美しい玻璃を割るのは勿体ないことだが、この世ではそこまで高価な物ではないらしいし、今はそれどころでない。
「な、何者だ!?」
「ゲン、玄冥氷牢!」
『ええ!』
「な、なんだ! ぐわっ!?」
敵がこちらに気付くが、即座にゲンの術で呪詛師を拘束する。奇襲はうまくいったようだな。
「し、侵入者だ! 早くこいつらを殺せ!」
「バームン様、冒険者ギルドマスターのマーチルです。領主様のご子息の殺害容疑であなたを拘束します」
「なっ!?」
バームンが驚愕の表情を浮かべる。まさかいきなりマーチル殿が屋敷まで乗り込んでくるとは思わなかったのだろう。
「な、なんのことでしょうな? 」
「残念ですが、すでに話は聞かせてもらいました。あなたがこちらの闇魔法の使い手に指示したこともわかっております。すぐに騎士団もここへ到着するでしょう」
「ぐっ……」
先ほど自ら口にした通りだ。騎士団とやらがいる場所が我にはわからなかったので、紙の形代を領主殿の屋敷に飛ばしてある。そこから領主殿の屋敷の者と騎士団が来るのも時間の問題であろう。
呪詛師の方は多少力を感じるが、すでに拘束済みだ。バームンはまったく力を有していないようだし、勝負はついたようだ。
「……ちっ、かくなる上は貴様らごと殺してやる!」
「なっ、それは闇の魔道具か!」
マーチル殿の声が部屋に響く。
バームンが首にかけていた首飾りを引きちぎり、我らの方へかざす。すると突然その首飾りの中心にあった黒い宝石から強烈な陰の気が放たれる。
「損じたか! マーチル殿、我らの後ろへ! ゲン、蒼水方陣! 令!」
『任せて!』
バームンからダンケ殿やマーチル殿から感じられる強者の気配がなかったゆえ、不覚をとった。この世では力がなくとも、マジックバッグのような不可思議な道具があるということを失念していた。
首飾りから放たれる陰の気はとても強く、我やマーチル殿だけでなく呪詛師ごと我らを葬り去るつもりである。呪詛師と同様に即座に拘束すべきであったか。
呪詛師とマーチル殿を背にゲンの蒼水方陣を敷く。さらにその水壁の前に霊符によって結界を張る。
「死ねえええ!」
バームンが突き出した首飾りから漆黒の奔流が放たれ、それは巨大な洪水のように我らへ向かって襲い掛かってきた。水壁の前に張った結界へさらに五行力を込める。結界とゲンの陣さえあれば防げるはずだ。
漆黒の奔流が我の結界へと衝突した。
「なっ、馬鹿な!?」
「……ふむ、見掛け倒しであったか」
闇の魔道具とやらから放たれた漆黒の奔流が結界に襲い掛かったが、しばらくするとそのまま消えていった。結界にはヒビひとつ入ってはいない。この結界は陽の気を持っており陰の気を相殺するので、陰の気よりも結界の陽の気が勝っていたようだな。
我の結界よりもゲンの蒼水方陣の方が強固であるゆえ、おそらくそれだけでも防げていただろう。宵闇の黒鴉団の時もそうであったが、この世の魔法とやらは随分と派手であるが力は陰陽術にだいぶ劣るのかもしれぬ。
「ゲン、玄冥氷牢」
『任せて、ご主人様』
「がっ、手が……」
他にも何か持っているかもしれぬので、バームンを凍らせて拘束する。力は弱くとも、油断は禁物であることを学んだ。後ろに拘束されている呪詛師も今のを見て完全に戦意を失ったようだな。
「驚いた、まさか闇の魔道具をこれほどあっさりと打ち破るとは……」
「マーチル殿、闇の魔道具とは普通の魔道具とは違うのだろうか?」
「ああ、闇の魔道具とはとある闇魔法の使い手が制作した魔道具だ。制約はあるが、見ての通り闇魔法を使えない者でも強力な力を使うことができる。数少ない闇魔法の使い手と、闇の魔道具を所持していることから、この者が暗殺者ギルドと関わりがあることは間違いないだろう」
「………………」
バームンはなにも答えなかったが、その表情がマーチル殿の言っていることを肯定している。
……京の都でも裏で呪詛師の集団が徒党を組んでいたが、この世も犯罪者集団や暗殺者ギルドなどろくでもない集団が多いようだな。闇の魔道具とやらはそれほどの力を有していなかったとはいえ、魔法を使えない者でも使えるのは多少脅威だ。我が持っているマジックバッグなどの便利な道具もあるというのに、やはりそれも使う者次第というわけか。
騒動を聞いて屋敷の者が部屋へとやってきたが、拘束されたバームンと呪詛師を見てすぐに現状を悟ったようでそれ以上の争いには至らなかった。そのあと領主の屋敷の者と騎士団がやってきて、2人は連行されていく。そして我らはそのまま領主殿の屋敷へと案内された。




