第30話 おっさん陰陽師、踏み込む
『ちぇ、またおいらはお留守番かあ……』
「屋敷や屋敷にいる者へ害を与えないためだ。レイラを守るのも大事な任務であるぞ」
「おじちゃん、気を付けてね……」
「うむ、安心して待っているがよい」
以前の人さらいどもの時とは異なり、屋敷にいる者の大半が今回の件のことを知らぬはずだ。京の都でもそうであったが、こういった謀略に巻き込まれた者は決して傷つけてはならない。ここはゲンに任せるとしよう。
「……さすがにここでヤコウさんひとりに押し付けるわけにはいかないさ。私も一緒に行くよ」
「立場上大丈夫であるのか?」
理由はあるとはいえ、冒険者ギルドマスターという一組織の長が貴族の屋敷を襲撃するというのはいささか見聞が悪いように思える。
「なあに、領主殿からも口を聞いてもらえるだろうさ。それに私も下らない政治事で闇魔法を悪用するような輩は大嫌いでね。ただ、闇魔法の使い手とバームン男爵は殺さずに拘束してほしい。さすがにそいつらを殺したとなると面倒になってしまうからね」
「心得た。もとよりそのつもりである」
京の都でもそうであったが、この世も身分など煩わしいだけであるな。ただそういった貴族の者たちが日の本を回していたということも事実であるから難しいものだ。
「おい、止まれ! ここへなんの用だ!」
ゲンを顕現させ、マーチル殿と屋敷の正面へと立つ。
正面からでなく屋敷の壁を越えて侵入した方が良いのではとも思ったが、マーチル殿の話によるとこういった屋敷には壁から侵入すると警報音の鳴る魔道具が設置されているらしい。
……我だけならば引っかかっていたな。そしてその音を聞いたバームンが呪詛師を口封じに殺す可能性が高い。バームンに気取られることないよう即座に侵入せねばならぬ。
「冒険者ギルドマスターのマーチルだ。至急バームン男爵に話さねばならないことがある。このままバームン男爵のところまで案内してほしい」
「……すぐにバームン様に確認をしてみるので、申し訳ないが少しだけお待ちください」
門を守っている2人の門番は互いに顔を見合わせつつそう言う。
マーチル殿は冒険者ギルドマスターとしてある程度信用がありそうだが、やはり門番の者は我らの方を訝しんでいるようだ。我の服装が怪しく見えるのもあるが、魔物であるゲンがいるので門番としては真っ当な判断である。
とはいえ、強硬手段に出る時にゲンの力は必要なので仕方がない。マーチル殿に目くばせをして他の者を呼ばれないうちに行動へ移す。
「令!」
「なっ、足が!?」
「ウインドブラスト!」
「ぐわっ!」
「ゲン、玄冥氷牢!」
『任せて~!』
我が影縛りの霊符の力を発動し、動けなくなったところでマーチル殿が風魔法という風の塊を撃ちだす魔法を使って門番を吹き飛ばす。さすがというべきか、一撃で見事に意識を刈り取ったので、ゲンの術で拘束をした。
悪党どもの時とは異なり、足首と手首のみを凍らせただけなので、意識を取り戻してしばらくすればすぐに拘束を外せるだろう。
「相変わらず魔法というものは便利で不可思議なものであるな」
「……ヤコウさんの陰陽術の方が不思議だよ。魔力も使わずに式神を召喚したり、影を操る魔法なんて初めて見たさ」
我としては霊符や式神も使わずに風の力を操るマーチル殿の方が不可思議に思えるが、それはお互い様のようだ。
とりあえず門番たちは大きな声を出させる前に拘束できたが、門番がいないことに気付かれるのも時間の問題だ。すでに形代で偵察をしたことによってバームンの居場所はわかっている。屋敷付近に警報の魔道具はないらしいので、屋敷の壁沿いを歩き、呪詛師とバームンのいる部屋へと向かった。
「くそっ、いったいどうなっているというのだ!」
「ぐっ……こ、こんなことは初めてで……。ううっ、いったい何が起きたんだ……」
「ちっ、まったく本当に使えん! 何がバレることなく確実に殺せるだ。もしも領主にバレたら、貴様を処分してやるからな!」
部屋の中からは2人の男の声が聞こえてくる。この中にいる者が領主殿のご子息を狙ったことで間違いないようだ。
呪詛師の者は苦しそうな声をしているが、まだ声を出せるほどの体力は残っているらしい。返した呪詛はより強くなってその身を蝕んでいるというのに随分と頑丈なものだな。やはりこの世の者の身体は丈夫なようだ。とはいえ、これでこの者たちが領主殿の息子を狙ったことははっきりした。
隣にいるマーチル殿を見ると我を見て頷く。早速踏み込むとしよう。




