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メタモルファルは寄り添う  作者: 甲斐 雫
第6章 メタモルファルは愛とともに

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95 姐さんの怒りと優しさ

『一斉検挙成功。エルオリーセが奴らに暴行を受けた。アルバと一緒に、三吾の家に行ってくれ』

 店に駆け込んできたアルバから手紙を受け取ったルビーは、それだけで察した。


「パキラちゃん、奴らは逮捕されたけど、念のため2階に上がってて!アンタたちっ、店は任せたわっ!」

 ルビーは、パキラと常連客に叫ぶと、そのまま店を飛び出す。

「おっ、おう・・・」

 呆気にとられた客たちだが、慣れているのか、三々五々閉店準備のために席を立った。



「・・・リーセ・・・」

 自宅のベッドにエルオリーセをそっと寝かせて、三吾は小さく呟いた。

 苦し気に眉をひそめた青白い顔。冷えた身体と不規則な呼吸。

 三吾には、どうすればいいのか解らなかった。


 ここに来るまでの馬車の中で、彼女を固く抱きしめていた。

 煮えたぎるような怒りが、頭と心を支配していて、どうにもならなかった。

 今こうしていても、奴らに対する殺意が収まらない。


 壊れ物に触れるように、そっと彼女の頬に指先を伸ばした。

 涙に汚れた頬。口元を汚す唾液。

 べとついた感触に、心が凍り付く。

(・・・拭いて・・・お湯・・・を)

 漸く少しだけ、考えることができた。

 三吾は急いでキッチンに向かい、出来るだけ沢山の湯を沸かす準備をする。

 アルバとルビーが来てくれるまで、自分に出来ることはそのくらいだ。三吾の頬を、涙が伝って落ちた。



「お湯を沸かしておいたのは、上出来よ。後はアタシに任せて、アンタは2階に行ってて。こんなトコ、旦那にだって見せたくないのよ、女は」

 てきぱきと準備をしながら、ルビーは容赦なく三吾を追い払った。

「気がついたら、アタシが話をする。それで大丈夫だったら呼ぶから、それまで待ってなさい。頭を冷やして、落ち着くこと。いいわね」

 手伝うことがあればアルバに頼むから、と追い立てられて三吾は2階に上がった。


 数時間後、ゲンが訪れた。捕り物の現場がひと段落し、後は部下に任せてきたようだ。

 エルオリーセの手当てがひと段落したルビーも、寝室から出てくる。

「奴らは全員とっ捕まえた。これから衛兵隊の留置所に放り込んで、明日から尋問開始だな。まぁどう転んでも、かなりの年数で農場送りになるだろうよ。それで、引っ立てる途中でエルオリーセを襲ってた奴に聞いてみたんだが・・・」

 頬傷の男ジスは、たまたま見つけたエルオリーセに恨みがあって、どうせならそれで憂さ晴らしをしようと思っていた、と言った。それ以外の動機は無かった、とはっきり告げた。

 姉との関係は、隠す通すのだろう。

「で、エルオリーセの方は?」

 旦那の言葉に、ルビーはチラッと三吾を見て、それから口を開いた。


「農場送りなんて生ぬるいわ。どうせならソイツらの玉と竿をちょん切ってから、送ってやってほしいものよ」

 最初に物騒な台詞を吐いたルビーは、怒り心頭という状態らしい。

「う・・・まぁ、気持ちは解るが・・・」

 ゲンの方も、出来るならそのくらいの罰は与えたいところだが、流石にそこまでの権限は無い。ルビーは大きく息をつくと、徐に説明しだした。

「クスリを使われたみたい。臭いだと『ベロニカ』みたいだけど、今の様子は少し違うから何とも言えないわ」

「なんだって!」

 思わず三吾は大声を上げた。薬学が専門である彼は、麻薬のようなその催淫剤をよく知っていた。

「アタシも昔、知り合いがそれを摂取させられたところを見たことがあるけど、そんな感じじゃ無くて・・・何だか、苦痛に耐えてるような感じね」


(ああ、そうだった。彼女はメタモルファルだ)

 おそらく今、彼女の身体は『ベロニカ』の効果と戦っているのだろう。自我を失って色情狂(ニンフォマニア)なることを防ぐために、全力で毒耐性を働かせているのだろう。けれどあまりに強い薬物に、苦しい戦いを強いられているのではないだろうか。

 三吾は唇を噛み締めた。

 奴らに対する殺意が、落ち着きかけた頭を再び燃えあがらせる。


「それと、一応伝えておくけど、最後まではされてなかったわ。ギリギリで間に合ったんだと思うけど」

 アルバと三吾が飛び込んだ時が、直前だったという事だ。あと数分でも遅かったら、と思うとゾッとする。

「・・・・それは、まぁ・・・よかったな」

 ホッとしたように肩の力を抜いて呟いたゲンに、ルビーは怒鳴った。

「良くなんて、無いわよっ!」

 拳を握り締め、自分の旦那に食って掛かる。

「攫われて、クスリ使われて、殴られて、服を破かれて・・・体を嬲られて、それでも『よかった』なんて言えるのっ!」

「うっ・・・すまん。その通りだ・・・言葉を選び間違えた」

 ついホッとしてしまって、口から零れた。

 ゲンは、自分の女房に向かって深々と頭を下げた。素直に非を認める旦那に、ルビーは肩で息をしながら吐き捨てるように言った。

「デリカシーが足りないわ」

 それでも何とか気を落ち着かせ、今度は三吾に向かって告げる。

「さっき頭を冷やせって言ったけど、それは我慢しろって言う意味じゃないからね。怒りも涙も、吐き出しちゃった方が良いのよ。だから1人になれって言ったの。それで落ち着いたら、何が彼女のために出来るかを考えればいいわ」


 ゲンは仕事の続きをするために、兵舎に戻った。三吾もルビーに言われた通り、2階に上がる。

 それを見届けて、ルビーは寝室に戻った。


 エルオリーセは、ベッドに起き上ってこちらを見ていた。

「エルちゃん、起きてたの」

 ルビーは彼女に駆け寄ると、その頭を胸にしっかりと抱きかかえた。

「・・・つらい目に遭ったわね」

 優しく囁くように呟き、小さな頭をギュッと胸に押し付ける。


「何で、女ばかりこんな目に遭うのかしらね。・・・そりゃ男だって、女から暴行されたり男同士でも被害を受けたりすることもあるだろうけど、女の方が数が多いわ。不公平よね」

 ルビーは独り言のように話し続ける。

「力で勝る男が、しかも3人掛かりであんなことするなんて、あのクソクズ野郎たちの玉と竿を引きちぎって去勢してやりたいわよ」

(・・・あ、玉と竿って、そういう意味か)


 寝室のドアが開いたままだったので、エルオリーセは話し声で目を覚ましていた。ルビーの『玉と竿』あたりの台詞から聞き取っていたが、何の事かと思っていたのだ。

(姐さん、2回も言うなんて・・・)

 本気でやりたいと思っているのか、やったことがあるのか。

 大きな鋏を振りかざして、男の胸倉をつかむルビーの姿が頭に浮かぶ。

「・・・・クスッ・・・」

 エルオリーセは、つい小さな笑いを零してしまった。

 それまで強張っていた身体から、すぅっと力が抜けてゆく。

 ルビーは、漸く腕の力を緩めた。

「手当や処置は、アタシがしたから・・・今、痛いところやツライところはある?」

 エルオリーセは、緩く頭を振った。

「・・・だい・・・じょうぶ・・・ありがとうございます、ルビー姐さん。姐さんが助けてくれたの?」

 まだ身体はツラそうだが、気丈に声を出していた。

「ううん、助けに飛び込んだのは三吾とアルバよ。旦那から聞いたわ」

(・・・彼に・・・見られたんだ)

 エルオリーセは、再び身体を固くした。クスリを使われた後のことは、断片的にしか解らない。彼らが飛び込んできた時のことは、全く覚えていなかった。


「凄かったんだって。三吾は奴を絞め殺そうとしたみたいで、アルバは狂犬みたいだったって」

 1人と1匹を引きはがして落ち着かせるのは、大変な苦労だったようだ。

 三吾とアルバの様子を詳しく聞いて、エルオリーセは申し訳ない気持ちでいっぱいになる。あんな凄惨な現場に飛び込んできた彼らの衝撃は、計り知れなかっただろう。

「・・・三吾は?」

 ベッドに上半身を乗せ、心配そうに見詰めるアルバに手を伸ばし、エルオリーセは尋ねた。

「2階に隔離してるわ。エルちゃんが、会ってもイイって言うなら呼んでくるけど、アタシとしてはもう少し落ち着いてからの方が良いと思う」

 エルオリーセの方も、まだかなりツラそうな様子だ。


 自分でも、もう少し回復してからの方が良いような気がする。

 エルオリーセは、ルビーの言葉に従って横にならせてもらった。



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