喪失
受付には一人の女性警察官が立っていた。
「どうされましたか?」
『あの…町井さんに呼ばれて来ました。冬美です。』
「冬美さんですね。少々お待ちください。」
内線電話を掛ける声だけが静かな受付に響く。
しばらくすると奥の通路から一人の男性警察官がこちらへ歩いてきた。
四十代くらいだろうか。
昨日、電話越しで話した町井さんだった。
「冬美さんですね。私、町井と申します。」
『はい…。』
「お越しいただきありがとうございます。」
町井さんは一度だけ小さく頭を下げる。
その表情だけで、僕は察してしまった。
何も言われていないのに。
言葉にされていないのに。
「こちらへ。」
町井さんの後を黙って歩く。
廊下を進むたび、胸の鼓動が早くなる。
通された部屋には机と椅子だけが置かれていた。
「まずはこちらをご確認ください。」
机の上に透明な袋が三つ並べられる。
父親の財布。
母親の指輪。
弟がいつも首から提げていた青いキーホルダー。
見間違えるはずがなかった。
全部、身に覚えがある。
『………。』
声が出ない。
「こちらは事故現場で回収されたご家族の所持品です。」
町井さんの言葉が遠く聞こえる。
頭の中が真っ白だった。
「冬美さん。」
『……はい。』
「大変お辛いとは思いますが、ご家族の確認をお願い出来ますでしょうか。」
確認。
その二文字が胸に突き刺さる。
確認しなければならない。
違うと言いたい。
違っていてほしい。
でも、机の上に並ぶ三つの袋は
もう答えがでていた。
町井さんが静かに立ち上がる。
「こちらです。」
僕は震える足で立ち上がった。
一歩。
また一歩。
冷たい廊下を歩いていく。
そして、一枚の扉の前で町井さんが立ち止まった。
「……失礼します。」
静かに扉が開く。
部屋の中央。
白い布が掛けられた三つの台。
僕の視界が揺れた。
「ご確認を……お願いします。」
町井さんの声が聞こえた気がした。
僕はゆっくりと、一番手前の白い布へ手を伸ばした。




