みちのり
警察署までの道のりは長く感じた。
家から徒歩で行ける距離ではないため、タクシーを拾うことにした。
手を挙げて止まったのは、個人タクシーの少し年式の古い車。
車内から流れるラジオでは昨夜の事故について繰り返し報道されている。
『昨日午後七時過ぎ、金葛市駅前で建設中のビルから鉄骨が落下し、走行中の車数台に直撃しました。警察によりますと死亡した三名の身元が判明し──』
僕は咄嗟にラジオの音量を下げて欲しいと運転手へ伝えた。
これ以上聞きたくなかった。
聞けば聞くほど現実になってしまう気がしたから。
運転手は少し不服そうにラジオの音量を下げた。
少し前のめりになった上体を背もたれに移し、僕は窓の外を眺める。
昨夜まで安心する地元だと思っていた街並みが今日は色を失って見えた。
信号待ちをしている学生。
手を繋いで歩く男女。
買い物袋を抱えた親子。
どこにでもある日常。
なのに僕の日常だけが、昨日で終わってしまった気がした。
「お客さん、大丈夫ですか?」
運転手の声で我に返る。
『えっ…。』
「顔色、なんだか悪いですよ。」
『あ…大丈夫です。』
そう答えたものの、自分でも大丈夫じゃないことくらい分かっていた。
手の震えは止まらない。
何度思考を切り替えようとしても落ち着かない。
運転手も心配そうにこちらをミラー越しに見つめていた。
携帯を握りしめると画面が光った。
龍介からだった。
(今どこだ?)
たった一言。
返信しようと文字を打つ。
(警察署‥)
そこまで入力したところで手が止まった。
何て書けばいいんだろう。
何を伝えればいいんだろう。
家族が死んだかもしれない。
いや、まだそう決まった訳じゃない。
気が動転している。
僕は文字を消して携帯を閉じた。
考えたくなかった。
考えてしまえば、本当にそうなってしまう気がしたから。
「お客さん、着きましたよ。」
タクシーを降りると目の前には、金葛第一警察署。
昨夜まで縁の無かった建物。
ほとんど、来ることのない場所。
足が動かない。
ここへ入ってしまえば、もう後戻りは出来ない。
そんな気がした。
深く息を吸い、ゆっくりと警察署の自動ドアをくぐる。




