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第九話


晩餐会の時間までまだ少し時間があり、アーシェラとクロードは応接へと案内された。


「あら、アーシェラ!」


「まあ、ジュリア」


部屋に入るとジュリアが座って紅茶を飲んでいた。まさかこんな場所で会うとは思っておらず、アーシェラもジュリアも驚いた。


「貴女もミシェル侯爵に招待されていたのね。驚いた。でも会えて嬉しいわ」


「私もよ。貴女の家の夜会以来ね。そのドレス、良く似合ってるわ」


本日のジュリアは落ち着いた臙脂色のドレスだった。ただ、デザインは流行を取り入れており、一見地味に見えそうなものだが少女らしい意匠が凝らされていて、普段より少しだけ大人っぽいジュリアがそこに居た。

対するアーシェラは桔梗と合わせるように紫を基調としたドレスである。年頃の少女にしてはシンプルなデザインだが、逆にアーシェラの落ち着いた雰囲気によく合っていた。


「ありがと。アーシェラも素敵。・・・ところでそちらはどなた?」


アーシェラの横に居たクロードをジュリアは見上げた。


「あ・・・この方は、クロード様・・・クロード・ノイン伯爵よ」


「初めまして、レディ。クロード・ノインと申します」


腰を折ってクロードが挨拶すると、ジュリアも完璧な淑女の礼を返した。


「初めまして、ノイン伯爵。カール・オレガノ公爵の娘でジュリア・オレガノと申します。あの、失礼を承知でお聞きしますけど、アーシェラとはどういう・・・・?」


キラキラと、好奇心一杯という瞳でジュリアはクロードを見上げた。

アーシェラはクロードのことを聞かれたらどう紹介しようかと考えていたつもりだが、いざその場になるとうまく言える自信が無かった。けれど、そんな心配をよそにクロードは自身のことをすらすらと答えた。


「森の国からこの国に遊学に来ていてね。他国で色んな人の話を聞きたいと思って、先日知り合ったアーシェラに無理を言ってパートナーとして一緒に行動させてもらっているんだ」


「まあ。森の国・・・王太子妃様と同じご出身なんですね。以前授業で習ったのですけれど、とても古い歴史のある森があるとか。こちらには無い種類の植物も多いんですよね。いつか行ってみたいと思いますわ」


「その時は声をかけてもらえば案内させてもらうよ」


社交的なジュリアはあっという間にクロードと親しげに話をし始めた。人見知り気味なアーシェラにはまず真似できない。


「それにしても、アーシェラがパートナーと晩餐会に参加するなんてびっくりしたわ」


「え?」


話を向けられ、アーシェラは目をぱちくりと瞬かせた。


「来るとしたらハーウェイご夫妻と思ってたのだけど、貴女が子爵夫人の代わりに男性と来てるもの」


それは成り行きでこうなってしまっただけである。

けれど、詳しく理由を言うこともできずにアーシェラは曖昧に「そ、そうかしら?」と答えるしかなかった。


「それで、クロード様はアーシェとはどこでお知り合いになったの?彼女ったら普段は領地でこもってばかりだったのに、珍しく王都に来たと思ったらやっぱり子爵様のお屋敷にこもってばかりなんだもの」


「彼女とは先日の第二王子の花嫁探しの舞踏会で偶然出会ったんだ。彼女の身に着けていた花を拾ったのがきっかけでね」


それを聞いてジュリアは驚いてアーシェラを見た。


「あの舞踏会!?アーシェラ、貴女出ていたの?」


絶対に参加しそうにない場に幼馴染が参加していたと聞き、ジュリアはかなり驚いてしまった。

困ったように苦笑し、アーシェラは首を振って答えた。


「叔母様に無理やり参加させられてしまって・・・。でも誰とも踊っていないし、真夜中前には帰ったわ。その途中のお城の回廊でクロード様とお会いしたの」


王子の探す令嬢のことは言わず、それ以外の事実のみを答える。


「月の光の下で見たアーシェラは、まるで氷の国に伝わる妖精のように幻想的で美しかったよ。そんな彼女に無理を聞いてもらったとはいえ、パートナーとなれることはとても光栄なことだよ」


歯が浮くようなことをさらりと言われ、アーシェラは困惑と同時に顔を赤らめた。


「アーシェラはとても綺麗だもの。ノイン様は見る目があるわ」


まるで自分が誉められたように、ジュリアは上機嫌で頷いた。しかし困ったのはアーシェラだ。


「ジュリア・・・私は綺麗なんかじゃないわ。伯爵様もお世辞はやめてください・・・」


俯くアーシェラを横に、ジュリアは困ったようにふぅ、とため息をついた。


「昔からこうなんです。アーシェったら自分のことを蔑んでばかり。ノイン様。もっとアーシェラを誉めてあげてくださいね」


「もちろん。彼女はとても魅力的だからね」


「ジュリア!クロード様も・・・」


灰かぶりの自分が綺麗だなんてとんでもない。確かに見た目はこの国では珍しいだろうが、北の地域へい行くと同じような色合いの人間はたくさんいる。ジュリアとは違い、明るくも無く気の利いた会話も交わせない。俯いていることしかできない自分が魅力的何てとんでもない思い違いだ。


これ以上居たたまれなくなる前に、アーシェラは話題を変えるよう口を開いた。


「そ、そういえばジュリアは公爵様と一緒に?」


部屋にはちらほらと招待客が集まりつつあるようである。

部屋に入ってきた時、ジュリアは一人だった。


「いいえ、違うわ。お兄様とよ」


「兄君?」


クロードの問にジュリアが答える。


「ええ。お父様の代わりに。お兄様ったら他の女性を誘えばいいのに妹の私を連れ出したのよ。全く・・・でもおかげでアーシェにも会えたし、思わぬ出来事もあったし許してあげるわ」


ふふ、と笑いながらジュリアはアーシェラとクロードを意味深に見たが、アーシェラはそれどころではなかった。

ジュリアの兄・・・つまりジルベールがここに来ているのだ。

知らず知らずのうちに、体が強張る。


アーシェラの様子が変わったことに気付いたクロードは声をかけようとしたが、それよりも先に割り込んできた声があった。


「ジュリア」


「あらお兄様。可愛い妹をほっぽって、やっとお戻りに?」


「家からの急の使いが来ていたから応対していただけだろう。・・・アーシェラ?」


ジュリアの傍らに背を向けて立っている少女に、ジルベールは声をかけた。


「今晩は、ジルベール様・・・。先日の夜会以来、ご無沙汰をしております」


アーシェラは体をジルベールに向け、会釈した。


驚いた様子のジルベールだが、すぐにその気配は打ち消された。

気のせいだったのかもしれない。


そしてジルベールは横に立つ男に目を向けた。

見慣れない男であった。


「お兄様。この方が、今夜のアーシェのパートナーのクロード・ノイン伯爵様よ。ノイン様。こちらが私の兄のジルベール・オレガノです」


小さくなるアーシェラをさりげなく庇うように、クロードは一歩前へと踏み出した。


「初めまして。クロード・ノインと申します。どうぞお見知りおきを」


「―――ジルベール・オレガノと申します」


「貴方が彼のオレガノ公爵の自慢の長男殿ですか。お会いできて光栄です」


「自慢などとんでもない。私などまだまだです」


「ご謙遜を。貴方の噂は私の国にも届いておりましたよ。私はこの国へ遊学に来ていますが、ぜひとも色んな話を聞かせてもらえると有難いですね」


クロードの言葉に、ジルベールはああ、と何かに気付いたようだった。


「貴公が今城に滞在中の伯爵でしたか。私などの話でよければいつでもどうぞ。それと、お互い年も近そうだし、堅苦しいのは止めましょう」


「――では、お言葉に甘えて」


にこりと表面上は穏やかに、二人の視線が交わった。


俯いているアーシェラは気づかないが、その様子をみてジュリアは口元を扇子でかくしてひっそりと笑った。


微妙な雰囲気にアーシェラは少々困惑していた。

口を開きかけた時、漸く屋敷の家令がアーシェラ達のいる部屋へとやって来た。


「皆さま、お待たせして申し訳ございませんでした。さあ、こちらの部屋へどうぞ」





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