第九十五話 鷹匠
迂闊に飛行すると、敵に発見されて猛攻撃を受ける。
だが逆に言えばそれは、敵をこちらから探す必要もなく、また攻撃を受けるのが私でなければ何の問題もないという事だ。
つまりだ。飛行装置をデコイにしてしまえば、それに集まった敵を一方的に攻撃できる、という事ではあるまいか?
勿論、いくつか懸念要素がある。例えば、空を飛んでいればなんにでも反応する訳ではないだろう。動力炉の有無か、ある程度の質量か、それは分からないがとにかく条件があるはずだ。しかしそのうち思いつくいくつかを満たす事の出来る都合のいい装備を、私は多数育成している。
設計はさほど難しくはなかった。さくっとカスタマイズを完了し、建造を始めたハンガーをあとにログアウト。
そして翌日、夕飯を食べ終わった私は早速ゲームにログインし、ハンガーで完成している機体を見上げた。
「よしよし……」
ハンガーに座しているのは、スマートなシルエットを持つ中量二脚だ。
今回は本体に特殊な構造はさほど必要としないので、冗長性も考えて極力フレームには手を付けていない。シリーズで統一した、纏まりのあるシルエット。このゲームは自分でカスタマイズする事もあってか、最近はやりのメカデザインみたいにやたらと小さな部品がガチャガチャしないのはやっぱ好きだな。意味のない機構がついてるとイラッとしない?
ただ、原形と大きく変わった所もある。それは左腕を覆うように取り付けられた装甲版だ。一見するとマントかシールドのように見える部品だが、今回はこれこそが重要なのである。
そんでもって武装は、フォトンビーム砲を三連にしたブラスター砲だ。一見すると、三つのレールを持つレールキャノンに見えなくもない。かなり大型の武器で重量もあり、機動戦には向いていない。
そう、こいつは狙撃機だ。この手の機体に乗るのは森以来かな。
「テレサ、プログラムの方は出来た?」
『ばっちりです! お戻りになられる前に、軽くテストもしておきました!』
「おおっ、気が利くね」
流石というか仕事が早い。私がベタ褒めすると、テレサは頬を赤くして照れ笑いした。うーん、可愛い。愛嬌のある美人の笑顔って破壊力あるよね。
まあそう創られたモデルなんだけど。
「それじゃあさっそく出撃しますか! お供頼むね」
『了解しました!』
「よーし、出撃だー!」
という訳で早速工業地帯へ出撃。周囲に敵のいない安全地帯から出撃した私は、早速、この機体のどっきりびっくりギミックを起動した。
「イーグルドローン展開」
『了解、展開用カタパルト起動します』
ガコン、と音を立てて、左肩を覆っていた装甲版が展開する。それは見る間に折りたたまれて翼になり、左肩アーマーの増加装甲が変形して胴体になる。
そうしてマントが姿を変えたのは、鷲型のドローンユニットである。
それをカタパルトレールに乗せて、上空へと射出する。撃ちだされたドローンは、スラスターで少しだけ加速すると、羽ばたくように大空へ舞い上がっていった。
そのドローンからの映像は、もれなくコクピットに展開される。
「おぉ……飛んでる飛んでる」
『10m級の機体を飛翔させるためのスラスターですからね、これぐらいの質量ならどうとでも。エネルギーや動力炉などを本体に依存すればこれぐらい小型化は可能です』
そう。このドローンは、装甲マテリアルや分解したパーツの部品を組み合わせて作ったものだ。扱いとしては機体の強化パーツになる。
変形・分離機構は、以前の合体メガフレームザウルスのノウハウを応用したものだ。制御系も、あの時二つの異なる機体のシステムを統合・分散できるように組んだプログラムが役に立っている。
あれがまた役に立つ事があるとはね。
まあ組んだのはテレサで、私はどういうプログラムが欲しいか指示しただけなんだけど。
「うむうむ。これって上手くすれば、コア●ァイターとか作れたりするのかな」
『? 言葉の意味は分かりませんが、戦闘力のある脱出ポッドや、通常サイズでの変形・分離合体がしたい、という事ですか? どうでしょう、あまり戦術的な意味があるとは思えませんが。強度に保証があるメガフレームでも、合体・分離であれだけ機構が破損するのですから、通常サイズの機体ではそのまま大破してしまうのではないでしょうか』
「むむ。そんなに甘くはないか……まあいいや、今はこっちに集中しよう」
工業地帯の上空に飛んで行ったイーグルドローンが、そのまま滑空しながらぐるぐると旋回する。カメラには、わさわさとメタルインセクト達があちこちから姿を現しているのが見て取れる。一応、ドローンにはプラズマピストルを搭載しているから攻撃できなくもないが、狙いはそっちではない。
視界を本体に戻して周囲を索敵していると、工業地帯の一角から空に舞い上がる機影を確認した。
「よし、飛行型が食いついた」
『狙い通りですね。こちらで回避指示をだします』
「頼む」
がちゃんこ、と三連ビームライフルを構えて、上空に狙いを定める。スコープの向こうでは、イーグルドローンと飛行エネミーが追いかけっこに興じている。背後から放たれる機関砲やミサイルを、巧みに回避するイーグルドローン。すっかり目の前しか見えてない様子の飛行エネミーを、ビームライフルで狙撃する。
上空なら霧の密度も薄い。放たれたビームは狙いたがわず飛行エネミーのどてっぱらを打ちぬき、空中で爆散させた。
「よし!」
狙い通りだ。さらにイーグルドローンを飛び回らせ、つられて出てきた飛行型を撃墜する。空中で互いに激しく動き回っているならともかく、ドローンにつられて単調な動きの飛行物体を撃墜するなんてそう難しい話ではない。
「よしよし」
『一旦ドローンを引き戻しますね』
手元に戻って来たドローンを本体にドッキング。動力源のサブエネルギータンクを交換すれば、再び飛翔が可能だ。機体の状態に問題がない事を確認すると、再び大空に向かってドローンを放り投げる。「よし、次は対地攻撃性能を確認する」
『了解しました』
テレサからドローンのコントロールを受け取り、画面に大きく映像を投影する。その間、機体を動かすのはテレサだ。操縦に夢中になって敵の奇襲を許すなんてヘマは二度としないぞ。
「思ったより素直に動くな」
『推力に余裕がありますからね』
加速力も小回りも及第点以上だ。ひゅいん、と建物の陰に回り込み、そこでたむろしているメタルインセクトに狙いを定める。
「発射!」
搭載されていたプラズマピストルが火を噴く。暴発防止にバレルを改良した小型プラズマビーム砲の一撃は、狙いたがわずメタルインセクトを撃ち抜き大きなダメージを与えた。だが……。
「流石に一撃とはいかないか」
『地表は霧が濃いですし、それに飛行能力を損なわない程度の武装となると、やはり限定されてきますね……』
重量だけならビームカービンも悪くなかったのだが、あれは消費ENがな。ドローンの動力を搭載した小型のサブエネルギータンクだけで済まそうとすると、プラズマピストル以外を搭載する場合そこそこ重たいキャパシターを噛ます必要がある。そうなると本末転倒になってしまう。
やむを得ないか。
「本体との連携で仕留める。テレサ、頼む」
『了解しました!』
私の指示に、テレサが機体をコントロールする。自分以外の意思で機体が起き上がるのをなんだか不思議な気分で感じながら、私はドローンの操作に専念した。
ドローンの高度を上げると、それを追ってダメージを受けたメタルインセクトが追いかけてくる。それに連動して、周囲の敵も一斉に、届かないドローンを追い回す。
そのまま俺は、意図的にドローンに手が届きそうな高さの建物に敵を誘導。まっしぐらに追いかけてくるメタルインセクト達は、ここからなら届くと思ったのだろう、一斉にビルによじ登り始めた。
それがこちらの狙いだと理解せずに。
『撃ちますねー』
そこを、テレサがビーム砲で撃ち抜く。地上付近と違って、高い建物の上は霧が薄い。自ら不利な領域に出てきてしまったメタルインセクト達を、ビーム砲の速射が次々と撃ち抜き撃破していく。多連装ならではの連射で、ビルによじ登っていたメタルインセクト達は瞬く間に数を減らしていった。
半分ほどになってようやく状況を理解したのか、そこでようやく連中は追跡を諦めた。すごすごと霧の中に戻っていくエネミーを尻目に、エネルギー容量一杯まで使って飛翔していたドローンが戻ってくる。
ガチャン、とドローンのドッキングを確認して、私は機体を立ち上がらせた。
「ポジションを変えよう」
『了解です』
ずっと同じ所にいるのは危険だ。安全な場所を求めて、私達は建物の屋上から屋上へ飛び移るようにして、敵の反応がない場所を探して移動した。
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