第九十四話 ブルー・ブルー・ブレイカー
「やったね!」
『やりましたね!』
敵機撃墜に、後ろの席のテレサとハイタッチを交わす。
それはそれとして、確認のために操縦桿を傾けてぐるりと旋回。
墜落地点を確認すると、工業地帯の合間にある広場に小さなクレーターが確認できる。その中央からは黒い煙が今も立ち昇っているが、既に敵は爆散してしまったのか残骸は確認できない。
どうやら、合体してリベンジしてくるとかそういうのはないようだ。
「あれだけで撃破できたって事は似ているだけでボスじゃなかったか……」
ちょっと残念なような、肩すかしのような。
だがそれもまあ、勝ったからこその話だ。
もしドッグファイトで負けていたら今頃ホームでぐちぐち言っていたのは違いない。
しかし……。
「雑魚だったとしたら、どうして今更湧いて来たんだ? 工業地帯は割と長い事うろうろしているけど、あんなのに遭遇したのは初めてだったぞ」
『……あの。もしかしたら、なんですけど』
「ん? テレサはわかるの?」
背後からの声に振り返る。テレサはちょっと硬い表情で『推測ですけど』と前置きして考えを口にする。
『その。こっちが飛行しているからじゃないでしょうか。そんなに速度も出せないし、高度も取っていないから、地上にいるメタルインセクトからもこちらはよく見えるのかも……』
「む。それは確かに」
『それでその。それを考えると、中途半端に飛ぶのはむしろ危険なんじゃないかな、って気がしてきまして……』
どうやらそのようだった。
テレサの言葉を証明するように、先ほどと似たような反応が三方向から迫ってきている。いずれも高速で空中を移動している……間違いない、さっきの雑魚の同類だ。
流石に三対一は無理である。
「地上に降りて隠れる!」
『は、はい!』
大慌てで高度と速度を落とし、脚部を展開する。地上付近で足を出した途端、揚力が不意に途絶えてストンと機体が落ちた。
ガァン、と甲高い音を立てながらもなんとか着地し、翼を折りたたんで建物の間に身を隠す。
上空を、スラスターの尾を引きながら飛行型の敵が通り過ぎていく。どうやら彼らはこちらを見失ったようだ。ただでさえ重金属の霧が立ち込めている工業地帯だ、一度地上におりて隠れてしまえばそうそう上空からはみつからない、はずだ。
「ふぅ……なんとかなった。しかし、下手に飛ぶと危ないというのは盲点だったな」
『省エネで飛行時間を伸ばすという発想は間違っていないとは思うんですけどね』
「まあ、仕方ない。何事も試行錯誤さ」
うーん。大空を飛ぶのは割かし気持ちよかったんだけどなあ。
まあ、でもこのゲームは基本的にメタルインセクトに占領されてる領土を活動するともいえるし、敵の占領区の上をのんびり飛んでたら袋叩きにされて当たり前か。ゲーム的にもそんなに飛行型が強かったら、上空を飛んで只管空爆するだけのゲームになっちまうだろうし。
やっぱ基本的には結構考えられて作られてるよね。なのにビーム系の扱いがアレなのはちょっと解せないが、そんなに厄介なバグなのかな。
「ま、不便な仕様を抱えたまま修正できずに10年以上続いてるゲームもあるし、今更と言えば今更か。……ん?」
と、そこで、私はようやく、周囲から聞こえてくるガチン、ガチン、という音に気が付いた。
人間の本能的な恐怖をあおるような威嚇音。立ち込める霧の向こうから、黒いシルエットがジリジリと距離を詰めてくる。
ものすごく見覚えのあるシルエットだ。
「……あー……。お前らが居たなあ……」
ちょっと現実逃避混じりでぼんやりとぼやく。
そう。次々に姿を現すのは、工業地帯の肉食甲虫型メタルインセクト。
それも数がちょっと尋常じゃなく多い。あれかな。空を飛んでる時にかたっぱしからアクティブ状態にしちゃったのかな、あははは……。
『あわわわわ……』
「……撤退!!!」
後ろの席から聞こえてくる悲鳴をBGMに、私は力の限りを尽くして逃亡を図った。
『な、なんとかなるもんですねぇ……』
「正直デスルーラになるかと思ったよ」
ボロボロの機体でなんとかホームに辿り着き、私達はへなへなと床に座り込んだ。
見上げるアズールブレイカー2はボロボロのメタメタである。折りたたまれた翼は散々齧られて砕けた枯葉みたいになっているし、何度も格闘戦でプロペラパンチを繰り出した両腕は根本からへし折れている。青く塗られた塗料も禿げ禿げで、今はなんかもう銀色の下地が見えてる所の方が多い。
スクラップ寸前といっていいだろう。
それでもまあ、あの数のメタルインセクトから逃げ切れたというのは、私自身ゲームが上手くなったなあ、とちょっとぐらい己惚れてもいいだろう。
それにしても思わぬ落とし穴である。これまでだって飛行はしてたのに……とはいうものの、あくまで短時間でそれも最後には墜落してたような気がする。もうちょっと順調だったら今回みたいにボコボコにされていたのだろう。というか墜落した後即座に追撃受けてたのこのせいだな??
「しかし、うーん。飛行型ってのはもっとはっきりコンセプト決めないと運用は難しそうだなあ」
『メリハリがいる感じですね。長距離の移動用として割り切るか、あるいは瞬時に勝負を決める為の切り札か。そんなところでしょうか』
「そうだなあ……」
思い返せばトーナメント予選で機動要塞にカチコミかけてきたアーマーキャリア、あれは敵前線基地の対空装備を強引につっきって乗り込む為の増加装甲みたいな運用だったのだろう。強力なビームソードを装備した機体を無傷で敵地に送り届けられればそれでいい、という割り切りを今なら理解できる。
しかしながらそれが生きるのは対人戦であって、オフライン環境故に基本メタルインセクトを狩る事になる私の事情を考えると、そんな短時間にリソースを吐き出しつくすような運用は相性が悪い。
諦めるか?
しかしなあ。せっかく面白そうな事が出来たのに、一度の失敗で諦めるのもなあ。
「ううーん。あくまで一撃離脱に特化するか? しかしいう程速度でないし、それならスラスター装備すればいいし……。そもそもいつどこから沸いてくるかわからないメタルインセクト相手に、常に先手をとれるとは限らないし……」
『ううーん、ううーん……難しいですねえ……』
二人一緒に頭を捻る。
敵に見つかるのが問題なら、ステルス機能があればいいのか? いやでも、このゲームそんなもん実装されてたっけ? 少なくとも、カタログを見る限りではそういうものはない。
というかPVP推奨ゲームでそんなのあったらぶっ壊れもいいところだしな。
ううーん。
……こういう時は、逆に考えるんだと誰かがいっていた。
敵に察知されて袋叩きにされるなら、察知されてしまえばいいんだ。囲まれるなら、それを逆に利用する。敵が向こうから集まってくるんだから……でもそれをどうしろっていうんだ?
「…………あっ」
『何か閃きました?』
「ちょっと思ったんだけど。こういう事、できる?」
私は考えを纏めぬまま、とりあえず思いついた事をテレサに説明した。
話を聞いたテレサはちょっと考えて……。
『……出来る、とは思います。はい、そうですね。可能です! そのためのノウハウもこれまでで蓄積してますし……』
「まじか!」
『ええ、はい! ちょっと制御プログラムを組む必要がありますので、少しお時間を頂ければ』
心強いテレサの言葉に方針は決まった。
そうと決まれば早速、ビルド開始だ!
「いよーし、楽しくなってきたぞ!!」
『はい! 私もお役に立ててうれしいです!』




