第九十三話 ドッグファイト!
流石に航空機のテストに地下世界は狭すぎる。
出撃場所を工業地帯のホームに変更し、リフトで地上に出る。
白い霧が立ち込める工場も久しぶり……いやそうでもないな。密度が高いからそう感じるだけで一週間もたっていないはずだ。
「よし。早速飛行テストだ」
『はい! バランス調整はまかせてください』
「はは、頼むよ」
プロペラエンジンに火を入れる。バルッバルルルル、とプロペラが回転を始め、高速回転に至ったところでエネルギーの消費を確認。
やはりタービンと同じでほとんどエネルギーを喰わない。ただし、これだけではかなり推力が不足している。このまま飛び立つ事はできそうにない。
ま、それは予想済みだ。
「うーし、このまま加速して離陸する」
逆間接の脚力を生かし、道路を滑走路のように疾走する。メーターを見ると、瞬時に移動速度は100キロに到達した。いつぞや作ったお手製の逆間接擬きよりもかなり姿勢も安定している。やはり餅は餅屋なんだなあ。
そして十分に加速が乗った所で、大ジャンプ! 関節を折りたたむように深くしゃがみ込み、大空に向かって跳躍する。
「このまま飛べるか……?!」
脚部を折りたたんで空気抵抗を減らし、代わりに折りたたんでいた翼を広げる。翼が風を受けて機体が軋み、プロペラが唸りを上げた。
どんどん下がっていく高度。地表が近づいてくるのを見て、駄目か、と諦めが頭をよぎった瞬間、高度計の減少が止まった。
「!」
ぐ、と操縦桿を引く。機首を上げたアズールブレイカー2が、ぐんぐん高度を上げ始めた。瞬く間に地表は遠ざかり、白い霧に包まれた工業地帯の全貌が見渡せるようになる。
成功だ。
「よっしゃ、飛んだ!」
『やりましたね!!』
後ろの席のテレサとハイタッチを交わしながら、ゆるく機体を旋回させる。
速度計を見る限りだと、大体出ている速度は400キロぐらいか? レシプロ機としてもかなり遅い気がするが、サイズや質量を考えるとこんなものだろうか。
どちらにしろ陸戦機体よりははるかに速い事に変わりはない。
風防越しに風景を楽しんでいると、白い霧の中にいくつかのターゲットマークが浮かび上がった。
メタルインセクトの皆さんである。
飛び掛かっての白兵戦を得意とするゴミムシ型メタルインセクト達だが、相手が宙を飛んでいてはどうしようもないようだ。見上げるような仕草をするだけで、襲い掛かってくる様子はない。
「よし、試し撃ちと行こう」
機体後部のレールにマウントしていたビームキャノンを立ち上げる。同時に射撃の為に速度と高度を下げる。
「発射!!」
ブォン、と放射されるピンク色のビーム。反動で機体が傾いて、慌ててバランスを立て直す。プロペラ機は推力が低いから、ビーム砲の反動も誤魔化しづらいか……。
一方、放たれたビームは狙い通り、照準していた敵を一撃で撃破した。爆発と共に木っ端みじんに消し飛ぶ残骸を見送り、機首を上げて高度を取る。
安全圏に離脱しながら、機体のコンディションをチェック。
「不具合はないな。ただ思ったよりも反動が大きかったか」
『攻撃出力は30%ぐらいで十分でしたね。調整します』
「頼む。あとは……サブエネルギーの回復具合だが」
ゲージを見るが、以前はビーム砲を打てば目に見えて回復していたサブエネルギーも、対して回復しているようには見えない。調整の結果、一発撃つ度に全体で1割ほど使えるエネルギーが増えれば御の字、といったところだろうか。まあそれでも弾数に制限がない事を考えれば、トータルで見ればかなりの回復は見込めるけども……それでもやっぱり、かつてを知っていると物足りない。
「まあ、しょうがないか。ビーム砲の冷却は……お?」
ヒートゲージの残量を確認して、私は少し違和感を覚えた。
「……冷えるの早くない?」
今回搭載したのは、いつぞや森での狙撃に愛用していたモデルだ。比較的軽量でバランスが良いので、とりあえず、で搭載するには都合がいいのである。バーニングスフィンクスの副砲とか、機動要塞の副砲とかにもこれを採用していた。
で、多用しているので肌感覚で冷却性能も大体は把握している、と思う。それと比較すると、どうにも冷えるのが早い気がする。
「テレサさん、どう見る?」
『ええと……あ、確かに冷却が早いですね。何か外的要因が……ああそうか、上空の空気は冷たいから……!』
言われて私も理解する。
プロペラ機は断熱圧縮が生じるほど速度が出ないし、エンジンの性能にもよるが発生する熱量は低い。その上でさほど高度は取れないとはいえ寒い上空を飛行するのだから、ビーム砲も地上より冷却性能が高くなるのは自明の理だ。
あるいは風を浴びせるのが重要な点か? あくまでゲームだから、100%現実のそれを反映しているという訳でもないだろうし。
どっちにしろこれは嬉しい誤算だ。
冷却が早いならビーム砲も多用できる。
「よーし、次のターゲットを狙い撃つぞ……って」
『ありゃ。隠れちゃいましたね』
テレサの言葉通り、こちらに攻撃が届かず一方的に攻撃されると判断したのか、メタルインセクト達は次々と建物の影に姿を消していく。さすがに、あの路地裏にこの機体で飛び込んでいくのは無謀にも程がある。
まあ問題ない。この機体の機動性なら、まだこっちに気が付いていない敵を強襲するのも容易い。
プレイヤーとの闘いを考えると速度不足だが、メタルインセクトを狩るガンシップとしては十分な速度がでている。
旋回しながら、工業地帯の側面に回り込む。
すぐに、まだ隠れていない敵の姿が露になった。
「よし。今度は調整したビーム砲で連続撃破だ」
『……! いえ、まってください……センサーに感! 9時方向から高速飛行物体が急速に接近中!』
「何!?」
テレサの警告に左を見る。霧に包まれた工業地帯……その覆いを突き破るようにして、一機の敵反応が上昇してくる。
慌てて高度と距離を取るこちらを追うように飛び上がってくる黒い機影。
スラスターの光を引いて飛翔するそれは……。
「合体ボスの上半身?! 他にも居たのか……」
『気をつけてください、データを見る限り、あちらの方が早いです!』
「こなくそ!」
慌てて尾翼を敵に向けて、全速力で離脱を試みる。だが、テレサの言う通り、相手の方が早い。レーダーに映る敵の反応が、どんどん距離を詰めてくる。さらにコクピットに響く警報。
『ロックオンアラート、狙われています!』
「ええいくそ!」
機首を下げて、落下速度を加算してターンする。間一髪で敵の機関砲が機体のすぐ横を掠める。だが警報はまだ消えない、敵の発射したミサイルがこちらを追いかけてきている。
「ちっ!」
咄嗟にビームキャノンを背後に向けて、ミサイルを薙ぎ払う。続けて敵本体も狙うが、高速で飛翔するビームを敵はひらりと回避してのけた。
「ビームを回避しただと!?」
『いえ、今のはこちらが外したともいえます! お互いが高速移動しているせいで、相対距離の複雑な変化をFCSが制御しきれてないんです!』
「ああくそ、そういえばそれが理由で可動式の銃座って廃れたんだったな!!」
現代の戦闘機でも、機銃やガンポッドが固定式の理由でもある。一概に射角が取れれば当たるというものではないのだ、航空戦は。
だが、このままではこちらが不利だ。後ろを取られている以上、あちらが有利な事は変わりない。
『敵機、どんどん接近してきます! 至近距離で確実にこちらを撃破するつもりのようです、逃げ切れない!!』
「……ふむ」
背後でテレサがきゃあきゃあ悲鳴を上げているおかげで、逆にこっちは冷静に考える事が出来た。
互いに命中率が心もとないのは事実。ならば、むしろ敵が近づいてきた所で撃ち返すか? いや、それだと勝率は文字通りのイーブンだ。出来るだけ、こちらの勝率を上げる為にはどうすればいい?
簡単だ。こっちが相手の後ろを取ればいい。こちらと違って、あっちは真後ろには多分撃てない。
そのためには……。
『敵機、後方100mを切りました! 駄目ですぅ、この距離だと攻撃を回避できません! あわわわわ……』
「いや。これぐらい近ければ……!」
変形ボタンを押し込み、折りたたんでいた脚部を展開する。空気抵抗が爆増し、速度が急激に低下。
所謂オーバーシュートという奴である。急激に減速したこちらに対応できず、敵機が勢いあまって追い抜いていく。
敵の背中が正面に来る。そのタイミングを逃さず、引き金を引く。
「喰らいな!」
ビームバルカンを掃射。機首に仕込まれた一対のビーム発振器が最大出力でフォトンビームを連射し、敵の装甲に穴を穿つ。
「よし!」
攻撃の成果を確認する暇もなく、再び足を折りたたんで速度を上げる。急がないとこっちも失速してしまう。
安全域まで速度と高度を上げて、改めて敵の状態を確認する。
たった六発のビームでHPが全部消し飛ぶという事はなかったが、どうやら一発がいい感じにスラスターに命中したようだ。高度を下げていく敵の背中がボン、と煙を吹き、バランスを欠いた敵がくるくる回りながら墜落していく。
そして、地面に激突。
その衝撃でHPバーが砕け散り、敵の撃破報告がコクピットに届いた。




