第九十二話 襷にちょうどいい
その日の仕事帰り、私は久しぶりにホビーショップを訪れていた。
相変わらず常連とのお喋りに夢中な店員の横を通り過ぎて壁際のプラモデルコーナーへ。
そこに並んでいるロボットプラモデルのパッケージをぼんやりと眺める。
「んー……」
こうしてみると、本当に色んな種類がある。年代もバラバラだ。
そして何十年も昔の作品が最新キットとして発売されたりもするから、プラモデルというのは面白い。ぼんやり眺めていると、3段変形するロボットの固定モデルの新作が出ているのが目に入った。
変形を売りにしているのに固定モデルというのも変な話だが、基本的に変形ロボットはその形態ごとに嘘が入る。そもそもその辺りのリアリティを重視するようになったのは最近の話で、昔から変形ロボは変形するという概念が重要であり、その辻褄合わせは枝葉なのである。
まあ私はその辺ちゃんとしてる作品が好きだけど。
航空機モデルで固定のキットを眺めて、隣の棚に目を向ける。そこではちょうど新発売されたアサルトコアの新作プラモデル……の発売を告知するラミネートカードだけが虚しく棚に飾られていた。肝心の商品は跡形もない。
「へえ、逆間接のキットが出てたのか。まあ買えないなら興味ないけど」
しげしげと眺めてから、ふと思いつく事があって再び視線を元の棚に戻す。
航空機。逆間接。
「……閃いた!!」
私はアイディアの補完のためにミリタリープラモのコーナーに向かった。確かあっちにプロペラ機のキットも多数飾られていたはずだ。
そんなこんなで、帰宅してビルドロボオンラインを立ち上げてログイン。
ホームに帰還すると、テレサが明るい顔で声をかけてくる。
『あ、お帰りなさい、ショウさん』
「ただいまー。悪いけどすぐにやりたい事があるから、話は後で」
テレサへの挨拶もそこそこに、さっそくカスタマイズ画面に取り付く。アズールブレイカーの設計を一旦バラして、新たにパーツ単位で選定する。
ひょこ、と横からテレサが覗き込んできた。
『新しいコンセプトの機体ですか?』
「そうそう。せっかくビームが軽くなったんだから、機動性に思い切り振ってみようと思ってね」
『機動性ですか。でもプラズマジェットエンジンは大幅に推力が下がってしまいましたよ? スラスターを用いた高機動タイプの機体にするんですか?』
まあ、問題はそこなんだよね。
確かに調べてみた感じ、スラスターを用いた飛行機型の機体が居ない訳ではない。だが基本的に、このゲームは永続的に飛行できるようにはできていない。
色んな武器スキルのサブエネルギー回復スキルを集めてきて補助しても、ずっと飛ぶことは不可能だ。大抵、武器と引き換えにサブエネルギータンクを増設したり、他の機体を乗せてそちらからエネルギーを分けてもらったりと色んな手段で飛行時間を伸ばしている。
それに、飛行型はどうしても軽量化しないといけない。そのため武装どころか汎用的な作業が出来るアームとかも省略されがちで、特化した機体になりがちだ。
が、そこはもちろん考えがある。
「いや。飛行にはスラスターは使わない。今回はプロペラで飛ぶレシプロ機タイプにしようと思う」
『レシプロ機ですか?! ……ああいや、意外とありかも……?』
「おっ、話が分かるじゃないか。で、どうしてありだと思うんだい?」
カスタマイズの手を停めずにテレサに問いかける。AIといっても彼女のそれはそこそこ出来がいいから、無計画に使用者に賛同した訳ではないはずだ。
私の問いかけにしばし考え込んでから、テレサは答えた。
『……かつて航空機、特にジェット機は人類の兵器において間違いなく最強の座に君臨していました。それは超音速で高空を飛行するジェット機を捕らえる手段に乏しく、一方であちらは高性能なレーダーで地上の標的を補足し、一方的に大火力の攻撃を仕掛ける事が出来たからです。移動速度も比較になりません。ですが、この惑星ではそれが生かせません』
「うん、そうだね」
『航空機は基本的に、自分より圧倒的に数が多い相手と戦うようには作られていません。この惑星の支配者はあくまでメタルインセクトであり、人類はごくわずかに過ぎません。空を飛んでも、相手にしなければいけない敵はあまりにも多く、また惑星の特殊な磁場などの影響で長距離レーダーはどうしても精度が大幅に落ちてしまいます。メタルインセクトが地形に潜んでいる事もあり、彼らと戦うには航空機は“帯に短く襷に長し”と言わざるをえません。ですが、レシプロ機なら話は変わってきます』
そう。メタルインセクトは現実でいえば、戦車や戦闘機というよりもドローンに近い。こちらを十分に破壊できる攻撃力を持ちながら、耐久性に乏しい代わりに数がやたらと多い。まあ一部例外はいるけども。
『レシプロ機の最高速度、積載可能質量、共にジェット機に到底及びません。ですが、エネルギーを節約し、低空を低速で移動し、自分よりも低速の対象を補足するには十分です。……いかがでしょう、及第点ですか?』
「パーフェクトだウォ〇ター」
『私はテレサですよ???』
おっとこのネタは通じないか。
まあとにかく、必要な事は大体テレサが言ってくれた。そもそも、このゲームの飛行機体は音速以上で飛べないから、レシプロ機だってそんな極端に遅い訳でもない。
そんな感じで、おしゃべりしている間に機体も完成。
早速、高速修理チケットを使って機体を建造する。ガコン、と迫り出してきた3Dプリンターが爆速で機体を作り上げて、その雄姿を私は下からしげしげと眺めた。
まず目につくのは、獣を思わせる筋肉質なシルエットの逆間接脚部だ。逆とはいうけど正確には関節が一つ増えている、というのが正確な表現だろうか。それにより駆動モーターが増えており、構造もあって高い脚力を誇る。走ったり飛んだり、機動力にすぐれた脚部だ。その反面重量が増える事と挙動に癖がある為、単純に通常脚部の上位互換ではないというのが肝である。
そしてそれ以外の部分は、まあ一言でいうとプロペラ航空機である。鋭くとんがったコーン状の機首こそジェット機らしいが、その左右には折りたたまれた大きな翼。そしてその翼にはそれぞれ、プロペラエンジンが搭載されている。構造的には腕の制御系をエンジンに使っているので、まあ最終手段としてプロペラパンチとかもできなくもない。
そういや友人がプロペラ流用したブレードなんか愛用してたっけ。今思い出したが無意識に影響うけてたかな。
そんでもって肝心の武装は、機体後部に大きく突き出した尾翼につながるパーツ、そこに設置したリング状のレールにマウントしている。
今回搭載したのはフォトンビーム砲。重量そこそこで射程も長いこの装備は空中から地上の敵を狙い撃つのにぴったりだ。あと、フォトンカービンの機構を分解して取り出したものを機首にビームバルカンとして搭載している。
「よしよし、良い感じだ」
『完成しましたね! ……えっと。その。この機体に私は……?』
ちょっともじもじしながら問いかけてくるテレサに苦笑する。このやりとりも毎度の流れになってきたなあ。
「勿論、補助席もあるから乗っていいよ」
『そうですよねー、私はおとなしく留守番……え? いいんですか!?』
「いいともいいとも。ただし、パラシュートとかはちゃんと装備してね」
少なくともお手製ジェットエンジンで空を飛ばすとか、いつ爆発するか分からないプラズマビームを抱えて出撃するよりは安全だろう。
別に私だって彼女をハブにしたい訳ではない、思い付きの欠陥機の自滅に巻き込みたくないだけである。
『も、勿論です! 準備してきますね!!』
「はいはいー」
とととと、とどこかに走っていくテレサを見送って、はたと首を傾げる。
準備?
お金とかはこっち管理だけど……まあ彼女も何かしらで報酬があるのかもしれないな。複座の時の撃破報酬ってもしかして彼女にも入ってる? もしそうなら、これから出来るだけ一緒に連れて行ってあげた方がいいのかもしれないな。
「……ふむ。プレイヤー用装備か……」
カタログを広げる。そういや私はプレイヤースキルを全部積載量にぶち込んでるけど、別に他の選択肢がない訳ではない。
リストを見る限りだと、機体制御に関わる他にも視力強化とか筋力強化とかプレイヤーそのものを強化するスキルもあるらしい。
それに伴い、人間サイズの対物ライフルとかも存在する様だ。もしかすると広いオンラインゲームの世界には、コマンドーよろしく生身で敵を撃破してるプレイヤーもいるのかもしれない。
「ふむ」
面白いな。ちょっと私も機銃とか装備してみようかな。
『おまたせしましたー! 早速出撃しましょう!』
「あ、ほいほい」
と、そこでテレサが戻って来たので考えを打ち切る。
よし。
アズールブレカー2、出撃だー!!
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