第九十一話 迸る青
という訳で出撃であーる。
いつものように複座席の後ろにテレサを乗せて、アズールブレイカー、地底都市に出撃だ。
「まずは試運転、っと」
スラスターを噴射して、ビルの屋上をちょいちょい、と渡る。まずは使用感を確かめないとね。
軽量級は初めてだからな。
んでもって感想だけど……。
「む、むずい……」
『そうなんですか? キビキビ動いているように見えますけど』
「なんていうかな。フレーム自体が軽いのもあって、動きやすくはあるんだけど。それに無理やり積載量強化した上でビーム砲搭載してるせいかな。動き出しは軽いんだけどものすごく慣性が乗るというか……」
一言でいうと速度が出るけどグリップが効かない? どこぞの緑色の弟みたいな挙動である。
おかげで何度もビルから足を踏み外しかけた。
まあそれでも、これまで乗ってきた機体に比べれば雲泥の差ではある。だいたい自力での移動はほぼ不可能で何かしらの移動手段に依存しきっていたからなあ……。
正面を向いたまま、左右に素早くステップなんかもできたりする。フレーム自体の挙動は本当に素直で軽いんだ。
考えるまでもなくこの独特な挙動は無理やり搭載したビーム二門のせいだろう。これを一門に切り替えて、他の武装で補った方が挙動的にも戦闘能力的にもいい気がするが……ええい、初志貫徹!
このままいこう!
「そんじゃ、このままアリ退治と行こうか」
『はい!』
準備運動はそこそこで切り上げて、ビルの上から跳躍。
自由落下をスラスターで勢いを殺しつつ、街の正面ゲートの前に着地。ちょっとだけ勢いが強かったようでガクンと機体が沈み込むが、なんとか脚部への衝撃は許容範囲で収まった。
流石にちょっと衝撃許容範囲が狭いな。今まで見たいに勢い任せにドッカと着地していたら衝撃だけで脚部が壊れてしまうかも、気をつけよう。
「サブエネルギーは……まあ、タンク増設したから多少はマシ、かな?」
『でもサブタンクは使い切ると回復しません、そこは注意してくださいね』
「了解~」
まあ、つけるだけでサブエネルギー容量まで増えるなら皆使ってるわな……いやそうでもないか。誘爆の危険性はあるだろうし。
懐かしいなあ、昔森で蜘蛛を狙撃して仕留めてまわっていたのを思い出す。あの時はビームで動力炉を狙撃、誘爆させていたんだよな。あれから敵を一方的に狙撃できるような環境はないし、敵も動きが早くなったから狙えたものではないけど、理屈そのものはまだ成立するはずだ。
あの戦術そのものはビーム調整の影響を受けてない可能性があるから、もしかするとまだやれるかも。具体的には何もまだ思いつかないけど、こう、ホーミングビームみたいなので敵プレイヤー機の動力炉を撃ちぬいて誘爆させられたらいいよね。
……あれ。
……いや、まてよ。
今更だけどさ。あの時、回線落ちでシャットダウンする前に撃ってた相手って、本当にメタルインセクトだったのか?
なんか流れで狙い撃ってたけど、奥地とはいえあの時オンラインモードだった訳で。え、あれ、もしかして。
『どうしました、ショウさん?』
「あっ、いえ、なんでも」
『何か考え事ですか? 早く試射に行きましょうよ』
「おっと、そうだね。さっさと行こう」
ついつい考えが他所に飛んでいくところだった。今はビームの事だけ考えよう。
気持ちを切り替えて正面ゲートから外に出る。
地底湖を渡る道路を越えて、やってきました地底トンネル。
機動要塞建築の為に整理した地下通路は、まさに都心のハイウェイといった様相を呈している。が、忘れてはいけない。どれだけ人の手が入っても、この世界は人間のものではないという事を。
物資運搬用のトンネルの奥で赤い瞳が煌めく。
ガサガサと音を立てて這い出してきたのは、この地下空間を根城とする兵隊アリ達だ。照明などを点灯させれば追い払う事が出来るが、今はあえてそうしない。
「さて、こいつら相手にテストと行こう」
新生ビームの試し撃ちだ。早速照準を合わせて引き金を引く。
ビムッ!! と閃光が迸り、これまでよりも重たい反動がフレームに返ってくる。放たれたピンク色の閃光は兵隊蟻に突き刺さると、一撃でその体を爆散させた。
地面にクレーターを残し、飛び散った手足がバラバラと散る。その様子を確認して私は思わず目を丸くした。
「……わーお」
『威力は十分ですね、あのクラスのメタルインセクトなら一撃かと』
「でもちょっと威力過剰気味かな。一発でオーバーヒートしてるし」
シュウウ、と煙を上げる右のビーム砲を見下ろしつつ、私はスラスターを噴射して宙に飛び上がった。遅れて降り注いだギ酸が地面を溶かしてジュウと音を立てる。
「威力調整できるか?」
『了解しました。出力40%、解放率70%で調整します』
「……シュート!」
左のビームで再びメタルインセクトを狙い撃つ。確実に胴体部に命中したその一撃でHPバーが全損、活動停止したメタルインセクトはその場にくたりと倒れ込んだ。
出力40%で十分か。どういう計算式になっているか分からないが、新しいビームの威力は普通にメタルインセクトと戦うには十分らしい。
ただ……。
「結局、普通の銃火器と比べると劣るんだよな……」
『計算した限りですと、同ランクの銃火器、例えばアサルトライフルですと1マガジンで2~3体を充分に倒しきる事ができますからね。ただ、こちらはオーバーヒートさせなければリロードは要らないという利点はあります』
「ふむ。どれぐらいの出力があれば仕留められるか、そういったデータさえあればなんとかなるか」
落ち着いて評価すれば、そう絶望するような話ではないかもしれない。
これまでの戦術は根こそぎ使えなくなったが、あれはあくまでまともに戦えないから絡め手にはしっただけである。普通に戦えるならそれはそれで。
ちょっと物足りない感じはあるが、ここからまた巻き返していこう。
「そうと決まったらデータ取りだ。この辺りの雑魚を倒しまくるぞー!」
『はい、がんばりましょう!!』
ふふふ、ある意味ではMMOらしくなってきたかな?
迫りくる蟻の群れに向けて、私は再びビーム砲の引き金を引いた。
「さて。こんなもんかな」
そして狩り続けること30分。蟻のみならず、未確認だった複数のメタルインセクトも仕留めた残骸の山の上に佇み、私は情報整理も兼ねてちょっとした休憩をしていた。
背後からはカタカタというキーボードの音。補助席のテレサが、ビームの出力調整についてデータ入力をしている。
『っと、できました! 一連の戦闘で確認したメタルインセクトについては、自動でビームの出力調整がかかるようにプログラムを設計しました。完全なものにするにはまだまだデータが必要ですが、とりあえずは何とかなると思います』
「おおっ。流石だね。よっ、天才エンジニア様!」
『そ、そんなぁ。大げさですよぉ』
はやし立てると、口とは裏腹に満更でもないのかデレデレと照れるテレサ。満面の笑みで照れる美少女っていいよね、寿命が延びる。
『それで、どうしますか? このまま続けます?』
「んにゃ、今日は一旦戻ろう」
実際に動かしてみて色々思う所があったし、戦っていてやってみたい事も出来た。時間的にもそろそろ今日はログアウトした方がいいだろう。
ふふふ、やっぱりアップデートってのは神イベントだよね。これを挟むだけで、それまで見慣れた光景が真新しいものになるっていうか。
さーて、この機体を今度はどう調整しようかな、うふふふふふ。
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