第八話 新たなるエリア、新たなる死因
そんな訳ですっかり見慣れたスタート地点。
そろそろこの景色にも飽きてきたところである。
「蟻ぐらい簡単に倒せるようになって、先にすすみたいねー」
ぼやきつつ、私はコクピットに新しく設定したスイッチをパチン、と跳ね上げた。
途端、ずごごごご、という振動。
機体に装備したロケットブースターが燃焼を始めたのだ。固形燃料を燃焼させて、オレンジ色の火柱が地面を焦がす。
私はその勢いが消えないうちに、大きく機体を屈ませると全力でジャンプさせた。
本来なら数メートル浮かぶのが精いっぱいの重量二脚の跳躍。だが……。
「おおー」
ふわり、という腰の浮かぶ感覚と共に、機体が軽々と宙に舞う。流石ロケットブースター、燃費は悪いが推力は断トツだ。もともとスタート地点が小高い丘という事もあり、愛機は周囲を一望できる高度まで舞い上がる。
そこでようやく、周辺の地理が明らかになる。
周辺は、花の咲く穏やかな丘。そこからさらに進むと、全方位草むらのようになっている。そこからさらに進むと森が広がり、その向こうには険しい岩山。ずっと遠くに、噴火している火山らしきものが見えた。
割とよくありそうなマップとシチュエーション。わかりやすくていい。
「あの火山をまずは目指すべきかな……?」
空中浮遊を楽しみながら観察していると、ビビッ、とコクピットに警報が響いた。
どうやらロケットブースターの燃焼が終了したらしい。僅か数秒の大ジャンプの後に、機体が墜落を始める。
見れば、落下先には敵の姿が見える。数は三匹、攻撃していないからまだアクティブ状態にはなっていないが……。
「ちょうどいい。このまま仕留めよう」
空中から、一番遠い奴に向けてビームを発射。
不意打ちで爆散したそれには目もくれず、さらに二匹目に連射。オーバーヒートと同時に仕留める。このままでは最後の一匹に対応できないが……。
私は大きく操縦桿を倒し、落下軌道を調整。
そしてそのまま、三匹目の頭上に、ずどん!
「おっととと」
着地の衝撃でコクピットが激しく揺れ、脚部に過負荷がかかった報告。一時的にステータスが黄色くなるが、時間経過で回復する。一方で、踏み台された蟻はというと、着地の衝撃で木っ端みじんになっていた。
まあ、あの高さからこの質量で乗っかられたらこうもなる。こっちは蟻を踏み台にして衝撃を緩和できたので、一方的に得をした感じだけど。
「以外と落下の衝撃には強いな。まあ、二本足って実は荷重耐性一番強い形態だっていう話もあるけど」
少なくとも段差に強いのは間違いない。車は勿論戦車だって、ちょっとした段差で行動不能になるからね。
思い付きのアイディアだったが、割かしいい感じになったかもしれない。
「あとは、使用のインターバルが問題か……」
ロケットブースターの再使用ゲージに目を向けるが、ゲージの溜まり具合はかなり遅い。多分ビームのオーバーヒートの倍ぐらいかかっている。
使いどころに気を付けないとな。
「そうだな。ただつったって待ってるのも時間の無駄だし、草原の方に行ってみるか」
周囲に敵の増援が無い事を確認し、私は先ほど高所から見えた、花畑の向こうの草原に向かってみる事にした。
蟻以外の敵とも、そろそろ戦いたいしね。
◆◆
そうして、のそのそ歩く事10分ほど。どこまでも続く花畑がようやく途切れて見えてきた光景に、私は欠伸をこらえつつソファから身を起こした。
「やっとついたか、どれどれ……」
向かう先には、さらさらと風にゆれる草葉が揺れている。
葉っぱはイネ系。まるで夏のススキ野原のような光景が広がっている。私は何も警戒せず、ごく普通に草原に進んでいったが、ふとそこでおかしな事に気が付いた。
「……なんか。でかくね?」
そうなのだ。今、私は全長10mを越える巨大ロボットに乗っているはずなのだが、その視点で違和感を覚えないという事がおかしい。
これだと、この葉っぱは全高数メートルというクソデカ葉っぱという事になる。
「え、まじで?」
一応周囲に敵がいない事を確認してから機体を停止させて、コクピットから降りる。昇降用のワイヤーで地面に降り立って見上げる草の葉は、立ち並ぶビルのようにも見えた。
「うぉ、でっか……」
足元に広がる花畑が普通の花なので、なおさら違和感がある。まるで巨人の国との境界線だ。
恐る恐る生い茂る草葉に近づいて観察してみる。でかいだけでイネの葉であるのは変わらないと思うが……いや、なんか、やたらとギラギラしているな? 葉っぱの縁のギザギザが、なんだかやたらと鋭い光を放っている。
「……金属の葉っぱ?」
恐らくそうだ。それならこのサイズで潰れていないのも頷ける。
それでも、プレイヤーの乗るロボットなら腕さえあれば引っこ抜いてしまえるとは思う。残念ながら、うちの愛機は武器腕同然なのでそんな器用な事はできないのだが……。
「なるほど。こういう所でも人型の冗長性って奴がものを言うのか。結構考えられて作られてるんだなあこのゲーム」
そもそもただ戦うだけなら、その目的に洗練・特化した戦車とか戦闘ヘリとかを作ればいいのだ。勿論、そういった効率だけで浪漫は語れないのだが、このゲームの開発はロボットを浪漫で終わらせずに、それをどう使うかも真面目に考えているらしい。ますます気に入った。
まあビームが異常に弱い調整だけは解せないが。
「とりあえず、刈り取り方法についてはまた考えるか……」
なんか作業用アームでもくっつけるかな。そう考えながら愛機に戻ろうとした時、ふいに頭上を黒い影が横切った。
「え?」
そして響く甲高い破砕音。
私の目の前で、何かに串刺しにされた愛機が、ぐらり、と倒れ込むのが見えた。
そして爆発。
ジェネレーターの破損による爆発に巻き込まれて消滅する私の目に最後に映ったのは、愛機の胴体にめり込んで足をジタバタさせている巨大なバッタらしきエネミーの後ろ姿だった。
プレイヤー:ショウ、DEAD。
死因:爆死。




