第四十九話 裏戸
新しく入手したメガフレーム機構。
それを生かして、新しい機体を組む事にした訳だが、まあ、使うパーツは決まっている。
「まあ、脚部だよな。今の所の流れを考えて」
胴体や腕も捨てがたいが、どう考えても巨大サイズのそれは重いはずである。ただでさえビームだのなんだので機動力が低下しやすい事に苦労しているのだから、わざわざそっちを選ぶことはない。
その点、脚部は大きくても問題が生じにくい。今の竹馬みたいな長足がそうだが、大きいという事は歩幅が長いという事で、機動力がストレートに上昇する。その分バランスが難しくなって操作が困難になるが……それにはある程度慣れたしな。
「ほほぅ。形状もいくつか選べるのか」
オーソドックスな二本足に、四本脚の多脚タイプもあるのか。……が、多脚タイプは導入費用が倍近く高い。
そもそも通常の多脚タイプもまだ乗った事ないしな。……理由は簡単、消費エネルギーがものすごく多いんだ。まあ普通に考えて、二本足の倍以上の数の駆動系を有するんだから、その分消費が大きくなって当たり前である。積載量はあるんだけども……。基本的には、実弾を駆使する重砲撃系の脚部として選択されがちで、なおかつそういうのは後方から火力支援を行うので対戦動画にも出てこない。いぶし銀の隠れた実力者、といったところか。
まあそういう理由で、二本足のメガフレームを選択して機体を再構成し、レビュー画面を確認してみるが……。
「……なんかアンバランスだな」
例えると、1/60スケールの脚部の上に、1/144スケールの上半身が乗っている感じだ。流石に違和感を拭えない。
ここまでくるといっそ、二本足だけど人型を捨てた方がいいんじゃないか? 例えばこう、股間部の前に上半身の背中をくっつけるとか、こう、メック的な感じで。あるいは左右の足の駆動部を、バックパックの横に着けて本体を吊るす感じとか……。
「意外とデカイパーツって扱いが難しいな……世の中のデザイナーさんが凄いっていうか、なんていうか」
倍以上の背丈を持つフレームと合体したグラップラー形態とか、両肩から巨大な腕を吊り下げたギガンティック形態とかかっこよくて好きだったんだが、あれは繊細な調整の上で成り立っているデザインだったんだなあ、と改めて理解。
プロはやっぱりプロなのである。
「ええい、まあいい。どうせ今カスタマイズしても建造完了するのは後日なんだから、後にしよ」
今日はまだログインして時間が短い、もう少し探索を進めよう。
私はカスタマイズ画面を閉じて、再び機体に乗り込んだ。
軽いダメージなどはあれこれしている内に回復したようである。ハンガーから機体を立ち上がらせ、私はホームの中に進み出た。
「んー……見た所、ここで行き止まりみたいだから、他に探索するとしたら別のベルトコンベアと、あとは……」
あきらかに何かありますよ、といった感じの巨大な扉に目を向ける。
なんていうか、うん。
「ボスだよな……」
安全地帯の前にある物々しい扉、ボス戦以外の何だというのだ。
とりあえず、武装を更新。荷電粒子砲だけではどうにもならなさそうなので、冷却中の繋ぎの為にサブマシンガンを装備する。
これも雪山素材で作った高性能な一品だ。友人が直接プレゼントしてくれたマシンガンはさらに先の装備らしくて性能的にもっと優れているが、いくら軽量化されているといっても荷電粒子砲と一緒には装備できない。ついでにいうとこっちを装備すると結局ただのマシンガンナーになってしまう。
私はビームでクリアしたいのだ。ついでにトドメをマシンガンで刺してしまったらビーム経験値入らないし。
「うぉーし、頑張るか―」
うだうだしてもしょうがない、腹をくくって私は開閉スイッチを押した。
ガコン、と扉が開いていく。
その向こうに広がっていたのは、ガラン、とした広大な六角形の空間。ゴッチャゴチャ色々あるホーム画面と違って、こっちはコンクリート打ちっぱなしの寒々しい部屋だ。あと、室内というにはなんていうか……変に削れた後がある。まるでここで銃火器をぶっ放したみたいな。
「試験エリアってとこか」
完成した製品のテストでもする空間なのだろう。ぱぱっ、と照明が自動的に灯って明るくなる中を先に進むと、背後でガチャンと扉が閉じる音がした。これで後戻りはできない。
「んで、部屋の真ん中にあるあれが動き出す訳だな」
そして部屋の中央には蹲った黒い塊。何かの機械としか認識できないそれに、荷電粒子砲の照準を合わせる。
するとそれが引き金になったかのように、もぞもぞと物体が動き始めた。縮めていた脚を伸ばし、身体を震わせて長い年月のうちに積もったであろう埃を振り落とす。ズシンズシン、と足踏みをするようにして振り返った機体の頭部、真っ赤な一対のセンサーがギラリと輝きを放った。
《WARNING!! WARNING!!》
『ギシュシュシュ……』
「こいつは……メガフレームの脚部で構成されているエネミーか!?」
そいつの見た目は、さっきカスタマイズ画面で確認した、メガフレームの脚部に酷似していた。さらにいうと、巨大ハンガーに納まっていた機体の下半身にもよく似ている。もしかするとプロトタイプか何かなのかもしれない。
全体的な雰囲気は蟹が似ているだろうか? 四本の太い脚で大地を踏みしめ、カラッパを思わせる扁平な盾のようなハサミ……あきらかに質量とパワーで押しつぶしに来るデザインと見た。
しかしメタルインセクトとは雰囲気が違う。あれらは機械的ながらも生物的な動きだったが、こいつは生物的なデザインだが動きがどこか機械的でぎこちない。やはりここで生産されていたのはメタルインセクトではないのだろうか。
「いや、考えてる場合じゃないか……」
『ギギギギ!』
ドタドタ足を踏み鳴らしながら突進してくる巨体を、ダッシュで回り込んで回避する。
ボスはそのままあわや壁に激突……と思いきや、足を踏ん張ってドリフトのような動きで旋回しつつ減速、壁にぶつかる事なくこちらに向きを変える。
その関節から、大量の排気のようなものが噴き出して、周囲に立ち込めた。
途端、モニターに映る表示がざざっと乱れる。
ただの排気じゃない……なんだ? センサーを阻害する……重金属粒子か。外の霧よりも遥かに濃度が高い。
「おあつらえ向きだな!」
ボスの横に回り込んで荷電粒子砲の引き金を引く。チャージのタイミングにもいい加減慣れてきた、キュィイイン、ドパァンとリズムを刻んで荷電粒子が放たれる。
それは間に立ち込める霧を焼き払って、ボスの漆黒の装甲に突き刺さった。巨大な脚部の装甲が広範囲にわたって赤熱し、べろりと捲りかえる。その下に覗く金属のフレームは、火の粉が飛んだ発泡スチロールのように細かい凹凸ができている。
『ギィィイ!』
「おっと危ない」
至近距離にいるこちら目掛けて躰を揺さぶるようにして地団駄、踏みつぶそうとしてくる動きを後退して回避する。荷電粒子砲の冷却中を誤魔化すためにサブマシンガンに持ち替えて、発砲。
高レートで吐き出される拳銃弾。ビームと違ってストレートに威力を発揮するこちらは強力なはずだが……。
「効き目が悪い!」
まず、高濃度の重金属の影響か、射撃中にロックがちょこちょこ外れる、そのせいで弾丸がいまいち集弾しない。さらに、命中した弾も黒い装甲に阻まれてダメージになっているようには見えない。あの装甲、硬いのかと思ったらそうではなく、弾丸で砕ける事でダメージを軽減しているらしい。ある種のリアクティブアーマー……いや、単純に長年ここに放置された事で重金属粒子が吸着、コンクリアーマーみたいにボスの体を守っている?
だけどさっき荷電粒子砲が直撃した時は一撃で損壊、本体にまでダメージが通ったが……。
テレサの言葉が思い返される。
『不可思議な威力減衰が起きるのは、あくまでメタルインセクト本体に含まれる部位のみ。環境や表面的な装甲に対しては、減衰は起きずに物理法則通りの影響を与えています』
「そういう事か」
なるほどね。いくら固着して装甲化しても、金属粒子の塊なんかビームの超高熱ならヘでもないと。さらにいえば荷電粒子砲は質量と運動エネルギーも併せ持った、超高熱のサンドブラストみたいなものだ。装甲を引っぺがしてダメージを与えるにはもってこいと言える。
「なるほどね。どうやら私の愛機はお前の天敵らしいぞ」
『ギシャア!』
地響きを立てて突進してくるボスをひらりと回避し、私はその側面に荷電粒子砲を撃ち込んだ。
とはいえ、ただ突っ込んでくる単調な動きで終わるとも思えない。
さあ、お前はどんな隠し玉をもっている?
私はぺろり、と舌を舐めて闘争を楽しんだ。
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