第四十八話 巨大遺構
崩壊した地下室に慎重に降りてみる。
周囲の様子を確認してみると、それは地下トンネルというより、何かしらの生産ラインの一部のように見えた。巨大なベルトコンベアが崩落で潰されており、壁際などには作業用アームなどがずらりと並んでいる。
自動車工場のような、自動化された生産ラインだろうか?
しかし、コンベア上に製造中の部品らしきものは見当たらない。停止して随分長い時間が経過しているらしい事が伺える。
「一体何を作ってたんだろうな。メタルインセクトとか……?」
例えば、惑星の開拓用に製造された自動機械群が制御不能になり、開拓者当人達に牙をむくなんていうのはもはやお約束といってもいい展開である。
それと同じような事が起きたのだろうか? であるならば、メタルインセクトがこの工業地帯をうろついているのも納得である。
あるいは、入植した人類は複数の勢力に分かれていた、とか?
話によれば、オンラインの最前線では企業勢力でわかれてプレイヤーもドンパチやっているらしいから、そういう可能性もある。
逆に言うと、この工業地帯はそういった勢力の影響下ではない、という事だろうが。
「オンラインだと、どっかのギルドとかが占拠して利用したりしてんのかな……」
開拓されて行き来しやすくなっていた森林の事を思い浮かべながら、私はとりあえずクレーンアームの類に荷電粒子砲を向けた。
いやだってちょっと欲しいし、ああいうの。
敵と同じならぶち壊せばゲットできないかな……?
「てや」
ビームでドーン。
木っ端微塵になったクレーンアームの残骸がすぅっと溶けるように消えていく。
……残念ながら、何もゲットできなかった。
「残念……」
ちょっと機体のバックパックとかに着けてみたかったんだが。
しょんぼりしながら、ベルトコンベアの続いている奥に目を向ける。道はこの先にも続いているようだ。
がしょんがしょん、と早足で道を辿る。が、これが長い長い。一応、非常灯らしきものが点いていて暗い訳じゃないし、敵も出現しないから気楽ではあるんだが、とにかく長い。
歩く事10分、ようやく終点らしきものが見えて、すこしほっとする。
マップを確認するに、工業地帯の中央部分ぐらいに辿り着いた様だ。となると、この先に何かある筈である。
「……ボス戦か?」
荷電粒子砲の具合を確認して、しばし躊躇。最近、あきらかに怪しい所に踏み込んでは強制ボス戦で酷い目にあってばかりだからね。少しは学習するのだ。
とりあえずこれまでの戦闘では、荷電粒子砲の性能はさほど悪くない。反動の強さにも慣れてきたし、仮にボス戦になってもいい勝負ができるはずだ。そもそも武器のグレード自体は大分上だしね。
だいたい、MMOのボス戦なんて死んでなんぼだ。
私は覚悟を決めて、壁を抜けて続くベルトコンベア、その隣の扉を開けて先に向かった。
そこに広がっていたのは……。
「これは……ホームと同じ……?」
そこに広がっていたのは広大なフロア。ドーム状の空間の内部に、うっすらと埃を被った自動機械群が、作業開始を待ったまま眠りについている。中央には、四つの柱で囲まれたハンガーと思わしき設備があり、その周囲にはベルトコンベアの終点がいくつも並んでいる。そしてハンガーの真正面には、大きな閉ざされたままの扉。私は、時計盤でいうと5のあたりにあるベルトコンベア、そこの出入口から入ってきたことになる様だ。
構造を見るにここは、製造作業の最終エリアらしい。ハンガーユニットを取り囲む、六つのベルトコンベア……平時であれば、各製造エリアから送られてきた部品をここでくみ上げるのだろう。事実、ハンガーには巨大な、途方もなく巨大な建造途中の何かが収まっている。
全体的な雰囲気は、プレイヤーのホームであるイコンにとてもよく似ている。だが規模が桁違いだ。普通のイコンにおけるプレイヤーと部屋の比率が、そっくりそのまま機体と部屋に適応できる。
小人になった気分で周囲を見渡していると、モニターにピコン、とメッセージが送られてきた。
《新たなホームが登録されました》
どうやら、ここもプレイヤーのホームとして使用できるらしい。とはいえ、この広さだと人間が歩き回るのはしんどいし、そもそもどこに機体を収めればいいのか……首をひねっていると、部屋に動きがあった。
巨大ハンガーの隣、その床面が静かに沈み込んでスライドして大穴が空く。そこから通常サイズのハンガーがせり上がってきた。周囲には人間サイズのモニターとかもあるし、ここを使え、という事か。
早速機体を預けてコクピットから降りる。
……実際に生身で見ると、本当に広いエリアだ。野球ドームより広いんじゃないだろうか?
周囲には、あきらかに機体サイズで作業する事を想定していると思わしき機材が並んでいるので、人形ハウスの住人になったような気分になる。それに……。
「この訳わからんぐらいでかい機体、一体なんだ……?」
中央の巨大ハンガーユニットに収められている機体に目を向ける。機体視点でもでかかったので、人間サイズからだと全体もはっきりと見えない。
ただ、形状を掴みかねているのはそれだけが理由ではない。巨大な上に、これは組み立て途中で……しかも、あきらかに人型を逸している。
うんうん首をひねりながら観察する私は、どうにもそれが多脚機体らしい事を認識してもう一度首をひねった。
「うーん? ええと……カニみてーな脚部に、人間の胴体……いや、腕は人型のそれじゃないな。砲塔?
多脚型に人型の胴体だけのせて、両腕は武器腕……? もしかして建造途中のボス機体みたいな設定なのか?」
いくらこのゲームがカスタマイズが自由といっても、ある程度の限度がある。
早い話が、総質量に限界が設定されているのだ。以前作ったバーニングスフィンクスぐらいが限度で、ボス級のメタルインセクトとがっつり組み合えるような巨大ロボは残念ながら製造できない。
目の前の巨大ロボはそれを踏まえるとプレイヤーには建造できないサイズに見えるが……。
「うーん?」
首を傾げていると、再びメッセージが送られてくる。
「うん?」
このタイミング、もしかして……。
《アビリティ:メガフレーム を取得しました》
「おおっ!」
なんというタイムリーというか、あきらかにこの巨大ロボに関係したアビリティをゲットした。
アビリティという事はスキルのように成長するものではなく、なんらかの制限が解除されたという事のはず。
私は喜び勇んで詳細を確認した。
《アビリティ:メガフレームについて。メガフレームは、通常では建造できないサイズの巨大構造体のフレームを利用できるようになるアビリティです。腕、胴体、脚部の三つが存在し、そのうち一つを選択して機体に組み込めるようになります。これにより、腕部だけ肥大化した機体、脚部だけ大型の機体など、これまで以上に特異なシルエットの機体が構成できるようになります》
「ほへー……え? 一つだけ?」
予想通りだが、いくつかちょっと考えと違う仕様があるようだ。
一つだけ……ははあ、なるほど。このゲームを作った人は、プラモのカスタマイズとかに理解がある人だったようだ。
現実のプラモデルシリーズでも、スケール違い、あるいは巨大兵器に分類する機体のパーツを限定的に利用するカスタマイズは結構人気である。ヒロイックな汎用機体の肩から、倍以上の背丈を持つ巨大兵器の腕を生やしたり、あるいは巨大兵器の脚部を履くように装備して疑似的に巨大化したり、いわゆるギガンティック形態みたいに言われる奴は多々存在する。
恐らくそれをゲーム内で再現するためのアビリティなのだろう。
逆に言うと、ボス級機体そのものを再現する事はできないらしい。フレーバー的には、そこに佇んでいる建造途中の巨大兵器、そのパーツを拝借するというカタチになるのか。
一見面白いシステムだが……。
「……まあ、落とし穴あるんだろうなあ」
少なくとも、上位陣のガチ勢力戦ではこのメガフレームを採用した機体はほとんど見なかった。
……調べるのもいいが、まあまずは実際に試してみよう。実際に建造しなければお金は発生しないようだし。
「ふふーん。どんな機体を組んでみようかなー」
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