第四話 ボッチから仕留めよう
「うーん。手持ち札を整理しよう」
ガレージの中。ガラガラ、と戻ってくるスクラップ未満のクズ鉄の塊を前に、私はうんうんとアセンブリ画面とにらめっこしていた。
「マシンピストルでこの辺の雑魚は十分倒せる。マガジン半分も撃てば、ビームで確殺範囲には持っていける訳だ。つまり、マガジン一つで余裕をもって一匹倒せる計算になる。逆にビーム単体では、雑魚を倒しきれない」
普通に考えれば、ビームがいくらなんでも弱すぎる。手持ち最弱武器であるマシンピストルよりもさらに威力が低いとか、普通に考えたらゲーム攻略においてはネタにすらならない。
だが、本当にそうか?
例えば、ビームを諦めて両手にマシンピストルを持てば二匹倒せる計算になる。ただ、打ち切ったマガジンはリロードしなければならない。その為には片手が空いている必要があるようだ。ゲームのように、弾切れになった武器をジャキッと振ったらマガジンが交換される訳ではないらしい。
このあたり、このゲームはかなりリアリティを意識して作られている。まあ、マガジンチェンジとか、そういうのは拘り所だしね、ロボットにおいては。
一方、ビームの砲は確かに装備の負担が大きい割に威力がないが、一つ大きな利点がある。それはエネルギー消費だけで撃てる為、実質的に弾数が無限という事だ。発射する度にリチャージは必要だが、逆に言えばその時間を稼ぐ事が出来ればずっと戦えるという事である。
それを考えて今一度考える。
ビームは本当に無駄か? ただ綺麗なだけの花火ではないと言えるか?
「答えはイエスだ。現状は無理だけど、プレイヤーレベルを上げて積載量を増やせば、優秀なサブウェポンになりうる可能性はある」
あくまでメインウェポンを手持ちのアサルトライフルとかマシンガンにして、それらが殺しきれなかった敵に対する追撃とか、弾薬消費を抑える為の装備としてなら非常に有用だと断言できる。それなら装備する為の条件が厳しいのも、威力がしょぼいのも納得だ。
だけど……。
「私はあくまでもビームぶっ放して楽しみたいんだよなあ」
そう。別に私は攻略とか対人戦を頑張りたいんじゃなくて、思う存分ビームをぶっ放して遊びたいだけなのである。綺麗な花火上等だ。なんならもっと派手派手にしたい。
あくまで、ビーム主体であの蟻達と渡り合う為にはどうすればいいのか。
「うーーん……あ、そういえば、蟻を倒した時、妙なメッセージがあったな。ええと、ログを確認して……あ、これだ。『粒子砲スキル経験値』……?」
しばし首をかしげて、ヘルプを探す。最近のゲームは紙の説明書が無いけど、あれって正直色々と不便だよねえ。
「お、あったあった。ええと、何々。『敵を倒すと、トドメに使った武器にスキル経験値が入ります。武器スキルが上昇すると、様々なボーナスを得られるようになります』……へえ。威力UPとか、リロード効率化とか、ふぅん。色々あるのね。何が取れるかは、スキルアップしてからのお楽しみ、と」
成程。
「よし、これで方針は決まったな」
ちょうど同じタイミングで、クズ鉄から愛機の復元が完了した。胴体ばかり大きくて不格好な機体を見上げながら、私はアセンブル画面を操作した。
「完成~」
カスタマイズの完了した愛機から、作業用クレーンが引き上げていく。
私はガレージのキャットウォークに昇ると、しげしげと機体を見下ろした。
基本的にはさっきまでと変わらない。骨抜きした二本足に、ビーム砲とジェネレーターを直接乗せた胴体部。ただ構成を見直して、胴体部はショベルカーの操縦席みたいなのを引っ張ってきてくっつけた上で、アーム部分にビーム砲を装備。熱対策で、その間には耐熱性の高い鉄板を挟み込んでいる。
ジェネレーターはその反対側、右腕のある当たりにぶら下げている。そのままだとバランスが悪すぎるので、今度はコクピットの横、左手の所にウェポンラックをくっつけて、マシンピストルを二挺ぶら下げている。所謂武器腕という奴である。
機体が完成したら早速出撃である。
ガコン、と上昇しきったリフトから外に出て、私は早速動かしやすさに満足した。
「よしよし、やっぱポン付けコクピットより、ちゃんと胴体にあるほうが断然動かしやすいな。まあ、戦闘用どころか作業用重機のコクピットだから、防御力低いし操作のボタンも足りてないけど……別にサブウェポンとかないし関係ないな」
やはりロボット操作において重心の位置とコクピットの位置は重要だと再確認。そして操作しやすいという事は、狙いもつけやすいという事だ。
とりあえず周囲に敵がいない事を確認して、マシンピストルを一発だけ発射する。弾丸がどこに飛んで行ったかを目に焼き付けて、照準を調整する。さっきの見る感じでは、ロックオンに頼り切りでは駄目そうだったからね。多分軸を意識しないと当たらないと見た。
「これでよし。あとは……」
ガションガション、と小高い丘を目指して歩き、そこから周囲を索敵。
周囲には3匹ほどのメタルインセクトの姿がある。その位置を確認して、一番外周側の奴に狙いを定める。さっきは敵がノンアクティブだからって呑気に群れの中を歩いていたので、敵がアクティブになった途端にいきなり包囲されてしまった。同じ轍は繰り返さないに限る。
「よしよし。ちょうど他の奴と距離が開いているのがいるな……もしかしてボッチなのかな……」
余計な事を考えながら、敵に照準を合わせる。ロックオンするだけでなく、さっき試射した時の射線に合わせて。
射撃。
タップ撃ちで放たれた弾丸がビスビス、とメタルインセクトの甲殻を穿つ。攻撃を受けた事でアクティブになるメタルインセクトだが、動き出すよりも先に私はビーム砲の準備を終えていた。
「発射!」
放たれたピンクのビームに飲み込まれて、敵の姿が消える。その末路を確認するよりも先に、私はこの場を離れる事に専念した。
案の定、他の二匹がアクティブ状態になってこちらを追いかけてきている。だがすでにこちらも離脱を開始しているので、ビーム砲の冷却が追いつく。
最初の一匹目を仕留めた時、弾丸がかなり少なくて済んだから、二匹目をビームで仕留めた後は残りに残弾を全部撃ち込めば仕留められるはずだ。
「よし、まずはHPを削って、と」
スタート地点の丘の上から、追いかけてくる蟻に弾丸をばらまく。上を取っているので狙いやすい。
が、距離があったせいか思ったより弾がばらけてしまい、狙っていなかった側にも弾が飛んで行ってしまう。結果的には蟻二匹のHPを半分まで減らせたが、それでマシンピストルの弾は尽きてしまった。
連射が効く武器ってついつい撃ちすぎちゃうよね……。現実の銃火器でフルオートが廃止されるのも納得である。どうしたもんか、勘定が合わなくなってしまった。
「ありゃりゃ。一匹はビームで仕留めるとして、冷却まで逃げ切れるかな」
失敗を愚痴りつつも、すでに充填の終わっているビーム砲の照準を合わせる。と、そこで私は重なる敵のカーソルにふと思いつく事があった。
「……二匹纏めていけないかな? ビームなんだし……そうだ、照射中に薙ぎ払えば」
考えてみれば実弾と違って、ビームは継続的に砲口から照射される。僅か数秒の事ではあるけど……やってみるか。
「せーの、いっけえ!」
ビームの発射と同時に、照準を振る。腰とビーム砲根本の可動によって、放出されるビームが僅かに斜めに軌道をずらした。それによって、袈裟懸けに切りつけるようにビームがインセクト二体を薙ぎ払い……爆発。地面に歪な形のクレーターを残して、敵モンスターは撃破された。
『メタルアント*2を撃破しました』
『プレイヤー経験値+20』
『粒子砲スキル経験値+20』
『メタルインゴット(低品質)を入手しました』
「よっしゃ! うまくいった。でも何だろうな、一匹当たりの照射時間は減っていたはずなのにダメージはそんなに変わったように見えなかったな……。ダメージ計算式の問題かな?」
ロボットゲームにおけるゲロビは、浴び続けると連続でダメージがはいって累計で大ダメージ……というのが大体の表現だ。もしかしてこのゲームのビームも同じで、見た目は連続照射しているようで発生するダメージ判定は数秒に一回とかなのかもしれない。妙にダメージが低い理由と思われるものがまた増えた。
「凝ってるんだか、適当なんだか……うん?」
そこで私は、見慣れない形のメッセージが視界に浮いている事に気が付いた。
《『粒子砲スキル』がレベルアップしました! 新たに『ビーム制御』スキルをゲットしました!》
「スキルゲット!? それに制御だって!?」
周囲に敵の姿が無い事を確認すると、私はいそいそとステータスウィンドウを開いた。念願の武器スキル、これでビームの使い勝手の悪さが変わるかもしれない。
スキルの説明には、こう書いてあった。
『ビーム制御:ビームの出力を調整する事で、ヒートゲージの増加量を減少させます。ただし、比率が1を上回る事はありません』
「…………」
なんか。
思ったより微妙なスキルを貰った……。
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