第三話 初勝利の後味は苦い
ガレージに戻ってきても、私はしばらく呆然としていた。
「うそーん……」
ガラガラガラ、と戻ってくる愛機はメタルインセクトの大あごでくしゃくしゃになっていた。脚部とか装甲で覆われていたはずなのに今や見る影もない。最初の雑魚なのに強すぎない?
「いや、単に初期機体がそれだけ弱いだけか……」
自動的に修理が始まる。一定レベルまで修理がタダになる仕様じゃなかったらとっくの昔に素寒貧、データを消して最初からにしなければならないところだった。
「そういやレベルアップチケットなんてのもあったな……使わなくてよかった」
見る見る間に修理は終わったが、このまま出撃しても同じ事を繰り返すだけだ。
私はカスタム画面を開いて少し頭をひねる。
「……少し削るぐらいなら、普通の武器を持つべきか?」
あの派手なビーム砲でも半分ぐらいしか削れないのだ。普通の武器ではあの雑魚を倒すのに相当苦労する事だろう。だが逆に言えば、半分削れればビーム砲で仕留められるという事でもある。
ラインナップには色々な武器がある。その中から、とりあえずアサルトライフルやマシンガンといった王道の武器に目をつけてみるが……。
「……重いな」
そうなのである。
とてもではないが、今の状態ではとてもじゃないが装備できない。
「そうだな……確か、パーツをさらに細かくカスタマイズできるんだったな。やられ方を見るに半端な装甲なんてあってないようなもんだから、いっそごっそりそれを外してみるか」
事前に聞いていた話を思い出し、脚部パーツの詳細カスタマイズに踏み切る。
フレームを残して、装甲をぱっぱと外していく。見る見る間にモーターやら配線やらむき出しの形になっていく脚部パーツ。見た所こう、完全なフレーム構造というより、セミモノコック、という感じか? 外したらいけない部分も多いようで、そこは簡単に取り外しはできないようだ。こだわりの人はさらに分解して、部品を繋ぎ合わせて全く別物に仕上げたりするのだろうけど、私はとにかく軽量化したいだけだ。あんまり取り返しのつかない所には手を出さないようにして装甲を外し、どれぐらい軽くなったかを確認する。
「あんまり軽くなってないな……」
とりあえず、積載量は確保できたという事で手持ち武器を探す。
「ライフルもマシンガンもダメか……あ、これは持てそうだな」
積載量が真っ赤な中、一つだけ装備できる武装があった。
「……マシンピストル? 『護身用の最軽量モデル。敵を倒すというより火花を散らして威嚇する用途に使われる』……半分削れるかも怪しいけど、とりあえずこれを装備してみるか」
不安にさいなまれるが、とにかくコクピットを手から外して肩に移動し、空いた指にマシンピストルを握らせる。
これで武装はそろった。
とりあえず、実戦で試してみよう。
「よし、出撃ー!」
そして勢いよく上昇するリフトで再び平原に。
コクピットの位置が高いおかげで、最初から視界にはカーソルが表示されている。
ちょっと歩いてみるが、肩にコクピットを取り付けた事による弊害は視界が偏っている以外には感じない。
あとは熱が心配だが、さっきぶっ放した時も腕がもげるとかはなかったからたぶん大丈夫なはずだ。
「考えてみれば調子にのって腕にコクピットもたせなきゃ、組みつかれても抵抗ぐらいできたかもしれない……」
調子にのってやらかした過去の自分の所業を反省しつつ、標的を選択する。
一度撃破されて出直したからか、HPが減っているメタルインセクトの姿はない。オンラインゲームならHP情報は引き継がれるものだと思うのだが、オフラインモードだからだろうか? それとも、一定時間が経過したらHPが全快するのか。
とりあえず、一番近い標的に狙いを定めて、丘をおりて近づいていく。
草原で何やらもぞもぞしていた敵だが、今度はこちらの存在に気が付いたのか、カサカサ、と向きを変えてこちらに正面を向けてくる。ただいきなり襲ってくる様子はなくて、警戒中……といった所だろうか。
やはり攻撃を加えるまでは敵対しないタイプか。最初の敵だし、助かるといえば助かる。
「よっし、まずはマシンピストルで削れるだけ削ろう」
うぃーん、ガチャ。細い腕が片手でマシンピストルを構える。画面のロックオン表示を確認し、私は引き金を引いた。
「ファイヤー!」
ドタパパパ、と銃弾が撃ちだされる。
オートで連射される銃弾がメタルインセクトに降り注ぐ。反動でロックオンしてても狙いはてんでバラバラだが、それでも何発かの弾丸が銀色の甲殻を穿った。
途端、ぐぐっ、と相手のHPバーが減少した。
「えっ」
思わずボタンを押す指が止まる。
マガジンを確認するが、まだ弾丸は半分以上残っている。それに対し、敵のHPはすでに半分を切っている。このまま連射すれば仕留められる計算だ。
おっかしいな、マシンピストルの威力って低いんじゃなかったか?
どう見ても遥かに威力のありそうなビームの方が圧倒的に威力低くない?
「……ま、まあ。オンラインゲームあるあるだ……」
考えてみればこれはゲームなんだし、威力設定なんて開発と運営の匙加減一つである。エフェクトが派手な攻撃の方が威力が低いなんて、まあよくある事だ。さらに言えば、武器の説明に書いてある事が実情を反映していないなんてのもやっぱりよくある事だ。
ともかく。
別に何か不利益がある訳ではない。予定通り相手のHPを削る事はできたのだから、ビームでトドメを刺そう。
武器を切り替えて、ビーム砲のエネルギー充填を開始する。一方、攻撃を受けたメタルインセクトは衝撃から立ち直り、こっちに向かって真っすぐ走ってくる。
目算ではこちらのビーム充填の方が早いはず……そう思った矢先、ぐっ、とメタルインセクトが節足をたわませる。
そして、跳躍。
「飛んだぁ!?」
慌てて上半身を旋回させ、左手を盾にする。ぐわっと開かれた大あごが、クレーンアームのような細腕にかじりつき、ばきばきと噛み砕いた。
「くっ、この!」
このまま本体に取り付かれてはたまらないと、私は全力で機体を回転させた。メタルインセクトの体が、ほそっこいアームの根元ごと吹っ飛んでいく。丘にごろごろと転がる機械蟻目掛けて、私は充填の完了したビームの砲口を突きつけた。
「今度こそ消し飛べ!」
発射。
ビーム砲から迸るピンクの閃光。消化ホースから放たれる放水の如く迸った高熱の粒子が、傷ついたメタルインセクトに殺到する。
閃光の中に、その銀色の姿が掻き消え……そして爆発。
土煙が巻き起こり、衝撃波でビリビリとコクピットの窓ガラスが震えてぴしり、とヒビが入った。ダメージに加え急激にエネルギーを消耗したせいか、機体が膝をつく。
「やったか? あ、やべっ」
思わず禁句を口にしてしまって反射的に手で押さえる。もごもごしながら、私は慎重に着弾地点の様子を観測した。
爆発が晴れた先は、小さなクレーターが出来ていた。どう見てもマシンピストルより遥かに威力があるようにしか見えないのだが、それはこの際置いておく。
肝心なのは、そのクレーターの中央で突っ伏すメタルインセクトの様子だ。ぐったりと地面に蹲り、動く様子の無いエネミーからは、カーソルは消えているように見えたが……。
「お、おお」
見ている前で、機械昆虫の姿がテクスチャ分解みたいな感じで消えていく。無数のブロックになって消滅した後には、小さな金属インゴットのようなものが残されたが、それもすぐに消失する。
それと同時に、視界の中に表示されるメッセージ。
『メタルアントを撃破しました』
『プレイヤー経験値+10』
『粒子砲スキル経験値+10』
『メタルインゴット(低品質)を入手しました』
告げられるのは戦利品の報告。つまり。
「やった! 今度こそ仕留めた!」
思わずコクピットの中でガッツポーズをする。
「ははは、最初の敵なのに仕留めるのに随分手間取っちゃったな。まあこれで要領は分かったし、これからじゃんじゃん倒していこう! ま、その前に修理だな」
ご機嫌な気分で機体を旋回させる。勝利したとはいえ、腕をもがれてマシンピストルを取り落としたし、ビーム砲は再チャージに時間がかかる。一端戻って修復しないと戦闘なんかできそうにない。
そう考えた矢先、ガクン、とコクピットを衝撃が襲った。
「ん?」
上半身を捩じって足元を見下ろす。
するとそこには、右足にかじりついているメタルインセクトの姿。
それも一匹ではない。気が付けば私は、周囲を何匹ものメタルインセクトに囲まれていた。
ガチンガチン、と威嚇するように牙を打ち鳴らす蟻達に、つぅ、と冷や汗が頬を伝う。
「……あー。一匹攻撃すると、群れ全体がアクティブになる訳かあ」
襲い掛かってくる大顎の群れに、私が出来る事は何もなかった。
プレイヤー:ショウ、DEAD。
死因:捕食。
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