第二話 デッド&チャレンジ
「うわお、こだわり感じるぅ……」
キャラクター死亡によりガレージに戻ってきた私。
目の前では、乗り捨てた形になった機体がエレベーターでガレージに戻ってくる所だった。
二足歩行するロボットの下半身に、動力炉とビーム砲をポン付けしただけの歩く砲台。ビーム発射の余波によって煤けた砲身の横に、なにか溶けたガシャポンのカプセルみたいなものがこびりついている。
コクピットの成れの果てである。
「いやまあ考えてみればビームなんて撃つ砲身の横にコクピットなんぞつけてたらあかんよな……」
当たり前の事だが、ゲームではそういうの、基本無視されるものである。
なかなかこのゲームは拘りが強いようだ。気に入った。
「よおし、再挑戦だ」
幸い、一定レベルを超えるまでは修理は無料らしい。破損した機体を修復し、今度はウィングパーツを使ってコクピットを砲身から出来るだけ遠ざける。
これでビームの余熱で死ぬことはないはずだ。
「出撃ー!」
プレイヤー:ショウ、DEAD。
死因:落下死。
「死んだー!」
ガラガラガラ、と戻ってくる機体を確認。ビーム砲の横につけたウィングは、高熱で溶けてネジくれて、途中から千切れてしまっている。結果、コクピットごと落下した私はあえなく地面に叩きつけられ、即死、という訳である。
「やっぱ危険個所のよこに取り付けるもんじゃねーな。うーん」
小手先の対処では駄目だった。根本的に場所を変えよう。
出来るだけ砲身から遠い所、遠い所……と視線を彷徨わせた私の視点が、ロボットの足先で止まる。
ふむ。
ちょっと変な場所ではあるが……合体するスーパーロボットでは割とメジャーな場所だ。
とりあえずはここにしよう。考えうる限り一番ビーム砲から遠いし、何より乗り降りしやすい。
「よし、とりあえずつま先にコクピットをくっつけて、と……出撃ー!」
プレイヤー:ショウ、DEAD。
死因:脳挫傷。
「死んだー!」
ガラガラガラ、と戻ってくる機体を確認。今度は見た目には損傷はないのだが……。
「いや考えてみれば、つま先に括り付けられて振り回されたら、普通に死ぬよな……」
今度は出撃したのはいいものの、コクピットの位置が低すぎて見通しが悪かった。そこで、敵を探して機体を歩かせたのはいいものの……その途端に霞む視界、画面端に映る警告。文字通り視界を数度シェイクされた後に、こうしてスタート地点に戻された訳である。
どうやら加速度によるGもこのゲームは計算しているらしい。訓練してない人間が瞬間的に耐えられるGは10Gだか30Gだからしいが、それを二、三度立て続けに食らったらそりゃあ死ぬよね。脳みそが潰れたプリンになってしまう。
「ゆーーっくりすり足で歩かせれば……いやそんな専用モーション組む時間が持ったいないな。コクピットの位置を変えよう」
今度は太もも前面にコクピットをくっつける。見た目不細工だが、砲身から距離はあるし、足先ほど揺れはしないだろうから、今度こそこれでいけるはずだ。
「出撃ー!」
プレイヤー:ショウ、DEAD。
死因:圧死。
「死んだー!」
ガラガラガラ、と戻ってくる機体を確認。全面が土で汚れていて、なおかつ太もものコクピットはぺっしゃんこになっている。あ、よく見たらビーム砲も破損してる……。
「意外と歩くの難しかったな……」
足先よりはマシとはいえ視界が狭いため、移動させようと歩いたのは良いものの。上半身の代わりにビーム砲をくっつけているという変な構造だったのがよくなかったのか、数歩歩いた時点でバランスを崩し、そのまま前に転倒。腕がなくては受け身も取れず、そのまま地面と機体の間でぷちっ、という訳である。
「ううーむ……」
勢い任せに突っ走ってきたが、ここまで失敗続きだと気も滅入ってくる。どうしよう、基本コンセプトからやり直すか?
「いや、いや。ビーム砲の一発もマトモに撃てずに作り直すのはなんか負けた気がする。方向性は間違ってないんだ、片腕でもあれば……」
ガレージに向き直ってセッティングするが、駄目だ。一番軽い腕でも、取り付けた途端にレッドアラート、出撃不可能になる。数字としてはちょっとしたものなのだが……。
「ううん……うん? そういえば、プレイヤーのスキルで積載量がどうとか、いってなかったっけ? あれ、そういえば、キャラクター設定時にそういうの決めてなかったような……」
あわててメニューを開いて確認する。
「やっぱり設定してない! えーと、スキルポイントは3か。今選べるスキルは……」
確認した所、プレイヤー側が獲得できるスキルは、積載量増加、EN消費軽減、ジェネレーター出力増加、レーダー範囲拡大、etc……。いっぱいあるな。
まあとにかく、今は積載量増加に全部突っ込んでしまおう。積載量はあるに越したことはないし。
「よおし、これでどうなったかな」
期待半分、不安半分で確認する。この手のスキル補正、大体は気休め程度の効果しかないのがお約束だが……。
「あ、結構増えてる!」
現状でも警告の黄色が出ていたはずの積載量。それが僅かに余裕を持った状態で収まっている! 試しに一番安い腕を片方だけつけてみるが、それでも微かに黄色に届くだけ。
僅かといえば僅かだが全然違う!
これならいけそうだ。
「あっ、そうだ。どうせなら、腕の先にコクピットをくっつけて……」
どうせ他の武器は持たないんだ。使い道のない腕の有効活用である。これで倒れる時はコクピットを逃せるし、高く掲げれば視野も確保できる。
我ながら良いアイディアなのではないか?
「よし、出撃ー!」
そして、何度目かの草原の丘へ。
リフトが停止したのを確認した私は、まず機体を歩かせてみる。
「えーと、こうして、レバーを前に倒して、と。おっとっと」
おっかなびっくり機体を前に前進させると、やはりバランスが悪いせいか機体が傾ぐ。すると、自動的に腕を振り、バランスを整えて機体がまっすぐ安定した。
オートバランサーという奴だろうか。人間も不安定な時は腕を振ってバランスをとるし、やはり腕は飾りではないのだな。
揺れるコクピットの中で軽くシェイクされたが、足先に括り付けた時ほどではない。シートベルトにしがみついて揺れをやり過ごした私は、ふぅ、と息を吐いた。
「びっくりした。えーと、もっと出だしは優しく……? あ、いい感じ」
どうやら、動き始めのレバーを倒しすぎたらしい。おっかなびっくり調整しながらレバーを倒すと、ゆっくり歩きだした機体はやがて速度が乗り、どすんどすん、と小走りで移動を始めた。
「よーし、いいぞ。んで、今度は腕を持ち上げて、と」
コクピットを持ち上げるようにして視界を確保する。
「おっ、見つけた」
画面に表示されるロックオンカーソル。敵の位置を確認してさらに数歩進み、今度こそ標的を捕らえる。
標的のメタルインセクトはこちらに背を向けて動かない。好機だ。
「よぉし、ジェネレーター出力上昇! ビーム砲にエネルギー充填!」
腕を広げてコクピットを出来るだけ遠ざけ、ビーム砲のトリガーを引く。ギュンギュンギュン、という音と振動を伴って砲口にエネルギーが充填され、そして。
「発射!」
ピンク色のビームが、標的目掛けて打ちだされる。射線が強い残光として視界に残り、着弾地点が火花のような光を散らして爆発した。土煙が巻き起こり、天を突くように一筋の土砂が宙に舞う。虹色の光が、太陽の日差しの中で強く煌めいた。
「よぉし!」
直撃だ。間違いない。
私はコクピットの中でガッツポーズをした。
これだけの迫力ある演出なら威力だって一入。最初に遭遇する雑魚なんて一撃……一撃……あれ?
「……カーソルが消えないんだけど?」
小首をかしげている。まるで、今ので敵が死んでない、みたいな……まさかね?
カーソルの下になんか半分ぐらいまでしか減ってないHPバーみたいなのが見えてるけど、違うよね?
『ギシャアア!』
「何もちがくなかったぁ!?」
煙を突き破り、メタルインセクトがこっちにむかって突進してくる。どうやらこのビーム砲、派手なだけで威力はそんなに高くないらしい! オンラインゲームだとよくある事だね考えてみれば!!
「げ、迎撃! 二発目、二発目……オーバーヒート!? 冷却中?!」
一発撃つ度に冷却がいるの!? しかもこのヒートゲージっぽいものの減り方……10秒以上かかるじゃん!? その前に蟻に齧られるよぉ!
「た、退避―!」
慌ててその場を逃げ出そうとするも、残念ながらヨタヨタ歩きのロボットより蟻の方がはるかに速かった。のそのそ方向転換する間に近づいた蟻がぐっと足に力を込めて、こちら目掛けて飛び掛かってくる。
胴体にとびつかれて、バランスを崩して転倒する“ビームぶっぱ号Ver5”。
「うわああ!?」
衝撃と視界の変化で操縦どころではない。
激しく揺れるコクピット。そこから最後に私が目の当たりにしたのは、こちらを噛み砕こうと牙を剝く巨大な怪物の顔面であった。
プレイヤー:ショウ、DEAD。
死因:捕食。
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