第一話 部屋の回線はド貧弱
「ビルドロボオンライン?」
『そうそう。小鳥遊、ああいうの好きだったと思ってさ』
ある夜の事。久しぶりに話す友人は、新しいゲームを私に勧めてきた。
「オンラインって事は、ネット前提ゲームだろう? 知ってるでしょ、うちの部屋、ネット回線死んでるんだってば。アサルトコア6の対戦モードで、地面の下に吸い込まれて消えていったの見たでしょ」
『だいじょぶだいじょぶ、問題ない。ビルドロボオンラインにはオフラインモードがあるんだ。そりゃ、複数パーティー前提の高難度エリアを探索したりとか、オンライン前提の一部サービスは受けられないけど、目玉部分のビルドは遊べる』
そう言って友人は熱心にビルドロボとやらのアピールを始めた。よっぽど同好の士を増やしたいらしい。
しかし、話を聞いてみるになかなかよく出来たゲームのようだ。
基本的には最近流行りのクラフト系のように、特定のパーツをパズルのように組み合わせてロボットを作るらしい。ただそのパーツは配線やモーターなどが組み込まれた完成品で、それをさらに分解してもっと細かくカスタマイズする事も出来る、上級者の存在も考慮した仕様になっているらしい。
またプレイヤーもクラススキルやレベルアップによるスキル強化で、カスタマイズの幅に影響を与える、という事で、育成次第でより特化した機体構成もできるという。
アサルトコアシリーズだと、昔は裏技とかでプレイヤーを改造人間にする事ができ、改造度合いで積載量や消費ENに補正がかかったりしたが、あんな感じか。
少なくとも普通に遊ぶ分には制限がかかったりするのではなく、より汎用性を求めたり一芸特価しようとするとやりこむ必要がある感じ、と解釈。
なるほど。
今の時代、ユーザビリティなゲームは珍しいが、なかなか面白そうだ。
「……ちょっとよさそうだな。軽く触れてみるよ。何か注意する事ある?」
『おっしゃ。じゃあお勧めのエディションの話なんだが、まずノーマル版はやめとけ、最低でもデラックスエディションだ。こっちにはレベルアップチケットがついてきて、必要最低限のアビリティが最初から選択できる。積載量強化とかいくらあっても困らないし、あとあと……』
余計な一言が原因で怒涛のように友人から出てくるアドバイスという名目のおせっかい。
色々めんどくさかったので、結局一番安いノーマル版を買いました。
そんな訳で、やってきた仮想世界。
VRヘッドゴーグルを被るのなんてどれぐらいぶりだろう。
数年ぶりに動かしたが、流石日本製品という事もあり、ちょっと起動が遅かったぐらいで問題なく起動する。
黒背景に白文字だけというシンプルなタイトル画面でNEWGAME。煩わしい名前入力や各種設定を終える頃には意欲は半減ぐらいになっていたが、画面が切り替わりガレージが表示された途端、減っていた熱意は一気に盛り上がった。
「……おおー……」
目の前には鉄の骨組み。ガレージの中に納まっているのは、恐らく初期設定の機体だ。プリセットで用意されている、ヘリコプターに手足が生えたような機体を、歩き回って四方から見上げる。
「いいね、やっぱりこういうのはワクワクするよね。えーと、カスタマイズ画面にはどこから移動するのかな」
ぽちぽち手元のコントローラーを操作すると、それらしきものが表示される。
現在使用可能なパーツの一覧がわっと表示されるが……意外に種類が多い。この手のゲームは最初は各カテゴリに二つ、三つしかパーツがなくて、色々と頭を捻る事になるのだが、ビルドロボオンラインはよほど目玉のカスタマイズ機能に自信があるのか、最初からかなりのパーツが使えるようだ。
しかも、一番最初にカーソルが合わせてあるのが武器というのが分かっている。
戦闘要素があるならば、一番最初に決めるのはやっぱ武器だよね。
「ええっと、確か聞いた話だと、必要最低限の武器だけ装備して、あとは積載量が許す範囲で耐久性と機動力の両立を目指すのが流行りのカスタマイズらしいな。ま、別にこの回線で対戦プレイなんてできる筈もないし、とりあえずやりたいようにやるか」
定石のそれも別に悪い訳ではないが、オフラインで一人遊ぶだけなら、もっと頭の悪い機体で遊びたい。
アサルトライフルとかマシンガンとか、そういう無難な装備は読み飛ばして、私は他に面白い武器が無いか見て回った。
「ガトリングガン……ああー、いいねー。機体の背中にでかいドラム缶みたいなマガジン背負って、小さな機銃みたいなので延々と撃ちまくる、というのも楽しそうだ。ミサイルもいいな。ミサイルもでかければでかいほどいい。ん……お、これは」
ふと目に留まったパーツを拡大してみる。
それは所謂、大型のビーム砲だった。タコツボのような形状の核融合炉内で発生したプラズマエネルギーを、電磁レールで指向性を与えて放射する、みたいな理屈が書いてあるが、大事なのはそこではない。
武装を選んだ時、試射の様子が画面に表示される。その画面の中でピンク色のビームを、放水車のように垂れ流している映像が私の琴線をいたく刺激したのだ。
極太ビームいいよね。溢れるエネルギーで射線上のもの全てを消し飛ばすとか素敵すぎてたまらない。圧倒的な熱量で、強固な物質の分子構造がほどけて蒸発していく様を考えるだけで気分が高まる。
「いいね、これにしよう!」
パーツを選択し、機体をカスタマイズする。
案の定、ビーム砲を適当にくっつけた途端、あらゆるステータスが真っ赤っかになる。積載量オーバー、必要消費EN不足、起動できません。仕方がないのでまず両腕をもぎ、それでも足りないので頭ももぎ、それでも足りないので胴体をどけて、そこまでやってちょっと余裕が出来たので動力炉を良いものに変える。
とにかく移動の為の下半身と、ビーム砲と機体を動かす為の動力炉だけをなんとか積んで、最後にちょろっと砲身の横にコクピットを置く。積載ギリギリだった数値がちょっとだけオーバーして黄色く点灯したが、まあOKだろう。
「よしよし」
何事も最初から根を詰めると長続きしない。とりあえずこれでくみ上げてみよう。
最後に、機体名を設定。
「えーと……『ビームぶっぱ号』でいいや」
画面を閉じると、ガレージの方で動きがある。ロボットアームが伸びてきてサンプル機体を分解し、火花を散らして汲み上げ始める。本物の産業用ロボットを思わせる、規則正しいながらも複雑に動き回るロボットアームの動きに、私はしばし見とれながら完成をまった。
そして。
「出撃だー!」
ガレージから、外へ。垂直上昇するリフトで出撃すると、そこは周囲一帯、のどかな草原地帯だった。青い空、白い雲。地面はなだらかな丘陵を緑が覆い、ピクニックにはもってこいだ。気温も22度ぐらい、ちょうどよく眠気を誘う。
そんな平和そのものの光景だが、コクピットからの視点にはいくつかロックオンカーソルが表示されている。拡大してみると、銀色に光る蟻のようなものが、草原を我が物顔で歩き回っていた。
確かメタルインセクト、だったか。このゲームにおける主要な敵だと友人が言っていたような気がする。このゲーム、カーソルを合わせただけでは敵の名前や所属が表示されないので確証はないけど。
この敵を倒す事で金属資源や経験値を得て、どんどん強いロボットを作っていこう、という訳である。ちなみにインセクトとはいうが、別に見た目が昆虫に限定されている訳ではないという話だ。
ちょうどいい。記念すべき一発目はアイツに撃ち込もう。
「ジェネレーター出力上昇。融合炉稼働開始」
パチパチとパネルを操作して出力を上げ、ビーム砲の起動を開始する。ビーム砲を起動するとごっそり機体のエネルギーが持っていかれるが、とりあえず照準を合わせるぐらいには動けるようだ。
何も知らずにのこのこ歩くメタルインセクトをロックオンし、トリガーを引く。
「発射!」
射撃指示に、ビーム砲の砲身がピンク色に光りはじめる。内部からの唸るような音がどんどん大きくなっていき、それと同時にアラーム音のようなものが鳴り響き始める。うぉお、雰囲気ある。いや、でもちょっと喧しくない? あとなんか、妙に画面が赤く……。
「あれ?」
そこで私はようやく気が付いた。コンソールには機体のHPとか色々表示されているのだが、それとは別に視界そのものに表示されているゲージが、凄い勢いで減っていく。
多分、これはプレイヤーそのもののHPゲージだ。それが攻撃を受けているかのように減っていき、その度に画面が被弾エフェクトで赤く光っている。
なんで?
どこからか攻撃を受けた?
メタルインセクトの反撃!?
慌てて周囲を見渡す私は、そこでふとある事に気が付いてコンソールのある数字を確認した。
外気温250度。
視線を右に向ける。そこでは、今まさにビームを発射しようとする砲身が、ビカビカと光り輝いている訳で。
「え、まっ」
直後。
ビームが発射されると同時に、その超高熱の余波で私のキャラクターはコクピットごと吹き飛んで死亡した。
プレイヤー:ショウ、DEAD。
死因:焼死。
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