第二十六話 楽な話には島がある
火山地帯の思わぬ恩恵に与る事となった、我が愛機ブレイズシルト。
その後も出現するメタルインセクト相手に、この細やかな祝福は多いに助けとなった。
「どっせい!!」
飛び掛かってくるメカバッタ相手に、シールドバッシュしながら一瞬だけ斥力場を展開する。不可視の力場に巻き込まれたメカバッタは、トラックに衝突した軽車両のようにぐちゃぐちゃになりながら押しつぶされて爆発四散。
その末路を確認する事もなく、遠方のヤドカリ軍団に向けてプラズマビーム砲を発射。すでにミサイルが発射された後だったが、迸る超高熱の青いプラズマはそれを巻き込みながらヤドカリ本体を襲う。空中で引火したミサイルが誘爆し、青いエネルギーの奔流がヤドカリ達を飲み込んでいく。
先制攻撃でHPを削られていたヤドカリ達はそれに耐えきれず、纏めて爆発四散した。
真っ赤に灼けた砲身から青い光をギラギラさせるビーム砲を高く掲げつつ、私は敵の全滅を確認して息を吐いた。
「っふぅー。なんとか良い感じに戦えているな」
枯渇寸前だったサブエネルギーが、ビーム砲の熱を吸収して急速に回復しつつある。ビーム砲が冷え切る頃には、およそ6割は回復できているだろう。
激戦の余韻に浸りながら、私はマップを確認した。
「とりあえず、半分ぐらいは踏破したか……?」
それなりに色づいてきたマップの様子を見ると、やはり最初に私が迷い込んだのは火山地帯の中腹だったらしい。今回入口から歩いてきたのと合わせると、そろそろ全体の半分が見えてくるか、というところか。
だが実感としては、先に進むにつれて道が狭く、そして高さが上がってきている。火山を下から昇っていくのだから当然だが、つまりこの先には火口部があるという事である。
大体の場合、火山地帯というのは火口付近がハイライトだ。溶岩の中に潜む巨大なモンスター、あるいはカルデラを巣にする翼竜モンスター、そういったものを出すために火山地帯はあるといっても過言ではない。進行度では半分でも、本番は恐らくこれからだ。
気は抜けない。
「よし、頑張るぞ。装備的にはやれないこともないんだ」
改めて気合を入れて先を目指す。そう、この環境は意外にもビーム砲と相性がいい。
何より、サブエネルギーを回復できる事で斥力場シールドを多用できる。おかげで持久戦に持ち込みやすい。砲身を冷やすまでの時間が取れるというのは実にありがたいし、接近戦を仕掛けてくる相手にはシールドそのものが強力なカウンターとして機能する。
あくまでもこの灼熱環境だからこその特典で、他の場所では使えないのだろうが、今、必要な事が満たされているのだからそれで問題は無い
それにほら、あれだ。
特定環境のみ強い機体とか、それもまた浪漫である。
環境特化型もいいよね。
えっちらおっちら、流れる溶岩がそのまま固まったような斜面を登る。
そして登り切った先には、大きな溶岩湖が広がっていた。
「お、おぉー」
どうやら、上の火口から流れてきた液体金属は、ここで一旦溜まってから下に流れていくらしい。大量の溶けた金属が長年貯め込まれてきたと思わしき湖の畔は、ギラギラと輝く金属結晶のようなものが育っている。不可思議な光景を眺めながら歩いていると、まるで出島のように湖に突き出した地形が見えてきた。
一際大きな結晶が生えているその島の真ん中に、何か場違いなコンテナのようなものが転がっている。
視線を向けると、そのコンテナの上に矢印のようなアイコンが生えた。……拾えるアイテム?
「宝箱?!」
ガッチャンコガッチャンコと早足で出島に向かう。周囲を見て待ち伏せしている敵が居ない事を確認すると、恐る恐るコンテナに触れる。
ぎぃー、と自動的にコンテナが開いて、中のアイテムを取得した。
《非人道的動力炉をゲットしました》
「おおー……お? ???」
何か変なアイテムをゲットした。
なんだ非人道的って。動力炉に非人道的とかあるのか? 中で奴隷がぐるぐる歯車を回してるとか?
よくわからないが、とにかく新しいアイテムゲットである。動力炉という事で、機体に使えるのか新しいパーツの出現条件になっているのか、とにかくホームに戻った時が楽しみである。
「うふふふ、これは調子が向いてきたな……ん?」
そこで、画面が細かく震えている事に気が付いて私は顔を上げた。
火山地帯という事もあって、微震は珍しくもないが……。
「いや……違う!」
目の前に生えている巨大な金属結晶。その根元から微細な土煙が上がっている。見ている前でそれはすこしずつ動きだし、自ら地面の中から這い出してきた。聳え立つ結晶の影が、私の機体に影を落とす。
見ている前で結晶がぐるり、と反転する。果たして露になった反対側には、その巨体を支える複数の骨のような足と、その付け根でギラギラ輝く四つの目。内部から漏れるエネルギーの光を模様のように浮かび上がらせながら、巨大なエネミーが咆哮する。
《WARNING!! WARNING!!》
『ギシャアア!!!』
「ぼ、ボスヤドカリ……?!」
鳴り響き始めるロック調のボス戦BGMに頬が引き攣る。これは流石に想定していなかった、さっきのアイテムはプレイヤーを引き込むための囮か!
慌てて踵を返して離脱しようとするが、それよりも早くボスが動きを見せた。
ぐるぐる、とその場で回転するボスの殻から、何かが遠心力で放り出される。大きな岩のようにも見えるそれは、いましがた私が引き返そうとしている出島と陸を繋ぐ細道の上にどかどかと降り注いだ。
真っ黒で、ひび割れた内部から赤い光を放っている岩石のような塊。
爆弾岩、という単語が頭に浮かぶ。
『ギシュウ!』
出口を塞がれて立ち往生する私をよそに、ボスが複数の足で身を起こす。そして持ち上げた躰を傾けると、足の付け根の中央部分が、なんだか嫌な感じの光を帯びた。
ピンクでも、紫でも、青でもない、真っ赤な血のような深紅の閃光。それは急激に高まると、一筋の閃光として爆弾岩に放たれた。
敵の使うビーム!
その光景に感動したのも束の間、ビームの直撃を受けて爆弾岩が大爆発する。どれぐらいの爆発かっていうと、臨界爆発する瞬間のプラズマビーム砲をカメレオンが元気よく噛み砕いた時ぐらいの、地形をも変える大爆発だ。
途端、ガクン、という振動が機体を襲う。慌てて盾を支えにして倒れ込まないように機体を安定させる傍ら、足元から伝わってくる頼りない浮遊感のようなもの。
いや正確には、それを感じさせるほどリアリティのある映像、なんだけど。
「うそだろ」
出島が。
陸と繋がる橋を粉砕された出島が、漂流を始めている。
どんぶらこ、と揺れる島の上に取り残される私とボス。
ギロリ、と四つの目を輝かせるボスヤドカリが、威嚇するように再び唸り声を上げた。
『ギシャアア!!』
逃げ場はない。
溶岩の孤島での決闘が、始まる。




