第十六話 この距離なら銃は撃てないな
戦う相手を求めて森を徘徊する私。
荷電粒子砲は思ったのと違ったが、頭部センサーは思った通りの仕事をしてくれたようだ。
森の中にいくつものカーソルが浮かび上がり、隠れている敵の場所が丸わかりである。
やっぱりこういう補助装備を疎かにしたら駄目なんだなあ。
「さて。荷電粒子砲の威力はどんなもんかな」
まずは敵をおびき寄せる所からである。センサーが見つけ出した蜘蛛型のメタルインセクトに照準を合わせ、ハンドガンの引き金をひく。
パンパン、という軽い音とは裏腹に、反動は割とずっしり来る。放たれた弾丸は、木陰に潜んでいた蜘蛛の装甲を撃ちぬき、そのHPを4割近く削り取った。奇襲するつもりで先制攻撃を受けた蜘蛛は、びっくりしたのか地面に落ちてひっくり返る。
「うーん。二発で4割って事は、一匹仕留めるのに5発かあ。このハンドガンのマガジンは10発だから、大分心もとないなあ」
これでも一応、初期装備より少しアップグレードされた奴なのだが。この辺りだとやはり、実弾兵器でも予備マガジンを複数持ち歩かないといけない感じかな。
あるいは、待ち伏せしてくる割に蜘蛛は結構白兵戦能力低いから、近接武器を使って弾を節約しよう、という奴なのかもしれない。近接武器も割と浪漫だよね。
「よっし、近づいてきた近づいてきた」
攻撃された事でこちらの存在を認識した蜘蛛が、のそのそと近づいてくる。モニターに表示される距離計が60mを切ったあたりで、私はレールガンの構えに入った。
発射に数秒のインターバルがある事を考えて、扇形の中央あたりに蜘蛛が差し掛かるタイミングで引き金を引く。
ヴォオオ……と荷電粒子が加速器の中で唸りを上げ、放出された紫色のパーティクルがメタルインセクトを飲み込んだ。反動でギシギシと機体の関節が軋む。
「どうだ……うげっ」
戦果を確認しようとして、私は目の前の惨状に呻いた。
扇状に焼き払われた地面の上に横たわる蜘蛛。その装甲は無数の細かい、赤熱化した貫通孔にびっしりと覆われてスポンジみたいになっていた。私は平気だけど集合体恐怖症の人間にはなかなか辛そうな光景である。
HPバーは……全損。見ている前で3Dモデルが砕け散り、データノイズになって消えていく蜘蛛の最後を見送る。
「……一応、一撃で6割削れるのか。悪くはないな」
確かに、悪くはない。悪くはないが……微妙である。
そもそも蜘蛛を倒すだけなら、プラズマビームでも熱量ダメージ込みで出来ていた事である。こっちは複数のハンデを抱えて、敵を誘引して接近戦に持ち込んでこの威力。バランス的に考えればイーブンどころか、ちょっと不利まである。
あるいは事前に削りすぎていたか? いや、しかしこれまでの様子を考えると、8割一撃で削れるかというのは大分怪しい気がする。
どうもこのゲームの開発及び運営は、ビーム兵器の調整に難儀しているようだ。インフレを避けるために弱めに調整するというのはよくある話ではあるけど。
「次は複数巻き込んでみるか」
荷電粒子砲の弱点であり利点である拡散するビーム、それを確かめてみる為に今度は二匹の蜘蛛を引き寄せてみる。これでハンドガンの弾は残り4発。
ガサゴソ藪をかき分けて近づいてきた蜘蛛を複数巻き込むようにして、荷電粒子砲を発射。
二匹の敵が紫色の閃光に飲み込まれた。
「おっし、やっぱり範囲攻撃としてはこっちの方が優秀だな、巻き込み範囲が広いし」
シュウウ……と穴だらけになって擱座する蜘蛛の様子にうんうん、と満足感を覚えるが、そこでふと違和感。
なんだか。かたっぽ、HPバーが残ってるように見えるんだけど??
『ギシャア!』
「うわあ見間違いじゃなかったあ!!」
どうやら事実上の散弾なだけに、ダメージの偏りが出るらしい。あるいはもう一匹が遮蔽物になったのか。
ハンドガンの狙いをつけるよりも早く、蜘蛛が跳躍して掴みかかってくる。細い脚が何度も振り下ろされて、装甲にガツン、ガツンと爪を突き刺してくる。HPがガリガリ削られるのを片目に、なんとかモニターにドアップの腹部に左腕のハンドガンを押し当てる。
「トドメ!」
ガチン、と引き金を引く……が。
「弾が出ない?! なんで!?」
外さないよう銃口をめり込ませて引き金を引いたのに、弾が出ない。そうこうする間にも蜘蛛の攻撃は激しくなり、ついに爪が頭部パーツを貫いた。カメラアイが破損して、モニターの画面が真っ黒になる。
「わあ!?」
パニックになって、ハンドガンの引き金をやたらと引く。
真っ暗になった画面の中で、表示されるハンドガンの弾が減っていき、やがて残弾ゼロになる。
気が付けば、機体を襲う振動は消えていた。
私は恐る恐る、コクピットハッチを開放して外の様子を確認した。
「……し、仕留めた、のか?」
周囲に敵の姿はない。遅れてログを確認してみると、確かに二匹目の蜘蛛を撃破した記録が残っていた。やたらめったら撃ったハンドガンが当たったようだ。しかし、なんだったんだ? どうしてさっきは弾がでなかったんだろう?
「バグ? それともゼロ距離だと引き金を引けないセーフティーがかかる?」
四角いオートマチックのハンドガンの銃口を見ながら首を傾げる。あまり銃器については詳しくはないのが惜しまれる。
「まあいいや、なんとかやり過せたし、ホームに戻って……おわあ!?」
突然の衝撃。いきなり動き出した機体に、私はつんのめって機外に放り出された。
そのまま落下。みるみる間に下の地面が迫ってくる。
「おわああ!?」
忘れがちだが、二足歩行のロボットのコクピットは地面から高さ10mほどにある。残念ながらこの高さから落下したら助かりそうにない。
じたばたしながら地面に叩きつけられる直前、私の目に映ったのは何かに樹上に引き上げられる愛機と、それを糸で吊り下げる巨大な蜘蛛型のモンスターの姿。これまで遭遇してきた奴とはくらべものにならないサイズで、足を広げると視界に納まらない程。
見間違いでなければ、その複眼の一つに銃弾か何かがあたったと思わしき罅割れが入っているのが見えた。多分、乱射したハンドガンの弾がたまたま、近くにいたコイツの頭に命中したのだろう。
「あ、あー」
納得を覚えた次の瞬間、どんっ、という衝撃音と共にプレイヤーのHPバーが消し飛ぶ。徐々にホワイトアウトしていく視界の中、愛機がバリバリと頭から齧られているのが最後に見えた光景だった。
ううーん、なるほど。
森の中には怖いのがいるね……。
プレイヤー:ショウ、DEAD。
死因:落下死。




