第十四話 新たなマイホーム
「うわ……っ」
周囲の光景は様変わりしていた。
大爆発によってか、広場を取り囲んでいた木々はなぎ倒されている。そして広場の一角には、今も黒黒と煙を上げる爆発の後。地面が大きく抉れ、火元は黒い煙の中でもいまだバチバチと青い光を放っているのがみて取れた。
カメレオンの姿は……ない。
落ち着いてログを確認すると、そこには確かに撃破ログが残されていた。
『“デュアルサイト”を撃破した』
『プレイヤー経験値+250』
『粒子砲スキル経験値+250』
『メタルインゴット(緑)他、アイテムを入手しました』
どうやら、あの大爆発がトドメになったらしい。いや、まあ。確かにオーバーヒートすると爆発しますよ、とは書かれていたけど……。
「こんな派手に爆発するとは思わないじゃん……」
精々、手元でフラググレネードが爆発したぐらいだと思っていた。こんなの、装備していた機体が根こそぎ蒸発するどころか、パーティー行動していたら仲間まで巻き込んでしまう。
弱い以外でビーム砲が使われていない理由がまた増えた気がする。もしかしたら自爆特攻に使えるかもだけど、そんなの通ったら皆爆弾抱えてボスに突っ込むようになるだろうから、多分自爆ペナルティがあるはずだ。今回はたまたまボスがこっちの腕をもいでくれたから助かったけど。
いや、それはともかく。今はボス撃破を喜ぼう。
「なんだかんだでボスを一発撃破! やったね!」
エモーションで拍手をぺちぺち。一しきり悦に浸った所で、私は背後を振り返った。
「それで、これどうしよう……」
背後に転がっているのは、泥にまみれた金ぴかのクズ鉄。我が愛機は、ちょっと動けるような状態ではない。もともとズタボロだった事に加えて、最後の爆発ダメージで完全に御釈迦になってしまった。
「プレイヤーが生きていてもロボが死んでたらダメじゃん……いや助かったけどさ……」
てっきりプレイヤーにHPが別に設定されてるの、いわゆる無茶な機体の加速度Gで潰れるとか、「機体は無事でもパイロットには死んでもらう!」をやる為だと思ってたけど、こういう逆のバリエーションもあるのね。
しかし困った。
雑魚のメタルインセクトでも、人間からしたら5m以上のサイズの巨大モンスターだ。まあもともと私の愛機はその雑魚一匹にも苦戦していたんだが、それはこの際置いておく。
プレイヤー装備のハンドガンでは目くらましにもならない。接触=死である、突然ロボアクションがスニーキングに代わって私は困り果てた。スニーキング苦手なんだよ。
「……いくだけいくしかないかあ……ん?」
途方に暮れていると、ふと視界の中に何か表示がある事に気が付いた。矢印というか、光のライン?
こっちに向かえ、という事だろうか。
ここでもじもじしてもしょうがない、私は割り切って誘導に従い、森の中に踏み入っていった。
鬱蒼とした森の中。暗いのは相変わらずだが、人間視点だと意外にも歩きづらい。ロボ視点だと足元に纏わりつくうっとおしい草木や根っこだが、人間サイズだとそれらは陸橋や建物のようなサイズだ。歩くうえでは邪魔にならないどころか、身を隠すにはちょうどいい。
なんだかガリバーになった気分だ、ちょっとおもしろい。
きょろきょろ周囲を警戒しながら光の誘導に従って歩くと、突然光が消失する。
どうやら、ここが終点らしいが……。
「? 何もないぞ?」
一見すると、ただの木の根元。見渡してみても、当たりには何か意味のありそうなものはない。
困惑していると、視界の中にまたメッセージ。ただそれはプレイヤーに中てた運営からのそれではなく、演出の一環のようだ。英語で書かれたウィンドウがぱぱぱっと開いては閉じ、プレイヤーを置き去りにして何かの処理が行われる。
すると。
「わっ」
小さく地面が揺れたかと思うと、目の前の地面が急に盛り上がった。
いや、せり上がったというべきか。見ている前で円形にくり抜かれた地面を押し上げて、エレベーターの出入口らしきものが出現する。
ここに入れという事かな?
おっかなびっくり中に入ると、エレベーターは自動的に下降を始めた。
「おぉ……」
数秒後に開かれた扉から出ると、そこはどこか見覚えのある景色だった。
それなりに広い空間に、立ち並ぶ巨大なハンガー。埃っぽい空気やあちこちに絡みついている木の根っこなど相違点はあるが、間違いない。
これはプレイヤーのホームだ。
その予想を証明するように、ガガガガ、と部屋の中央に巨大なエレベーターが降りてくる。そこには、スクラップになった愛機が乱雑に積み上げられていた。
「やった、新しい中継点だ」
これで花畑以外のスタート地点が出来た。やっぱりあのモンスターは、ある種の通過点の番人として配置されていたものだったのだ。オンラインではどういう処理になっているのかちょっと気になるけど、これで先に進める。そして先に進めるという事は、新しい武器やパーツが手に入るという事である。
「ぐふふふふ……」
早速、カタログを確認する。
すると予想通り、燦然と輝くNEWの文字。喜び勇んで確認するのはまずはビーム砲のカテゴリだ。なんせ根本から引き千切られたあげく大爆発しちゃったからね、多分修理するより買い直した方が早い。
「おっ、いくつか増えてる」
見た所、三種類のビーム砲にそれぞれ派生形が増えている。フォトンビーム砲は堅実に安定性を高めヒート率の上昇を抑えたモデル、荷電粒子砲はより実践的に調整して射程距離が向上、プラズマビーム砲は安定性と放熱性を犠牲にさらに火力を向上させたモデル、かあ……。
「ふぅむ」
個人的にはプラズマビーム砲の新型にとっても心惹かれるが、思えばまだ荷電粒子砲は試していない。射程を伸ばした実戦モデル、という話だから、次はこれとちょっと使ってみよう。
「しかし……カタツムリみたいな見た目だなあ……」
他のビーム砲が普通にキャノン砲、って形をしているのに対し、なんていうか荷電粒子砲は……巻貝みたいな形状である。多分、粒子加速装置のせいだろう。アニメとかゲームとかでは真っすぐなタイプが採用されているけど、10mだか20mだかでは確かに加速距離足りないもんね。円形にしてループさせてぐるぐる回した方が利に適っているのは分かるが……。
これを装備してる様子を想像するが、イマイチこう、かっこよくならない。というか、これ完全に手持ちの事とか考えてないよね? 性能はともかく見た目でまず人気がでなさそうだ。
「あとは……そうだな。頭部パーツを出来るだけいいものにしたい」
今回森の中を歩いて思ったが、こちらはできるだけ遠距離から攻撃したいのに、認識範囲のせいで遭遇戦になってしまう。もっと先に敵を見つけられれば、ヒート率をおさえながら戦えるはずだ。
「ええと……うん、荷電粒子砲は消費エネルギーは多いけど重量はさほどでもないな、んで頭部パーツはこれにして……修理と合わせて、完成時間は……」
ついでに総重量が下がったので、脚部も変更して……あ、そうだ。プレイヤーもレベルアップしたから、取得したスキルポイントも割り振らないと。とりあえずは全部積載量UPにぶち込んで……よし。
新しいアセンブルがとりあえず形になった。
しかし実際に動かすまでは、修理とパーツ生産を合わせると結構な時間がかかるようだ。
ちょうどいい。今日はこのあたりにして切り上げよう。
たちまち忙しく動き始めるロボットアームを差し置き、私はメニュー画面を開いてログアウトを選択した。
「んじゃ、また明日」




