第十三話 だってこれはゲームだから
会心のタイミングで放ったプラズマビームが、棒立ちするボスの胴体に直撃する。
多少なりともダメージを与えられるはず、それを期待しての一撃だったが……。
「全然効いてないな」
ようやく表示されたHPバーは、全く減っていなかった。まあアサルトライフル1~2発分、という事を考えると、ボスのHP全体を考慮すると適正なダメージなんだろうけど……。
まあいい。どっちにしろ直撃ダメージは期待していない。
本命は熱による炎上効果の追加ダメージ……なん……だが……。
「……全然、燃えてないな」
緑色のカメレオンの装甲は、多少煤けてはいるけど全く燃えてなかった。装甲表面でプラズマビームが完全に弾かれてしまったらしく、油に引火もしていない。
ダメージが殆どなかったせいかリアクションもなく、規定通り首を振る仕草がまるで煙を払っているようにみえてちょっとこう、虚しかった。
「いや……どうしようこれ」
次の行動に備えつつ、頭の中で展開を考える。
一応、ダメージになっていない訳ではない。一発一発は軽くとも、ひたすら撃ち込み続ければいつか倒せるというのは少なくとも事実だ。顔を出した後、また森に潜んで徘徊する時間を挟む都合上、十分に冷却時間も確保できる。
だが、それではあっちを倒す前にこちらが倒される。行動パターンの中に入っているマシンガン掃射、あれは頻度こそ少ないし威力もないが、今の機体では回避不可能なほど正確に狙ってくる。プラズマビームで相手を倒す前に、こっちの耐久力が底をつく。
もともとここに来るまでにダメージを受けていたし、そこから行動パターンを探る間に被弾しすぎた。
現状ではあのボスを撃破する事は困難と言わざるを得ない。
「……ボスの所在と行動パターンを把握できたことを収穫として、今回は諦めるか?」
もとよりボス戦、一度で倒せるはずもない。こういうのは何度もやられて、攻略法を見出していくものだ。そうと決まれば無駄に長生きするのも時間の無駄、さっさとやられてやり直した方がいい。都合がいい事に、敵の行動パターンには食らえば大ダメージの大技もある。あれを棒立ちで受ければそれで終わりだ。
道中の敵の行動パターンもわかった、次はきっと、もっとうまくやれるはず……。
「…………」
だけれども。
どういう訳か、今日の私はそういう気分にはならなかった。
「なんていうかさ……たかがゲーム、っていう人もいるけどさあ……」
ババババ、と放たれるマシンガンの掃射を左腕で防御する。バヅン、という嫌な音。
どうやら弾丸が、関節のいい所に入ったらしい。左腕のステータスが真っ赤になり、力を失った腕がダランと垂れ下がった。
これで残るは、まだ熱を持っているプラズマビーム砲だけだ。
「所詮遊びだ。遊びだからこそ……納得いく形で終わりたいよな」
考えてみよう。装甲部へのビーム砲の直撃はあきらかにカスダメだったが、ロボットアクションのボス戦においては弱点以外への攻撃は大体そんなものだ。逆にいうとそのお約束に従えば、あのボスには必ず大ダメージを与えられる弱点があるはず。そのあたりのお約束を、このゲームの開発は外していない、これまでのプレイで確信できる。
だったら、どこだ? あのボスの弱点は……。
「……舌を伸ばすときの、口の中」
メタルインセクトがどうして生き物の形をしているかはよく知らないが、生物無機物問わずして内部が頑丈な話はない。狙うべきはそこだ。大ダメージ確定の舌伸ばしのタイミングというのもハイリスク&ハイリターンって感じで悪くない。
操縦席のスイッチを操作し、ビーム制御の倍率を変える。解放率100%、出力100%。
熱を持った砲身が、内部から青い光を撒き散らしながらガタガタと震え始める。オーバードライブ……今撃ったら確実に大爆発するだろうが、それがどうした。
「変に日和ったのがよくなかった。俺は派手にビームを巻き散らかしたくてこの武器を選んだんだぜ」
そうこうしている内に、藪の中を動き回っていたボスの動きが止まる。
来る……!
『ギャア!』
藪から顔を出し、高く首をもたげるカメレオン。その両の目が、しっかりとこちらを捕らえている。
その口元に。
タイミングを見計らって、私はプラズマビームの引き金を引いた。
「最大出力、いっけえ!!」
ジュワォ、と砲身が雷霆と共に青いビームを噴射する。最大出力で発射されたそれは、これまで見た事がないほど長く尾を引くビームだった。飛翔するビームは、タイミングドンピシャ、舌を伸ばそうと大きく口を開いたカメレオンの上顎内部に命中する。
途端、膨れ上がるドーム状の光の霞……プラズマ爆発?
光の爆発に頭部を包み込まれたカメレオンが、大ダメージのリアクションで大きく仰け反り傾いた。
「くそっ、少し外した!」
本当なら舌の付け根にぶち込んで千切ってやるつもりだったのに。気負いすぎて手元がブレたか。
HPバーを確認すると、確かにボスのHPはごっそりと削れていた。果てしなく思えたそれは、もう半分ぐらいにまで減っている。
だがその代わりに、こっちのメイン武器も限界を迎えていた。プラズマビーム砲はコイル部から閃光のような青い光を放出し、パーツの継ぎ目からヤバ気な赤い光を噴出している。後付けの冷却フィンは熱で溶け落ち、全体的なシルエットも歪んでいて今にも爆発してしまいそうだ。
まあ、やれるだけの事はやった。ここで爆死するのも本望だ。
そう思って最後の瞬間を待つ、が……。
『……ギ!』
大ダメージのリアクションで仰け反っていたボス、その瞳がぎょろり、とこちらを見据えた。反応する暇もなく、体勢を立て直したボスが舌を伸ばしてくる。
それは狙いたがわず、棒立ちしていた私の機体を、その右腕の代わりに取り付けられたプラズマビーム砲を先端のマジックハンドで鷲掴みにする。
メキメキ、と伝わってくるのはすさまじい剛力。
抵抗も束の間、次の瞬間には嫌な音ともにプラズマビーム砲は根本から引き千切られていた。
「うわあ!?」
腕を無理やり引っこ抜かれた反動ですっころぶ愛機。転倒の衝撃でノイズが走るモニターには、プラズマビーム砲を手繰り寄せるカメレオンの姿。そして。
ガブリ。
「やっべ!!」
直後、モニターの全てが青白い光で染まった。
遅れて、耳をつんざく爆音と共に、激しく機体が揺れる。爆風をもろに浴びてでんぐり返った機体がごろごろと転がり、コクピットで何度も座席に叩きつけられたプレイヤーのHPバーがぐんぐん減っていく。
やがて振動が止まり、静寂が戻ってくる。
ボス戦らしきBGMは、完全に止まっていた。
「どうなった……?」
コクピットの中は真っ暗だ。完全に電源が切れており、モニターは何も映していない。時々火花が飛び散って、室内を微かに照らすだけ。
火花の灯を頼りにコンソールを調べて、コクピットハッチを開放する。がこん、という音と共に目の前のモニターがスライドして、外の光が差し込んでくる。
その眩さに目を細めながら、警戒しながら外に出る。
そこに広がっていた光景は……。




