第十二話 WARNING!
「そっかあー。ボーナスタイムはこれで終了か……」
無慈悲な通達にげんなりと首を落とす。
これからは、今までみたいな自爆特攻みたいな行き当たりばったりは駄目、という事か。修理費用がどのぐらいになるか次第だけど。
まあ、好き好んで修羅の道を進んでいるんだから文句を言えた義理ではないんだけど。
「ま、いっか。攻略勢でも対人勢でもないんだし。好きなようにやるか」
流石に修理が原因で詰む事はないだろうし。私は気を取り直して先に進む事にした。
と、その前に機体の状態を確認。
どのぐらいダメージを受けているか改めてチェックする。
「左腕と胴体にちょっとダメージはいってるな……脚部もそこそこ。ううーん……まあ、気を付けて先に進もうか」
これまでが気を付けてなかった訳ではないけど、まあ一応ね。
相変わらずチカチカ意味深に出たり消えたりするカーソルに気を取られながら、森の奥へと進む。これ、高性能な頭部だとちゃんと見えたりするんだろうか……。
そんなこんなで先に進むと、急に視界が開けた。
夜のような梢が一時途切れ、太陽の光と青空が垣間見える。
そこは森の中にぽっかりとあいた、広場のような場所だった。地面には下草がびっしりと生え、まるで緑の絨毯のようだ。
一見するとピクニックにもってこいの風光明媚な光景だが、ゲーマーの勘は別の事を訴えている。
なんていうか。
バトルするのにおあつらえ向きの広さと地形。明らかに中ボスが居ますよ、と全力でアピールされている気がする。
「いやでもオフラインモードとはいえ、もともとオンラインゲームだしな。そういう、ストーリー上の中ボスみたいなの、居るかな?」
まあ、何かしらのイベントがあるのは間違いない。周囲を警戒しつつ、広場に足を進める。
と、ふと操縦に違和感を覚える。
私がコントローラーから指を離しても、愛機が勝手に前に進んでいく。どうやら、イベントが始まったようだ。
操作を離れた愛機が広場の中央に立ち、周囲を警戒するように視界が左右に振られる。周囲に広がるのは、夜闇のような真っ暗な森林……その梢や藪が、ガサガサと音を立てた。
蜘蛛ではない。もっと大きくて素早い何かが、広場の周囲をぐるぐると回ってこちらの様子を伺っている。
怪しげな物音は、数秒立つと突如停止する。すると広場の明かりの下に、森の奥から巨大な何かがのっそりと姿を現した。
「……カメレオン?」
そう。
それは一言で言えば機械仕掛けのカメレオンだった。緑色に染められた装甲に、先が吸盤みたいになっている極端に細い脚。頭部は大きなボール状のカメラがぎょろぎょろと左右別々に動きながら周囲を見渡し、前方に向かって鋭い角が一本生えている。
動くカメラアイが、ぎょろり、と私を睨みつける。大きな口を開いて、カメレオンが雄たけびを上げた。
『ギェエエー!!』
《WARNING!! WARNING!!》
「普通にボスかよ! 同期とかどうなってんの?!」
警報と共にデカデカとモニターに警告メッセージが表示される。それだけでなく、これまで環境音メインだったBGNが、突然ロック調のイケイケな感じに切り替わった。明らかに、特別な戦闘が始まっている。
慌ててコントローラーを握ると、機体の操縦権はこちらに戻ってきていた。急いでプラズマビーム砲の照準をカメレオンに向ける。
が、引き金を引くよりも早く、カメレオンは早回しみたいなバックステップで森の奥に姿を隠してしまう。藪の中でガサゴソとその巨体が移動する気配。
相手の動きを追って、こちらも旋回する。ああ、のたのたした動きがいらっとする。
『ギエエ!』
と、突然動きを止めたカメレオンが藪から再び顔を出す。目をぎょろぎょろさせながら首をもたげると、鼻先がバババッとノズルファイヤに煌めいた。反応する間もなく、コクピットに響く被弾警報。
「撃たれた? マシンガン?!」
ダメージは大きくないが、連続で食らうと危なさそうだ。左腕で胴体を庇いつつ追撃に備えるが、カメレオンはそれ以上の攻撃はせずに再び藪に戻っていく。
「なるほど、そういうボスか……!」
趣旨は理解した。この広場をバトルフィールドに、姿を隠して攻撃してくるボスに反撃して倒せ、という事だろう。森の中に奴を追っていくのは論外だ、あんな見通しの効かない空間で、こちらよりも何倍も大きなボスの相手なんかできる訳が無い。
何よりこの鈍足では追いかける事も出来ない。おとなしく意図されたようにこの広場で戦うべきだろう。
そして、こういう場合ボスの行動パターンには複数あるのが鉄則だ。まずは相手の行動パターンを特定する為に観察に徹するべき。私は慎重に、周囲をぐるぐる移動するボスの動きを伺った。
ガサガサ揺れていた藪の音が途絶える。
来る。
急いでダッシュでその場を離れるのと、ボスが藪から顔を出すのはほぼ同時だった。
『ゲゲェ!』
再び顔を大きく持ち上げる……が、今度は目玉がぎょろぎょろしておらず、まっすぐこちらを見つめている。
かぱ、とその口が広げられ……中から伸びてくるのは、蛇腹アームのマジックハンド。勢いよく伸びたそれは、すんでの所で回避した私の後を追う様に地面へと深く突き刺さり、埋まっていた岩を掘り起こして本体の元に戻っていく。
そして手繰り寄せた岩を……ガブリ!
一撃で、こちらの胴体ほどもある大岩が木っ端みじんに噛み砕かれる。うひぃ、分かりやすく即死級の大ダメージ攻撃に違いない。時々そういうのあるよね、オンラインゲームって。
ぼーっと突っ立ってない限りは当たりそうにないのが幸いか。この鈍重な重量二脚でも避けられたしな。
「よし。とにかくこの調子でボスの行動パターンを割り出していこう。反撃するのはそこからだ」
ボス戦なんて苦戦してなんぼだ。焦らず、確実に行こう。
その後も私は回避と防御を中心に立ち回り、ボスの行動の解析を続ける。
判明したのは、ボスの行動パターンは大きく分けて四つ。
一つ目が最初に見せたマシンガンの攻撃。
二つ目は舌を伸ばしての大ダメージ攻撃。
三つ目は顔を出すだけで何もせず、周囲を見渡すだけ。
最後は顔を出したかと思うと引っ込めるフェイント行動。
これらの行動を、決まったパターンで繰り返すのがこのボスの行動だ。
となると、狙い目は顔を出すだけで何もしない行動。
そこを狙ってプラズマビームを撃ちこみ、ダメージの減り具合を確認する。
「よぉし、いい子だ。頭をだしな……」
がさごそ、と森の中を移動するボスに照準を向ける。想定では、このタイミングで無意味行動をするはずだ。
ピタリ、と移動が停止し、ボスが顔を出す。そして予想通り、顔を上げて周囲をきょろきょろと見渡した。
「今だ!」
引き金に応えて、プラズマビームの砲身が青白い閃光を放った。
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