第九十八話 量産型もまたロマン
『結論からいいますと、可能ではありますが不可能でもあります』
ホームに戻ってきて、私の草案を耳にしたテレサはそう言った。
「可能だが、不可能?」
『細かくいいますと、これまでの経験を生かせばプログラムの実装は可能です。自律行動する端末筐体の製造も可能でしょう。ただし、その中枢となるコア部分だけは、このホームでしか生産できません』
いいながら、テレサは出来る女教師のように、拡大したカスタマイズ画面を指揮棒で突いた。可愛いね。
『ご理解いただけていると思いますが、システム的に無人機がイコンから出撃する事も出来ません。かといって、他の場所での製造は不可能です。イコンに備わっている生産システムは非常に高度なものです。そしてそれ故に、運用のハードルが非常に高い。外に持ち出す事は不可能であり、それがそのまま、屋外での活動の限界になっています』
私のアイディアを否定するでなく、淡々とテレサはそのハードルの高さを説明した。
そう、今回私が発案したのは、早い話が無人兵器の量産である。
いうなればモビル〇ールとか、UN〇Cとか。そういう。
ロボットゲーではよくある要素である。プレイヤーが一人でも、プログラム制御された無人機を僚機にする事で、中の人の数的不利を覆そう、という訳だ。
勿論それだけで勝てるほど実戦は甘くないだろうが、敵の接近が阻止できればそれでいい。あとは本体が、徹底的に火力特化したビーム兵器で敵を撃破する。
つまり戦闘という個人単位ではなく、戦術という集団レベルでの戦いをソロプレイで実現しよう、という話である。
しかしながら、テレサに言わせればそれは不可能だという。
まあ前線基地だって3Dプリンターがないとパーツの製造は不可能だっていう話だしね。流石にそんなに甘くはなかった。
ただ、全く無理でないというなら、やりようはありそうな気がする。
「ふむ……どこまでだったら出来ると思う?」
『修理ユニット等を利用すれば、やっつけ仕事程度でいいならフレームの建造は可能だと思います。ですが、それを動かす為のコアは作れません。せいぜいが、作業用重機に毛が生えた程度のものが精いっぱいでしょう。かといって、ホームから次から次に無人機を出撃させるのも、先ほど言ったようにできませんので……残念ながら、質を数で補うのは難しいと思います』
役に立てなくてごめんなさい、といった感じのテレサ。
だが私の抱いた感想は全く逆だ。
「勿論それは分かってる。その上で一つ確認するんだけど」
『はい?』
「制御コア。それはアイテムとして持ち運びできるの?」
『それは、まあ、できますが……』
だったら問題ナッシング。何の障害にもならない。
こっちとしては言葉通り“制御コア”が用意できるかどうかだけが問題だったので、それが解決したならもはや悩む事はない。
カタカタとカスタマイズ画面を操作し、簡単な草案を作って彼女に見せる。
「さっきの説明は大分噛み砕いたものだったからさ。もっと詳しく話すと、こんな感じにしたいんだよ」
『……え?』
きょとんとして覗き込んだテレサが目を丸くする。
彼女は文字通り穴が開く程プランを読み込んで、しばらく考えた後に深々と頷いた。
『これは……確かにそれなら……なるほど』
「でしょ? これなら最低限の戦闘力を確保しつつ、無人兵器群の生産も問題ない。これまで培ってきた経験を生かした良いアイディアだと思うんだけど」
あとは、実際にその自律兵器がどれぐらいの戦闘力を持っているか、だけど。こればっかりは作ってみないと分からないね。
せいぜい作業用重機程度、というと最初に遭遇した初期蟻ぐらいの戦闘力か、それより低いくらいだろうか。ちょっと頼りないが、運用次第ではなんとかなりそうだとも思う。
初期蟻でも、へぼい機体は噛み殺せるもんね。それを世界で一番よく知ってるのは多分私だ、はははは。
「という訳で、1号機と2号機をこの仕様で建造しておくから、テレサさんは私の居ない間に2号機の調整をお願い。手間がかかるのはこっちでしょ?」
『え? いいんですか?』
「うん。実質テレサさん専用機という事で、思うように調整していいよ。何かの事情で私が持ち出す事はあるけども、それ以外は好きにしていい」
予選トーナメントの続きをどうするかの話はまだ来てないしね。最近ちょっと彼女への対応が雑だったし、ここらで好きにさせてあげよう。私には何の問題もないし。
そう思っての提案だったのだが、反応は正直予想以上だった。
『専用機……私の……専用機……!』
「ん?」
『わ、分かりました! ショウさんからのご厚意に、必ずやお応えします! うふふ、やったぁ、専用機! 私の、専用機っ!!』
ぴょんぴょこスキップするような勢いでコンソールに飛びついて、カタカタ操作を始めるテレサ。どうやら待ち切れずに、今から自律プログラムやら何やら作ってしまうつもりらしい。
まあAIに睡眠とか必要ないから、好きにすればいいと思うけど。
「まあ、ほどほどにね。じゃ、私はこれで」
『はいっ!!!』
気合は十分だなあ。さて、私はお休みしますか。今日は疲れた。
◆◆
「……んぅ」
翌日。
休憩時間に携帯を弄っていた私は、とあるアプリの設定に悩んでいた。
所謂、家電管理アプリだ。登録しておけば、外出先からでも家の家電製品を制御できる、みたいな。風呂を沸かしたり、パソコンを操作したり、まあ色々できるのだが、それにVRゲーム機を登録するか、という話である。
別に家に帰ってから起動すればいいのだが、ちょっと機材の立ち上がりが遅くてだな。それに、テレサの事を考えると、こういうアプリで状況を確認できたりしたら便利かもしれない。
あくまでゲームの支援AIとはいえ、あまり放置しておくのもどうかと思うからね。今もテレビニュース見てると、導入していたAIが暴走して顧客情報を全抹消したとか、操作を誤ってネットに機密情報を流出させたとか、怖い話が一杯流れてくるし。
そんな話を置いておいても、ペットカメラみたいに何をしているか観察できたら面白いかもだし。少なくとも損はないはず。
まあ、結局ゴミ回線だから、そういった信号を送る以上の事はできないんだけど。普通に遊べるぐらいの通信回線が確保できてれば、外出しててもアセンブリとか出来るらしいんだけど現状は無理かな。
「……登録、と」
早速状況を確認しようと思った所で、休憩時間の終了を告げるチャイムが鳴った。どうやら考え込みすぎたらしい。
「まあいっか、また明日の楽しみにしよう」
誰も居ない、独り暮らしの部屋。
その部屋の片隅に置かれた電子機器に一人でに灯が灯る。
緑色のランプが灯り、インターネット回線の不通を示すオレンジ色の光が灯る。
しばらくピコピコ、と明かりが点滅したあと、ランプは消えて……。
部屋中の全ての電子機器の電源が、一瞬だけ点灯した。
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