第九十七話 ターゲットにしがみつけ
そして翌日。
ちょっと仕事で精神的に披露してへろへろな私は、いつもよりも遅い時間にゲームにログインした。
「うぃーっす……」
『……!』
呻きながらホームに顔を出す。
と、ホームの中ではハンガーを前にテレサが体育座りで座り込んでいた。私の声を聴いてびくぅっ、と反応した彼女が、いそいそと身を起こして走り寄ってくる。
『お帰りなさい! 今日はなんか遅かったですね』
「ああ、ちょっとね……色々とあるんだ」
このゲーム世界の住人になりきってる彼女に、仕事がどうとかいっても理解はされないだろうなあー。そう思って曖昧に誤魔化すと、彼女は彼女で都合がいいように解釈した様子。
『前におっしゃってた、別のイコンでの作業……ですか? 少し前にも機動要塞で何かしてましたよね。そっちはそんなに大変なんですか?』
「うん、まあ、そうだね。大変だね……」
こっちはあくまでゲームだからね。現実の仕事とはくらべものにならない。
が、テレサはこちらの言葉をどう深読みしたのか、不安そうに眉を顰めた。
『……もしかして、そっちにも、私みたいにショウさんを手伝ってる人がいるんですか?』
「ん? ああいや、そりゃ人と関わりはするけど……手伝うっていうか、どっちかというと……商売仇?」
『そうなんです?』
そりゃあまあね。同じ職場の同僚だって、一応名目上は協力して仕事をしている訳だけど、実際はそんな仲良しこよしではない。誰も彼もが自分だけは責任逃れした上で美味しいとこだけもっていこうと考えているんだから、仲良くしてるのは表面上だけだ。実質敵といっても過言ではない。
そういう意味では、うん。純度100%でこっちの事を考えてくれるテレサは、AIとはいえ、疑わなくていい味方といってもいいかもしれないな。
「正直テレサさんと話してる時が一番気が楽だよ。何も疑わなくていいからほっとする」
『そ、そうですか。へぇー……』
何やら前髪を弄りながら顔を逸らすテレサ。……なんか日に日にモーションが感情豊かになっていくんだけど、サイレントアップデートの成果だろうか、これ。
全プレイヤーに配ったっていう話だし、データのフィードバックも多いんだろうな。
「ほれほれ。話はここまで、さっさと新型機のテストに行こう」
『あ、はい! そういえば名前を決めてませんですけど、どうするんです?』
「名前かー。んー。……アンカーナイト、にでもしとこうか」
という訳で、試作機ことアンカーナイト、出撃である。
今回は工業地帯ではなく、最前線の地底湖シティから出撃だ。軽く機動力チェックもかねて、ビル街の谷間を疾走する。
脚部は中量型、無駄にエネルギーを多用する構造でもないのでスラスターの使用感にも問題はない。ただカタパルトの運用にちょっと意識して残しておいた方がいい、というのは頭に入れておくべきだろう。一応、荷電粒子砲発射時の熱量である程度回復出来るとはいえ、以前ほどの効率ではない。
『ひゃわー、凄い眺めですねえー』
「はははは、そうだろそうだろ」
だがそれ以上に、透明キャノピーの視点から見る高速移動はなかなか絶景だった。やはり、全周囲モニターと、本当に透明なキャノピーでは見え方が違う。
ガラス一枚向こうが外界だという、ほんのちょっとした不安がスパイスになっているのだろうか? 私の目にうつっているのはどちらも結局ゲーム機の映像にすぎないにも関わらず、臨場感は段違いだ。
後ろの座席に座るテレサもご機嫌である。
「まあでも安全性は確実に低下してるからな。注意はしてくれ」
『はい、わかってます。まあでも、なんだかんだで厚さ50cmを越える超強化アクリル板ですし、中口径以上の直撃でも喰らわない限り即死って事はないですよ。目に見えて分かるほど危険だからこそ、手は尽くされてるはずですし』
「まあ、そりゃそうだけど」
対人戦では透明キャノピーなんか採用したら真っ先にスナイパーに狙われそうだが。いやでも考えてみれば普通の機体でも大体胴体がコクピットで、当然相手もそこを狙撃してくる。私が思う程両者の間に差はないのかもしれないな。
そのあたり、友人に今度聞いてみるか。
「さ、おしゃべりしてないでテストといこう」
ピクニック気分を引き締めて、安全地帯である街から出る。そうすればすぐにメタルインセクトのお出ましだ。蟻避けの照明の光が届かない物陰に、赤い複眼の輝きが煌めいている。そちらに近づくと、反応して何体かの蟻が表に出てきた。
「さて。まずはお前で実験と行こう」
ある程度の距離を開けて、ウィンチキャノンの狙いを定める。引き金を引くと軽い衝撃と共に、飛行機の模型みたいな端末がワイヤーを引きながら撃ちだされた。
それは組み込まれた制御プログラムによって軌道を調整しながら、兵隊蟻に命中。接触時の衝撃をダンパーが軽減しながら、先端のクローがマグネットで標的に密着する。
「ファイヤ!」
そのタイミングを逃さずトリガーを引く。端末からビームがチカチカ、と三点射され、ゼロ距離でビームを胴体部に撃ち込まれた兵隊蟻は忽ち爆散。飛び散った残骸が消滅する最中、ワイヤーをまきとって端末を回収する。
って、あ。
「……巻き取る時に地形でゴロゴロ転がっちまったな……大丈夫かな?」
『一応、クッション材で保護しているので、そう簡単には壊れないと思いますけど……』
ううむ。思ったようにはいかないな。ワイヤーじゃなくてもっと保持力のあるものの方がいいのかもしれない。
ぶつかって塗装剥げした端末を回収しつつ、もう一発を別の兵隊蟻へ。するすると伸びていった端末が命中し、再び敵を撃破する。
そしてまた回収。
まだまだ無数に湧いてくる兵隊蟻を前に距離を維持しながら、私はテレサに呼びかけた。
「再使用までの時間は?」
『計算上4秒ほどです。冷却が短いカービンとはいえ、やはり多少の時間は必要ですね』
「とはいえ、他のは重たすぎてなあ。そんなに遠くまで飛ばないだろう」
うーん。面白いアイディアだと思ったが、現状だと普通に射撃するのと変わらんなあ。アイディア倒れという奴か。ひたすら突っ込んでくるメタルインセクト相手に、意識外からの奇襲も何もないしな。
しょんぼりしつつ、正面から接近してきた敵を荷電粒子砲で撃退する。拡散する粒子が、複数機のメタルインセクトを纏めて粉砕した。
もともと射程が短い以外は一番実戦的な性能だった荷電粒子砲だけあって、アップデート後は破壊力だけ見れば随一だ。雑に照準を向けるだけでいいので、必要リソースこそ多いが副武装向きだと思う。
これからはもっと多様していきたいな。
「うーん、しかしウィンチキャノンは残念だが特に面白みもないか。これは失敗かな……」
『そうですね。何かもっと他に良いアイディアは……ショウさん、後ろです!』
「!」
テレサの警告で我に返る。
見晴らしのいい透明キャノピーだから気が付いたのだろう。その姿そのものは見えずとも、足元の水たまりに背後から忍び寄る兵隊蟻の眼光が映り込んでいた。
不味い。ここまで接近されていたら振り返る猶予もない。そもそも荷電粒子砲もビームカービンも冷却中で反撃は……いや。
カタパルトは、いつでも撃てる。
「だったら!」
前に走って背後からの噛みつきを回避しつつ、ウィンチキャノンを発射。撃ちだされた端末は、最大角度で上昇して、弧を描くようにして背後の兵隊蟻へ頭上から襲い掛かった。無防備な背中に、端末がクローで張り付く。
それを確認し次第、ウィンチを巻き取りながらワイヤーを振り回す。ひっぱられた兵隊が引きはがされ、モーニングスターの先端みたいに遠心力で振り回された。負荷をかけられたカタパルトがレッドアラートを訴えているが、通電していれば問題ない。
そのまま壁に兵隊蟻を叩きつける。直後、カービンの冷却が完了した。
迷わず発射。
壁にめりこんで動きを止めていた兵隊蟻がトドメを刺され、爆発四散する。
九死に一生を得て、安堵の息が零れた。
「ふぅ……」
『危ない所でしたね』
「ああ。……少なくとも、本体から独立して動く攻撃端末、って言う発想そのものは悪くない。もっとリソースを減らせば使い物になりそうだ」
兵隊蟻を無理やり振り回した反動で損傷したウィンチキャノンを、肩ごとパージして切り離す。
思ったようにはいかなかったが、得る者もあった。
ホームに引き返すべく、スラスターを噴射して飛び上がり、湖上の橋まで一気に移動する。追いかけてきた兵隊蟻達は、私を追いかけられないと判断したのか、そこで引き返して再び闇の中へ戻っていった。
その後ろ姿を見ながら、ふと考える。
……質を圧倒する数。
もし、こちらもその数を用意する事が出来れば、どんな敵でも圧倒できるのではないか?
「……テレサさん、ちょっと聞きたいんだけど」
『? はい、なんでしょう?』
「自律制御プログラムとか……作れたり、する?」
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