第九十九話 チルドレンズ
さて。家に戻ったらお楽しみの時間である。
家事を片付けてログインすると、文字通りテレサがすっ飛んでくる。
『お帰りなさい、ショウさん!!』
「はいはい、ただいま。準備はできてる?」
『もちのロンです!!』
喜色満面のテレサの勢いに思わず押される。なんか、見えない尻尾がぶんぶん振り回されているのが見えるようだ。
「そんなに専用機が嬉しかったの?」
『そりゃあもう! 合体前提とはいっても、私の専用機ですから! うふふふ、わったしの、せんよう、き~』
感極まる挙句、妙な鼻歌を歌いながらステップを刻んでくるくる回り始めるテレサ。
テンション上がりすぎてキャラが変わってる……。
「まあいっか、よーし出撃だ」
『はい!!』
そして早速、実戦テストだ。今回は工業地帯ではなく、地底湖のホームから出撃する。いい加減そろそろ先に進みたいしね。
まず出撃するのは、私の担当する一号機。黒鉄色の機体に、黄色と黒のコーションマークを書き込んだカラーリング。構造としては、アズールブレイカー1と似ている。
両手に、現状装備できる最大出力のフォトンビーム砲を一つずつ。流石にこのクラスだと色々厳しいので、本体スラスターやサブエネルギータンクはかなり妥協しているので、本体性能はかなり低い。手数も少なくて、単体ではメタルインセクトの群れを相手にするにはこころもとない。
だからこそ、2号機が必要である。
『お待たせしました!』
意気揚々とリフトから降りてくる2号機は、一言でいえばロボの形状をしていない。
メガフレーム胴体をベースにキャタピラ、というのはいつぞやの1号機と変わらないが、こいつはさらに増加装甲等によって胴体のサイズを大きくしている。どちらかというと、でっかいコンテナにキャタピラと頭が生えている感じだろうか?
武装はフォトンビーム砲と頭部バルカン。火力が無い訳ではないが……この2号機の本領はそこにはない。
「よし、テスト運用を開始する。まずは私が敵に攻撃をしかけるから、それを合図にオペレーション開始だ」
『先に始めなくていいんですか?』
「常にこっちが有利な状況とは限らないだろう? よーいどん、でも有利過ぎるぐらいだ」
言って、ビーム砲の照準を定める。こちらには気が付いているが、照明が気になって物陰に潜んでいる兵隊蟻達。彼らに向けて、最大出力のフォトンビームを放つ。
迸るピンク色の奔流。流石にこの出力だと反動も大きく、踏ん張った足元の岩がピシシ、と罅割れた。関節にもある程度の負荷がかかり、ステータスが黄色くなる。
それだけの出力なのだから、破壊力も一入だ。迸るビームは数匹の兵隊蟻を一瞬で蒸発させ、なおも伸び続けた。それを無理やり振り回すと、扇状の範囲が根こそぎ消し飛ばされる。射線上に存在したものは、メタルインセクトも岩盤も道路も一切の区別なく、圧倒的なエネルギーの奔流に消し飛ばされた。
ひゅぅ。
いいねいいね、どう考えてもその場しのぎのやっつけ調整とはいえ、ダメージがある程度伴うようになると爽快極まりない。
私はこれがやりたかったんだよー!!
ただまあ、それだけの威力があれば冷却時間もそれ相応。最大出力でぶっ放した片腕は、かなりの時間チャージングに時間がかかりそうだ。
それに対し、敵の数は際限がない。号砲代わりの一撃に反応した大量の敵が、洞窟の奥から次から次へと押し寄せてくる。
一応、もう一本で対応する事もできるが多分焼け石に水だ。
であるならば。
数には数で対抗である。
「テレサさん、どう!?」
『生産ライン、軌道に乗りました。第一ロット、もうじき生産完了です!』
背後で控える巨大なコンテナのような機体。その内部から、バヂバヂ、ガシャガシャ、とせわしない音が響いている。搭載していたフォトンビーム砲の姿は無く、代わりにその残骸らしきものだけが、傍らに転がっていた。
それが何を意味するのか。
応えは、バジャン、と音を立てて解放されたバックパック、その内部から伸びるベルトコンベアが示している。
機体の内部は、ぽっかりと空洞になっている。メガフレームの大サイズボディ、それをさらに増加装甲で拡張した内部には、何も入っていない。代わりにその空虚の奥から、ガシャガシャと音を立てて何かが這い出てきた。
『ピキキ』
それは一言で言うと、随分と粗末な歩行機械だった。
脚は四本と最小限、それも駆動部のない、“く”の字に曲げただけの鉄の棒だ。アクチュエーターは胴体部分にあるだけで、それが脚を動かす玩具のような構造になっている。手は愚か頭もなく、胴体前面に赤く光る開口部があるだけで、それはもはやロボットというより歩く玩具、メタルインセクトの同類に近しいものである。
頼りないように見えるが、それでもこれが今回、私達が用意した自律兵器。その第一号である。
高度な生産システムが使えない為に本来戦場で応急処置を行う為の修復装置を使って、素材インゴットを雑に加工して、それにテレサの作った制御コアとサーボモーターを組み込んだだけの単純な造り。
武装は小口径ビーム砲。これに関しては、武装として持ち込んだ大口径ビーム砲を現地で解体し、砲身内部の触媒マテリアルを取り出して転用している。アイテムとして、それらのマテリアルが存在しないからこその力技だ。
正直力技もいい所である。これまでやってきた合体ロボとか、合成ビームだとか、イーグルドローンだとか、テンプレ無視して好き勝手やって来た成果というか、なんというか。
まあだいたいテレサのおかげである。
「よしよし、よろしく頼むぞ」
『ピキィ』
生産された自律兵器をよしよし、と撫でると、まるで答えるように小さく鳴いた。
あれ、おかしいな。テレサの話だとめちゃくちゃ簡単なプログラムで動いてるって話なんだが……。
「まあいいや、いくぞぅ」
『ピピ!』
合図をすると、カサカサ前線に向かっていく自律兵器。
とはいえ単体で比較しても戦力差は圧倒的だ。兵隊蟻と比較しても、サイズは半分以下、まともにやりあったら勝ち目はない。この程度の戦力が一機追加されたところで、本来ならば何の足しにもならないが……。
そう、一機ならば。だ。
『ピキィ』
『ピキキ』
『ピィー』
賑やかに声を上げながら、1号機に続いて進んでいく自律兵器。その数は一機、2機、3機……どんどん増えながら、1号機の足元を埋め尽くしていく。
それらの出元は、今も製造に励む2号機だ。
そう、2号機は自律兵器を生産する移動工廠そのものなのである。アイテムとして持ち込んだ制御コアとサーボモーターを消費し、インゴットを素材に自律兵器を作り続ける。それらのアイテムは素材アイテムなので、アイテム欄を圧迫せずに多数持ち込める。唯一消費するのは、製造ラインに使っている修復装置の稼働に必要なサブエネルギーだが、これは減ったら1号機が合体する事である程度回復が可能だ。
ふふふ、ビルドロボオンラインの多様性様々である! 運営有難う、多分こういう使い方は想定してないと思うけど!
そうしている間にも増え続ける自律兵器。
圧倒的な数を頼りに迫ってきていたはずの兵隊蟻達が、戸惑ったように足を止める。
そりゃそうだ。
システム的に考えても、プレイヤー機の反応が“その場で増える”なんて想定していないだろう。
「よし、お前ら、やっておしまい!」
『『『ピキキィ!』』』
私の合図とともに自律兵器達が一斉にビームを放ち、地下空間での大激闘が始まった。




