第十話 燃え尽きるほどプラズマ
せっかく新しい武器を装備したものの、またしても重量に悩まされる事となった私。
かといって、現状でもかなり積載量に偏ったアセンをしているのだ。これ以上上半身を軽量化するのはあまり得策ではない。
私は熟考の結果、ビームをW装備する事を諦める事にした。代わりに、重量級の左手を取り付ける。
ただし、武器は持たない。これは勿論意味がある。
「片腕で武器を持っても、リロードできないからな……」
そういう事である。一応サブアームとかでリロード補助をさせる事はできるようだが、その為には専用のモーションを組むか、プラグインを導入する必要がある。そのどちらも出来ない、持っていない、素人の私はいっそ武器を持たず徒手空拳で白兵戦を挑んだ方がいいと考えたのだ。
少なくとも、蟻ぐらいなら踏んづけて倒せる程度なのは確認済みである。この、いかにも殴ったら強そうな太い腕はそれなりの破壊力を発揮してくれる事だろう。
それに加え、今回はプラズマビームそのものにも手を加えてある。
配線とか剥き出しのいかにも試作兵器という感じの砲身、しかしそこには今、ぐるりと取り囲むように金属のフィンがびっしりと張り付けられている。モーターには必須のアレ、いわゆる冷却フィンである。
あれだけ説明に熱量を発するとかいてある以上、対策しないのは愚の骨頂。これがどれぐらい役に立つかは分からないが、何もしないよりはマシだと信じるしかない。
「よし、出撃ー!」
そういう訳でいい加減見飽きてきた花畑の丘へ。頭部カメラでぐるりと周囲を見渡し、手近な蟻に狙いを定める。
プラズマビーム砲はむやみやたらと重かったが、取り付けた重量級の腕がいいぐあいにバランスをとってくれる。軽く腕を振って反動をいなしながら、敵をロックオンして引き金を引く。
途端、ウォオオオン、と低く唸り声を上げながら青白く発光し始めるプラズマビーム砲。電磁誘導コイルが眩いほどに青く輝き、冷却フィンの周囲の空気が高熱に揺らぎ始めた。
そして……発射。
原子力を思わせる青白いビームが砲身から吐き出され、それと同時に発生した反動で機体がたたらを踏む。揺れるコクピットで何とか機体を踏ん張らせながら、発射したビームの行方を目で追いかける。
確かに、フォトンビームよりは遅い。だが実弾と同程度の速度はある。着弾したビームは周囲に青い火の粉を撒き散らし、忽ち周囲の花園が燃え上がった。
ヒートゲージを確認すると、いまの一撃で70%を超えている。冷却フィンを取り付けてこれなのだから、普通に撃ったらもっと高いはずだ。やはり、発熱量が高い。
あとよく見たら、ヒートゲージが二重になっている。一定値を越えたら、というのはこういう事か。多分、限界ギリギリを狙ってオーバーヒートさせたりしたら爆発する、という事かな。まあ、ちょっと気を付けて運用すればいいか。
「んでもって、敵は……まあ、ピンピンしていらっしゃるよな」
分かっていた事だが、あの派手派手なエフェクトと半比例した威力である。表示される蟻のHPバーは、半分ぐらいまだ残っていた。
「やれやれ。しょうがない、近づいてきた所を左手で殴って倒すか……うん?」
白兵戦に備える私だが、そこでふと、蟻の様子がおかしい事に気が付いた。
こちらに近づこうとしている蟻のHPが、攻撃していないのにどんどん減っていく。そしてついには、私が何もしていないのにHPがゼロになった蟻が、爆発四散、消滅する。
「え、えー? 何が起きた??」
困惑しながらログを確認するが、そこには攻撃→命中→撃破の行程しか書かれていない。
少なくとも、知らない所で何か追加攻撃が発生したとかそういう訳ではない。本当に、蟻が勝手に死んだとしかいいようがない訳で。
「ええ、なんで?」
困惑しながら、プラズマビームの命中した場所に目を向ける。
フォトンビームの時はクレーターになったりしていたが、プラズマビームの場合はクレーターよりも高熱による影響の方が大きいようだ。周辺の花園に火が付き、炎が燃え上がっている。じきに自然消火するとは思うが……。
「あ……もしかして……炎ダメージ?」
ふと閃くものがあった。そういえばこのゲーム、熱の影響も無視できないんだった。事実、私の最初の死因は自分のビーム砲による焼死である。
そうと決まれば実証あるのみ。丁度、アクティブになった蟻が一匹、こっちに近づいてきているので炎を通過するように位置取りを調整する。
「そうそう、こっちこっち。いい子だ、こっちおいでー」
すり足で移動しながら、蟻を炎に引き込む。燃え上がる花畑を、のしのし歩くメタルインセクト……そのHPが、徐々に減っていく。
やはり、炎による熱ダメージ。考えてみれば、炎に炙られてなんともない機械とかないよな。熱を発するのと、外部からバーナーで焼かれるのは全く違う話な訳で。
そうこうしている内に蟻は炎地帯を突破するが、そのHPは見る限り半分ほどになっていた。プラズマビームで倒す事も出来るが、今撃つとオーバーヒートする。
ここはどっしり構えて、奴がこちらにかみつこうと飛び掛かってきたところを……カウンター!
鉄拳を叩き込まれた蟻は空中で砕け散ってポリゴン片になり、経験値とアイテムを残して消滅した。
「よし!」
軽く快哉を上げる。
最初はどうなる事かと思ったが、割かし使い勝手がいいかもしれない、その装備。地形や敵との位置関係など、考える事は多いがうまく立ち回れば数値以上の火力を出せそうだ。
何より、草原地帯の突破にこれほど向いていそうな武器もない。開発も狙ったのだろうか。
「ふふふ。それはともかく、やる事が決まったなら善は急げ、だ」
私は急ぎ、草原地帯に向かって出発した。
まあ、この足だと結構時間がかかっちゃうんだけど……。
◆◆
なんやかんやで5分ほどかけて、花畑の向こうの草原地帯に到着。ソファに腰かけてうとうとしていた私は、目の前に広がる青々しい光景に気合を入れなおす。
「よし。じゃあさっそく始めるぞ」
照準は目の前の草原地帯。敵ではなく、生い茂る鉄の草そのものにむけてプラズマビームを発射する。
ビカビカ青く光るビームが、草原地帯に叩き込まれる。超高熱のプラズマは草を一瞬で焼き尽くしながら直進し、ど真ん中で爆発四散した。
草原を貫く射線にそって、赤い炎が広がっていく。忽ち草原は火炎地獄と化した。
燎原の火というのは、こういうのを言うんだろうなあ。
「はははー、燃えろ燃えろー、燃えてしまえー」
メラメラ燃え上がる炎の海、その中にいくつものHPバーが浮かび上がる。中に隠れていたバッタどものHPだろう。それは見ている前でどんどん減っていき、次々と消滅する。その度に敵撃破報告が入り、経験値とアイテムを入手する。炎で倒すのも武器で倒した判定なのか、武器スキルももりもり上がっていく。
やがて目の前に広がる草原は一しきり燃え尽きて後には黒焦げの平野が広がるばかり。そこに動く敵の姿は何もない。
「上手に燃えましたー♪」
いやあ、清々しいね。ここに来るまであれだけ苦労していたのは嘘のようだ。
ビーム兵器万歳!
まあ、この焼き尽くした状態が保存されるから、次からはここまでうまくはいかないんだろうけど。
とにかく、せっかく消耗もほとんどせずに敵を全滅させられたんだから、このまま行ける所まで行ってみよう。正直、いい加減花畑の丘以外のガレージも確保しておきたい。
多分、この先にある森のどこかに、チェックポイントというか出撃場所が確保できるようになってると思うんだけど……。
「森かあ。こっちも、プラズマビーム撃ち込んだら燃え上がらないかな……」
そうだったら楽なんだけど、まあ、とりあえず様子を見て見るか。
周囲に警戒しながら、私は焼け野原を踏み越えて、先のエリアに進んだ。




