File.9 負け犬
瓦礫の山から起き上がった紅羽。
「グッ…くっ……クソ…」
頭がズキズキと痛む。
撃たれた訳ではないが、どうやら瓦礫のいくつかが頭に直撃したらしい。
辺りを確認すると…血だらけになったラミエの遺体と、同じく瓦礫に挟まり気絶している堺の姿が。
「……これから国を守る奴がこんな所でくたばるなよな」
残りの力を振り絞り、堺を覆っている瓦礫をどけ応急処置をした。
「聞こえるか?」
潜一に連絡するも、通信機が壊れたのか返事が来ない。
仕方がない、今はさっさと撤退すべきだ。
「………………」
──堺!!銃を貸せ!!奴を殺す!!
あの時…感情に身を任せず、何か別の策をとっていれば……こうはならなかったのだろうか。
「クソッ…!!」
幸い、警備員の服装はあまり壊れてはいない。
このまま一階へ行っても怪しまれる事なく撤退できるだろう。
【一階】
帽子を深く被り、一階へとゆっくり降りていった。
傷がズキズキと痛む。
敗北感による悔しさは、紅羽の心をぐちゃぐちゃにしていく。
「無事か!?」
他の警備員が心配そうに紅羽の下へ駆け寄る。
「ビル周りに負傷者がいるのかもしれない。探してきます」
そう言い残し、紅羽はビルを出た。
一階の光景は最悪と言ってもいい。
爆発物の爆発により体がバラバラになった者や、ひどい火傷により顔すら判別できない者。
どこか非現実的な戦争の光景を…まんま現実に持ってきたような……
遅れてきた救助隊や警察は、この地獄絵図をどこから対処すべきか分かっていない様子。
ドス黒い感情が紅羽にのしかかる。
それを一体どうすれば消化できるのか、全く分からない。
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【五年前】
「は?別れる?なんでよ…!」
少しヒステリック気味に返す女に堺は申し訳なさそうに答える。
「これから俺は危険な任務に赴く。だから…もう別れよう」
本来は極秘や特殊作戦に関わる案件を他者に言うのは絶対にやってはならない事。
その内容も警察全員が把握できているものではないと言うのに。
「君を危険な目に遭わせたくないんだ…許してくれ」
彼女の手を優しく握って目を合わせようとして答えるが、当の彼女は涙と長い前髪で目を合わせられないし、合わせてくれない。
「本当に…ごめん」
温かい彼女の手が離れ、踵を返しどこかへ行こうとする堺。
彼女のすすり泣く声が聞こえるだけ。
他の音は…何も聞こえない。
「なら…ならさ…!!」
ギリギリで出した掠れ声が堺を止めた。
そのまま彼女は悔しさと怒りのままに叫ぶ。
「“お前も俺と一緒に命張ってくれ”くらい言ってよ!!バカ野郎ー!!!!」
そうして彼女はどこかへ走って行ってしまった。
その背中を…ただ追うことしかできなかった…昔の話。
【五年後】
「!!」
「良かった…目が覚めたんですね」
安心した様に言葉を零した晴菜の姿が視界一杯に映る。
彼女の背後にいた迅は心から安心したのか、長く息を吐いた。
千景は…あんまり心配してそうにしてなかったが。
「ここは──ッ…」
すぐ立ち上がろうとしたが足が痛んだ。
瓦礫にやられたか。
他にも痛む部位はあるが、止血などの応急処置が為されてある所を見るに……
「お前達がやってくれたのか?」
堺の一言にポカンとする三人。
なら誰が…?と考えたが思い当たるのは一人しかない。
「柊…か」
悪人しか殺さない、危害を加えないと言うのは、どうやら本当らしい。
随分と丁寧な治療だ。
「俺と晴菜が支えます。いきますよ…せ〜のっ!」
完全敗北。
勝利の余韻に浸っていて油断した訳でも、何か特別に判断をしくじった訳でもない。
“何もさせてもらえなかった”
これに尽きる。
──駄目だ。仮に殺せてもそのままヘリが落ちれば民間人に被害が及ぶ!!
あの発言をする前に、一瞬だけ、彼女に銃を預けそうになった。
それほどまでに、無意識に彼女を買っていたのか。
それがベストだと思ったのか。
公安のエリートが、協力者でもなんでもない奴に託すと言う行為に及びそうになったこの事実。
自分の力不足が……腹立たしい。
「千景。交代してくれ、俺は他の奴らの後始末に協力してくる」
迅は救助隊や他の警察達と合流し、これからについて現場で指示を行いに行った。
「そう言えば、他の敵はどうなった?」
「それが……」
【物喰いによる襲撃前】
「話せ。何故ここに来て、何の為に戦っているのか」
声のトーンを一つ…いや二つくらい落として脅す千景。
その変わり様に少々驚く晴菜だったが、なんとかして顔に出さないように努める。
「は?そりゃ──」
パン。
そんな感じの弾けた音が廊下中に響く。
数秒後に…男は倒れた。
「な…!」
発砲場所は恐らく先程、晴菜がいた下の階段。
一体何があったのか。
それを理解するのに少しだけかかった。
暫く捜索したが、警備員に紛れて逃走。
物喰いの一味か、もしくはその協力者がこの傭兵を殺したのだろう。
正直に言うと三人は油断していた。
最も“死”が近かった戦闘に、一瞬だけだが心が緩んでしまったのだ。
【時は戻り】
「すみません…」
申し訳なさそうに呟く晴菜に堺は横に首を振る。
「いい。今はさっさと戻るぞ」
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【紅羽の秘密基地】
「…すまない潜一。失敗してしまった」
ボロボロになりながら帰宅した紅羽は、申し訳なさそうに呟く。
彼女は悔しさや怒りを抑えながら、ゆっくりと椅子に座った。
怪我は少ない。
今はゆっくり休むべきだ。
テレビを付け、今日のニュースを見る。
『速報です。本日昼に京極ビジネスタワーが何者かによって襲撃され、警察官や社員が何人も死亡する痛ましい事件が起きました』
「警察は物喰い関係である事を明かさなかったんですね」
もしこれが“最初のテロ”なら完璧とは言えなくてもそれに近い形で揉み消せただろう。
だが、もう物喰いが日本でテロを起こした事が日本中に知れ渡った以上、関係を疑う国民が少なからずいる
はず。
「……………………」
兄の拓は何故拉致されたのか、そこも気になる点ではあるが、今それを確かめようがない。
「…でも、不思議と生きてる気がする…」
そう信じたい。
ではなく、そうであると…思う。
「紅羽さん。俺も…そう信じてますから。諦めないで下さいよ!」
「…!!すまないな」
嬉しそうに、そして穏やかに笑った紅羽なのであった。
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【???】
「はぁ……はぁ……はぁ……」
痛い。
痛い。
痛い。
痛い。
この痛みを消せる能力があればと思う。
学校の授業で、この世には摩訶不思議な能力を持つ人間がいると聞いた事がある。
もしそれが本当なら、都合の良い“痛みを消す能力”があればいいのに。
(あ…駄目だ…死……ぬ)
そんな“彼女”の思い通り、痛みは引いていき、次第に瞼がゆっくりと勝手に落ちていく。
(立派な人間に…なれなかったな…)
【十五秒後】
パチっと目が覚めた。
痛みはない。
これがあの世?
なら…この光景は…何も変わってない。
助けようとする人達。
僕を轢いた男の人。
うるさいサイレン音。
そして…みんなが驚いた様に僕を見ている。
夢…じゃない。
「大丈夫ですか!?」
救急の人の声が視界がはっきりとした。
服は血だらけで、地面であるコンクリートには染み付いている。
全快。
(でもあの時は確実に死んだ感じが……)
奇跡だ!!
と盛り上がる一方。
僕は悟った。
不死。
…の能力に今…目覚めた。
「嘘だ」
第一章:始まり編
完。
次章:???編。
次回は結構重要な回なので、明日も投稿します。




