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酒鬼   作者: 半端者の柑橘系 
間章
10/27

File.10 涼風湊


「………………!!」

家に全力ダッシュで帰宅した彼女は息切れに苦しみつつ、扉にもたれて玄関で座り込んでしまった。


トラックに轢かれて、痛い思いをして、死んだ。

だが蘇った。


生物の理を反したこの行為。

もう全てがどうでもいい。


(フードを被ってたから、顔はあの時僕を助けようとした人達以外バレてはない…はず)


自分が能力を持っている事が多くの人にはバレたが、多分…大丈夫だろう。


(もう十時か……明日学校どうしよう。やっぱり休むべきか──)


恐らく…というか間違いなく、これは事故としてニュースに載るだろう。


「いや…行くべきか」

轢かれた人間は、近くいた人達にマスコミや警察が聞き回り、そして僕に近い人間像を情報提供するはず。


ここで突然の休みとなると、学校での疑いが強まる可能性がある。


なるべく平然と…事故の件に関しては無知を装う。

(でも…もしバレたら??)


もし僕が持っている能力が社会…なんならヤクザとかにバレたら…


人体実験?

死ななければなんでもオッケー?


「あり得るのか…そんな事…ッ」


そんな事もありつつ、彼女は血だらけの制服と体を洗い、翌日の朝を迎えた。


───────────────

【翌日】


(いつものルートはやめておこう。僕は無関係だ)

少し遠回りにはなるが、歩きでいく。


『彼女』こと、涼風湊(すみかぜみなと)は山にある学校、星凛女学院に通っている。


湊は所謂王子様系女子。

強い正義感の持ち主で、文武両道で優しく包み込んでくれる母性が、彼女が人気たる所以だ。


       「「「「湊様〜!!!!」」」」


女子の歓声は絶えず、いつも優しく手を振るうのが彼女のファンサービスだ。


そんな余裕ある彼女でも、余裕を失くし、一秒先の事しか考えられなくなる時は来る。


それは…『今』としか言い様がないが。


「あの…湊さん…」

気弱そうな女子が湊へとゆっくり近づき話しかけた。


「どうしたの?僕に何か用?顔が赤いよ?もしかして熱が──」


どんな時でも彼女は人を見捨てない。

……どんな時でも。


「あぁ…えっと……クッキー…作ってきたんです!受け取って下さい!!」


「いいの?ありがとう。後で食べさせてもらうよ。僕クッキー好きなんだよね」


優しく微笑む湊に、顔を真っ赤にする彼女はそそくさと退散してしまった。


奥にいた彼女の友達が「やったじゃん!」と彼女と嬉しそうにしているのを見て、どこか落ち着いた様な気がする。


教室に入り、湊が調べたかった事は二つ。

一つは能力者の社会状況。


二つは………

(“僕”の情報が広まったか否か)


どうするべきなのか分からない。

もし能力を持った人間通しのコミュニティがあるならそこに……


「……………………」

朝の時間と休み時間の数十分で徹底的に調べたが、そんなものはなかった。


仕方がない。

日本の覚醒した能力者なんて人口の一割…その中の八割が自覚する事なく各々の寿命で死ぬ。



「やっぱり思ったより少ないな……もう日本全体が能力社会ならどれほどよかったか……」


そして事故についてだが、特に話題にはなっていなかったのを見て取り敢えず安心。


(そもそもの人が足りないから差別も何もない…って事か)


黒人だってアジア人だって人数はたくさんいる。

差別する人よりも人数が少ないだけの…人間。


(僕はそもそも人間?死んだらどうなるの?)

逃げる直前に、体の部位を探したけど特になかった。


大丈夫。

そのままバレる事なんてない。



【放課後】


(部活休んで帰宅か…こんな事初めてかも)


何か起きた訳でも自分を立場を脅かす重大な事件に巻き込まれた訳でもない。


ただ……蘇ってしまっただけ。


『テロ組織物喰いが香港で犯行声明を〜』


“物喰いは能力者!?ミステリアスな素性に迫る!”


今のテレビなどのマスメディアはそんな事しか言わなくなってしまった。


もし彼らが能力者だとすれば…もしかしてその偏見と戦っているのかな。


「もしそれなら……」

信じてみる価値は…あるのかも?


今日がこの様子なら、これ以上バレる事はないと感じた湊は、コンビニで何かを食べようと思った瞬間──


「お姉ーさん。ちょっといい?」

黒いスーツを着た男二人が湊に話しかけた。

ナンパされる事が多い彼女でも、これがナンパでもなんでもない事は確かだ。


「あの…僕に何の様ですか?」


男は湊の顔を見るな否やスマホを見て、暫くスクロールした後…気味の悪い笑みを浮かべ彼女に銃口を突きつけた。


暗い街並みに、真っ黒の銃はあまりにもマッチして近くにいる人間は誰も気づかない。


「抵抗してもしなくても撃つけどな」


「ちょっ、まっ──!!」

バシュッと街に銃声が響く。


湊の肩には注射器の様な物が刺さっていて、彼女は眠ってしまった。


近くには彼らの“足”である車の黒いハイエースが彼女を乗せてどこかへ連れて行く。



  これが湊の人生を戦いへと身を置く転機となる。


────────────────

【何処かのビル】



「ん……くっ……ここは……!」

視界がゆっくりと晴れて行く中、取り敢えず立ち上がって確認しようとした──が。


(動けない!?)

包帯でグルグル巻きにされていた。

頭で理解した訳ではないが、どこかで湊は悟る。


      

      “自分は捕まったのだ”と。



「よぉ、目が覚めたか」

黒スーツの男が意地悪そうに彼女をを見ると、背後に掛けてあったナイフで、湊を腹を刺した。


「ッ…!!!あぁぁ─」

男は咄嗟に包帯で彼女の口を塞ぐ。


痛みを少しでも多く逃すため頭を上下左右に振るう彼女を見て、男は何も感じないのか、そのまま包丁の方を一瞥。



そのまま刃先を真横に動かす。

こうやる事で出血が止まらなくなるのだ。


椅子の端に捕まっている彼女の手は大きく震えていて、鼻息がヒューヒューと零れる中、腹から大量に流れる血をただただ見るしかない。


(どうして…こんな……事に……)


「死なないって…便利だな」

男がそう呟き、再び…死が始まる。



──────────────

【湊の失踪から翌日】


「…………………………………」

放課後から今に至るまで、男達が考えられる死に方を徹底して殺された。


一回目の死は出血によるショック死。

二回目は殴殺。

三回目は溺死

四回目は焼死…で昨日は終わり。


(嫌だ…嫌だ──!!)

後何回死ぬのかも分からない。

警察には届くだろうが、ここに辿り着く可能性なんてゼロに近いだろう。


…とそんな中。


「?」

外が何やら騒がしい。

銃声?に近い音が建物内で………


ガチャ。

ゆっくりと扉を開く音が聞こえ、彼女の手の震えは強くなった。


また死ぬ。

そう思っていた時。


「大丈夫?怖かったよね、お姉さんが来たからもう安心だよ」


花の香りを纏った女性が、湊の拘束を解いたのだつわた。


女性の頬と服には血がついていて、片手にはそこそこ大きいライフルを所持している。


「助け?けいさつ?」

鼻からも息は出来るし、酸素は足りていたはずなのだが…息切れにも近い感覚が湊を襲った。


どこか妖艶さを感じる女性は口を開く。


「君はその能力を利用されて、後ちょっとで外国に引き渡されて知らない国に利用されていただろうね」


彼女は恐ろしい事をサラッと語った。

身震いが止まらない。


「どう?ただの肉になった人を見て、何か感じる?」


酸素が肺に充分と回り、なんとか落ち着いた湊は、昨日まで自分を殺していた奴らを見て──


「人を…殺したんですか?」


「……うん。まぁね」

先程の笑みとは異なり、どこかつまらなそうに返す。


「う〜ん。“どうも思わない”訳でも“激烈な昂り”でもなさそうだね。復讐とかしたくない感じかな?」


「そりゃぁ…僕だって感情はある。けど……それで人を殺せる程…僕は間違えたくない!!」


「優しいねぇ」


力一杯に叫ぶ湊に、女は人差し指を湊のこめかみに当てて話し始める。


()()は物喰い。聞いた事はあるでしょ?私達のやりたい事は、能力者を忌み嫌う人間への復讐。ある種の正義であり…大義でもある」


不敵な笑みを浮かべ呟く女は湊のこめかみを更に強く押しつけ、こう呟いた。


「私はあなたの様な奴を待っていたの。仲間になってほしいの」


テレビでは、テロ組織物喰いは主義主張のない快楽優先の殺人鬼という扱いだ。


もしかしたら自分の考えは合っていたのか?

これが正しい選択?


復讐の為に…人を殺す?」


──僕は間違えたくない!!


信念(それ)は変えちゃいけないもの。

「あなた達は…そんな人間には思えない…僕はあなたの誘いを…断る!!」


「そっか、じゃあどうするの?」

笑顔のまま彼女は返すと、覚悟を決めたのか、女の体に飛び込み首を掴む。


幸い身長はこちらの方が少し上だ。

力の差はなくてもこれでいける。


苦しいのか特に抵抗しない女。

表情は見えない為どういう感情になっているかは分からないが。


そのまま扉を蹴飛ばし、左右に仲間の有無を確認。

左廊下に人が集まっているのが分かった。


「動くなァ!!!!」


「うるさいよ」


「黙れ!!」


右廊下に誰が、何があるかは分からない。

下に続く階段があった所で捕まるのがオチだ。


(賭けるしか…ない…ッ!!)

女を左廊下へと蹴飛ばし、右廊下の曲がり角へと走る。


運がいいのか、女が壁となって撃たなかったのか敵は湊を撃たずに見逃した。


建物の構造なんて何も知らない。

この先行き止まりなら詰みだ。


「はぁ…っ!!」

自分の運動神経にこれ程感謝した事はない。

動けるし、走れる。


そうして無我夢中に走ると、生来の性格か、運命のイタズラか“捕虜室”なるものが視界の端に映った。


「あ…」

逃亡中の彼女の足がここで止まる。

頭の中でグルグルと回るのは、助けるか助けないか。


(あんな痛い思いをして、人助けに入る余裕なんか…)


───間違えたくない!!


「ッ〜!!」

自分の発言をこれ程までに後悔した事なんて後にも先にもないだろう。


「クソッ!!」

そのまま扉を開き、何人か閉じ込められているこの部屋に叫ぶ。



   「助かりたい人は僕について来て!!!」





湊可哀想

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