File.8 銃声②
「…で、どうしてここに?全て話せ」
完全に拘束したラミエへ紅羽は剣を向けながら呟く。
どのみち答える気はないだろうと思っていた為あまり期待していなかったが……
「あんたには言ったけど、彼らとは取引しようとしたの」
「…ある情報と、武器の取引…か?」
「そう。今の私は商人で、世界を股に掛ける彼らの武器なんて…相当の値がつくでしょ?」
堺の銃と紅羽の剣。
二つの殺意を向けられていると言うのに、彼女は淡々と…尚且つペラペラと喋る。
裏社会の奴らと関わっていれば自然とこうなるのだろうか?
「それでわざわざ用心に傭兵を雇ったけど、その感じじゃもうダメそうね」
「奴らの顔、メンバー数、本名、コードネーム。知ってる所を全て吐くんだ」
そう脅すが、彼女も心当たりはない様子。
精一杯思い出そうとしているがどうやら本当に知らないらしい。
「…そうか。なら次は─」
「あ!!思い出した!!」
その表情は死が遠のいた事による安堵ではなく、思い出した事によるスッキリした顔だった。
「リーダーの名前。そう言えば名乗ってたわ。心から驚いたんだけど…まさか日本人だとはねぇ」
「何だと日本人…!?」
堺があり得ないと言葉を漏らす。
これがもし世に出てしまえばとんでもない事になる。
「冥本智。事実上の物喰いのリーダーで、尚且つテロの全てを取り仕切る化け物ね」
不敵な笑みを浮かべながらそう答えたラミエ。
紅羽と堺の「あり得ない…!」と言った表情を楽しんでいる様子だ。
「少し細身で常にスーツを──」
「!?」
紅羽の頭はそれの一言に染まる。
スーツを──から何も聞いていなかったし、正直それさえ分かればいい。
「待て」
堺が口を挟み、別の質問をする。
「お前らが警備員に潜み、この作戦を実行したのは知っている。ただ柊紅羽の様にただ潜入するだけじゃ能力発動から今に至るまでの流れは不可能。協力者がいるな?」
「社長が味方についたからね」
淡々と話すラミエと、その情報の重さに黙り込んでしまう二人。
このビル企業の社長がまさかこいつと繋がっているとは……
「そいつは今どこに?」
「結婚式の最中かな?全く舐めてる話だよホント」
そして矢継ぎに質問をしようとした瞬間。
外からかなり近い所からヘリの音が聞こえた。
「……社長?いや、まさか…!!」
ラミエが冷や汗をつきながら、笑みを浮かべそう呟く。
彼女には何が来たか知っている様だ。
「殺したんだな…ホント無茶苦茶だね」
─────────────────
【数十分前】
あるビルで行われた大規模な結婚式。
社長の京極は今日を持って独身人生に終止符を打つ。
感動的なクラシックを流し、新郎新婦は、親族・友人達の盛大な拍手を受けて大団円…で終わるはずだったのだが。
二人の男が結婚式に来た。
「本当にここに“アレ”があるのか?」
細身の男はいつもの黒スーツから、高級そうなタキシードに着替え、この場にいる。
もう一人の引き締まった体を持つ男は大きい縦長のバッグを背負い、「多分」と自信なさげに答えた。
「道中…オレとしてはもう少し派手にやりたかったけどな」
「しゃーない」
細身の男が少し残念そう呟きつつも、エレベーターで会場へ向かう。
このビルは十五階建て。
会場は十四階だ。
「ゲ、少し血で汚れちゃったな。スピード意識しすぎたかな」
「そのお陰でオレらは今、ここまで特に何もなくこれたんだ。胸を張ろうぜ?」
引き締まった体がこのエレベーターのほとんどを覆っているのではないかと思うほどの筋肉。
筋肉質の男はどこか気楽に今回の作戦に臨んでいる様だ。
『十四階です』
チーンと音が鳴り、会場玄関が見えた。
玄関には警備員二名。
「さて、作戦通りに。だ」
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幸せの絶頂。
会社が繁栄を迎える為に、よくない所からも金や権力を働かせたが、悔いはない。
『今最もアツイ社長!!!』
…と新聞にデカデカと載るくらいには、飛ぶ鳥を落とす勢いを維持している。
「あなた。これからどうするの?」
「まずハワイに行こうか、オススメのホテルを予約したから、絶景を見ながらワインでもどうかな?」
「ふふ…嬉しい」
彼女が彼の腕を強く掴む。
嬉しさなどの感情が行動に出るのも彼女の可愛い所だ。
「麗美…これから僕達で─」
「その結婚式!!ちょっと待ったーー!!!」
扉を無駄に大きく、尚且つうるさく開けた男が叫びながら入ってきた。
「誰だ?」「もしかしてもう浮気?」「男?」「麗美さんの?」
親族達による詮索と疑いを向ける人もいたが、多くは状況を飲み込めず唖然としている。
ガヤガヤと騒ぎが強くなる中、一人だけ、顔がどんどん青ざめていく男が一人。
「おひさ」
「物…喰い……!!」
彼の手は生まれたての子鹿の如く震え、その震えは妻の麗美にも伝わっていく。
「あなた、どうしたの?」
当の彼女はこの事を全く知らない。
何かのイベント…と思うほど楽観的ではなかったが。
「そろそろ頃合いかな〜って」
「何故…」
京極の震えた声のまま、細身の男に問う。
もう大方見当はついているというのに。
「ん?契約終了期間!!」
そう告げた瞬間、彼は腰から拳銃を取り出し奥にいた神父を銃殺。
恐怖による絶叫が響く中、もう一人の引き締まった男がショットガンを持ち、入り口から出ようとした男を次々と撃ち殺していく。
二十に届かない会場にいるメンバーは次々と銃殺され、残るは夫婦のみとなった。
「ヘリはどこかな?」
彼の額に銃を当て、特に興味なさそうな顔を向けて脅す。
奥にある筋肉質の男は退屈そうに生存者がいないかをチェック中だ。
「このまま結婚式を終え、ヘリで東京一望!!いいねぇ…ロマンチックじゃないか」
心から興味なさそうに見えるがそれは彼の癖なのか…それとも…?
「よくも…よくも…!!お父さんとお母さんを!!」
新婦が立ち上がり、涙を浮かべながら細身の男へと走って向かうが──
パン!と頭を撃ち抜かれて終わってしまった。
「麗美ィィィィィィ!!!」
彼女のこめかみには穴が空き、即死だと悟る。
「何故だ!?確かにお前達にライバル企業の社長や技術の抹殺を頼んだりしたが、それも我々が金を渡すという契約の上でだ!!今日のテロも許した!!何故!!私達を殺すんだ!!?」
「俺たちって一応、姿形すら分からないテロ組織なものでね」
酷く狼狽した京極のその様子を見た後ろいる男は、ダメだと判断したのか京極を殺した。
「あ!おい!聞く予定だったのに」
「どうせもういるだろ?屋上、ヘリポートあったぞ」
噂をすれば、上から空気を切り裂くヘリの音が響く。
下からは大量のパトカーがビルを囲んでいた。
「よし!さっさと行こうか」
─────────────────
【屋上:ヘリポート】
「あれ?警備員の方ですか?京極夫妻はどこに…って、え─」
運転手をヘッドショットで殺し、細身の男が乗り込んだ。
筋肉質の男が後ろに乗り込み、ある武器を取り出す。
「準備はいいか?さぁ!レッツゴー!!」
──────────────────
【京極ビル:十五階】
「ヘリ?」
間違いなくこっちに向かってきている。
軍用のヘリではなく、あくまでも一般的なものでスピードはあまりない。
窓際に出た堺と紅羽はそのヘリが味方のものではない事を悟り、すぐさま警戒。
ラミエは他に増援を雇っていた訳ではないらしい。
つまり、この状況でくる人間は───
『先輩!!』
「どうした?」
ビル内の全てをハッキングする為、暫く連絡を途絶えていた潜一が、突如慌てた様子で紅羽に繋げた。
『…何者か、…が、…ングを…、気を……て』
「おいどうした!?」
彼との通信が途絶え、砂嵐に覆われた通信。
ただその心配はすぐに忘れる。
『久々だね。柊紅羽』
「!?」
この声を聞いて全てを思い出す。
一年前、柊家を襲った悲劇の全容。
その軽薄な声には心当たりしかない。
「お前が冥本…!!」
頭に血が上る感覚。
それは人を冷静にさせてくれない。
「堺!その銃を貸せ!!奴をここで殺す!!」
「駄目だ。仮に殺せてもそのままヘリが落ちれば民間人に被害が及ぶ!!」
彼女の怒りと憎しみが最高潮に達した時、ヘリは横へと回転し、横腹の扉が開かれた。
『長話はまた今度。ラミエにはごめんと伝えておいて?まぁ…互いに生きてたらね』
開かれたヘリの横腹には、ガトリングガンを持った一人の男が見える。
次何してくるか、なんて誰でも想像がつく。
「ッ!!」
「柊!!避けろ!!」「堺!!躱せ!!」
ヘリから畳み掛けられる様な銃弾を受けた二人は近くの遮蔽物へと向かう為、ダッシュで向かう。
ノンストップで繰り広げられる弾幕の雨あられは窓ガラスを悉く打ち破り、ガラスが割れる音と発砲音が非常に騒がしい。
「ラミエはそこの部屋にいる。撃て」
「okだ」
冥本の命令に、簡潔に応える男。
暫く打ち続けた為に火薬の匂いと、銃からの熱を感じる。
撃つ感覚がこれほどかというほどに伝わり、男は表情に出さないが高揚していた。
「ファイア」
ドドドド…と彼女がいるであろう壁を壊し、穴から見えた彼女。
集中砲火中の男はこちらを見て何かを呟くラミエが見えた。
「じゃあね。クズ野郎」
「はっ」
特に何か確認する訳でもなく、そのまま弾幕で蜂の巣だ。
「さて、撤収前に入り口にいる警察達に挨拶していくか」
冥本は筋肉質の男に携帯を投げ、それにかけるよう命じる。
それは……
「取り敢えず掛ければいいのか?」
「ああ。そうだ」
特に迷いなく男は電話をかけた。そして連絡先は一つしかない為違和感を感じた瞬間───
ドォン!!とビルから爆発音が空気を通して聞こえた。
爆発した所は正面玄関。
社員や一階にいた救急隊や突入前の警察達がそこに集まっていたのを彼は知っていたのだ。
「はははははははは!!!!!」
「煙で良く見えないな、爆発するならするって言ってくれよ」
残念そうに呟く男。
人を大量に殺した事を一切気にも留めていない。
「やっぱチンピラムーブが一番楽だなぁ!!」
嬉しそうに叫ぶ彼は、そのままヘリでどこかへ向かってしまった。




