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酒鬼   作者: 半端者の柑橘系 
第一章
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File.5 多発的①


「何?物喰いが?」

驚いた様に紅羽が返すと、潜一は強く頷いた。


「はい。裏社会御用達のサイトにこう…載っていました」


載っていた内容はこうである。


『我々は物喰い。京極ビジネスタワーで取引を始める。用意は念入りに』


─とサイトに載っていたが、真偽は不明。

ただ……


「いや罠だろ」

あっけらかんと返す紅羽。

わざわざ罠に飛び込んでいくにはリスクがデカい。


「もし本当なら大チャンスですよ」


「…私としても放置はしたくない。頼めるか?」


「勿論!」


潜一が作戦を提案し、紅羽がそれを修正する。

予定日は三日後だ。


じっくりと作戦を組み、紅羽は京極ビジネスタワーに向かった。


────────────────

【朝】


「お疲れ様でーす」


「あ!昼休みあそこのカフェに行こう!」


人々の喧騒に包まれつつ、紅羽はセキュリティーゲートを()()()()()()通った。


服装は警備員らしいものを潜一が用意してくれたし、外観でバレることはないだろう。


『紅羽さん!帽子!帽子かぶって!』


「?」

更に潜一が「周りを見て下さい!」と言う発言で辺りを見渡すと………


「ねぇ見て…あの警備員の人めっちゃ美人……!」


「すげぇ色白…なんかのコスプレか…?可愛すぎる…!」


有名人を見つけたとでも言わんばかりに興奮する社員達。


「あ」

ようやく状況を察した紅羽は帽子を深く被り、作戦通り警備員として“約束の時間”まで仕事を全うする。


【三日前…】


「警備員として潜入する?出来るのか?」


「それは俺の技術で偽りの身分を作ることは簡単です。もしあの情報が本当なら……どうせあのビルは大混乱になるので」


京極ビジネスタワーは二十階建ての高層ビル。


十二階にセキュリティ室。

二十階に社長室。


十二階まではオフィスが続き、それ以上の階は会社の開発部門。


薬や食品、自動車関係など多岐に渡る。

階ごとの内容については正確に明かされてはいない。


ただ──

「奴らが集合場所に選ぶくらいだ、もしかしたら裏では人には言えない何かを作っている可能性もある」


予告が正しければ。

…だが。


【時は戻り…】


『現在六時。もし七時間後に本当に奴らが動いたらとしたら…警察も介入してくるでしょう』


特異対策課が出てくる事は確実。

「事態が三つ巴になる前に、私が奴らを殺せばいい話」


誰もいない廊下をぽつりぽつりと歩く紅羽。

警備員なら、イヤホンマイクを付けて喋っても全く問題ないのが楽だ。


ただ悠々と時間を潰すのは勿体無い。

他の警備員には申し訳ないが、持ち場を離れて好きに見て回らさてもらおう。


──────────────

【同時刻:警視庁・特異対策課】


「共有しておきたかった事がある。これを見てくれ」


堺はプロジェクターで、近くにあったスクリーンを通して“ある情報”を映した。


「この人は…?」

不思議そうに問う晴菜、無理もない。彼女は公安の人間ではないのだから。


黙って見つめる迅と千景。

その情報に映っていたのは……


「柊紅羽。地域課巡査の彼女について、ある程度の情報を話しておきたい」


スクリーンには、写真には白肌の美形が大きく映っていた。


「彼女は一年前、ある事件を境に警察を辞め、復讐の鬼となった」


全員が黙る中、彼は説明を止めずに話す。


「独りで我々の包囲網を躱し、好き勝手やっている以上数名の協力者がいると見るのが妥当だ」


彼女が今まで殺してきたのは、経歴が裏社会に繋がる人間…つまり悪事を成してきた人間に限っていた。


「そして彼女は物喰いを追っている。彼らに最も近い存在と言っても差し支えはないだろう」


“ある事件”については全員が知っている。

「一年前…柊家殺人事件…ですか!」


「正解だ晴菜。我々の上が…隠蔽した“事実”だ」


少しだけ苦い顔をした堺。

正義の警察が、悪に染まるなど言語道断。


そんな理想は捨てたはずだが、彼の中には未だ警察に対する“綺麗なイメージ”は拭えずにいる。


堺が警察を志した理由はその綺麗なイメージなのだから……


「そんな事を一人で?彼女の心境は……計り知れないわね」


同じ女性としてか、それとも何か別の想いがあったのか…千景はどこか悲しそうに呟いた。



「……なんだ…」

ブルルルと彼のスマホから着信音。


「堺です。……了解しました」


短い会話だったが、彼にとってかなり驚いた内容らしく、額に汗をかいていた。


「全員準備しろ、裏サイトで…物喰いが犯行予告を上げた」


──────────────

【京極ビジネスタワー:柊紅羽】


「………………」

現在十二時五十八分。場所は十五階。

開発部門の中で最も人気の少ない場所。


そして…大体七時間経ったが、未だ動きはなし。


(後二分……か)


警備員としての仕事もある為、ある程度の行動は制限され時間も失ったが問題はない。


奴らは律儀に十三時ぴったりに始めるだろう。

流石に部屋の内装についてはあらかた頭に入った。


いつ奇襲しても問題ない…が。

「潜一。システムの方はどうだ?」


『すみません…難航中です。厄介な事にこのビルシステムは相当優秀な奴が作りましたね…状況は芳しくないです』


セキュリティ室をハック出来ればある程度の情報は知れるし、いざとなれば敵を捕まえ、警察の侵入を防ぐ檻にもできたのだが……


「まだ時間はある。ゆっくりと──いや()()()()()。頼む」


『え?どうし─』

ブチ、と潜一との通話を切り、彼が用意してくれた紅羽愛用の剣を入手。


少し前に宅配で届けてくれたのだ。

あくまでも“宅配役”としてだが。


警備員用の何かとだけしか誰も知らないし誰も調べなかった。


「……………」

紅羽は剣を抜き、ゆっくりと前へ進む。


曲がり角。

死角となる右に誰かがいる。


相手はどうやら強者だ。

ぼんやりと気配が分かるが、奥で何をしているか全く分からない。


(奴らか…)

足音を立てずにゆっくりと前へ進む。

相手も間近だと…肌で分かる。


(今ッ!!)

彼女の剣と…敵の銃が同時に重なった。


ガキン!!という耳障りな金属音を鳴らし、紅羽はその正体を掴めずに───


「…速」

剣を弾く為、両手で銃を支えている男。

そして後ろには銃を持ち反撃へと移ろうとする女。


「ッ…オラッ!!」


「!!」

力押しで剣を弾き、距離を取った男。


「晴菜!!」

その背後から女が素早く銃を構え、紅羽へ銃口を向ける。


彼女の視線を凝視した紅羽は狙う場所を直感。

ダン!と一発放った弾丸を……


剣を右足近くに“向ける”事で防ぐ。

「弾いた!?」


女が驚き、一瞬だけ動きが止まった。


「『酩酊』」

剣先から雫が落ちる。


(何これ…ガス攻撃…!?)


(甘い香り…能力か!!)

男が退避しようとしたが、もう遅い。


『酔い』が二人の頭へと入り、二人は千鳥足となりまともに動けなくなった。


紅羽の逃げの一手は予想外らしく……


「クソ…!!」

晴菜と呼ばれる女が悔しそうに呟く。


「じゃあな」


そのまま彼女は背を向けどこかへ走り去っていく瞬間。


男はまだ諦めていなかった。

「待て」


横に何重に見える紅羽の姿を捉えたのか、それとも一か八か、三発発砲。


足や肩、腕に当たらずそのまま逃亡を許してしまった。


「………此方堺。迅、千景すまない、柊紅羽を逃した」




───────────

【十五階:非常階段】


「グッ…」

男が撃った弾丸が紅羽の左手に命中。


彼からすれば望んだ所への一撃ではないだろうが、少なくとも無駄なダメージを貰ってしまった。


(あの女も先程の男も…銃の腕が飛び抜けていた…)

もしあのままもう少し長く戦っていたらまずかったかもしれない。


軽く応急処置をした後、近くに彼らがいる事を確認している。


『先輩無事ですか?』


「あぁ。恐らく警察と思われる奴らと軽く交戦。左手に弾丸が掠った」


『…大丈夫ですよね?』

心配そうに呟く潜一だったが、本当に掠っただけなので、彼女は苦笑しつつも「大丈夫だよ」と返し、


早速本題へ入る。


『なんとかカメラの権限だけは奪えました。シャッターとかそう言うのは無理です、日が暮れます。スマホで確認してください』


そのまま彼は連絡をブチっと切った。

無理と言いつつも負けず嫌いでなんとかしようとするだろう。


「ふふ…あいつめ」


早速スマホで大量にあるカメラを確認。

丁度今、十三時ジャスト。


(来るなら来い!)


そして数秒後。

突如響く下からの爆音。


「!?」

爆発と言うには少し控えめだが、はっきりと聞こえた。


三つ巴の完成。

事態はより──複雑となる。


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