File.4 制圧
一気に投稿しましたが、ここから先は週一で、金曜十九時ピッタリに投稿します。(間に合わなかったら土曜十九時)
「…………」
「紅羽さん?どうしたんですか?」
潜一の目には、手を顎に当て何かを考え込んでいる紅羽の姿が。
先程の会見。
何やら彼女には引っかかる所があるらしい。
「この一年間。総理…氷室は何をしてたんだ?」
警視庁上層部による隠蔽工作。
物喰いによる被害を綺麗さっぱりなかった事にした彼ら。
何者(物喰いの可能性大)かがリークをしたことにより、彼らの隠蔽事実が公に出た。
「一年…一年だぞ?この期間に奴がそのことに気づき、何かをやっていたら?」
その準備が、設置した部署だけとは到底思えない。
対覚醒者に特化した人間が、警察内にいるのは確かだが……
それでもやはり気がかりだ。
(私の様な疑問を持つ人間が必ずいるはず。もしかしてその部署とやらは、一年間の準備の答え…本当の準備のカモフラージュか?)
少し思考が飛躍してしまっている紅羽。
氷室が確実に勝利へと駒を進めるなら……
「…調べますか?政府内情報なんてほぼ無理に等しいでしょうけど」
「いやいい。そんな事よりも今は目の前の事件に集中しよう。その部署とは…いずれ出会うだろうからな」
─────────────
【場所は首相公邸】
「………………」
東京のビル群から溢れる光を、氷室は黙って眺めていた。
物喰い。
覚醒者による能力犯罪。
警察。
能力犯罪に至っては、今まで曲線の様に増加していた犯罪件数が物喰いによるテロ発覚によってかなり増加した。
問題は山積みだ。
今やるべき事は一歩一歩、地に足をつけて進む他ない。
「総理」
後ろから扉を開けて現れたのは、防衛大臣の左馬である。
「…君か」
「覚悟は出来ています」
「君と私だけの秘密だ。沢山の国民の命が危険に晒される非常事態になった場合、君か私の指示により…“対能力制圧群”を出動させる」
「…勝てるでしょうか」
「我々の勝利条件は彼らの抹殺ではない。」
それは至ってシンプル。
「日本の未来を、文化を、国民の命を……守り抜けばいいのだ」
全ては…未来の為に。
─────────────
【翌日、場所は警視庁】
(なんでこんなに緊張しているんだ私…!)
“特異対策課”に選出されたのは四名。
二十代半ばで公安部へ配属された工藤晴菜もその一人。
まさかの公安としての初配属がここだとは想定外だったが。
対策課の部屋へどんどん近づく度に、これから起きるであろう事に思いを馳せてしまう。
こうして扉の前に立ち、深呼吸。
「…よしっ!」
ドアノブへ触れる瞬間────
「はぁ!?なんでここにいんだよクソ女!!」
「こっちだって命令じゃなかったらお断りだったよ!!」
激しく言い争う男女の声が聞こえた。
「!?あ!」
驚きのあまり扉を勢いよく開けてしまい、中にいる三人の視線が晴菜に釘付けとなる。
「「「「……………」」」」
先程まで言い争っていた二人も彼女を見てピタッと止まり、気まずい空気が流れるが。
「あなたが工藤晴菜?」
「え…あ、はい」
黒髪ショートカットの女が優しい顔をして彼女に問うと、
「お前が工藤晴菜!?」
やかましい茶髪の男が驚いた様に零す。
「あんたね〜メンバーは伝えられたでしょ!?なんで知らないのよ!」
「お前がいるってだけで最悪なんだよ!!」
「迅、千景。いい加減静かにしろ」
また言い争う前に、奥にいる黒髪のがっしりとした男が二人を止めた。
やれやれと言った様子で席から立ち上がると晴菜を見据えると彼は口を開く。
「これで揃ったな。特異対策課の四人が」
まぁ座れ。
…と三人は近くにあった椅子に座った。
「知っての通り我々の任務は法を犯した覚醒者の確保、もしくは抹殺だ」
そのまま彼は話を続ける。
「単刀直入に話すぞ。今回の警視庁隠蔽事件についてだが、リークしたのは“物喰い”の幹部である確認がとれた」
「マジっすか……」
迅と呼ばれる男がそう零すと。
「あぁ。理由は定かにはなっていない…が。
「が?」
千景と呼ばれる女がそう返す。
リーダーである彼はため息を吐きながらこう呟く。
「理由は恐らく、こうなる事を最初から見越していたんだろうな」
数人の警察上層部の力だけでこの国全体をコントロールなど不可能。
他人の粗が大好きな出版社にたった一つでもリークをすれば爆発的に情報は拡散されるだろう。
…それが現況だ。
「己の快不快の為にどんな事でもやり遂げる…それを彼らは数年かけて我々に教えてくれた」
次はどこで、何を、どうするかなんて一ミリも分からない。
幹部数人の顔は割れているが、まだ共有できてはいない状況。
「おっと、自己紹介がまだだったな。俺はリーダーの堺修司だ。そこの男は久我原迅、そして…」
「私、黒瀬千景。よろしくね!」
三人は他の任務なので共闘したことがあるらしい。
唯一の初参加である晴菜を除いて。
「そして共有すべきことが──」
そんな事を言いかけた時、警報が鳴り響く。
『人質事案発生。東京都北区の体育館にて覚醒者と思われる人間が数名の人質を抱え立てこもり中。繰り返す。人質事案発生──』
「早速、初任務ときたか」
そう堺が呟くと他三人の顔が引き締まった。
特に緊張はない。
遂行するのみだ。
「…行くぞ」
──────────────
【数時間後】
目標近くに到着すると、辺りにはパトカー数台と救急車二台。
友達か身内が中にいるのか──泣きそうな表情をして建物をただ見つめる女性が。
「よし」
迅が気合を入れ直し、頬を強く叩く。そして近くの警察官に尋ねた。
「現況は?」
「一人の覚醒者が七名の人質を抱えこの体育館に立てこもり中…突入した警察官八名は……全滅です…!」
悔しそうに呟く彼の肩に手を置き、迅は答える。
「後は俺達が引き継ぐ。何事にも対応出来るように準備しておけ」
「了解…!」
「それと…」
迅は辺りを見渡し、一つ…いや、四つ以上のカメラやドローンがこの建物全体を見つめているのを発見した。
「テレビは帰せ、こちらの内部が筒抜けになる。見せ物じゃ…ねぇからな」
そうして彼は堺達の所へ戻り、作戦会議に加わると一区切りついた様子で……
「迅と千景は人質の救助だ。此方が合図を送った時、突入しろ」
「了解!」「了解」
拳銃を携え二人は裏口に回った。
「堺さん。裏口があるならそこからこっそり全員で入れば…?」
「残念ながらそうはいかない。人質という有利条件を離さない為に犯人は手を下しやすく、尚且つ見やすい所においてある」
形状は良くある学校の体育館。
ただ少なくともどこに人質が置いてあるかは分かる。
「ステージだ」
犯人はそこで待っているから。
正面入り口から入る堺と晴菜。
無駄なく死角をつぶしていき、体育館へと入る。
チラッと中を覗くと、暇そうに警官の遺体を肥大化した腕で握り潰していた。
「…チッ」
相手に主義主張など…ない。
「晴菜。これを待て」
彼女に渡したのは自分が持っていたサプレッサー付きの拳銃を渡す。
「私は自分のものを持って──」
「拳銃を持ったいかにも特別そうな警官が近づいてきたら相手はあの感じじゃ、即殺すだろうな」
銃を持った警官が殺された理由は分からないが、少なくとも奴には何かがある。
「案ずるな、俺は強い。後は任せたぞ」
「……はい!」
ばっ!と堺は飛び出し、犯人の目の前に立つ。
予想通り、ステージに両手と口をロープで巻かれている人質の姿が。
「人質を解放しろ」
そう彼が低く呟くと、犯人と思われる男は──
「はぁ?嫌だけど」
─と返す。
投降など元々期待してない。
「…お前も警察か。見た感じ拳銃は持っていないな。交渉など無駄だよ…まぁ…遅いけ…ど!!」
肥大化した腕が堺の体に迫るが、寸前で回避。
続けて何回か同じ攻撃が続くも左右に避ける。
「フンッ!」
近くにあった大きい木片を投げ、男の視界を一瞬だけ封じた。
目的はそれではない。
「……………」
チラッとステージ側を見ると死角から顔を出し、此方の合図を待っている二人が見える。
人質に指を指し、二人は静かに突入。
これから堺のやる事は奴にステージを見させない様にする事。
「ガァァ!!」
獣の様な声を出し、ひたすら巨大な拳を真下に振るう男。
左右に避けつつ、時折フェイントを入れ撹乱。
「…………………」
だが……持った時間は数分。
壁際に追い詰められてしまった堺に、それを楽しそうに見下ろす男。
背丈が百七十しかない堺にとって、百九十以上ある男は肥大化した腕と合わせてとても巨大に見える。
「…どうしてこんな事を」
特に狼狽なく、堺は犯人に動機を問う。
「あぁ?それはな!前に運転してた時!対向車線がこっち寄ってきたのを俺は避けた瞬間に…奴は俺に近づいてきやがったんだ」
怒りをそのまま彼は話を続ける。
「あの車が悪いのに!そいつは警察を味方付けて俺を犯罪者扱いしやがった!!」
話だけ聞いていれば、悲しい話だ。
ただ……
「それが原因で人を殺す?飛躍しすぎじゃないか?」
「その時の俺の周りを虐げる目を見て悟ったよ。この世には…死んだ方がマシな人間が多いとな。能力は昔からあったし…そして…俺の力で人は簡単に死ぬ!それが気持ちいいのなんの!!」
「……………」
気持ち悪い。
どのみち奴は人を殺し、無関係な人間を殺した。
その事実はどう足掻いても消えない。
「車を運転するのも…敵とやり合うのも…どちらも視野の広さが大切だ」
「あぁ!?」
「その事故。お前が悪かったんじゃないか?」
怒り心頭の彼に、堺は不敵な笑みを浮かべてステージに指を指す。
「俺達を舐めたな」
「は?…一体何を──な!?」
男が後ろを向く。
視界一杯に映るのは、誰もいないステージ。
「クソ…クソったれー!!!」
巨大な拳が堺に迫るが……
「目標射程範囲内」
低く零した晴菜に気づいた堺。
彼は一切動揺せずに────呟く。
「今だ」
「発砲」
背後からパシュッという籠った音が鳴った。
そしてその同タイミングで、男の胸から大量の血が噴出した。
大の字でそのまま男はうつ伏せに倒れ、なんとか堺を見上げている。
(なんだ!?何が……体が動かない…!?視界がどんどん暗く……胸が痛い……血が…鼓動がどんどん速く…!!)
耳が微かに捉えたパシュッという音。
そして相手は警察。
馬鹿で無知な彼でもこの状況になれば気づく。
(あぁそうか…俺……銃で“撃たれた”んだ)
悔しさも怒りも感じる間もなく、男は死んだ。
「任務完了。処理班を用意させろ」
他に指示を出し、堺は晴菜を見つめ……
「ご苦労。まさか一発で仕留めるとは驚きだった」
「ありがとうございます。」
特に笑いもせず、淡々と返す晴菜。
『こちら迅!!人質は全員怪我なしの無事です!!』
二人の通信機から彼の声が聞こえた。
数名の犠牲はあったものの、助けるべき人間は助けられた。
「撤退するぞ」
───────────────
【車の中……】
「あの…堺さん」
「なんだ?」
助手席に座る堺に話しかけた晴菜。
「なんでわざわざ私に銃を預けたんですか?隠して奇襲する手もありましたよね?」
「………………………」
それを聞いて彼は黙ってしまう。
どうやって言い訳しようかと考える子供の様な顔をしていた。
「…流石晴菜。射撃の腕だけに留まらず、作戦立案能力も高いのか」
そう言った堺に、運転中の迅と千景は吹き出してしまう。
「ちょっと堺サン!それは厳しいですって!!」
「そうですよ!」
わっはっはっはーと笑う二人にただ唖然とする晴菜。
「すまないな。お前を試させてもらったよ。上から評価されたその射撃の腕が本物なのかをな」
結果として、彼女は冷静に仕留めた訳だ。
「評価通りの腕だった。今後とも頼むぞ」
「…はい。次はもっと上手くやります」
そんな彼女の指には、引き金を引いた感触が…常に残り続けていた。
人物紹介。
名: 堺修司
性格: 冷静沈着。
好きな事:読者
名: 久我原迅
性格: 唯我独尊。奔放。
好きな事: 運動。サッカーなど
名: 黒瀬千景
性格: 騒がしい。優しい。
好きな事: パズルの組み立て
名: 工藤晴菜
性格: おっとり、静か
好きな事: 寝る事。親と話す事。




