File.3 情報
【時刻:九時三十分。場所は秘密基地】
「潜一。今のニュースをつけてくれ」
紅羽はそう言われ、潜一は急いでテレビをつけた。
流れてる話はどこもテロや国際関係の話ばかり。
ありふれた物──だったが。
『速報です!国際テロ組織“物喰い”が日本でのテロを既に起こしていたという情報が入りました!!』
「!?」
「え!?」
いつも可愛げのある、人気女キャスターが危機迫った表情でそう語った。
「紅羽さんの事件って…」
「物喰い関係の情報は、私と交番勤務時に世話になった先輩、そして警察上層部しか知らない」
まさしくトップシークレット。
誰かが情報をリークしたと考えるのが妥当だが不可解な点がある。
(それをリークした奴がなんであれ、それを話した事によりどう得するんだ?)
警察上層部は、軒並み腐ったミカンの集まりでもあるが、マシな奴もいる。
(そいつらが“正義感”で情報を掴み、告発したとしても…国民の不安感情を煽るだけだ。無論、事件を隠蔽した事によるバッシングは避けられないだろうが……)
「一体、誰が、なんの為に……」
ただこれにより、先程の紅羽が起こした殺人事件の対応は見送りになりそうだ。
今は記者会見の連続と対応に追われるはず。
少しくらい自由に動いたって問題ない。
「ひとまず、情報収集と過程を見送るぞ。今は静観を貫く」
誰がリークしたのか調べる必要があるだろう。
そして、誰が得をするかは……
「後々わかる事…っすね」
─────────────
【場所は東京:渋谷、スクランブル交差点】
紅羽は一人で、ある人物に会う為に渋谷にある喫茶店へと向かっていた。
潜一は近くにある防犯カメラをハッキングし、もしかしたら紅羽を尾行する人間が現れる可能性を考慮し、探る。
「潜一、どうだ?」
『…この人混みじゃあ無理ですね』
こうして歩く事数分。
潜一が逐一報告してくれたが、やはり掴めない。
紅羽自身尾行されている気もしない。
ないならないでいい、余計な所に神経を削る必要はないのだ。
約束の喫茶店に入り、カランカランと軽いドアベルの音が鳴ると、何人か誰かと待ち合わせをしていたのだろう。
視線が紅羽に集中するが、一人だけ「こっちこっち」と手を振る男がいた。
「武田さん、お久しぶりです」
「紅羽ちゃん、久しぶり」
すらっとした体に紺色のスーツに身を包んだ武田と呼ばれる男は、記者である。
父親と旧友で、紅羽が今どうなっているかを知る数少ない人物だ。
「元気?」
「はい」
「それで?こんないい所に連れてきて…何を知りたいんだい?」
声のトーンを二つくらい落として武田は口を開く。
赤の他人に掴んだ情報を共有するなど言語道断だが、彼自身、旧友の死について深いショックを受けた一人。
復讐に協力し、自分の身を危険に捧げる覚悟がある。
「ニュースは見ましたか?」
紅羽もトーンを落とし、聞かれないように小声で話す。
幸い、先程騒がしい女子達や学校帰りの男子達が友達と馬鹿騒ぎをしている。
本来迷惑なはずの騒音が今では有難いものに変わった。
「あぁ、物喰いが日本でテロをした…本来隠されていた情報が何者かによって暴かれた…だろ?」
「はい。それが一体、誰が、何の為にやったを知りたいです。武田さんはテレビ局にも知り合いがいますよね、しかもかなり上の」
武田は暫く考える素振りをし、申し訳なさそうに口を開く。
「ごめん。それについては何も……」
「じゃあ一体誰が……」
政府の誰か?
これからバッシングを受けるのは彼らなのに?
ならやっぱり警察内部?
少なくともタイミングは今じゃないだろう。
「いや…」
あの一家襲撃テロ知ってる奴はいる。
警察の隠蔽なども張本人がやれば間違いなく分かる立場にいる人間。
「物喰い本人か…!」
二人に緊張が走った。
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「待ってくれ紅羽ちゃん。それは想像の域に過ぎない」
「良く考えて下さい、警察の隠蔽を暴き世間に伝えたとしても、それは確かに正義の行いですが、国民の為を思うならもう少し頃合いを見るはずです」
結果として、不安感情を煽り、警察への不信感を募らせる事に成功した。
この隠蔽に対しておかしい。
…と思う人間は必ずいる。
「それでも、今じゃない」
「………………」
突如ブーと彼のガラケーに通知が鳴った。
「はい。武田です」
恐らく上司と思われる人間と話しているのだろう。
何度か「はい、はい」と頷き、数分で通話を終わらせると、申し訳なさそうに紅羽を見る。
「紅羽ちゃん。上に呼ばれたからお話は終わり。あんまり力になれなくてごめんね」
「大丈夫です。私も武田さんと話せて視野が広げる事ができたので」
「…そっか。紅羽ちゃん、これ受け取って」
武田は胸ポケットから手帳とボールペンを出し、すらすらと書き留めると、その紙を彼女に渡す。
「これは?」
「……内容はそこにある。後は…幸運を祈る」
そう言って、会計をさっと終わらせ武田は立ち去ってしまった。
紅羽はトイレに行き、そこで中身を確認。
「な…!」
彼女が驚くのも無理はない。
武田が口頭で話さなかった理由がそこに詰め込まれいるのだから。
『近々国から発表されるけど、警視庁が“対覚醒者”に向けた課を設置するらしい』
近年増加する能力に目覚めた覚醒者の犯罪。
それの対策か。
『メンバー、人数、関係者、全部が不明。恐らく公安エリートの少数精鋭だと、ウチの会社は睨んでる』
この国の為に、武田の所はこれを勝手な憶測で記事にできるものではない。
警察関係者から掴めた情報だろうが、記者が記事にできないという屈辱は確かにあるだろう。
元交番勤務の紅羽では想像がつかないほどの優秀な人間がいるエリート“公安”
現在覚醒者の一人である紅羽。
彼らが敵となるか味方となるかは今後の立ち回り次第だ。
「ありがとうございます。武田さん…」
こうして、紅羽は喫茶店を後にすると……
『先輩、非常事態です。警察が対覚醒者に向けた課を──』
「知ってるよ。ありがとな」
『え?先輩の知り合いはそこまで情報を掴んだんですか』
少しだけ悔しそうに語る潜一に「まぁな」と嬉しそうに呟く紅羽。
「すぐ帰る。索敵を怠るなよ」
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【秘密基地】
「お疲れ様です」
潜一には警察・国関係の情報を調べさせたが、収穫はナシ。
推察にはなるが、警察内部でもその内情を知る者はごく僅かなのではないだろうか。
大多数による対策本部。
…ではなく、少数精鋭の可能性が高そうだ。
「そろそろですね」
現総理大臣である、氷室蓮寺の会見が……始まった。
カシャカシャカシャと眩しいフラッシュと小うるさいシャッター音に包まれて登壇した氷室。
四十四歳という若さで国の舵取りを担う新生。
体は筋肉質で、少しだけ緩い真っ黒のスーツに身を包でいる。
常にストレスに晒されている身である中、彼の髪は真っ黒だ。
軽く頭を下げ、記者──いや、国民を見据えて、彼の硬い声をマイクが拾う。
『国民の皆様へお伝えします』
その一言で、元から眩しいフラッシュが更に眩しくなった。
『単刀直入に。先刻、ニュースによって報じられた内容の一部は事実です。深くお詫び申し上げます』
深々と頭を下げ、記者の追従を許さず、彼は口を開く。
『“事実”を隠蔽した警視庁の数人の処分に対しては後ほどお伝えしたします』
「あくまでも、“俺は知らない”と言うわけだ」
政府の内情には詳しくない。
ただやり手と評される彼が知らないと言うのなら……
(いや、奴らを信じると泥沼にハマるな)
黙って聞くべきだ。
『この様な事態を我々が見過ごす訳にはいきません。
関係機関との連携の下、新たな部署を設置する事をここに表明致します…!」
フラッシュが更に激しくなる。
「必要であらば、あらゆる手段を講じます」
そう言い、彼は記者達に目を向けた。
『──ご質問をお受けします。いくらでも、どうぞ』
『20新聞の高橋です。その部署について、対応索や脅威の想定について具体的にお願いします』
高橋と名乗るその男の顔から、総理からボロを出してやるとでも言いたげな、下衆な表情を一瞬浮かべたがすぐさま笑顔に戻す。
『現時点では何もお伝えできません。ただ…無策ねはない。…と言う事は申し上げておきます』
彼は残念そうに「ありがとうございました」と頭を下げ座った。
『ABSテレビの芳田です。警視庁の隠蔽に、総理達内閣は“関わっていない”という認識でよろしいのでしょうか?』
一秒にも満たぬ一瞬──彼は少しだけ笑った。錯覚かもしれないが。
真顔から一切変えずに、氷室は口を開く。
『はい。私の力不足にございます。今やるべき事は国民の皆様に植え付けられた“恐怖”をいかに早く取り除くか、です。それこそが私の贖罪でもある』
その後も様々な質問が飛びかかったが、知らない、言えない、努力する、謝罪する。
この四つの言葉を言い換えただけで、殆ど変わり映えのない会見となった。
「……特殊な部署設置。もうほぼ確ですね」
「物喰いを殺すのは……私だ」
その為に、こうして戦っているのだから。
人物紹介
名: 柊紅羽
性格: クール
好きな事: 食べること
名: 達潜一
性格: 騒がしい
好きな事: PCいじり




