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酒鬼   作者: 半端者の柑橘系 
最終章
48/50

File.48 柊紅羽

自己犠牲による正義とは異端である。

【約二十年前】


無垢な少女。柊紅羽は父親と兄と三人でこう話していた。


「……きめた!」


「きめた?」

拓が父親達の前で、大声で宣言しようと息をたくさん吸い込み答える。


「俺は!父さんを超えるくらびとになる!!」

嬉しそうに目を見開いた父親は「そうかそうか!」とわしゃわしゃ頭を撫で、二人を抱きしめた。


「わたしは……なにになればいいの?」

夢が思い当たらない自分に不安になった紅羽は涙目になり父親を見る。


何者かにならなくてはならない気持ちが彼女にはあるのだろう。


「大丈夫さ」

ぽんと頭の上に乗せ、紅羽の頭もわしゃわしゃと撫でた父親は、にっと不器用な笑顔を見せて話す。


「勇気と信念さえあれば…紅羽は何にでもなれる!!」


「!!ほんと!?」


「あぁ本当さ!」


そう父親に言われた。

実際に彼女もそう思っていたし、そう信じていたのだが。


【小学校にて】


「やめて……やめて……よぉ……!」

三人の男子によって殴られている一人の男子。


「…………」

紅羽はそれを見ていた。

すぐ頭の中では一つの“目的”に縛られる。


“助けなきゃ”

彼女は素早く走り、殴ろうとした男子の手を止めた。


「何なん」


「なんで殴るの?」

淡々とそう語る紅羽。

そこには感情が籠っていない。


「こいつうじうじしてて、見ててムカつくんだよっ!」


紅羽を殴り飛ばし、再び目の前にいる男の子を殴ろうとするも────


ゴッ。

……という音を鳴らして、紅羽は男の子を殴った。


こうして一対一の殴り合いになる。

他二人のいじめっ子と、いじめられていた子はどこかに逃げた。


【教室】


「う゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!」

かなりボコボコにされて大泣きするいじめっ子。

それを横目に見る紅羽。


その後どちらも先生に怒られたが、特に紅羽は泣く事などなかった。


「あの……」

いじめられっ子が紅羽に話しかける。


「?」


「助けてくれてありがとう……逃げてごめんなさい」


「……? うん?」

紅羽は特に気にしていない様子。

その後はいじめられっ子がいじめられる事はなかった。


「きゃー!!!虫!!!」

女子トイレから叫び声が聞こえた時、紅羽は表情を変えずに走り出す。


そこには蜘蛛がいて、少し噛まれながらも外に出したのであった。


その後も彼女は目的を探していく。

学級委員になったり、色んな事をしていたはずなのだが……


何も得られない。


「掃除してよ」


「はぁ?やってるよ」


「雑巾をかけてから机を下ろすんでしょ?手順飛ばしてるじゃん」


「それマジメにやる?」

そんな事を言われても、先生から“自分がいない間にみんなに指示を行って”と言われていた。


やるしかない。

「先生に言われたから」


いつの日だっただろう。


忘れ物をして教室に戻ってきた紅羽。

廊下を歩いていたら、何か話している声が聞こえてきた。


「紅羽ちゃんって、良い子ちゃんだよね」


「マジメなの疲れる〜ひとりでやれって」


紅羽に対する愚痴を語る声が聞こえてきたのだ。

「………………??」


────────────────────────

そうして警察に入って、数ヶ月。

色んな人を助けてきた。


そうして、柊家に対して物喰いがテロを起こす。

家族を殺され、兄を誘拐され……


遺体と炎に包まれた時、ログロから「誘拐した」という情報に聞かされた時。


激しい怒りに襲われて、確実に感じた救済使命。

必ず助ける。助(・)け(・)な(・)く(・)て(・)は(・)な(・)ら(・)な(・)い(・)という考えを抱いて。


「私が物喰いを殺す」


家族の仇をとって、兄を助ける。

紅羽にとって“そんな目的”ができたのであった。




そんな彼女が兄を助けた時。

流した涙は本物だろう。それでもその涙には嬉しさのみだったのだろうか。

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