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酒鬼   作者: 半端者の柑橘系 
最終章
47/50

File.47 Abnormality

【病院前:湊達】


制圧群の介入により、溢れ出る暴走人間を楽々倒していた。


「アぁぁぁ……!!」

完全にゾンビだ。


アレに噛まれても引っ掻かれても、感染することはないのだが……


そうして彼らは大方片付いた時、上司からの通信が来た。


『聞こえるか?』


[問題ありません]

通信の主は防衛大臣の左馬から。

どうやら病院の施設にいたらしい。


『冥本が引き起こしたであろう暴走人間の仕組みがだいたい分かった』


そのまま左馬は続ける。

『どうやら奴は君達が今死守している医療関係者に紛れ、脳外科医として手術をしていたらしい』


[手術?]


『暴走人間は全ての人間が例外なく、脳に冥本の細胞が入っていた』

どうやって混入させていたかは分からない。


でも確実にやったのは“協力者”ではなく冥本本人という事だろう。


『そして暴走人間の脳には冥本の細胞によりほとんどの前頭葉に深刻なダメージが与えられていた。思考も抵抗もままならないだろう』


何を死と定義するかは不明だが、暴走人間のほとんどは脳死している。


もう助ける事は出来ない。

『誰かかが冥本を倒すまで、この惨事は終わらない。頼むぞ』


これは“気負う必要はない”という事のメッセージ。元より彼らは覚悟を決めている。

[ある程度片付けたら、達潜一と共に冥本を追う]


もう少しで警察が合流する。

立場上、彼らに命令はできないが問題はない。


[涼風]


「はっ、はい!?」


[これから冥本の所へと向かう。道中暴走人間を見つけたら迷わずやれ。それが“遺族”の為にもなる]


彼らの氷のような声に、話かけられるといつも背中が冷たくなってしまう。


「……僕も覚悟は出来ていますよ」

人は殺さない、間違えないという思い。

いくら死んだ人間でも湊にとっては同じこと。


……でもワガママを言ってる場合じゃない。

[そうか。それなら────]


そう指揮官が何かを言おうとした時、近くのビルが爆発した。


爆発によって散った大量の窓ガラスが地面へと落ちていく。


[爆発!?]

辺りの建物が一斉に。

こんな状況で考えられることは一つしかない。


「冥本の……作戦!?」


─────────────────────

【約二週間前:冥本】


「冥本!今回の“利用者達”だ」

そうしてブレンの後ろに続々と歩いてきたのは、訓練された“傭兵”ではなく“一般人”


数はだいたい二十人という所だろうか。

かなりの人数だ。


「よし。お前達は避難者や警備・社員を装ってビルに潜入。そこで出(・)来(・)る(・)限(・)り(・)人(・)を(・)殺(・)せ(・)」


冥本の命令はシンプルだった。

彼らの表情は一切変わらないところを見るに、どうやら日本社会に強い憤りを感じていたらしい。


それが待遇なのか自身に降りかかった理不尽なのか。

そんな曖昧な不満を抱えた人間をブレンは見抜いて、選んできたのだ。


そうして彼らを帰して、ブレンと冥本は二人きり。

「良いのか?失敗する可能性も────」


「暴走人間がいるだろ」


「……まぁな」

彼の表情からはまだ不安が残っているのが見える。


暴走人間の仕組みは大方理解している。冥本の細胞は他の人間にとって癌に近い、それを『吸収』でコンロールする……至ってシンプルだ。


「流石にあの小さい爆弾に、ビルの骨格ごとぶっ壊す力はない。まぁ……その階にいる人間は皆殺しに出来るだろうが」


「利用者殺害の為に、ここまでするのか?」


「そっちの方が“興味”深いからな」

実際にやって、“見る”それが冥本が愛してやまない“興味”の正体。


それで負けても勝っても変わらない。

“興味”が続く限り、“命ある”限り────


─────────────────────

【病院前】


[ひとまず状況を確認するぞ、N3と……]

すると、企業ビルに避難していた人間の悲鳴が聞こえた。


「また来たぞー!!!!」

誰かがビルの中から叫んだ。

指揮官達が振り向くと、そこには大量の暴走人間。


大規模な病院で起きたテロ。

暴走人間の数は千を優に超える。


先程彼らが始末したのはその中の“少数”

囮を買ってくれた警官達がそこでやられて、獲物のいるこっちに向かってきたのだ。


[…………!!]

指揮官の呼吸が少しだけ荒くなる。

かなりの規模。


六人で死守できなくもない。

だが────


“このままここを守っていれば、爆発テロを止められない”


[……クソッ]

そうして銃を暴走人間に向ける。

取捨選択。


仕方がない。

その時、弾丸の嵐が暴走人間を襲った。


「えっ────あっ!!」

湊が嬉しそうに、撃った彼らを見る。

そこに乗っていたのは自衛隊。


六本木辺りに集中していた彼らが余裕が生まれて増援に来てくれたのだ。


そしてそこに乗っていた“一般人も”いた。

「湊ちゃん!!」


自衛隊の鍛えられた体と遜色ないほど馴染んでいる男。柊拓の姿が。


「拓さん!!」


「良かった。間に合ったな!!」

元気はつらつな男、それが拓。

クールな紅羽とか相も変わらず正反対だ。


「なんで自衛隊の車に?」


「役に立つから乗った。というか勝手に乗った」


「………………あはは」

避難誘導や避難補助に、実際彼のマッスルは役に立った訳だが……


「ひとまず、これでなんとかなるな!」


「柊!!お前は建物内にいる医療従事者を手伝ってくれ!!」

奥の自衛隊の人からそう指示をされ、「じゃあな!」と軽く返し、ビルの中へと入っていった。


疲れを知らない拓。

そんな彼は、冥本との戦いへの作戦会議にてはこんな事を話していた。


────俺は……妹を助けてぇ。でも、潜一君や湊ちゃん。紅羽みたいに訓練を受けた訳でもねぇパンピーが前線に出ていいはずがねぇ。


悔しそうに強く拳を握ると、拓は真っ直ぐな目で答える。


────だから、俺は人を助ける。何度でも、何回でも。


その一言を徹底的に守っている訳だ。

戦ってなくても、戦ってる。


[N5とN4はそのまま彼らと協力して、ここを死守しろ。我々と涼風はこのまま爆発犯を追う]


────物喰いのゴールは日本の重要機関の沈黙……


「!!」

潜一の考えは当たらずとも遠からずだったが、今その考えが湊に浮かぶ。


「この近くに、重要機関ってありますか!?」


[何か閃いたな]

すると湊のスマホから電話が。


『湊ちゃん。聞こえる?』


「晴菜さん!」

特異対策課メンバーの一人、晴菜からだった。


『“私”は今新橋で起きた暴走人間を片付けてるから、そっちには行けない。ごめんなさい』


「堺さん達……他の皆さんは?」


そんな何かを察した湊の声に、淡々と呟く晴菜。

『……ブレンの命と交換ね』


暗い空気になる前に、晴菜は口を開く。

『サイバー犯罪対策課は、本来潜一さんと繋いでいたらしいんだけど、一時から繋がらなくなっちゃったらしくて、私の方に連絡が来たの』


すると写真と共に送られてきたのは、妙に整った格好をした……一(・)般(・)人(・)達(・)?


『そいつらが恐らくビルを爆発させた犯人。何人かは怪しまれて捕まったけど、その数人がどこかへ向かってる。お台場付近らしいけど……』


[重要機関……まさか。この辺りでは有名企業が爆発されたが、他にも爆発された所はあったか?]


『えっと……報告によると、一番多いのは企業ビルだけど、“報道のビルは”かなりの威力で爆破されてる』

晴菜の問いに合点がいった二人。


「ありがとうございます晴菜さん!!僕たちは今からテロを止めに行きます!!」


『分かったわ。それじゃ』


そしてお台場付近に向かっているのなら、もう場所は特定できたも同然。


お台場にあるテレビ局はかなりの影響力を誇る場所だ。爆発する意味がある。


[今辺りでは交通規制がなされてる。まだ移動中だろう。ヘリで行けば間に合う。ついてこい]


「はい!!」


晴菜のやること、制圧群がやること、拓がやること、

全てがはっきりした。




…………誰もが頭の中に紅羽を残したまま戦っている訳ではない。


真っ直ぐで、冷静。

“生きる目的”に縛られた紅羽の人生はどんなものだったのだろうか。


誰も知らない。

壊れた人間の生き様。


吸収した人間(冥本)だって知らない、本当の紅羽。

誰が知っているのだろう。



次回:

File.48 柊紅羽

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