File.46 終盤
迅は死亡。
残るは堺と晴菜。そして千景のみ。
「あれ程の能力……厄介だ」
そして不気味なのはブレンの動き。
彼の移動には音が全く立たないのだ。
建物内の構造を熟知しているからこそできる芸当なのかもしれない。
「和泉博士によると、能力使用には必ず“体力”を消費する。もしかしたら分身を精巧にすればするほど疲れるのかも」
晴菜の一言により、堺の考えに一つ浮かぶ。
「ブレンは冥本に一回。そしてここで一回使った。迅を殺したのが本体だとしたら……回数制限があるな」
潜一は、冥本がもうここには用がほとんどないことを知っていた。
物喰いによる“利用者”の殺害が終わった後、冥本は興味のまま逃げるつもりだ。
「奴らは逃亡するつもりなんだ。武力で制圧できるならさっさとするだろう」
「なら……!」
「もう使えないか、もしくは使えて一〜二回だろう」
無論、予想が外れる可能性はある。
それでもこの情報さえあれば充分だ。
ブレンをもう奥の部屋に追い詰めた。
彼が行けるところはライブ会場のみで、他の場所には行けないだろう。
一方ブレンは……
「さて、追い詰められたが……武器は揃っているし────分身は残り一体だけ。本気の勝負だ!」
拳銃やサブマシンガンなどを構えて新たに分身を作りだした。
特異対策課にとっても、ブレンにとっても、最後の戦いである。
「私がやります」
先程の千景のように晴菜は扉を強く叩き、ブレンの方を見た時────
まさかのブレンが大きなナイフを持って突進。
堺と晴菜がすかさず発砲するも一切勢いが衰えずにナイフの刃先が晴菜へと向かう。
(しまっ────)
「晴菜ちゃん!!」
一瞬の出来事に頭が全く機能せず、晴菜は目の前の光景をただ見つめる事しかできなかった。
痛みを堪える女の声と、勢いよく床に落ちる“血”
「グッ……ッ……!」
腹にナイフを突き刺され、完全に貫通している。
堺と晴菜は言葉を出す前に分身へと発砲するも、彼の動きは止まらない。
「体ばっかり撃っても意味はないぞ」
血だらけの頭で、不敵に笑うブレンの分身からピンッという音が。
何を抜いたような音。
三人はこの音に聞き覚えがあった。
手榴弾の────
「ッ……あァァァァ!!!」
激痛と力が入らない自分の体を奮い立たせ、彼女はブレンの分身と共に出来る限り遠くへと走る。
「後はヨロシク……!」
千景は晴菜達に顔を向けて、ブレンに抱きついて地面に倒れるのと同時に……爆発。
床や壁にブレンと千景の血が弾けた。
「……残るのはブレンのみだ。絶対勝つぞ」
「ッ……はい!!」
まだブレンはあの部屋にいる。
「晴菜」
「……?」
銃口を部屋へと向けると、再びブレンによる弾幕が張られる。
だが二丁持ちは牽制目的ではない。
「入れないなぁ!警察!!」
晴菜が此方を見ているが、銃の切り替えとリロードが早く全く入れない。
「……まて、もう一人は?」
ブレンにそのような考えが浮かんだ時、扉から“ある物”を盾にして現れた。
それは彼と同じ姿の分身。
分身……これは堺より一回り大きい。
そして肉体の精密な再現。
「晴菜!!後ろに続け!!」
「はい!!」
建物は広い。
能力が解除されたり、先に分身を破壊されたりするだろう。
(問題はない)
真正面に突進する堺とそれに続く晴菜。
ブレンはそれに動じる事なくサブマシンガンで連射。
しかしそれが奥にいる堺にあたる事はなかった。
「………………ふっ」
そうして円形の支柱に隠れ、二人の射線を封じる。
彼はそこで何をしているか分からないが、このまま堺は突進。
支柱へと近づいた時に堺は片手で分身、片手で拳銃を持つ。
狙いはブレるが、安全重視だ。
ドン!!と銃口を堺に構えていたブレンへと命中した……が。
「!?」
ブレンの体が霧散した。
そうだ、動ける分身はもう使えないかもしれない。
それでも……透明で動かさないからまだ使える。
「よっ」
ゲームのキャラとキャラを重ねるように、霧散した分身に隠れていた本体はしゃがんでいたのだ。
「チッ────!」
奴が発砲すると、即座に分身を盾にして防いだが、堺は姿勢を急激に崩したことによりその場へと倒れた。
堺の反対側から晴菜が急接近するが、ブレンはそれを察知。
「ッ!!」
ブレンは晴菜の拳銃を掴んで奪おうとする。
あまりにも奪う手が早すぎて、今までで一番速かった。
互いに拳銃の取り合いになる中、筋肉質なブレンに勝てるはずはなく、拳銃を奪られた晴菜。
腹を蹴飛ばされ、彼女は地面に倒れた。
奴はそのまま晴菜の拳銃で彼女の腹へと二発発砲。
「ガッ……!!」
「……ふぅ」
まだ堺は死んでない。
トドメを刺さないと。
「!!」
素早く後ろへと振り向いたが────銃を吹き飛ばされたのだ。
「チッ」
それよりも速く、不安定な体勢から堺がブレンの拳銃を吹き飛ばした。
急いで支柱へと隠れ、拳銃を持ち替えて発砲。
分身はもうボコボコだ。
撃てば撃つほど、分身では防げきれなるだろう。
堺へと何度も発砲し、会場へと走るブレン。
「おっ!」
ポケットにあるスマホから通知。
このタイミングで来るのは間違いなく冥本に違いない。
堺は分身をどけて→銃を構えて→狙う。
彼がこれをするよりも早くライブ会場に入れる。
(このまま合流だ)
勝った。
確実にそんな思いがあった時────
パン!!
そう乾いた銃声。
脇腹に強い痛み。
溢れる血。
堺は今拳銃を構えている。撃ったのは彼じゃない。
殺した二人?まだ生きてた?
いや────
支柱に隠れて、発砲した“女”は腹から出た血を服に滲ませながらも冷静にブレンを狙撃したのだ。
(あいつ────生きてたのか!!)
【少し前】
ブレンがいる部屋に突入する前に堺は、途中で拾った分厚い布を自身の胸にいれていた。
「晴菜」
「えっ?」
「これをやる。お前を守ってくれる」
「堺さんはどうするつもりなんですか?」
分厚い布を防弾チョッキの中にいれながら晴菜はそう聞くと。
「あるだろう?頼れる盾が」
堺はブレンの分身を取り出して突撃したのだ。
【時は今】
「……!!」
溢れ出る血を片手で抑えながら、ブレンは速度を落とさずに走り抜いた。
晴菜は骨が折れただけ、命に別状はない。
「堺さん!!」
ライブ会場には逃げられたが、致命傷を与えた。
ほっといても死ぬだろう。
「………………」
ゆっくりと立ち上がる堺。
すると彼は常に閉じてるスーツのボタンを開ける。
「……?堺さん?」
「晴菜。落ち着いて聞いてくれ」
堺は自身の腹を触ると、触った手を晴菜に見せた時……その手には────
「血……!」
「完全に防げたと思ったが……くらった」
彼はどこか悲しそうに、そして残念そうに呟く。
「もう死ぬ」
「……ですね」
「晴菜」
「はい」
「お前はこのまま脱出して仲間を突入させろ」
「……堺さんは?」
晴菜がそう聞いた時、会場全体に向けた通信が。
その声はブレンのものだった。
『警察。勝負決めようか?』
そのままブチっと通信を切った。
奴の声からは痛みと疲労からか息が荒い。
「確実に奴を殺す。晴菜はそのまま涼風と合流して援助するんだ」
落ち着いて、諭すように語る堺。
自分が死ぬ事なんていくらでも覚悟できていたが……ここまで仲間が突然死ぬのは、感情が抑えきれない。
「…………ッ」
「俺たちの“遺志”……最期の命令だ」
「………………」
晴菜は背を向けて、出口を目指す。
「了解。」
彼女はどんな顔をしているかは分からなかった。
感情に追いつかれないように全力で走っていた晴菜。
堺はそんな彼女を見えなくなるまで見届けて、ライブ会場へと向かう。
誰もいない真っ暗な会場。
センターステージに一つのライトが。
「よぉ」
「また会ったな」
堺とブレンは同時にステージへと上がり、互いを見つめる。
「お前。名前は?」
「堺修司」
彼の名前を聞いたのと同時に、奴は拳を構えた。
「冥本には“好きなようにやれ”って言われたしな。これが俺の“好きなように”だ」
「ふっ」と彼は軽く笑うと、今まで公安で磨いてきた体術。その構えをブレンに見せる。
「いいだろう。かかってこい」
晴菜を除いた、特異対策課の死。
彼らの命を引き換えとして得たものは……
「……タフな奴だ」
物喰い幹部、ブレンの死だった。
殴り合いに勝利した堺は朦朧とする意識の中、別れた恋人のこと、一人にさせてしまった相棒や晴菜のこと。
一気に走馬灯が浮かび……
(…………達潜一。任務…………完……了……だ)
そうして力尽き、堺は地面に倒れた。
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【潜一】
(奴はお台場の海から逃げる!!絶対逃さねぇ……!!)
冥本に今まで好きにやってきた清算をしてもらう為に、潜一はバイクで走る。
どんなに絶望的な距離でも、怪物のような敵だとしても。
“怪物冥本”彼との決着が……もうすぐ着こうとしていた。
すみません。
これから完結するまで日曜は定休日でお願いします。




