File.42 生物的危機
「────出動」
左馬は覚悟を決め、携帯を強く握る。
そうして[了解]とだけ返し、どこかへ戦いに行く制圧群。
達潜一と涼風湊。警察と自衛隊。
役者は揃った。
「俺は自衛隊と連携し、指揮を取る」
「……そうかい。そいつは心強い」
どこか疲れたように返す芳沢。
すると扉の奥から音が。
「芳沢さん?なんでここに────左馬防衛大臣?何故ここに?」
「……九条楓か」
敬礼した彼女に敬礼で返す左馬。
「先に失礼する」
楓と入れ違うように彼は部屋を出た。
その時、芳沢を軽く一瞥したように感じたのだが……
「私をここに呼んだって事は……」
「あぁそうだ。警察の指揮権をお前に託す」
「……はい」
「それと……」
芳沢は脇腹を抑えるのをやめ、キリッとした座り方から壁にもたれる。
「少し……眠る……だから……二時間後くらいに……起こして……くれ…」
彼女の脇腹からは血がパイプ椅子に染み渡り、床に伝っていく。
頭から全身にかけて脱力し、無駄な力がどんどん抜ける。
「…………ッ……はい……ッ!」
濁流のように押し寄せる感情を抑え、楓は部屋を出た。これ以上いたら……どうなるか分からない。
視界がどんどん白ける。
どこにも力は入らない。
「眠い」
「………………」
「…………」
「……」
「」
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【潜一陣営】
冥本は何をするつもりなのか。
今ここで考えてももう仕方ない。
「湊!パソコン!」
「はいっ!」
彼女に渡されたものを受け取り、ある場所でのハッキングを開始する。
「場所は?」
「最近取り付けられた議事堂前の防犯カメラだ」
戦闘機が議事堂前に突撃してきてから、爆風による煙が約四十五秒、誰も何も見えない時間があった。
そこから冥本がどうやって現れたかが分からない。
「生きてればいいんだが……!」
潜一は画面と睨めっこしながら一つのカメラの情報を抜き出した。
丁度爆風に覆われていた位置にカメラがあったのだ。
「人が……いる?」
湊と共にパソコンの画面を凝視する。
もし冥本が爆風から現れることはないだろうと思っていたが……
「やっぱり爆発した“後”に現れたんだ。そして……こいつは────」
筋肉質の男。
爆発の中で冥本を作り出した。
────ブレンの能力はデコイ。
SATを騙した彼の能力。
「でもブレンの能力って、人にそっくりな虚像を作る事でしたよね?アレは透明だし、意思はないのに」
「そこが最大の疑も────紅羽さんの血か!!」
能力を強化する“血”。柊家に受け継がれる特殊なものだ。
冥本には紅羽の血が流れている……ということ。
つまりブレンは爆風を煙幕代わりとして冥本を生成。
銃を持たせて交戦させた。
油断したところにブレンが足立官房長官に化け、国会に侵入し、壊滅。
「……国家へのダメージは与えた。次はどうするつもりだ」
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【東京湾岸国際医療センター】
「あの手術は……?」
気弱そうな母親が看護師に聞く。
「成功です」
母親はほっとして息を漏らすと、かなり疲れた様子の“冥本先生”が手術室から出てきた。
母親の大切な娘を救ったのだ。
しかも最近は働き詰め。疲労は溜まる。
「冥本先生、本当にありがとうございました……!」
「……え?あぁ、はい」
どこか上の空な彼は、軽く会釈した後どこかへ立ち去ってしまった。
今日もこの病院で沢山の人が救われ、誰かが死ぬ。
港区の住宅街近くに佇む、大型病院は今日も誰かを救っているのだ。
涙を零す母親など意に介さず、冥本は“相棒”に電話する。
「ブレン!そっちはどうかな?」
『だいたいの作戦は成功したぞ』
「だいたい?」
怪訝な表情になる冥本。
『防衛大臣?は殺せなかったな』
悔しそうに呟くブレンに、冥本はカップラーメンを食べながら何かを考える。
暫くほとんどの休みを返上して働いていたんだ。
多少適当にほっつき歩いても問題はないだろう。
「……自衛隊と連携が取られると指揮系統を狙った意味がなくなったな」
彼は自嘲するように笑うと、“協力者”によって送られてきたGPSを確認。
世界には物喰い……並び、冥本と互いに信頼関係を持つ“協力者”がいる。
彼らとは売買なども行う。
更に多いのは冥本を利用しようとし、冥本はそれに気づいていながらも好きに泳がせている奴らが……“利用者”だ。
日本に多いのは後者の方。
「……いい加減始めるかー」
ギリギリまでパニックは起こしたくない。
冥本は白衣を脱いで、特に何もせずその場を去った。
「さて、始めようか。
────『吸収』」
遂に本領が発揮される。
【別の病棟】
先程の母親と、冥本の手術を受けた娘。
「……ん」
ようやく目を覚ました娘。
嬉しそうで、泣きそうな目をする母親に「?」という顔を向けた。
「本当に良かった……本当に……」
同じことを何度も連呼する母親と、状況をよく分かっていない娘。
こうして暫く大丈夫かと話していると、どこか娘がぼーっとしていることに気づいた。
「大丈夫?やっぱり具合悪い?」
「……“頭が”重い」
先程、冥本先生による脳の手術が行われたばかりだ。
頭になんらかの違和感を感じてもおかしくは────
「う……うぁ……あ」
うめき声のようなものを漏らし、娘は立ち上がる。
目は開いているが正気はない。
彼女の腕がどんどん硬質化していく。
何かを“引き裂く”ことに特化したその腕は……
「どうした────」
「うがぁぁぁ!!」
娘は腕を大きく振り上げ母親の脇腹を引き裂いた。
そうして彼女は母親のことなど気にも留めずにどこかへ歩く。
近くの病棟からも、彼女と似たような人が何もなかった人達を殺していった。
その目にあるものは“殺意だけ”と言わんばかりに、彼女達はどこかへと歩いていくのだ。
「キャァァァァ!!!」
「誰が助けてくれー!!!!」
ゾンビのように流れ込む患者達。
次々と逃げ遅れた人達を強化された腕により殺害していく。
「………………」
遂にはもううめき声もあげずにただ歩くだけ。
人がいたら殺す。
冥本のテロが始まった。
【潜一陣営】
『潜一、大変だ!!』
電話をかけてきたのはサイバー犯罪対策課の的場。
今回のテロを防犯カメラを通して情報を共有しているのだ。
「的場さん?」
『港区の総合病院で謎の暴走事件が起きてる!!』
「暴走事件!!?」
目を丸くした潜一。
これが冥本のやりたいことなのか!!
「今すぐ港区に行きます。冥本を探せるかも」
こうして潜一と湊は車に乗り込み、千代田区から港区へと場所を変える。
車で移動中、その時に湊が銃の調整をしながら口を開く。
「自衛隊は動きますよね?こんな大規模混乱になれば」
「当然だ。でも、指揮系統の人間は集まっているだろうが……銃を持って何人が駆けつけてくれる人間がどれほどいるか……」
他県から支援もそう長くはかからないだろうが……それでも時間はかかるだろう。
こうして走ること数十分。
港区の病院近くに到着した二人。
目的地の病院は赤羽橋近く。
東京タワーが遠くから見える。
「……なんだあの人。なんかふらついて……おい!そこのアンタ!!ここら辺りは危険だ!さっさと……ッ!?」
ギロッとした目を此方に向けた。
そうして獲物でも見つけたように向かってくる。
「………………」
奴は全く声も出さずにただ向かってくるのみ。
そこには理性も知性も感じられない。
────謎の暴走事件が起きてる!!
ここでようやく事件……いや、テロの全容が見えてきた。
(冥本……人をコントロールする術を身につけたっていうのか!!)
この人が助かるのか。
それは全く考えず、潜一は発砲。
頭を撃ち抜いた事で即死した。
「……潜一さん」
「湊……冥本はここで大暴れするつもりだぞ」
二人の顔に冷や汗が伝う。
もうこれは……二人なんかで止められる規模なんかではない。
するとここで潜一のスマホに着信が。
それは拓からだった。
《潜一くん!六本木あたりで“ゾンビみたいな奴ら”が暴れ出した!!こっちは警察のあんちゃん達と協力してなんとかするから心配するな!!》
「六本木……港区北西側も今回と同じテロが……」
そしてまた通知。
《堺だ。新橋方面に暴走した人間達とブレンと思われる人間を見つけた。接敵次第交戦する》
今度は北東側。
そして冥本の相棒であるブレンの存在。
デコイである可能性も高いが……それじゃないことに賭けるしかない。
(考えろ。冥本は今どこに?そもそも港区にいるのか?テロが起きるまでの約二週間は恐らく今回のテロを引き起こす為の準備だ。それを全く見届けずにここら辺りを去ったのか?あり得ない。奴は“興味”で動く)
でも、現場近くに冥本はいない。
無論まだ近くにいる可能性もあるが、それとしてもテロ付近で確認できていないのなら────
「(もしかしたら冥本は、それとは全く関係ない場所にいるのか?奴の性格上テロの過程と結末は見届けたいハズだ。なら……それ以上の理由があるだろう。なんだ……一体なんだ……)あっ!」
こうして思い出したのは、元物喰いメンバーであるルシアとの会話だった。
【少し前:競売襲撃の為の作戦会議中】
「利用者と協力者?」
一通りの案が出たので休憩中の紅羽と潜一、そしてルシア。
“物喰いについて何かないのか”?と聞いた紅羽。
そうして何か思いついたかのように語ったのだ。
「はい。物喰い……と言うより、冥本には信頼に足る人間……つまり協力者がいるんです」
「冥本が信用した人間ってことか」
紅羽がそう返すと。
「その通りで、数こそ少ないですが世界中にいます。流石にそれだけじゃ情報などが足りないので冥本は都合の良い“駒”を作ります」
それが利用者。
これは協力者の倍いる。
「日本には協力者はいません。でも、利用者なら簡単に作れるし基準はあまりないので注意した方が良いですよ」
「でも裏切られるリスクがあるよな」
潜一の一言に紅羽は頷いた。
「その為に冥本は────不必要だと思った利用者は殺します。裏社会の下っ端や小物が率いる小規模のコミュニティなどは即座に」
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【時は戻り】
「はぁ……はぁ……なるほどな」
呼吸すら忘れるほど、潜一は頭をフルに回転させて、この事を思い出して作戦などを考えていた。
「まだ断定は出来ないが、冥本の目的は最初から国の壊滅なんかじゃない。利用者の殺害だ」
東京でテロを起こした以上、流石に利用者は東京……港区近くに集まっているはずだ。
興味と利益、半々で起こした今回のテロ。
「ここで終わらせる。湊!俺は────」
そんなタイミングで、潜一の携帯に再び着信。
『達潜一。聞こえるか?』
テレビで何度も聞いた声。
その声は間違いなく…………
「左馬防衛大臣!?」
「え!?」
『勝つ為には……お前達の力が必要だ』




