File.41 対能力制圧群
【二週間前:東京・月島】
店の中は、鉄板とヘラがぶつかるカンカンという音が鳴る。もんじゃが焼けるパチパチとした乾いた音も。
「分身の立体生成?可能なのか?」
冥本は熱々のもんじゃを食べながらブレンに聞く。
ビールを飲み干しながら「あぁ」と返すブレン。
「“四体”までな。お前が取り込んだ柊紅羽の血から能力を昇格させた訳だが……」
「まだ飲むか?」
「まさかお前の腕にある血を飲まされる羽目になるとはな……二度とごめんだ」
美味い血なんていうものは存在しないが、余程不味かったのか、もんじゃを本当に美味そうに食べる。
もんじゃはかなり熱く、互いに咳き込みながら食べていた冥本達。
「仮にそれが出来るなら、作戦の幅が広がるな」
「冥本。医者は上手くいったのか?」
「ぼちぼちだな」
ビールを注文してゆっくりと飲む。
「協力者は?」
「駄目だな。ヤクザとマフィアは皆断った。国家に喧嘩売るのは割に合わないしな」
苦笑する冥本。彼らは何か別の手を考えるのだが……
やはり何も浮かばない。
「なら────“アレ”でいいんじゃないか?」
「おぉ……!なら作戦が綺麗にいくな!!」
実験と検証を重ねる為、冥本とブレンは熱々のもんじゃを急いで平らげ、店を出るのであった。
「お、数少ない“協力者”からメール来たぞ」
スマホをブレンに見せる。
内容は────
“標的”は大東京ホテル十四階にて。
「よし。行くぞ」
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【国会議事堂】
「足立官房長官。氷室総理は?」
彼は特異管理委員会のリーダーである足立の父。彼は政界にいる中枢の一人。
財務大臣が彼にそう聞くが……
「さぁ?私にも……?」
辺りを見渡すと、作戦会議に必要な防衛大臣……左馬もここにいない。
「冥本は死んだ。もういいんじゃないんですか?」
議事堂に集まったのは、内閣総理大臣臨時代理達。
集まったのは財務大臣、国土交通大臣、官房長官、外務大臣の四名である。
左馬と氷室がいない。
「国家の緊急事態なのに……何をやっているんだ?」
国務大臣達が騒いでる中、足立が立ち上がった。
そうして背中から出したある物に、全員はそれに釘付けとなる。
「官房長官!?」
不敵な笑みを浮かべる足立。
黒金色の拳銃を向ける中、足立は首元にある仮面のようなものを剥がした。
剥がした先に出た男は────
足立の太った体ではなく、どこか“筋肉質”の体へと変わっていく。
「随分と簡単に入れたな。議事堂」
物喰い幹部であるブレンの姿だった。
彼の能力はデコイ。変装もお得意なのだ。
「ま!待て────!」
次々と臨時代理達を射殺。
議事堂付近でテロが起きた以上、警備のほとんどは外にいる。
中にいる警備達が戻ってくる前に事を起こすのだ。
「さて、氷室はどこかな?」
ブレンは中にいる警備を殺しながら、議事堂にある執務室へと入るとそこには……安っぽい酒を飲んでいる氷室の姿が。
「来たな。物喰い」
公務中には絶対出ない穏やかな笑みを浮かべる氷室。
酒瓶は半分以上なくなっていたが、酔っ払った様子はない。
「へぇ……殺した二人の大統領は命乞いから始めたのにな」
面白そうに呟くブレンと、楽しそうな様子の氷室でどこか明るい雰囲気になっていた。
「左馬は?」
「あいつは俺が違う場所に送っておいた。残念ながらここにはいない」
「……なるほど」
そのまま拳銃を構えて、ブレンは辺りを確認する。
小型カメラも警備もいない。
完全に……二人きりだ。
「この酒知ってるか?」
「知らん」
あっけからかんと返す。
「柊家の酒だ。お前達のせいで酒造りが途絶えたが。中々いい酒をしている」
すると氷室は酒を全て飲み干し、話を続けた。
「総理になって……国の変革に努めてきたが……まぁそう上手くはいかないな」
いかんせん左馬以外の大臣の選出を間違えたと感じる。
「奴ら一人一人が政界で各々の発言力がある嫌な奴らでな。お前達に殺させてもらった」
もう自身の死は確定。
物喰いは死ぬまで氷室を狙うだろう。
なら政界に漂うガンは消すべきだ。
「足立は殺したのだろう?」
「大東京ホテルにいたからな。乗り込んでバンよ」
“協力者”によって官房長官の場所は特定できた。
関係者を装って入るのは簡単。
「ここまで。俺達はお前の手の中で転がされていた訳か」
自嘲気味に笑ったブレンに「そうでもないさ」と返す氷室。
「………………」
────将来の夢?将来は総理大臣になって国を変えてやりますよ。
貧困層に生まれた氷室は、自分の力で貧困を解決させたい気持ちが昔から強かった。
学生生活はいい人達に囲まれていたが、政界に足を踏み入れてから困難な連続。
国を変える事は物喰いのせいで不可能となったが……
「俺の遺志は必ず誰かが継承する。その為にはお前達みたいな邪魔ものを殺しておくべきだ」
「それに対する答えは……かかってこいだな」
氷室の胸に拳銃を向ける。
彼の表情には焦りも恐怖もない。
(左馬、芳沢……先に還らせてもらう)
数秒後。
実際にそう聞こえた訳でないのに、議事堂中にパン!
……と乾いた音が聞こえた気がした。
九月十二日・十二時四十分。
氷室蓮司総理大臣は……テロ組織物喰いにて死亡。
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【警視庁:芳沢】
国会議事堂の襲撃は一段落した。
戦闘機突撃→冥本突撃→死亡から何も音沙汰がない。
「!!」
すると、芳沢の携帯から通知が。
「どうした」
『氷室総理が……死亡しました』
警官の一人はそう語った。
芳沢もこの職に就いて数十年。
「………………」
生まれて初めて頭が真っ白になった気がする。
『芳沢さん?』
「…………」
『あの……?』
「…………」
「…………」
電話している彼は、芳沢の顔は見えない。
返ってくるのは沈黙のみで……
「分かった」
こうして電話を切って、指示を出す。
「楓」
公安部長としての責務を果たす。
「はい?」
「私はケジメを付けてくる。頼んだぞ」
「……はい!!」
彼女も芳沢と同じ現場上がりの人間。
頼めるのは彼女しかいなかった。
こうして移動する事数分。
拳銃を持ち、真っ直ぐ前を見つめる。
【特異管理委員会】
「来たか芳沢」
官房長官で、父である人間が死んだと言うのに彼は何も感じていない様子だ。
ここにいるのは芳沢と足立と少数の取り巻きのみ。
つまらなさそうに「あぁ」と返す芳沢。
「何故競売が日本で続いていたのか。私なりに調べさせてもらった」
「…………」
初めてこいつが怪しいと感じたのは、紅羽宅での作戦会議中。
────なんで冥本はここでやるんだ?
────見て見ぬふり。もしくは何者かによって隠されているか
────……!!
その一言に芳沢は何かを考えた様だが口には出さなかった。
「足立。お前は競売が始まる時……いや、もっと前から“物喰いと結託していた”な?」
怒りをそのままぶつける芳沢に、一切こちらに振り向かない足立。
競売の違法性を隠蔽したのはこいつだ。
「父も……彼らと結託していた」
「……なんだと」
「最初の作戦は、物喰いに日本を破壊させて、大臣の座に就く事だったが……」
それではつまらないのだろう。
目指すのはもっと上。
「総理大臣か」
「氷室総理は……盤石だ。一切隙がなかった」
いくら物喰いでも、彼らを崩せるかと不安だったが、なんとかなった。
「これでチェックメイトだ。芳沢……!これで────ッ!!」
拳銃を向けて、殺意を向ける芳沢。
「国家転覆を企てたのは大罪だ。一人の警察として……ここで終わらせる」
「ッ!!……だがどうするつもりだ?内閣の人間は全員死んだ!!終わりだろ!?」
足立には……逃げられたら困る。
自身の手を汚さずに、なんの罪もない人達に刃を向けた罪は大きい。
無言で足立の足と腕を撃ち抜いた。
「う゛おあぉぁぉ!!!」
「このクソおん────」
芳沢は素早く体を切り替えて、銃を出そうとする取り巻き達の腕を撃ち抜く。
今こうして何人もの人間が殺されている中、こいつらはのうのうと生きている。
「う……クソ……畜生共が……」
取り巻きが落とした拳銃を拾い、芳沢に向けた足立。
(次行くところは左馬の────)
乾いた音が狭い室内に響く。
真顔で脇腹に目を向けると、血がポタポタと流れる。
「…………フン」
足立の拳銃を吹き飛ばし、応急処置を済ませてスーツのボタンを閉めた。
「芳沢さん!!」
連絡した後輩達が部屋に入ってきた。
「連れて行け。私は左馬の所に行ってくる」
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【左馬と芳沢】
ある場所で、二人はまた出会った。
辺りには避難の影響で誰もいない。
遺された幼馴染二人だけ。
「……芳沢」
「左馬。もう分かっただろ?これで残ってるのはお前だけだ」
指揮系統の麻痺。
間違いなく物喰いのシナリオ通りに話が進んでいる。
「対能力制圧群を出動するんだ」
「……俺は」
真っ直ぐな目で左馬を見つめる芳沢と、悩む左馬。
彼女の顔には汗ひとつない。
「違法の部隊なんだ。俺一人の立場なんてどうでもいいが、協力・訓練に加わった陸幕長や空幕長の身分に関わる」
彼は拳を強く握る。
自衛隊の特殊部隊────それを出すには……
「今回のテロに関しては、俺が指揮を取ろう。だが……制圧群は……彼らみたいな英雄を犯罪者にしてしまう」
「…………左馬」
彼は自分の事よりも、子供の頃から大好きだった自衛隊の彼らを気にしていた。
「ん?」
左馬の携帯から一つの通知が鳴る。
まさか────そんな思いが彼女を襲った。
『左馬防衛大臣……』
硬い男の声。
電話越しでも圧を感じる。
『氷室総理大臣、陸幕長、空幕長から承認されました。全員準備が整っています』
淡々と呟く。
(氷室……俺をここに置いたのは、俺に任せる為なのか?)
恐らくそうなのだろう。
まさか本当に……命を賭けてまで……
(そうだな。芳沢)
そうして左馬は口を開く。
「柊紅羽が掴んだ尻尾を、必ず離すなよ。
────出動」
「左馬……」
「お前の言う通りだ。俺達でできる事をしなくては」
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【???】
完全に武装した男達“五人”
銃も整備済み。
抜かりはない。
フルフェイスを深く被り、後ろの隊員に指揮官は語る。
[行動開始]




